[政治]
世界ランキング1位になったことについて
何も知らずに世界1位の事実だけを見て快挙だとか騒いでいる馬鹿も多い件については、次世代スパコン「京」世界ランキング1位に書いた。
概要
米国は、スパコンの技術や人材に年間1千億円以上費やす。それに対して、日本は、たった1台のスパコンを開発するために1千億円を費やす。その結果、米国のスパコン産業は大いに発展するだろうが、日本のスパコン産業はかつてないほど衰退するだろう。日本は1千億円も掛けて米国に塩を送るのである。
次世代スパコン開発に賛成しているのは、利害関係者と何も知らない素人だけ。専門家はこぞって中止・凍結を訴えている。少し、知識があれば、日本の科学にも経済にも悪影響しか与えないことが分かる。それほど御粗末な事業に1千億円も投じるという、誰が見ても馬鹿な選択が為されたのである。
日本のスパコン開発事業は、米国のように、技術や人に投資するのではない。国際市場では相手にされないコストパフォーマンスの悪い日本製品を、政府が破格の高値で買い上げるのである。しかも、WTO政府調達協定の抜け道を利用して、外国業者を排除した競争のない場で。こんな、企業を堕落させる効果しかない愚かな政策は、米国政府もやらない。米国政府は、自国のスパコン企業にも、競争の場を与え、試練に耐える強さを身に付けさせている。米国政府は、売れない自国製品を、市場価格(2011年稼働の20ペタで2億ドル)を無視した高値で買い取ったりはしない。米国政府は、そのために、WTO政府調達協定の抜け道を利用したりはしない。政府がやるべきことは、競争に耐える製品を製造販売させることであって、競争に勝てない国内商品を高値で買い取ることではない。
厳しい競争を耐え抜いてこそ、省コストで最大限の成果を得る精神が身に付くのである。そうした精神が、安くて優れた製品を産む。政府に甘やかされた者には、甘えが生じる。市場で勝負できないときは、また、政府に買い取ってもらえばいいと。失敗しても政府が責任を取ってくれるなら、安くて優れた製品を作る必要はない。国内企業に対して、政府調達という逃げ道を作っては、技術力は身に付かない。
そんな当たり前の事が通らなかった。事業仕分けの予算凍結方針、そんな当たり前が鶴の一声で覆された。利害関係者と政治家連中に、また、我が国が食い物にされたのである。詳細は、以下、じっくりと……………。
現況
事業仕分け
民主党政権の政策のうち、事業仕分けについてはも、(唯一?)高く評価できる全く評価に値しない。ただししかも、削減額があまりに少なすぎて、殆ど効果が上がっていないのは残念なことである。効果が上がってないのは、恣意的な選別により、事業仕分け対象が極めて限定的となっているからだけでなく、本当に無駄な予算であっても鶴の一声で簡単に復活させてしまうからである。例えば、一番無駄が多く、世論調査で国民の反対が半数を超える高速道路無料化は事業仕分け対象でない。とはいえ、将来的に国の事業を全て対象にするという前提なら、第一歩としては小さいながらも評価はできる。
専門分野の予算は、その必要性の判断に専門知識を必要とするものもあり、素人では理解が困難な物もある。しかし、無駄な予算を削り、予算を効率化すべきなのは言うまでもない。透明性を高め、必要な予算であるなら、それをきちんと国民に向けて説明する。そうしなければ、無駄な予算を削ることはできない。ただ、政権交代で急激に方針が変わり、急遽、不慣れな素人向けの説明を求められるようになったため、資料をまとめる時間が少なすぎる。しかも、わずか数時間のヒアリングで結論が出るのでは、十分な議論を尽くすには不十分であろう。しかし、それでも、こうした手続は必要である。最初は大変だが、慣れていくしかない。
政府予算を使う以上、必要な理由は説明できなければならない。説明できて当たり前であって、説明できなければ予算を削られるのは当然のことである。「専門分野だから説明できない」という言い訳は通らない。どんな分野であろうとも、政府予算を使う以上、国民が納得できるように説明する義務がある。必要性を説明できずに予算を削られたなら、それは、説明できない奴が悪いのであって、削った方に文句を言うのは完全な逆ギレである。今まで、説明せずに済ませてきたのは、甘えでしかない。ぬるま湯にズルズルと浸かり続けてきたから、何時まで経っても説明能力が向上しないのである。今まで誰も説明しなかったから、説明技術が蓄積されていないのだ。説明能力が向上し、説明技術が蓄積されれば、必要な理由を説明できるはずである。それでも説明できないなら、それは、本当に不要だということである。そして、説明技術の蓄積がないことは、説明を免除する正当な理由とはならない。説明すべきことを説明させる、という本来あるべき姿に戻すことは、必要なことであり、何ら間違っていない。急激な改革によって、変わり始めは大変かも知れない。しかし、大変なのは最初だけである。手間が掛かることを口実にしたら、改革は不可能になる。最初が茨の道であることを知りながら、必要なことを実行するのが改革である。
科学予算
あたかも、科学技術分野に対する無理解が、予算削減の原因であるかのように言われている。それは、とんでもない勘違いである。電子技術者の端くれとして、電子技術の基本常識から考えて、国策の次世代スパコン開発事業は無駄だ、と断言できる。電子技術者の端くれとして、科学技術分野には、手厚い予算を付けるべきだと思う。しかし、次世代スパコンを国策として開発することは、予算の無駄使い以外の何物でもない。無駄な技術開発に貴重な予算が浪費された結果、「やっぱり科学技術にお金をかけるなんて馬鹿らしい」というような極論に至る方が、よっぽど、科学技術分野の損失だろう。次世代スパコン開発事業を凍結し、その分の予算を別の科学技術分野の事業に振り分けた方がマシだ。
復活?
事業仕分けの趣旨を考えれば、次世代スパコンの開発費用は、真っ先に削られるべきものだろう。しかし、事業仕分けで削減方針が出て間もないのに、早速、見直しの声が上がっているらしい。後で詳しく述べるが、次世代スパコンの開発ほど無駄な事業はない。文部科学省側の説明も「信じられないほど貧弱な代物だった」らしい。必要性もない、満足な説明も出来ていない、そんな事業を特別扱いして復活するのでは、何のための事業仕分けか分からない。
有識者議員らの判定では推進により「国際競争力の強化が図られる」とし、世界最速の演算速度という目標は産業への波及効果を生み出すと分析した。
「国際競争力の強化が図られる」、「産業への波及効果を生み出す」等、景気の良いことばかり語られるのは、公共工事の手法として批判されてきた、お手盛りの需要予測と変わらない。しかも、これらは「有識者議員」が勝手に断言しているだけであって、何の根拠もないだけに、お手盛りの需要予測よりタチが悪い。
一番無駄な事業からたった40億円しか削れない「事業仕分け」に意味はあるのだろうか。
国民の反応
アンケート調査では事業仕分けの凍結判定について、賛成が54.9%、反対が38.5%だった。賛成とした理由は「必要性や開発の進め方を再度議論した方がいいから」が75.7%で、「国策で作る意味がないため」が24.3%。反対とした理由は「議論をつくして進めるべき」が88.2%で「当初計画通りに進めるべき」が11.8%(図3)となった。賛成と反対を問わず全体の79.6%が議論の必要があるとした。
凍結に賛成が過半数、反対の約1.4倍で、賛否いずれも8割近くが議論が必要としている。これだけ多くの国民が疑問を持つ事業であるのに、鶴の一声で簡単に復活して良いのか。
予算の筋論
次世代スパコン開発(汎用京速計算機)事業の目的は、大きく分けて開発(とそれによる国内企業の技術向上への期待)と利用に分かれる。その2つは、方向性が全く違う議論となるので、明確に分離して論ずるべきだろう。
開発
一般に、技術開発は、民間企業の得意分野であって、政府の不得意分野である。だから、敢えて不得意分野に挑むというなら、それなりの理由が必要である。例えば、次の全ての条件を満足する場合などは、不得意分野に挑む理由がある。
- 多額の費用を費やしてまで開発すべきほどの有用性がある
- 政府主導で開発しなければならない理由がある
- 現時点で代替技術がなく、開発後の近い将来にも代替技術が登場する見込みがない
これまでのスパコンが果たしてきた役割を知っているならば、有用性については疑う余地はないだろう。では、政府主導で開発しなければならない理由はあるか。その理由になりうるものを、以下に具体的に列挙する。
- 政府または政府関係企業が独占すべき技術(軍事関連技術など)
- 市場原理に委ねては採算が取れない
- 初期投資が膨大になり過ぎて民間企業には負担が困難
スパコンは政府または政府関係企業が独占すべき技術だろうか。仮にそうだとしても、既に、民間に「流出」してしまっている。よって、政府または政府関係企業に独占させることは不可能である。残りの2つについては、既に、民間企業が商業ラインに乗せていることから、該当しないことが明らかである。「いや、待て!民生用の低中性能クラスは採算が取れても、政府向けの高性能スパコンは採算が取れない」と反論する人も居るだろう。しかし、民生用の低中性能スパコンも、政府向けの高性能スパコンも、使われている技術は基本的に同じである。確かに、ベクトル型を採用するならば、民生用との違いを主張するのは間違っていない。しかし、スカラ型単体に仕様が変更されたのだから、民生用とは規模が違うだけで技術的な違いはない。よって、政府主導で開発しなければならない理由は見当たらない。
「現時点で10P FLOPSもの性能を有する高性能スパコンはない」ことは代替技術がないことを意味するだろうか。いや、そうではない。代替技術については、開発後の近い将来についてまで検証しなければならない。開発に何年もかけるなら、今は最新技術であっても、完成時には、既に、陳腐化している可能性がある。国が開発を行なっている間、民間技術の方が足踏みするはずがない。とくに、コンピュータ関連の技術革新は目覚ましい。だから、現時点の代替技術と未来の開発技術を比較するのは、フェアな比較ではない。それは捕らぬ狸の皮算用である。事実、次のような情報がある。
- 2008年11月現在の世界1位は1.105P FLOPS
- 2009年11月現在の世界1位は1.75P FLOPS
- 米国イリノイ大学のBlue Watersは、2011年稼働予定で理論性能10P Flopsと予測されている(実効8P Flops程度?)
- 米国ローレンス・リバモア国立研究所の、Sequoiaは2011年稼働予定で20P Flops目標
- 米国航空宇宙局のPleiadesは、2012年までに10P Flopsに達する予定
次世代スパコンの事業仕分けの配布資料によれば、試作・製造・評価に3年近くかけ、その後、性能チューニングに1年かけることになっている。同時期に米国が20P Flopsに達するなら、完全に代替技術があることになる。
以上のことを考慮すれば、有用性はあるが民間に委ねて全く問題ない、国が開発する必要は全くない、という結論になろう。
技術向上
スパコン分野における政府のテコ入れは、国内企業の技術力を向上させるだろうか。むしろ、市場での競争を避け、官需依存の甘えた体質となって、増々、競争力が低下することが懸念される。国内企業の技術力向上の面で、百害あって一利無しかも知れない。
米国の動向
米国はスパコンに国費を投入していると言われる。では、米国は、日本のようなスパコン開発事業をやっているかと言えば、実は、そうではない。
米国では、1991年に、高性能コンピューティング通信(HPC)法が成立し、それに従ってHPCC計画が実行されてきた。これは、5年間の時限立法だったようだが、現在の米国の情報政策方針も変わっていないようだ。例えば、2008年度ではスパコン支援に13億ドルも予算を付けている。この金額は、1年分だけで、日本のスパコン開発事業の5ヶ年分の総額を超えている。しかし、この予算の使い道は、日本のスパコン開発事業とは大きく違う。
米国では、I&A(Infrastructure & Application/基盤・アプリケーション)とR&D(Research and Development/研究開発)を明確に区別しており、I&AとR&Dの比は4:1程度である。公表部分に限ると、全体予算の半分以上は産業・科学振興(NSF,NIST,DOE/SC)、約3分の1弱が軍事・国家安全保障(OSD/DoD,DARPA,DOE/NNSA,NSA)、残りがその他の政策(NIH,EPA,NOAA)に使われる。このうち、産業・科学振興目的の予算の約半分は、全米科学財団を通じて、個人や大学に配布される。残りの約半分は、エネルギー省/科学局の予算で、SciDAC(ソフトウェア開発体制とソフトウェアに密着した部分のハードウェアR&Dのみ)やNational Leadership Computing Facility(2004年からの5年間で1.5億ドル〜2億ドル、金額と導入機関から推測するとJaguarの調達費用?)等に使われている。
日本情報処理開発協会 - 第III部 HPCCにおけるNational Challengesの現況によれば、活動検討委員会では、スパコン支援について次の方向性が示されていると言う。
コンピュータ・ベンダーによる商用ハードウェアの開発や「産業界の活性化」を目的とした機器購入に対する出資は、HPCCからは直接やってはいけない。HPCCの支援は、コンピュータアーキテクチャの前競争環境における研究開発までで、この研究開発は、大学または大学と企業の共同研究レベルにおいてなされるものでなければならないし、システムやアプリケーションのソフトウェア側からのニーズに沿って行なわれるものでなければならない。
まとめると、米国政府が支援を行なうためには、次の条件を満たすべきということになる。
- 「コンピュータアーキテクチャの前競争環境における研究開発まで」
- 「大学または大学と企業の共同研究レベルにおいてなされるものでなければならない」
- 「システムやアプリケーションのソフトウェア側からのニーズに沿って行なわれるものでなければならない」
アプリケーションについても、「現在商用化されているアプリケーションを、新しい並列コンピュータに移植するようなものに対しては、特別な研究開発の必要がない限り出資してはならない。」としている。つまり、米国は、技術や人に対して支援を行なっているのであって、企業に対する直接的な支援は行っていない。そして、様々な機関に分散して予算を配布している。後でデータを示すが、米国のトップクラスのスパコン(Roadrunner,Jaguar,Blue Waters,Pleiades,Sequoia)は、いずれも、入札で1〜2億ドル程度で調達されている。日本のように、外国企業を閉め出して1台に1千億円もつぎ込むような真似はしていない。
日本の過保護政策
文部科学省の国家基幹技術としての世界最高性能のスーパーコンピュータの開発(案)によれば、National Leadership SupercomputerとNational Infrastructure Supercomputerを国の直接投資が必要な範囲としている。2010年〜2015年頃の実効性能値として、10T Flops以上のスパコンが該当するとされる。ちなみに、2009年11月の世界ランク500位で20T Flops強である。文部科学省は、一部のローエンド・スパコン以外は国の直接投資が必要としているのである。
一方、米国は、National Leadership Supercomputerも、入札で調達しており、市場原理に委ねている。つまり、米国では、National Leadership Supercomputerでさえ、国の直接投資がないのである。もちろん、米国は、National Infrastructure Supercomputerに、国の直接投資などしていない。それでも、米国企業は、国際競争力のある製品を作っている。
日本は発展途上国ではない。かつては、米国を脅かしたほどのスパコン大国であった。それなのに、どうして、国内企業には、米国企業が必要としない国の直接投資が必要なのか。米国と比較すれば、文部科学省の方針が明らかに過保護であることが分かる。
そのお金を、政府から恵んでもらっているだけでは、国際競争力は身に付かない。ライバルに勝つには、消費者向け製品で利益を出すことが重要である。Intelは、消費者に認められたからこそ、3ヶ月で19億ドルの純利益を上げられるのである。だから、Intelは、必死になって、消費者に認められる商品を作ろうとする。だから、Intelは、必死になって、ライバルに勝てる商品を作ろうとする。Intelにとっては、消費者に見放されたら終わりだから、商品開発に必死になる。
一方で、政府の仕事に依存する限り、消費者が認める商品も、ライバルに勝つ商品も、全く不要だ。ただ、政府の仕様に合致する製品を契約額で作れば良いだけである。その契約額も、一部企業だけが参入できる特注製品だから、高止まりしたままである。談合とは言わないまでも、お互いの阿吽の呼吸で空気を読んで、過当競争を避けるくらいの知恵はあるだろう。消費者は安い商品を求めるが、政府は高くても文句を言わずに黙って買ってくれる。市販品よりコストパフォーマンスが劣って良いなら、Intelのように、商品開発に必死になる必要はない。消費者に見放されても、国がお金を払ってくれるなら、必死になる必要は何処にもない。そうした官需依存体質は、企業の国際競争力を奪いかねない。
よって、1千億円かけて次世代スパコンを開発しても、それは、国際競争力には全く寄与しない。金額が全然足りないばかりか、官需依存体質が、かえって悪影響になりかねない。そして、受注企業が受注額分だけ美味しい思いをした、で終わってしまう。それでは、日本の公共工事と同じ轍を踏むことになる。本気で、日本の科学と経済のことを考えるなら、国内企業に甘い汁を吸わせるような、公共工事型のパソコン開発事業は好ましくない。米国のように、技術や人を育て、かつ、決して、企業には甘い汁を吸わせないやり方でなければ、科学的にも産業的にも逆効果になってしまう。
過保護政策がもたらした実例
過保護な政策が国内メーカーを堕落させる例として日米スパコン貿易摩擦を挙げたい。NECにイチャモンをつけ、スーパー301条発動を発動した後、それによって救われるはずの米国企業Cray社はどうなったか。
その後、当のCray社はベクトル機の性能競争に必要な技術レベルを維持することができず、後継機に対してSX-5の圧倒的な性能と価格を同様に求められ、これに応える事のできなかった当のCray社自身の必死の嘆願により、2001年にSX-5を通常の関税率で輸入できることになった。その帰結として、Cray社にてOEM化され、日米スパコン摩擦は終結している。
その間、Cray社は SGI(シリコングラフィックス)に買収され、その後の赤字部門リストラにより、再度独立企業として規模を縮小して継続している。
米国の過保護政策により米国企業Cray社は余計に窮地に追い込まれたのである。
プロセッサ製造
日本政府は、プロセッサ開発を支援すべきか。結論から言えば、支援するだけ無駄である。この分野では、どんなに国費を投入しようとも、3強(1強2中)には勝ち目はない。
この図は、スパコンTOP500の1999年11月から2009年11月までのプロセッサ・シェアの推移である。見ての通り、2009年11月現在、IntelとAMDとIBMの3社による寡占状態である。寡占3社は全て米国の企業であり、世界ランキング上位の米国スパコンは、全て、この3社のプロセッサを使っている。これらの3社はプロセッサを自力で開発しており、米国スパコンも既製品を流用している。2009年11月の世界ランキング500位のうち、Countryが米国になっている277台の製造会社別プロセッサをまとめてみた。
| Manufacturer | Intel IA-64 | Intel EM64T | AMD x86_64 | POWER |
|---|---|---|---|---|
| Appro International | 5 | |||
| Cray Inc. | 13 | |||
| Dell | 15 | 1 | ||
| Dell/Sun/IBM | 2 | |||
| Hewlett-Packard | 112 | 5 | ||
| IBM | 86 | 1 | 22 | |
| Intel | 1 | |||
| Koi Computers | 1 | |||
| Linux Networx | 1 | |||
| Raytheon-Aspen Systems/Appro | 1 | |||
| SGI | 2 | 6 | ||
| Sun Microsystems | 2 | 1 |
製造会社のうち、スカラ・プロセッサ開発を手がけているのは、IBMとIntelだけである。しかも、IBMは、全109台のうち、自社製プロセッサは22台にしか使っていない。スパコン老舗のCrayもスカラ・プロセッサはAMD製を使用している。
2009年11月の世界ランキング500位以内のおいて、プロセッサを新規に開発したスパコンは、地球シミュレータとGRAPE-DRだけである。いずれも日本のスパコンであるが、GRAPE-DRは、安価なスパコンを目指したプロジェクトである。よって、性能競争としてプロセッサを新規開発したのは、地球シミュレータだけである。そう、日本だけがプロセッサ開発競争に国費を投入しているのである。さて、今、国内企業にとって、市場で受け入れられるプロセッサ等の開発は可能だろうか。
これまで、プロセッサ製造企業は、激しい性能競争を繰り返してきている。2009年11月の世界シェアの90%近くをIntel IA-32とその互換CPUが占めている。スパコン市場において、10年前は箸にも棒にも掛からなかったIntel IA-32と互換CPUが、ここ10年で急速にシェアを伸ばしている。これは、時代の変化とともに、パソコン市場やサーバ市場でのシェアが、スパコン市場にも大きく影響を与えるようになった証拠であろう。RISC系では、IBMのPOWERが何とかシェア10%強を維持している程度である。1993年6月の世界ランキングでは上位4位までを独占し、1998年11月のプロセッサ別台数シェアでは25.4%に達したSPARC製だが、2009年11月のプロセッサ別台数シェアではわずか0.4%しかない。MIPS,Alphaなどに至っては、今は見る影もない。2009年第2四半期におけるマイクロプロセッサ全体のシェアでも、Intelが80.6%、AMDが11.5%であり、両者合わせて90%を超えている。
2000年前後にRISCプロセッサが全盛だったのは、それだけ、IA-32に性能で圧倒的な差を付けたからである。それが、10年で逆転したのは、IA-32互換プロセッサの性能がRISCプロセッサに追い付いたからである。Intelや互換プロセッサ企業は、パソコン市場で圧倒的なシェアを背景に、多額の開発資金を投じて、ありとあらゆる技術を導入して、IA-32互換プロセッサの性能向上に努めた。元々、Intelは性能競争に積極的ではなかったが、IA-32互換プロセッサの登場により、競争に巻き込まれてしまった。その結果、最初にあった大きなアドバンテージは消え失せ、IA-32互換プロセッサの性能がRISCプロセッサに追い付いてしまった。性能が変わらないなら、パソコン市場を含めた全体市場を制している方が圧倒的に強い。パソコン市場で圧倒的なシェアを維持し続けてきたからこそ、スパコン市場での巻き返しが可能だったのだろう。技術に大金を投じることができたのも、スパコン市場で支持されたのも、全て、パソコン市場での圧倒的なシェアのおかげである。
IBMのPOWERがRISCプロセッサとして、唯一、生き残っているのは、一般消費者向け市場での実績が大きいと推測される。POWERの一般消費者向け製品であるPowerPCは、2006年まで、Macintoshに使われていた。それ以降、今でも、主要ゲーム機3機種(Wii,プレイステーション3,Xbox 360)にPowerPCベースのプロセッサが使われている。一般消費者向け市場で大量に消費されていることが、開発費を投じる強力な支えになっているのであろう。このように、国際競争力を身につける上で、一般消費者向け市場でのシェアは無視できない。
これだけ劇的な競争が繰り広げられてきた世界に、唐突に参入しても勝ち目は全く無い。仮に、何らかの新しいアイデアを導入しても、アドバンテージはその時限りである。アイデアのネタが切れば、後は追い付かれるのを待つだけである。RISCプロセッサは、そうしてIA-32互換プロセッサに追い付かれたのである。それを防ぐには、パソコン市場でもIA-32互換プロセッサを駆逐する必要がある。パソコン市場で勝負にならないのでは、RISCプロセッサの二の舞になる。では、パソコン市場を制するにはどうすれば良いか。そのためには、他社より圧倒的に速いIA-32互換プロセッサを作るか、あるいは、エミュレーションでもIA-32互換プロセッサより速い独自プロセッサを作るしかない。いずれにせよ、既製品より圧倒的に性能の良いプロセッサを作る技術が必要だ。しかし、激しい技術競争が繰り広げられる世界において、既製品より圧倒的に性能の良い製品を作れる余地は殆どない。そんな物が簡単に作れるなら、競争相手がとっくに作っていることだろう。よって、同じ土俵で勝負しても、短期的な勝利を得ることすら難しいし、長期的な勝利は殆ど不可能に近い。
老舗のRISC系CPUがIBMのPowerを除いてほぼ全滅状態であるように、プロセッサ製造の実績のある企業でさえ苦戦するのだから、プロセッサ市場に新規参入するのは現実的でない。パソコンやサーバ用途のプロセッサ製造の実績がない企業には、一朝一夕では、市場に参入することさえ困難だろう。実績の無い企業が同じことをやるには、最初に、プロセッサの製造技術を身につけることから始めないといけない。しかも、激しい性能競争に生き残った企業と同程度の技術が必要である。では、国内企業のプロセッサ製造実績はどうか。
- NECは16bit時代のパソコンCPUと組込プロセッサとベクトル型プロセッサの経験あり。
- 日立は組込プロセッサと、1998年頃の専用RISCプロセッサの経験あり。
- 富士通はサーバ用プロセッサ(64bitSPARC)の開発に現在進行形で加わっている。
実績から判断すると、富士通以外には、市場で受け入れられるプロセッサの開発は困難だろう。ただし、富士通のプロセッサも、価格や性能では、Intel互換CPUとの競争は厳しい。2009年5月14日に富士通が発表した理論性能値は128G FLOPSであり、「開発中」にもかかわらず「現行のIntel製CPUの約2.5倍」では、性能があまりに低すぎる。理論性能の発表時期は政権交代前であり、明らかに事業仕分けとは関係がない。つまり、当初計画どおりでもこの程度の性能しか出せなかったわけであり、これでは、国際競争力など無いに等しい。Intelよりも安く販売できればコストパフォーマンスで勝負できるが、性能でのアドバンテージは全くない。また、市場をほぼ独占状態で競争力のあるIntelよりも安く販売できるのかも疑問がある。牧野淳一郎氏も次のように指摘している。
2012 年(2011年度末)の段階で 45nm で 128Gflops というのは Intel, AMD に 比べると2年遅れくらいになるのは確かです。Intel は2010 の早い時期に 8 コ アのNehalem-EX で 100Gflops 程度、AMD も同時期に 12 コア Magny-Cours で やはり 80 Gflops 程度までは到達しそうだからです。
2011年の春頃には稼働を始めるとされる米国ではイリノイ大学のBlueWatersに使われるPOWER7(8コア4GHz動作で256G Flops)と比べても、富士通のプロセッサは性能が劣っている。また、富士通のプロセッサ仕様のうち、整数レジスタ192本+浮動小数点レジスタ256本という構成は、価格面で不利となる。
| CPU | SPARC64 VIIIfx | POWER7 | Core i7 |
|---|---|---|---|
| コア数 | 8 | 8 | 4(or8) |
| 性能 | 128G Flops | 256G Flops | 110G Flops? |
| 演算レジスタ | 3.5KB×8 | 1KB×8 | 384B×4(or8) |
| 1次キャッシュ | 64KB×8 | 32KB×8 | 64KB×4(or8) |
| 2次キャッシュ | 5MB | 256KB×8 | 256KB×4(or8) |
| 3次キャッシュ | 32MB(eDRAM) | 8MB |
富士通のプロセッサは、一般消費者向け市場製品に転用できないので、大量生産によるコストダウンも図れない。よって、この富士通のプロセッサごときでは、国内企業が国際競争力を身につける…というシナリオの実現性は極めて疑わしい。地球シミュレータが世界1位を獲得したとき(2002年6月)は、スパコン市場ではRISCの全盛期だった。その頃とは事情が違い、今は、パソコン市場もスパコン市場もIntel IA-32互換系全盛期である。このような現在では、プロセッサ市場に割り込むのは極めて困難であろう。結局、次世代スパコン事業は、富士通がSPARCから撤退しスパコン製造体制を再建する時期を無闇に遅らせただけではないのか。
市場で勝負できるプロセッサを作るには、何円必要なのだろうか。Intelの2009第3四半期の純利益は19億ドルだそうだ。一方、日本の次世代スパコン事業費は、5ヶ年で1千億円強である。つまり、5年分のスパコン事業費より、Intelの3ヶ月分の純利益の方が多い。しかも、Intelは、過去も、将来も、継続的に利益を上げると推測できるが、次世代スパコン事業で政府からお金をもらえるのはたったの5年間だけだ。単純計算で、本気で、Intelに勝たせようとするなら、1社当たり、毎年、5千億円くらい支出しないと勝負にならない。つまり、NEC、日立、富士通の3社に国際競争力を身に付けさせたいなら、毎年、1兆5千億円くらい必要である。いや、無償でお金を恵んでもらえるのではないのだから、それでは足りない。発注された商品を納品しなければならないから、その製造経費が別途必要になる。経費を除いた純利益が1兆5千億円くらいにならないと、Intelとは勝負にならない。とすると、一体、何兆円の支出が必要になるのであろうか。それも、Intelが潰れるまで継続的に毎年支出する必要がある。それがどんなに困難なことか、考えてみるといい。
そうした中で、国際競争力を身につけるとすれば、手垢の付いていない技術を探すしかない。一例として、Dynamic ReConfigurable Processorが挙げられる。ところが、手垢の付いていない技術には成功の保証が全くない。とはいえ、正攻法では全く勝ち目がないのだから、一定のリスクのある選択をしないわけにはいかない。そのための投資を国の負担で行なうのであれば、それなりに必要性はあると言えるだろう。しかし、次世代スパコンの開発には、手垢の付いた技術しか使われていない。それでは、国の支出は、国際競争力の向上には全く役に立たないだろう。
利用
技術開発のことを度外視して、利用することだけを考えるなら、政府主導で開発する必要はない。一般競争で購入すれば良いのであって、1千億円もかけて国が開発するのは無駄遣いである。技術革新の速度を考えても、長期の開発期間と高額な開発費用を前提とする国策事業はスパコン調達に不向きであろう。
性能設計
10P FLOPSの性能が本当に必要なのか。不要不急な性能にお金をつぎ込むのは予算の無駄遣いである。政府の予算を使う以上、その性能が必要となる根拠をキチンと説明できなければならない。その際、演算内容によって演算効率が変わるので、用途別に必要性能を求める必要がある。
- 用途別に、必要性能(精度、実行性能、効率、理論性能等)を見積もる。
- 用途別に、必要性能を得るコストを見積もる。
- 必要コストが突出して多い用途がある場合は、専用機でコスト削減できる(その用途を含めて汎用機を作るより、専用機+準汎用機を作る方が安くなる)か検討し、可能なら対象から削除する。
- 残った用途について、全ての必要性能を満足できるよう、仕様を決める。
- 仕様から予想されるLINPACK値を仕様上の目標性能とする。
また、共有機を1台作るより、専有機を複数台作る方が、利用形態的にも予算的にも適しているかもしれない。そうしたことも考慮して必要性能を決めるべきだろう。
参考までに、GRAPE-DRの牧野淳一郎氏は次のような見解を示している。
既に何度も書いたように、スーパーコンピューターに必要な物量は
・計算速度
・ローカルなメモリバンド幅
・通信バンド幅
です。で、この3つを同時に全部必要とするアプリケーション、というのはなかなかなくて、アプリケーションによっては主に計算速度だったり、主にロー カルなメモリバンド幅だったり、主に通信バンド幅だったりします。そうすると、それらのアプリケーションの特性に合わせて複数の計算機を作るのが、国家プロジェクトで様々なニーズを満たすなら必要なことです。
私個人の考えはこれとは違っていて、計算速度は他のものより圧倒的に安いのだから、アプリケーションのほうが工夫して計算速度を有効に使うことで他の2つを少なくすませるべきだ、と思います。が、まあ、アプリケーションによってはそううまくいかないものもあるのかもしれません。
コスト削減努力
政府調達の無駄についても、削減する方策を検討すべきだろう。削減努力無しに、10P FLOPSに1千億円を黙って拠出するのはおかしい。
我が国のスパコン調達コストは、米国より遥かに高い。
- 2008年6月に世界1位となった、1.026P FlopsのRoadrunnerは1億1000万ドルで契約している
- 2009年11月に世界1位となった、1.759 FlopsのJaguarは2億ドルで契約している
- 2011年稼働予定のBlue Watersは2億800万ドルで契約している。
- 2012年までに10P Flopsに達する予定のPleiadesは入札で調達しているが金額は不明(入札なら他と大差ない?)
- 2011年稼働予定の20P Flops目標のSequoiaは、5年間の保守契約込みで2.265億ドル以下で契約している
The working budget range for the Sequoia Research and Development/Development & Engineering (R&D) Subcontract is up to $12.0M.
The working budget range for the Sequoia Build Subcontract(i.e., 0.5 petaFLOP/s Dawn, 20.0 petaFLOP/s Sequoia, and five years of maintenance) is up to $214.5M.
訳すと、「Sequoia研究開発のための実行予算範囲は最大1200万ドル。Sequoia構築(0.5P FlopsのDawn,20P FlopsのSequoia,および5年間の保守)のための実行予算範囲は最大2.145億ドル。」となる。Blue Watersは汎用科学計算で1P Flops以上を持続すると言われ、Linpack性能はもっと高い値を示すと期待できる。
It will be the first system of its kind to sustain one petaflop performance on a range of science and engineering applications
訳すと「様々な科学工学分野のアプリケーションにおいて1P Flopsの性能を持続する最初のシステムになるだろう。」となる。理論上限が10P Flopsと予想されているので、効率80%を想定すれば、Linpack値は8P Flopsくらいと予想される。
- RoadrunnerとJaguarの性能は、次世代スパコンと比べて劣るが、稼働時期分の補正をすれば、同程度と見て良い
- Blue Watersの性能は、殆ど次世代スパコンと遜色ない
- Sequoiaの性能は、次世代スパコンを超えている
ここで紹介した4つのスパコンとも、実質的には、次世代スパコン並の性能を持っており、いずれも、1億ドル〜2億ドル程度で作られている。これらに比べると、次世代スパコン開発費は高すぎる。これらは全てスカラ型だが、次世代スパコンもスカラ型なので変わりはない。日本の次世代スパコン1台で、米国の同性能のスパコンが何台も変えてしまうのである。
IDCは、2012年のスパコン市場は全世界で約156億ドルに拡大すると予測している。市場全体の額の1割近くもの金を掛けて、たった1台のスパコンを開発するのは、あまりに無駄が多すぎる。
一般に、政府が特注で発注する機器は、既製品と比べて、使われている技術が古く、筐体も無駄に大きく、かつ、コストパフォーマンスが悪い。もちろん、特注品である以上、ある程度、コストパフォーマンスが悪くなるのは仕方がない。しかし、COTSの積極的採用によりコストを下げられるし、最新の技術を使えば小さく作れて、その結果、コストを下げられる。電子技術者の視点で見ると、コストを上げるために、無駄に自社製作に拘り、無駄に古い技術を用いて、無駄に大きく作っているとしか思えない。そんな無駄の塊を最新技術だと言われて誰が納得できるだろうか。
とある省庁が某国内電気企業に発注した機材であるが、市販パソコンに特注ソフトを組み合わせただけで、1台1千万円以上もする。市販パソコンの価格は高く見ても数十万円であるから、殆どはソフト開発代である。しかも、何台も購入しているので、開発費用として、億単位の金を払っていることになる。しかし、実は、それ以前に、1人の職員が個人的かつ片手間に作った同種のソフトがあり、それと比較しても機能や性能が劣っていた(受注企業の技術者がアッサリ負けを認めている)。職員1人が片手間に作った物に負けるようなソフトに億単位の金を払うのでは、あまりに高過ぎではないか。特注品ではないが、政府が発注したワークステーションの修理用ハードディスクの部品代は、市販品が100GB超で数万円で買える時代に、1GB(「テラ」ではなく「ギガ」)で10万円以上した。匿名なので、信用して良いかどうか分からないが、自称下請けソフト会社の経営者の証言もある。
たまに見積もりを出すとき、SIの会社から、こういう話をされる。
「あー、この案件、国の案件だからさー、見積もりはもっともっと、積んでもいいよ。高ければ高いほどいいし。おれらは、それにXX%乗せるだけだから、高いほうがいいんだよ。」
「と、いいますと?」
「ぶっちゃけ、もう一桁、上でもいいよ。」
「幽霊(実際いない人月)だいぶ、積みますけど。」
「ああ、いいよいいよ。」
1人月200万の幽霊エンジニア部隊が書かれた見積もりをぼくが書き、下請けSIerがそれに何割か上乗せした金額を上になげ、さらに何割か上乗せした金額を大手SI子会社の中受けSIerが見積もりを書き、さらに元受の大手SIerが何割か乗せて、国に出す。つまり、最初のぼくの見積もりから累積的に上乗せするので、ぼくの価格が高ければ高いほど、みんなが潤うのだ。仮に30%づつのせたら、すでに倍くらいにはなってることになる。場合によっては、もっと乗せる人もいる。
国がカネを出す案件ならば高い見積もりを出せば出すほどいい。IT業界の常識だ。彼らはわかってないから値段の理由なんていくらでも言いくるめられる。そんな空気がある。
証言の信憑性はともかく、「廃止とか、凍結じゃなくて、適正価格かどうか調べる人の方が大事」とは、正に、その通りだろう。
このように、政府調達には無駄が多すぎる。いくら国産技術の向上をお題目に唱えようとも、こうした無駄を認める理由にはならない。どんな口実を並べようとも、無駄を削減する努力は必要である。無駄を削減しない以上、予算要求が跳ねられるのは当然のことと言えるだろう。随意契約などは論外である。適正な手段でコストを積算し、一般競争で発注すべきだろう。
WTO政府調達協定
日本も締結しているWTO政府調達協定によれば、一定以上の金額の調達には、内国民待遇及び無差別待遇が求められる。スパコンも対象品目であり、1千億円も掛ければ限度額を遥かに超える。よって、次世代スパコンは、外国企業も含めた競争入札で調達しなければならないはずである。にもかかわらず、国内企業だけに発注できるカラクリは何か。調べてみると、例外事項を定めた第十五条第1項の(e)には、次のように書いてある。
(e)調査、実験、研究又は独自の開発に係る特定の契約の過程において、かつ、当該契約の対象として、機関の要請により開発された原型又は最初の産品若しくはサービスを当該機関が調達する場合。当該契約が履行された後においては、産品又はサービスは、第七条から前条までの規定に従って調達される。(注)
注)最初の産品又はサービスの独自の開発には、実用実験の結果を取り入れるために及び受入れ可能な品質基準に合致する産品又はサービスとして当該産品又はサービスを多量に生産し又は供給することができることを証明するために限られた生産又は供給を行うことを含むことができるが、商業的採算を確立し又は研究開発の費用を回収するために多量に生産し又は供給することを含まない。
つまり、政府機関の要請による独自開発の初号機は限定入札して良いことになっているのである。この規定は、初号機以降も生産され、二号機以降は競争入札で調達されることを前提としている。しかし、日本政府は、この1台以外に、10P Flopsものスパコンを調達する予定を立てていない。また、民間企業でも、10P Flopsものスパコンは必要とされていない。つまり、二号機のない初号機にこの規定を適用するのは、協定の抜け道を利用したに過ぎない。
既に挙げた米国の最近のトップ・クラスのスパコン及び今後トップ・クラス入りが見込まれるスパコンは、入札で1億ドル〜2億ドル程度で調達している。ここ1年、激しい1位争いを繰り広げた、IBMのスパコンも、Crayのスパコンも、どちらも、入札で1億ドル〜2億ドル程度で調達している。米国は、日本よりもスパコンに多額の金を費やしているが、何故、この抜け道を利用しないのだろうか。この規定は、市場価格の数倍の費用で製品を調達する馬鹿な国はいないことを前提に用意されているのではないか。数億ドルで調達可能な製品を1千億円で開発しても、お金が無駄になるだけで、国内産業の発展にはつながらない。わざわざ協定の抜け道を探し、こんな馬鹿な事業に1千億円もつぎ込む日本政府は、諸外国の笑い者になっているのではないか。
業者選定
国内企業の技術力向上を理由にして外国企業を排除することがWTO政府調達協定で許されるとしても、何故、日本電気、日立、富士通の3社だけが受注できるのか。同程度のスパコンが1〜2億ドルで調達可能なことから、次世代スパコン開発費用の殆どは、国内企業の技術向上を口実にした費用となる。それだけ莫大な国費を投入しながら、3社以外の国内企業が参入できないのは極めて不公平である。
3社以外に投資しても国際市場で勝負できるまでには至らないという判断があったなら、3社に特定する理由は成り立つ。実績のない企業には10P Flopsのスパコンは作れないと言う人も居るだろう。しかし、それは、3社に投資すれば国際市場で勝負できるようになることが大前提である。では、次世代スパコン開発には、そのような技術向上の目標設定が為されているのか。結論を言えば、10P Flopsの性能目標は、技術向上の目標設定とは言えない。何故なら、国際市場での競争力を身につけるには、コストパフォーマンスが重要だからである。国際市場で勝負するためには、10P Flopsを100億円〜200億円以下で作れることが必須である。1千億円かけてスパコンを開発させても、それは、同性能を100億円〜200億円以下で作れる保証にはならない。10P Flopsという性能値だけでコストが目標に入っていないなら、それは技術向上の目標になっていない。国際市場で勝負可能になることを目標として設定しないなら、実績のある企業だけに限定する理由は成り立たない。よって、技術向上を目指すなら、全ての国内企業に機会が均等に与えられるべきであろう。
米国式のやり方なら、大学との共同研究の形を取れば、誰でも、国の投資を受けられる。そのやり方でなら、新興企業が台頭して来る可能性も残されている。例えば、東芝あたりなら、スパコン市場に乱入しようと思ってもおかしくはない。仮に、東芝がスパコン参入にあたり、国からの支援を受けようとしたとする。その場合、米国式のやり方なら、どこかの大学に共同研究を持ちかければ良い。そうやって、国費で基本技術を身につけつつ、製品開発を進めれば良い。しかし、日本式では、東芝ほどの大企業でも、スパコンの実績がないという理由で跳ねられてしまうのである。だから、東芝がスパコンに参入するには、日本式のやり方を改めない限り、全て自費で研究開発を行なうしかない。
可能性を論じるなら、東芝のような大企業に限定する必要もない。現在の主流の技術に拘らなければ、ベンチャー企業にも十分にチャンスはある。将来の見込みのありそうな新技術は沢山ある。国がやるべきなのは、実績のある3社だけを特別扱いすることではなく、そうした新技術も含めた幅広い可能性への投資ではないのか。しかも、日本電気と日立は撤退し、残ったのは富士通だけである。1社だけに莫大な国費を投入することが、健全な予算の運営なのか、よく考えるべきだろう。
投入済み予算
既に何年か分の予算を消費しているから、途中で止めるべきではないと言う人もいる。しかし、単純に「既に資金を投じているから継続すべき」とはならない。それは、損切りできない人間の言い分である。投入済み資金を捨てるのと、最後まで資金を投入するのと、損得を比較して有利な方を選ぶのが、国益に叶ったやり方である。次世代スパコン開発事業には、平成19年度〜平成21年度までに431億円投じている。その431億円を無駄にするのと、残りの600億円を投じるのと、両者の損得を比較する必要がある。
比較のためには、必要な性能を得るためのコストがどれだけかを考える必要がある。それが、残金より安いなら、追加予算を投じるのは損になる。逆に、残金より高いなら、投入済み資金を捨てるのは損になる。つまり、所用性能を得るのに600億円必要かどうかが問われている。既に紹介したように、次世代スパコンの調達コストは、米国に比べて高すぎる。一般競争にすれば、残りの予算で、次世代スパコン相当のスパコンが2〜3台買えるだろう。よって、事業を中止して、一般競争でスパコンを調達した方が得である。
お手盛りデータ
文部科学省は、マクロ経済モデルによる経済効果は約3.4兆円としている。この数値は信用できるのだろうか。発注官庁の言う需要予測や経済効果が信用できるなら、道路建設、空港建設、ダム建設等に使われている需要予測や経済効果が信用できるはずである。しかし、こうした需要予測や経済効果がデタラメだったことは、既に多くの方が知っていることだろう。
国土交通省は道路整備の中期計画の基となる平成42年の交通需要予測をまとめたが、交通量は17年実績値との比較で2・6%減少するとの見通しを明らかにした。減少に転ずるとした予測は今回が初めてである。
14年に公表した前回推計では、交通量は少なくとも32年までは一貫して増加すると同省は主張していた。それが今回は見方を一変させ、32年時点でも1・7%減少するのだという。従来予測に比べると実に13%もの下方修正だ。
では、何故、こんなデタラメな数値になるのか。
- 算出式は不確定なパラメータが多数になり、パラメータ次第で結果が大きく変わる
- パラメータに計算者の意向が強く反映されるので、計算者に都合の良い計算結果になりやすい
理由の1つは、需要予測や経済効果を厳密に計算することが不可能だからである。実際にお金が動いたとして、それが、経済効果によるものなのかどうか、品目と金額だけ見て判断することはできない。例えば、次のような説明が分かり易い。
たとえば、ある子どもがスポーツを始めようとしていたとします。サッカーでも野球でもよかったのですが、サッカークラブが家の近所にあったため、サッカーを始め、ウェアやシューズを買うことになりました。それが2006年だったとしたら、W杯の経済波及効果に含めて計算されてしまうでしょう。たまたまテレビの買い替え需要が来た家庭で2006年にプラズマテレビを買ったとしても、経済効果に含めて計算されます。
それはそうだ。個々の消費について、どれが「W杯の経済波及効果」によるのか、販売記録だけ見て判断することは不可能である。
例えば、「今年はプラズマテレビを買ったので、車の買い替えは次の車検時にすることにして、今年は購入をあきらめた」ということをW杯のマイナス影響として引き算するものではないのです。
これも当然だろう。「あきらめた」のであれば、販売記録にさえ残らない。記録に残らない数値を経済効果として分析対象にすることは不可能である。
このように、実際に動いたお金ですら、経済効果を算出するのは困難である。まして、不確定要素の多い予測に基づいていては、まともな経済効果を計算することなど、出来るわけがない。マクロ経済モデルと言っても、複数の経済主体(家計と企業と政府)と複数の市場(生産要素市場と財・サービス市場と金融市場)の相互作用を考慮しているだけに過ぎない。現実のマクロ経済を正確にモデル化するなど不可能であり、仮定にもとづいた単純モデルを形成するだけに過ぎない。結果として、不確定なパラメータばかりのフェルミ推定にしかならず、パラメータを少し弄るだけで結果が全く変わってしまう。
需要予測や経済効果がデタラメになる2つめの理由は、パラメータを恣意的に弄っているからである。予算要求資料に掲載されている需要予測や経済効果のパラメータは、予算要求官庁の意向が反映されている。スパコンの場合は、文部科学省の試算と言っても、お役人がせっせと計算したわけではなく、コンサルタント会社に発注して計算させたのだろう。とはいえ、コンサルタント会社は、発注者の機嫌を損ねないよう、気を遣う。報告書のデータが発注者に都合が悪ければ、当然、発注者側の監督職員も駄目出しするだろう。発注者側が、自分達に都合の悪いデータのまま、報告書を黙って受け取るはずがないのである。何度もやり直しを命じられたら、コンサルタント会社もOKが出やすいようにデータを細工する。結果として、発注者に都合の良いパラメータ設定となり、発注者に都合の良い結果が出る。
具体例として、静岡空港の需要予測を採り上げる。静岡空港は、辺境の空港に比べて、比較的需要予測がしやすいと考えられる。というのも、近隣に空港が複数あり、陸路(新幹線、在来線特急、高速道路)+飛行機での利用実績が参考になるからである。静岡県は、近隣空港の利用実績を元に、そのうち、どの程度が静岡空港に振り返られるかを計算して、大まかな需要予測をしている。ところが、この需要予測には、静岡空港・建設中止の会によれば、次のようなデータ改ざんや不当な計算が見られると言う。
- 需要予測に用いた航空データの改ざん及び水増し
- 算出根拠のない「パラメータの推計結果」が多い
- 静岡空港経由の航空料金を不当に安く設定する(結果として羽田−札幌より静岡−札幌の方が安くなる)
- 通常運賃を、羽田空港経由並に安く設定する
- 往復割引率を、地方空港経由並に大きく設定する
- 羽田空港経由の航空料金を不当に高く設定する
- 特定便・事前購入割引の平均値について、その算出根拠がない
- パック料金が全く考慮されていない
- 静岡県からから他県空港まで、通常ルートより大幅に時間の掛かる陸上経路を設定する
- 羽田空港まで、最大約2時間の無駄
- 中部空港まで、最大約1時間の無駄
- 県外空港発着便について、多数の便を不当に除外する
- 前泊・後泊が必要な便は除外(何故か、現地で1泊余分に必要となる便は残す)
- 在来線で間に合っても、新幹線の始発に間に合わない便は除外
- 自動車利用の場合については、水増ししたアクセス時間だけ採用して、利用可能な便は除外
- 静岡−札幌便等の運行便数の根拠がデタラメ
- 需要予測より2割多い大阪−長崎便を根拠に利用している
- 小型機ばかりの離島路線(客数の割に便数が多い)を根拠に利用している
- GDP成長率を高めに見積もる
- 海外便の根拠がなく、現実離れした国内便の倍以上の路線を設定している
- 経常維持補修経費を減額
- 前回は、他空港の実績を元に面積ベースで試算
- 今回は、実情を全く考慮しない、国土交通省のモデル数値を採用
- 需要計算では駐車場無料化としながら、駐車場有料の国土交通省のモデル数値を採用
- 他府県からの静岡空港利用者を見込みながら、その算出根拠がない
次のような計算結果は、誰が見てもおかしい。これは、辻褄合わせを放棄してまで、無理矢理データを細工しなければならなかった良い証拠だろう。
距離があり、競争も少ない静岡空港の札幌便の往復割引運賃が、羽田のものより安くなるという矛盾が出てきています。
札幌へ行く場合に、静岡市民が静岡空港を利用するか、街頭調査が行われた。
- 県試算では、静岡県民の92.6〜98.0%が静岡空港を利用し、2.0〜7.4%が羽田空港を利用するとしている
- 街頭調査では、10.2%が静岡空港を利用し、23.7%が中部空港を利用し、60.5%が羽田空港を利用すると回答
県の予測する国内線需要が106万人に対して、静岡空港・建設中止の会が計算し直した値が36万人。さて、どちらが正しかったのだろうか。開港時の就航便は少なく、搭乗率100%でも68万人にしかならないと言う。そして、2009年12月現在、静岡空港発着便の搭乗率は60%〜70%程度と低迷している。これを書いている時点では、開港からまだ半年強だが、このままでは、静岡空港・建設中止の会の計算値の方が実態に近くなるだろう。
このように、比較的予想しやすいはずの静岡空港の需要予測でさえ、デタラメな予測が行なわれている。他の公共事業の需要予測や経済効果がどれほど信用できるか、推して知るべしだろう。
まとめ
開発、利用、どちらにおいても、次世代スパコン開発事業には意味がない。少なくとも、日本のやり方のように、次世代スパコン1台に1千億円もつぎ込むのは無駄である。米国のように、技術や人に対して支援を行なうなら意味があるだろう。スパコン1台の開発に大金を投じるのではなく、複数の大学や研究機関に資金を配布して、そこで、技術や人を育てるべきだろう。そして、利用するスパコンは一般競争で調達すべきである。そうでないなら、次世代スパコン開発事業の分を、別の科学技術分野に振り分けるべきである。
専門家の見解
敬称略。次の方々は、利害関係者であるので除外した。
- 野依良治(理化学研究所理事長)
- 利根川進(理化学研究所脳科学総合研究センター長)
- 平木敬(東京大学大学院情報理工学系研究科教授、文部科学省最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用プロジェクトアドバイザリーボード委員)
金田康正(東京大学情報基盤センタースーパーコンピューティング研究部門教授、事業仕分け人)
−スパコン事業における最大の問題点は何か。
そもそものやり方が最大の問題である。スパコン事業は当初、私の認識では2004年まで参議院議員だった元東京大学総長の有馬朗人氏が地球シミュレータ(2002〜2004年にかけて米国に多大な影響を与えたかつての世界最速の国策スパコン)に続く次世代スパコンの必要性を訴え出したことが大きなきっかけの一つだった。有馬氏が訴えたスパコンには、4項目の必要条件があった。
1つめはスパコン技術の伝承である。プロセッサやネットワークなどの主要技術から運用に至るまで、スパコンに必要なすべての技術およびノウハウを途切れることなく伝承させる必要があるためだ。2つめは競争環境を用意することである。健全かつ透明性のある競争環境が技術や利用者を育てるため、2つ以上のスパコンセンターに開発から運用までを同時に行わせる必要があると考えたのだろう。3つめに、それらスパコンセンターを大学に設置しそこに利用者や技術者が集まることも必要だ。ハードウエアとソフトウエアの両面で技術者が専門的にスパコンにかかわり、互いに切磋琢磨できる環境を用意しなければ、人は育たない。最後に、技術、競争環境、利用にかかわる人材育成を継続して行っていくことである。
にもかかわらず、気がつくと世界一の速度をベクトル型とスカラー型のハイブリッドシステムでやることが最大の目玉となっていた。当初求められていた国策スパコン像が十分に反映されず、それが見直しもされずにここまで来てしまった。これでは、予算を獲得するために世界一という目標、言うならばスローガンが定められ、獲得された予算に関係各社が群がった結果、おかしな方向に向かってしまったと見られてしまっても仕方がないだろう。
大切なことは、それぞれの用途に応じたある程度の計算能力を持ったスパコンを複数台用意することだ。現状、国内のスパコンは速くても100テラFLOPS程度だが、欧米と同等の計算機利用環境を提供するためにも500テラFLOPSから1ペタFLOPS程度のスパコンがすぐにでも必要となっている。仮に、現状からいきなり100倍の京速計算機が用意されても、国内では進んでいる気象関連の計算などの一部の用途を除き、使いこなせると考えるのは大変に甘い。極端に国費をつぎ込んでそれを使いこなせなければ、実にもったいない話だ。
−「歴史という名の法廷に立つ覚悟があるのか」と、プロジェクトの一時停止による国際競争力低下を懸念する意見もあった。
「歴史という名の法廷に立つ覚悟があるのか」とはあいまいな表現で、何を言いたいのか分からない。自分たちが正しくて、仕分け人に一方的な非があるとでも言うのだろうか。よりよい方向に向かって「一緒に頑張ろう」という意識の方が大事ではないのか。プロセッサの単体性能にもシステムの価格性能比にも劣るスパコンを、世界のどの国のどの研究所が欲しがるというのか。ましてや、そのスパコンを国内でも十分に使いこなせなかったときのことを想像してもらいたい。そのことによる富士通の国際的なブランド失墜とこの分野における日本の威信が失われてからでは遅いのだ。私は現状のままでは、国策スパコンは間違いなく立ち行かなくなると確信している。
確かに、プロジェクトの遅れによる国際競争力低下は否めない。しかし、国策スパコンが目指すべきなのは、10〜20年先にも存続する最先端技術の獲得と継承であり、人材の育成なのだ。挽回はできる。ただし、今の技術だけではそれを目指せないことは明らかで、米国でもそれを見据えた取り組みが始まっている。やはり、戦略性を持って最適な投資額を精査し、先の5項目をきちんと反映したプロジェクトに立ち返るべきだ。
歴史という名の法廷に立つ覚悟が必要なのは、言い出しっぺの野依良治氏だろう。何せ、今後の日本のスパコン技術を10年衰退させる張本人だから。利権のためにノーベル賞学者の名誉を売り渡したと、歴史に裁かれるのもそう遠くはないだろう。
伊藤智義(千葉大学工学部電気電子工学科教授、GRAPE-1開発者)
国策スパコンについては、当事者ではなく、これといって直接かかわることがないので私がとやかく言う立場ではない。ただ、当初からプロジェクトに賛成する研究者は少なかったと聞いている。また、スパコンは本来、解決すべき何らかの目的があり、そのためにハードウエアを開発するという流れであるべきだ。しかし、国策スパコンは解決すべき目的が不明確であり、その目的が後になって話し合われていると、関係する研究者仲間たちは話している。
それでも広い視点で見渡すと、専門家の間でも意見は分かれている。だが、目的が不明確なままハード優先でプロジェクトが進んでしまっているのであれば、一部で指摘さ""れている「ITゼネコン」との批判が出るのも仕方がないことだろうと考える。
−長崎大学の濱田剛助教も市販のGPU(画像処理装置)を用いて3800万円で国内最速のスパコンを開発した。
国策スパコンを批判するには非常にタイミングが良かったこともあり、マスコミがこぞって取り上げたが、公平な比較例であるとは思えない。GPUベースのスパコンと国策スパコンでは、利用範囲や使い勝手が全く異なるためだ。計算速度も違う。
ただ、GPUを用いた計算機は、CPUよりも圧倒的に価格性能比が高いことから、ここ数年で注目を集めており、濱田氏らのチームによる功績も大きい。GPUとスパコンの問題を絡めて考える際には、もっと本質的で重要なことがある。それはスパコンが特別なものではなくなり、その名称がなくなりつつあるという中で、スパコンはスパコンであるために全く異なるアーキテクチャに革新を遂げることが求められているということだ。「GPUはそれを考える上での選択肢の一つになり得る」という視点こそが重要なのであって、GPUを含めてそうしたスパコンの新たなアーキテクチャをそろそろ本気で考えなくてはならない時期に差しかかっているということが、GPUとスパコンを考える上で本質的な論点なのだ
牧野淳一郎(国立天文台理論研究部教授、GRAPE-DR開発者)
スーパーコンピューター開発は日本の科学技術にとってとっても大事であり、ちゃんと進めるべきであるから見送りとか凍結はおかしい、という意見はまああると思いますが、行政刷新会議の録音とかを聞いてみると結構プロジェクトが迷走した過程等を問題にしていて、そのまま進めるよりは見直すべきでは?という発言がでていることがわかります。ここでも何度も何度も書いてきたことでもありますが、当初の3種混合から途中で1つに絞ろうとしたり(いや、そうではない、とかいう話もありましたが)、結局絞りきれなくて2つになって数年たったあとで、結局ベクトル側がNの経営上の都合とかで撤退という形になったり、と、いうことをやってきた上で、Nが撤退したのでもっとお金が必要になりました、という概算要求をだす、という過去の経緯からは、これからマシンを完成できるのかどうか自体が疑われてもしかたがないところとは思います。
三好さんが強いリーダーシップをとった数値風洞・地球シミュレータのように進んでいれば随分違ったのではと思います。私は地球シミュレータが技術的に正しい選択だったとは思いませんが、それでも、次世代のように猫の目のようにプロジェクトリーダーのいうことが変わる、というようなことはなかったわけですから。
但し、民主党議員の人、松井さんといったところからは、「世界一である必要はあるのか」という質問がでていましたが、本当に質問するべきことは、「世界一になるのに1100億どうしても必要なのか」ということであったのではないかと思います。メモリバンド幅やネットワーク性能とか色々考えても、高々10Pflopsに1100億は2012年の数字としては高価にすぎ、この性能当りで高いということが日本の計算科学の将来に明らかな悪影響をもつからです。
悪影響というのは、要するに、同じお金で遅い計算機しか使えない、ということです。結局、計算機に使えるお金自体がさして増えるわけではないので、値段当りの性能が低く留まっては多少大型予算がついてもなんにもならないし、将来にもつながらないわけです。メーカーが今までやってきたようなやり方の延長で開発するにはお金がかかる、ということであるとすれば、それは今後につながる方向への投資なのか?ということが問題にされるでしょう。実際、NECの古典的ベクトルプロセッサの方向は地球シミュレータの時点で破綻していたもので、それにこだわったのが次世代プロジェクトの迷走の大きな要因であったことはNECが撤退した今となっては誰の目にも明らかなことでしょう。
次世代スパコンは結局当初計画程度の予算(報道されている40億減は概算要求からで、概算要求が元々当初計画から上載せされてたので)となって、仕分けの騒ぎがあまり意味がある結果につながっていないような気がします。事実上最後の計画見直しの機会をまた無為に見送った、という感じですね。
濱田剛(長崎大学工学部情報システム工学科テニュアトラック助教、GPUスパコンでゴードン・ベル賞受賞)
浜田助教は「高性能の計算機は重要だ」としながらも、巨費を投じた従来の開発方針について「素直にいいとは言えない。方向性が逆」と述べ、低価格化が可能との見方を示した。
技術的な背景
スカラ型とベクトル型
- 超並列プロセッサ
- 複数のプロセッサを単一のコンピュータ上で並列動作させるもの。
- クラスタ
- 複数のコンピュータをネットワーク接続して並列動作させるもの。
- ベクトルプロセッサ
- 巨大なベクトルレジスタを複数内蔵(Cray-1の1コア当たりのベクトルレジスタ容量は4KB,地球シミュレータのSX-9で1コア当たりのベクトルレジスタ容量は144KB)し、ベクトルレジスタ内でベクトル演算が行なえるプロセッサ。ベクトルレジスタ内でのベクトル演算は、演算パイプライン方式での実行も可能である。スカラ型と比べて単一コアの浮動小数点演算性能が格段に速い(2009年11月現在で約10倍)。演算性能だけが突出して向上した現在のハードウェア技術では、ベクトルレジスタに莫大な費用が必要となり、価格性能比で不利になる。
- スカラプロセッサ
- ベクトルレジスタを搭載しないプロセッサ。最近のスカラプロセッサはSIMD(定型的な演算を同時に複数実行する)命令を搭載する等で演算の高速化を図っているが、それでも、単一コアの性能はベクトルプロセッサに敵わない。
- ベクトル型スパコン
- 複数のベクトルプロセッサを超並列プロセッサとして動作させるスパコン。どのような処理でも高い実効効率が得られるが、価格性能比で劣る。
- スカラ型スパコン
- 複数のスカラプロセッサを並列動作させるスパコン。ベクトル型スパコンと同一の性能を得る為には、ベクトル型スパコンよりも多数のコアが必要となるため、処理の並列度を高めないと演算効率が低下する。地球シミュレータが世界1位だった頃は、1万コア以下でも実効効率が60%を下回ることが少なくなかった。しかし、2009年11月現在では、10万コア以上でも80%程度の実効効率を実現している。また、多数のデータを扱う処理を行なう場合に、データの伝送速度が足を引っ張って、実効効率が落ちることがある。このため、用途によっては、プロセッサ間の伝送速度が性能を大きく左右する。価格性能比が優れている。
初期のGRAPEのように、特定用途専用のスパコンを除けば、スカラ型で解けてベクトル型で解けない、あるいは、ベクトル型で解けてスカラ型で解けない問題はない。それぞれに、得手不得手があり、処理内容が実効性能に影響を与えるものの、解けるかどうかで言えば、どちらでも変わりない。
記憶装置の技術向上が演算装置の技術向上に比べて大きく遅れているため、ベクトル型とスカラ型の価格性能比の差は年々拡大している。また、実効効率を高める技術の向上により、コア数を増やしても実効効率が下がり難くなったので、単一コア性能で全体性能を稼ぐベクトル型のアドバンテージは年々縮小している。そうした傾向のためか、世界ランキングの上位の多くをスカラ型が占めるようになっている(2009年11月現在、世界ランク500位のうちベクトル型は1台のみ)。
次世代スパコン開発事業の当初計画では、ベクトル型とスカラ型のハイブリッド型であった。だから、当初計画で論じるなら、「本当にベクトル型が必要なのか」という議論が必要であった。しかし、事業仕分けよりも前に、スカラ型単独での開発に方針が変更されたため、ベクトル型の必要性を論じる必要がなくなった。安価に作れるはずのスカラ型ならば、10P FLOPSに1千億円は高すぎるのではないか。「高々10Pflopsに1100億は2012年の数字としては高価にすぎ、この性能当りで高いということが日本の計算科学の将来に明らかな悪影響をもつ」という意見もある。
ノイマン型コンピュータ
スパコンに必要とされる性能は、主に、演算性能とデータ伝送性能である。このうち、演算性能は、手段を問わなければ、かなり安く手に入る。半導体技術の向上により、理論的な演算性能は飛躍的に向上している。しかし、ノイマン型コンピュータでは、制御性能が足を引っ張るために、実効的な演算性能は理論性能に遠く及ばず、汎用プロセッサの演算性能は上げ難い(ポラックの法則)。スパコンの用途では制御処理より演算処理の比率の方が高いが、それでも、制御処理の速度がボトルネックになれば、全体の性能は大きく落ちる。では、制御処理と演算処理の両方の性能を追求するにはどうすれば良いか。性能低下の原因となるボトルネックを解消すれば、理論性能に近い演算性能を実現可能となるはずである。
汎用プロセッサの性能を向上する方法として、次のような手段がある。
- 1サイクルの時間を短くする(クロック・アップ)
- 1サイクル当りの同時実行命令数を増やす
- 前2つの性能を低下させない範囲で、1命令で複数の演算を処理する
- マルチ・コア
クロックを挙げるためには、命令パイプラインの1工程をなるべく単純にする必要があり、そのためには命令パイプラインの段数を増やす必要がある。しかし、命令パイプラインの段数を増やすと、パイプライン・ハザードで大幅に速度が低下する。速度低下を防ぐためには、高度な分岐予測と投機的実行等を導入して、パイプライン・ハザードを起き難くしなければならない。
同時実行命令数を増やす技術として、スーパー・スカラ(スーパー・スケーラ)があるが、効率的に同時実行を行なうには、スケジューリング処理(命令の依存関係や同時実行可能かどうか等を調べて、命令の実行順を並び替える)が欠かせない。
1命令で複数の演算を処理することは難しいことではないが、前2つの性能を低下させない範囲に限れば、出来ることが限られてしまう。例えば、大量のメモリの読み書きを行なうような命令を追加すれば、それによって、命令パイプラインが乱される。複数演算命令を追加するとすれば、命令パイプラインが乱さないものに限定される。
マルチ・コアは、マルチ・スレッド化されたプログラムを使えば処理の高速化が可能となるが、シングル・スレッドの既存プログラムを使う分には、全く恩恵がない。だから、処理を高速化するためには、プログラムをマルチ・スレッドで記述する必要がある。しかし、既存のプログラムを全て書き替えるのは大変であるし、新たなプログラム開発でもマルチ・スレッド化はあまり進んでいない。現在のところ、パソコンにおいて、実際に使われているプログラムの多くはシングル・スレッドであり、マルチ・コアの恩恵は一部のプログラムを使用するときだけに限られる。
以上のうち、分岐予測やスケジューリング処理は、実装に必要な面積が大きく、単位面積当りの性能低下を引き起こしやすい。
パイプライン
プロセッサ技術として、パイプラインと言うと、命令パイプラインと演算パイプラインがある。命令パイプラインは、RISC特有の技術であったが、今では、どんなプロセッサにも命令パイプラインが搭載されている。一方、演算パイプラインは、スカラ型プロセッサには搭載されていない。
命令パイプラインは、プロセッサ命令を複数工程に分けて処理し、それぞれの工程を同時進行することで、数サイクルかかる処理を実質的に1工程分の時間で処理したのと等価とする技術である。Wikipediaには5段パイプラインの例が掲載されているので、ここでもそれに倣って説明する。
| 工程 | 処理内容 |
|---|---|
| IF | 命令をメモリから読み出す. |
| ID | 命令を解読し、レジスタ値を読み込む |
| EX | 命令の内容の実行(演算等) |
| MA | メモリからのデータの読み込み、あるいは、メモリへの書き込み |
| WB | レジスタへのデータの書き込み |
ある工程が次の工程に処理を引き継いだら、その工程は次の命令の処理に移る。これを延々繰り返すと、見かけ上、1命令が1サイクルで実行されているように見える。
理屈では簡単だが、実際には、命令の依存関係、キャッシュのヒットミス、分岐予測の外れ等、様々なパイプラインを妨げる様々なハザードがある。高速化手法としてクロック・アップがあるが、クロックを挙げるためには、1工程の処理を軽減するために、パイプラインの段数を増やす必要がある。しかし、パイプラインの段数が増えると、パイプライン・ハザードの影響も大きくなる。
通常は、命令の依存関係によるハザードが生じないよう、コンパイラがうまく命令を並び替えてくれる。しかし、依存関係のある演算を主目的とするプログラムでは、コンパイラが命令を並び替えようがない。n+1番目の命令が、n番目の命令の実効結果を利用する場合、n番目の命令が終わるまで、n+1番目の命令を処理できない。その結果、パイプライン・ハザードに陥る。
図を見ると分かるように、演算に要するサイクルより、全処理に要するサイクルの方が圧倒的に長い。また、クロックによって同期動作をするため、各工程の時間は最も長くなる工程+αに合わせてある。よって、非同期動作をすれば、演算時間はもっと短く済む可能性もある。このように、依存関係のある演算を行なう場合、ノイマン型コンピュータでは、ハードウェアの限界性能を引き出せない。
図のように、最初の演算ユニットの出力を次の演算ユニットの入力に直結する。それを何段も積み重ねれば、ハードウェアの限界性能での演算が可能となる。これが演算パイプラインである。
SIMD特化型プロセッサ
命令パイプラインを乱さずに、1命令で複数の演算を処理する方法として、SIMDがある。SIMDは、大量のデータに同種の演算を繰り返す処理には向いているが、それ以外の処理には恩恵がない。しかし、スパコンでは、同種の演算を繰り返す処理が非常に多いので、SIMDのメリットが活かせる。
そこで、分岐予測やスケジューリング処理を省き、主用途としてSIMDの実行に特化すれば、単位面積当りの演算性能だけは飛躍的に向上する。ただし、その反面、演算以外の制御処理は劇的に遅くなるので、実用的に使うには、制御処理を担う汎用プロセッサを別途用意する必要がある。このようなSIMD特化型プロセッサは、GPU等に利用されている。
VLIW/EPIC
同時実行命令数を増やす技術として、VLIW/EPICがある。似たような技術であるスーパー・スカラを導入するには、複雑なスケジューリング処理が欠かせないため、単位面積当りの性能を向上させ難い。そこで、VLIW/EPICでは、プロセッサでスケジューリング処理を行なわず、コンパイラにスケジューリング処理を行わせる。しかし、現状では、どんな処理でも完璧にスケジューリング処理をこなせるコンパイラを実現できていない。コンパイラがスケジューリングを上手く調整できない時は、実行したい命令とNOP(何もしない)命令を同時実行することになり、スーパー・スカラよりも実効速度が落ちてしまう。現在の技術では、VLIW/EPICは、処理内容によって大きく速度が変わってしまう。そのため、汎用的な処理は不得手であり、専用的な処理を行なう組み込み用途でのみ普及している。
非ノイマン型プロセッサ
前項で説明した理論性能と実際の性能の差は、ノイマン型プロサッサ特有のものである。それならば、非ノイマン型とすれば、実際の性能を上げ易いはずである。理論限界値としては、SIMD特化型プロセッサよりも高速処理が可能だが、実際の性能を上げるには、それに見合った需要が必要だろう。
Reconfigurable Processor
東芝が製造するMedia embedded Processorは、受注生産でユーザーカスタム命令を追加できるRISCプロセッサである。簡単に言えば、ASICのプロセッサ版のようなものである。
Reconfigurable Computing
演算部分にFPGAを用いたものをReconfigurable Computingと言う。計算内容に合わせて、その都度、演算処理部を再構成する必要があるが、同一処理の演算を繰り返す場合は、高速に実行できる。これをスパコンに応用したものをReconfigurable HPCと言う。Reconfigurable HPCの実装例としてGRAPE-7がある。
Dynamic ReConfigurable Processor
Reconfigurable Computingの一種として、Dynamic ReConfigurable Processorがある。これは、プロセッサに用いられる演算処理回路を連結して任意の演算パイプラインを動的に構成できる。簡単に言えば、FPGAのプロセッサ版のようなものである。再構成に要する時間はわずか1サイクルであり、高速な再構成が可能となっている。
Dynamic ReConfigurable Processorには、次のような企業が参入している。
- Intel?(RCAアーキテクチャ)
- NECエレクトロニクス(DRP)
- 富士通(クラスタアーキテクチャ)
- パナソニック
- 日立製作所(FE-GA)
- 三洋電機(情報家電向けリコンフィギュラブルプロセッサ)
- アイピーフレックス(破産)
- 慶應義塾大学(MuCCRA1)
次のような映像または音声機器等に用いられているが、スパコンへの応用は未知数である。
- ネットワークウォークマン(ソニー)
- 携帯ゲーム機PSP go(ソニー)
- プリンタ複合機(富士ゼロックス、東芝テック)
- 放送用ビデオカメラ(ソニー、パナソニック)
元研究者の見解として、「将来性はゼロではない」とのこと。
フツーのプロセッサ + RAM で構成された機器の価格下落速度や、技術革新が DRP にくらべて量、質ともすさまじいので、一点で築かれた優位性が比較的短期間で失なわれる、という構造になっています。
この辺りの問題解決は、需要が鍵を握ると思われる。
ヘテロジニアス・マルチコア
ヘテロジニアス・マルチコアでは、汎用プロセッサと演算特化型プロセッサを同一のチップに載せて、全体的な演算性能を改善しようとする。演算特化型プロセッサを外付けにするのに比べて、汎用プロセッサと演算特化型プロセッサの間のデータのやり取りが高速化し、プロセッサ間で相互にメモリも共有できる。2008年6月〜2009年6月の間、世界ランキング1位だったスーパーコンピューター「Roadrunner」やプレイステーション3で使われているCellプロセッサもヘテロジニアス・マルチコアであり、汎用プロセッサとSIMD特化型プロセッサを組み合わせている。
実装例
System X
2003年11月当時の話だが、当時の性能ランキングで世界3位に入ったスパコンがある。これは1000台強のMacintoshで構成されるクラスタ・コンピュータ「System X」で、開発費用は約520万ドル(約5.7億円)、開発期間は3か月、演算性能は10.28TFだった。その当時、1位だったのは、日本が誇る「地球シミュレータ」で、開発費用は約600億円、開発期間は数年、演算性能は35.86TFだった。
開発費用の差も大きいが、開発期間の差も大きい。「System X」は、3か月で稼働までこぎ着けているので、開発中の技術の陳腐化は殆どない。一方で、次世代スパコン開発事業は、開発に数年かかるため、開発中に技術の陳腐化しやすい。開発に何年もかけるよりは、新鮮な技術を短期間で導入した方が、安くて高性能なスパコンが手に入る。
GRAPE
GRAPEプロジェクトは、重力多体問題を専用ハードで高速に計算することを目的に始まった。重力多体問題とほぼ同様の計算を行なう分子動力学でも高速な計算が可能とされる。初期のGRAPEでは、ASICやFPGAを用いた専用演算機を用いていた。これは特定の計算式しか実行出来ないため、LINPACKベンチマークが実行できずに、世界ランキング入りが出来なかった。GRAPE-DRでは、メモリバンド幅を下げているものの、SIMD特化型プロセッサを採用することにより、LINPACKベンチマークが実行可能になっている。GRAPE-DRは、本来の目的ではピーク性能近くの演算性能が出ると期待されるが、汎用的な計算では極端に性能が落ちる。いずれも、目的の用途に必要な機能にのみ特化することで製造コストを下げているかわり、目的の用途以外の計算は出来ないか、出来ても性能が劣る。GRAPE-DRの達成目標値は2P FLOPSで、開発費用は15億円だそうだ。次世代スパコン開発事業に比べれば圧倒的にパフォーマンスが良い。
もちろん、GRAPEは利用用途が限定されるから、単純には比較できない。しかし、GRAPEだけが安さと高性能を追求する唯一のアプローチなのだろうか。他にも様々な可能性があるなら、10P FLOPSに1千億円をポンと出す前に、それらを検討すべきだろう。
とはいえ、GRAPE-DRには少々問題が生じている。というのも、単精度512G Flops/倍精度384G Flopsのプロセッサは既に開発が終わり、一般向けに販売されてもいるのだが、最終的な目標であるスパコン本体が予定期日までに完成していない。事実、2009年11月のランキングでは445位、21.96T FLOPSでしかない。これは、ランキングに用いられるLINPACKベンチマークでは、演算効率が落ちるためである。これは、試作機らしく、理論上限も84.48T Flopsしかない。効率が26%と極端に低いが、Top500 の歴史に残るほど「効率」は低い原因について、牧野教授は次のように語っている。
- 元々の設計思想がそういうものである
- ホストに掛けるお金が足りなくなった
- チューニングが追いついてない
国内最速スパコン!?
長崎大学の研究チームが3800万円で国内最速スパコンを開発したというニュースが飛び込んで来た。開発費用は3800万円、380基のGPUを並列動作させて158T FLOPSを実現したそうだ。
しかし、どのソースにも、演算性能の計測方法が書かれていない。国内最速とうたっているが、それならば、比較対象と同じ計測方法を用いなければならない。日本が誇る地球シミュレータを初め、世界のスパコンのランキングはLINPACKベンチマークの値を用いて性能比較しており、物差しが違う値を比べても意味がない。仮に、LINPACKベンチマークの値でなかったとしても、コストパフォーマンスを追求するやり方の1つを示したことは意味がある。しかし、どんな計測方法によったかで、情報としての意味は大きく変わって来る。長崎大学のプレスリリースによれば、LINPACKベンチマークの値ではないようだ。
天文学・流体力学への応用計算において42テラフロップス(毎秒42兆回計算)の実行性能を達成し,
その後も研究が進められており,現在では,380台の GPU の並列動作により,158テラフロ ップスの実効性能を達成しています。
また、理化学研究所の研究成果によると、並列化が難しい分野での効率の良い並列化の成功事例らしい。
本研究においては、長崎大学に構築した大規模なGPUクラスタを利用し、その上に天文学向けにはツリー法、流体計算では高速多重極法と呼ばれる手法を実装しました。これらは実用的に用いられている高速な計算手法ですが、その反面複雑で並列化がしにくく、GPUによる並列化が難しかった手法です。しかし、新しく開発した「マルチウォーク法」により効率の良い並列化を可能とし、高い効率を得ることに成功しました。
スカラ型の実効性能を上げるには、並列処理を効率的に実行する必要があるとされるが、そのための自動並列化コンパイラの研究はあまり進んでいない。そうした中で、「マルチウォーク法」が、その答えになるのであれば、その意義は大きいだろう。
長崎大学のスパコンに使われているGPU(GeForce 8800GTS-OC,GeForce 9800GTX)は倍精度に対応していないので、LINPACK値が出ない。倍精度演算より単精度演算の方が速度が圧倒的に有利になることを考慮すれば、長崎大学のスパコンで実行した演算を地球シミュレータで実行した場合は、長崎大学のスパコン以上の数値を出せると推測できる。ということで、どう比較しても、地球シミュレータには勝てないので、国内最速とするのは正しくない。似たようなスパコンである東工大のTSUBAMEのLINPACK値は87.01T FLOPSである。TSUBAMEに使われているGPU(Tesla S1070)は倍精度に対応しているが、単精度に比べて演算性能が大幅に落ちる(単精度4.147T FLOPS,倍精度345G FLOPS)。GPUをTesla S20シリーズに置き換えれば、倍精度性能がS10シリーズの8倍らしいので、LINPACK値で600T FLOPSくらいは出るかも知れない。長崎大学のスパコンのスペックは、あらゆる面で、TSUBAMEよりも劣る。中でも、ノード間接続の遅さ(長崎大学のスパコンは約0.125GB/s、TSUBAMEは360GB/s)は、用途によっては、大きなボトルネックとなるだろう。だから、TSUBAMEを差し置いて国内最速とするのも正しくない。とはいえ、次世代スパコン開発事業に無駄が多いことは明らかであり、このニュースが次世代スパコン開発事業復活の大いなる向かい風になることを期待する。
尚、ネットでは、放熱や耐久性等の構造の問題を指摘する声があるが、それはスパコン本体の開発費用に比べたら微々たる金額で容易に解決できる問題である。また、「GPUじゃできる演算限られてる」という誤解も見られる。昔のGPUは固定された演算機能しか持っていなかった。しかし、2002年頃からプログラマブルシェーダが採用されており、中身は複数コア搭載の汎用SIMD演算機である。このスパコンに採用されているGPUは単精度にしか対応していないが、最近のGPUは倍精度にも対応している。
中国の技術力でも世界5位達成
長崎大学のスパコンより、中国の天河1号の方が驚きに値する。天河1号は『ATI Radeon HD 4870 X2』を2560枚搭載し、2009年11月の世界ランクで5位(563T Flops)を達成した。中国はのスパコン製造技術が低いと言われ、そのためか実効効率も46.7%しかない。しかし、その程度の技術力でも約80億円で世界5位(563T Flops)を達成しているのである。
もし、日本の企業が本気でGPUスパコンを開発すれば、どれだけコストパフォーマンスの高いスパコンが作れるのだろうか。2009年11月のNVIDIAの新製品Tesla S2050が12,995ドルで倍精度2.1T FLOPS(Tesla S1070は345G FLOPS)出る。10P FLOPS実現するには、演算効率80%程度とすると6千個強(約80億円)必要だが、CPUとインターコネクトを入れても材料費は約100億円で済むのではないか。その他、手間賃やソフト代も必要だし、現実には、単純計算通りの性能は出ないかも知れない。しかし、1千億円で10P FLOPSは、いくらなんでもコストパフォーマンスが悪すぎる。
分かりやすい説明
酒と蘊蓄の日々 スーパーコンピュータは打出の小槌じゃないの説明の方が、当ページより分かりやすい。
民主党政権による例の事業仕分けで下されたスーパーコンピュータの開発事業凍結という判断に保守系の2紙が噛み付きました。
読売新聞 社説「スパコン凍結 科学技術立国の屋台骨が傾く」(2009年11月22日付)
産経新聞 主張「次世代スパコン 戦略なき開発凍結に異議」(2009年11月17日付)
しかし、これらの言い分には誤解が多く、全般的な論点も定まっていないというところで共通しており、全く説得力がありません。特に酷いのは読売新聞の以下のくだりです。
これを書いた論説委員は論点が絞り込めていないようです。スーパーコンピュータが科学技術の発展に不可欠という論点でいくなら、それが国産であろうとアメリカ製であろうと関係ありません。世界最速の国産スーパーコンピュータをつくること自体が目的なら、その凍結によって「日本の科学技術は衰退に向かう」というのは全くの筋違いです。
「日本で最先端スパコンが使えないと、優秀な研究者が流出することにもなりかねない」というのなら、むしろ海外の安いスーパーコンピュータの導入を進めるべきで、演算速度の単価で比較すれば国際相場の4倍になるともいわれる莫迦みたいな高コストの国産に固執するほうが「日本で最先端スパコンが使えない」という状況に繋がると考えるべきです。
絞り込めていない論点とは、言うまでもなく、開発の必要性と利用上の必要性であろう。
「基本部品である半導体の開発など幅広く手がける必要があり、民間だけでは挑めない」というのも全くの誤解で、これを書いた論説委員は近年のトレンドを何一つ把握していないのでしょう。専用プロセッサを必要としないスカラ型でも専用プロセッサを必要とするベクトル型に劣らない速度での演算が可能になってからは、市販サーバなどに搭載されているプロセッサを用いるのがごく当たり前になっています。
例えば、2008年6月からの1年間にわたって世界最速の座にに君臨し、先日発表された最新ランキングでは1位を譲ったものの、現在でも世界第2位にランクされているIBM製の「Roadrunner」などはAMDのOpteronプロセッサ6,562個、4社(ソニー、ソニー・コンピュータエンタテインメント、IBM、東芝)の共同開発によるCellプロセッサ12,240個で構成されています。後者は家庭用ゲーム機「プレイステーション3」にも搭載されているそれを改良したもので、市販のブレードサーバ「QS22」のアーキテクチャをベースとしています。
また、読売新聞は「中国、韓国が保有するスパコンにも後れを取る」と述べていますが、現在5位にランクされている中国のNUDT(国防科学技術大学)のそれもプロセッサはインテルのXeonを用いています。KISTI(韓国科学技術情報研究院)が保有している韓国最速で世界14位の「スーパーコンピュータ4号機」に至ってはサンマイクロシステムズ製で海外から買ってきたものに過ぎません。
既製品を改良したり、又は、既製品をそのままでも世界ランクの上位に入れるなら、「基本部品である半導体の開発など幅広く手がける必要」は全く無いと言える。
「1桁でも、例えば航空機開発なら、単純計算で開発期間が10分の1になるのだから恩恵は大きい」とも述べてますが、航空機の開発は機体の空力設計、強度設計、エンジンも自前でいくならその燃焼状態のシミュレーションなどに至るまで開発に必要な分野は多岐にわたります。速いマシンが1台あってもそれを各々の部門でシェアして使うことになるなら、速さは多少劣っても複数のマシンを導入すれば済むハナシです。それでマシンの導入コストが1/4に抑えられるなら、開発コストの低減に繋がると考えるのが常識的なビジネスというものです。
次世代スパコンは、1つの組織が継続的に専有することを想定して作っているわけではないようだ。だから、同じ会社の中でのシェアだけでなく、他の会社とのシェアも考慮する必要がある。だから、高性能なスパコンを複数でシェアするのと、中性能なスパコンを複数用意してそれぞれが専有できるようにしても、性能的にはどちらでも変わりがない。コストでは、後者の方が圧倒的に有利である。
だいたい、このプロジェクトでは国産スーパーコンピュータの開発を推進しても、それを産業として育んでいこうという明確なビジョンが全く見えません。
実際、2002年から2年半にわたって世界最速に君臨した「地球シミュレータ」も実質的には単発の事業として終わっており、世界トップレベルのスーパーコンピュータ市場に踏みとどまって継続的な事業展開を進めることはできませんでした。
10年に1度くらいのペースで単発的に世界最速のスーパーコンピュータをつくっただけではその先の展望など全く見込めません。こんなことのために莫大な国費を投入し、技術者をつなぎ止めておくなどナンセンスの極みです。産経新聞はタイトルを「戦略なき開発凍結に異議」としていますが、国産スーパーコンピュータを再び世界最速にしたその後には、どんな「戦略」があるというのでしょう?
高性能なツールが科学の発展に必要だとする考え方は否定しませんが、高性能なツールを手に入れさえすれば科学が発展すると考えるのは間違いです。ましてや、それがどこの国でつくられたものかなどどうでも良いことです。
そもそも、スーパーコンピュータのハード開発を国家戦略とし、科学技術の発展に不可欠だとする考え方が間違っています。ヨーロッパの主要国は初めからハード面の開発に手を出しておらず、そのソフト開発など運用面に力を入れている状態です。それで彼らの科学技術は日本やアメリカなどと比べて劣っていったでしょうか?
例の事業仕分けのやり方などは色々問題もありますが、このスーパーコンピュータの開発事業を凍結した判断そのものは正しかったと思います。が、何を血迷ったのか、産経新聞が主張したように国家戦略担当の菅副首相がしゃしゃり出てきて日曜日に放送されたNHKの番組で復活させると発言しました。
世界最速のスーパーコンピュータを日本のメーカーにつくらせれば日本のスーパーコンピュータが世界を席巻し、日本の科学技術の発展が担保されるとでも思っているのでしょうか? 彼らはスーパーコンピュータを打てば何でも望みが叶う打出の小槌か何かと勘違いしているのかも知れません。
これまで、科学技術分野の従来の予算獲得では、必要理由をきちんと説明せずに、「打出の小槌」的勘違いを最大限に利用していた。そうした国民不在の非民主的手法を改めるための事業仕分けであろう。それなのに、「打出の小槌」的勘違いで事業仕分けをぶち壊そうとするやり方は、時代遅れの遺物である。予算を復活させたいなら、「打出の小槌」的勘違いではなく、正論の説明できちんと国民を納得させるべきだろう。
事業仕分けのカラクリ(続) − 次世代スパコン予算復活。じゃが、どんなスパコン(施設)ができるのかを知る人は少ない。: ズブズブに理系でいこう!もお勧め。
しかし、関係者は別として、この次世代スパコンプロジェクトがどういうものか、内容を知った上で予算凍結に反対(予算復活に賛成)した人は少ないのではないか。
「スパコン」 → 国にとって重要な技術
「世界一」 → それに反対するのは「亡国」「売国」
レンホーのおバカ発言 → バカとは反対の立場をとるべき
といった感情的な理由で予算凍結に反対した人がほどんどではないだろうか。
予算凍結に反対(予算復活に賛成)した人は、利害関係者と事情を全く理解していない人だけだろう。
しかも、「使い勝手をよくする」とか言っちゃって、利用者を20倍に増やすという。ごく大雑把に言ってそれは、1ユーザー当りの「計算速度」を20分の1にするということだろう(待ち時間が増えて、CPU占有率が減る)。
それは要するに、「CPU時間のバラマキ政策」ではないか。「大学共同利用施設」的なものになるのだろう。性能上で「世界一」の速さにしても、実際に個々のユーザーが享受できる計算速度が「ノートパソコン並み」になったら笑えるぞ。
利用者を20倍に増やすなら、10P Flopsのスパコン1台ではなく、0.5P Flopsのスパコンを20台作った方がマシだろう。
NASAのアポロ計画みたいに、開発の過程で様々な技術を「副産物」として産み出すわけでもない。現在の技術を用い、金さえかけて大規模化すれば実現できるスパコンだ。
この人は、「円周率」と「国家スパコン」と「事業仕分け」 − 「考えない人間は、じつは意見を持ってしまう」: ズブズブに理系でいこう!で次のようにまとめている。
「考えない人間は、じつは意見を持ってしまう」。
「地獄への道は善意で舗装されている」。
「愛国」の仮面をかぶった亡国の感情論には気をつけにゃいかんぞ。
「京速」は潰れるべきだったのだ。明日の世界一のために - おごちゃんの雑文も非常に分かり易い。
「京速」見送りで、コンピュータのわかってる人までが残念がっているのが不思議でしょうがない。
スーパーコンピューターを復活してほしい – 西 和彦
こういった主張を見ると、「なんでもかんでも世界一になってりゃいいのか」と思えて来る。
それは、西さんが「コンピュータのわかってる人」でなかった証拠であろうと思われる。
もう何度も書いているけれど、あのプロジェクトは「次の世界一」のために潰れるべきだったのだ。
日本が世界一のコンピュータが作れるようになること、これに異論はない。「二番目ではダメなのか?」と言われれば、「ダメに決まってるだろ」と答えるものだ。これに異論があるコの業界の者は少ないだろう。いや、異論なんか持つな。この気概こそが日本のコの業界の未来につながるのだ。
しかし、そう思うからこそ、「京速」は潰れるべきだと考える。
つまり、当初計画通りのパフォーマンスが出るとしたら、
京速は2012年の1位
になれる。やった、これで世界一奪還だ。
とは言え、翌年には20〜30PFlopsが世界一だ。どこのコンピュータがそれを達成するかはわからないが、多分それは「京速」ではない。なぜなら、「京速」は
物量で勝負した一品もの
でしかないからだ。理研に導入されたものが1式あるだけで、それっきり。
今年のリストを見る限り、トップには「おなじみ」のものが並んでいる。「どこに置いてある」ということは変わったりしているけれど、Cray XT5にしてもBG/Pにしても、普通のメーカの商品だ。つまり、これは
注文さえあればお届け出来る
ものだ。しかも、ここ数年は商品としては固定してしまって、ノード数が増えたものがより上位になっているだけだ。アーキテクチャもハードウェアも安定している。
だから、ここで仮に「京速」で頑張って1位を取ったにしても、翌年はどこか別のコンピュータが1位になる。量産の「商品」になってしまわない限り、1式作ったらそれまででしかないからだ。
1品もので物量勝負にしてしまったら、工場でポンポンと量産しているものに勝てるわけがない。その辺の視点が「京速」には欠けているから、最大に運が良くても2012年に1位になるだけでしかない。
「国家の威信としてのスーパーコンピュータ」というのは、私はそんなに愚かなことだとは思わない。スーパーコンピュータの需要なんてのは実はいくらでもある。だから、どんなに速いものを作っても、それ自体はムダになったりはしない。しかし、そうであるがゆえに、「力振り絞った1位」ではなくて、「注文さえあれば、いくらでももっと速いものが作れます」でないと困るのだ。だからこそ、「力振り絞った1位」でしかない「京速」なんてのは潰れるべきだと言うのだ。
以上、「1品もの」では駄目とは、全くその通りであろう。
ここで「こういったプロジェクトが潰れると将来に」とかいう議論が必ず出て来る。いわゆる「ロストテクノロジー」論だ。しかし、よく考えてみればこの(コの)技術が遍在する時代に、「ロストテクノロジー」なんてものがあるだろうか? てか、そもそも「日本独自のコンピュータ技術」が市場で受け入れられ続けるような時代だろうか?
「日本独自技術」のままでは、すぐ化石化してしまう。そう考えれば、「京速」で作る予定だったCPUにしてもインタコネクションにしても、
必要なら買って来れる
状態に出来ないと困るのだ。「ロストテクノロジー」になりそうなものなんて、最初から開発しちゃいけないし、期待してもいけない。
多くの企業や団体が互換性のない閉鎖的な規格を採用したがる。日本政府も、閉鎖的な規格がとても好きなようだ。たしかに、規格を独占できれば莫大な利益が得られるだろう。しかし、それができるのは、独占企業の特権である。既に普及している規格があるのに、独自規格を提唱しても、市場から閉め出されるだけだ。後発規格が市場を独占するためには、先発規格よりも突出したメリットを示せなければならない。独占するためだけの「日本独自のコンピュータ技術」が市場から受け入れられるはずがない。
あとまぁお約束「中国脅威論」が出ているのだけど、少なくとも今年のTOP 500を見る限り、中国は何の脅威でもない。と言うか、別の見方をすれば、
中国でさえも入れた
とも言える内容だ。
中国トップのTianhe-1を見れば、Xeon 5540とATI 4870を使い、InfiniBandのDDR 4xで構成されている。つまり、
秋葉で売ってるパーツ
で作られたに過ぎない(IBは秋葉で売ってないと思うけど)。つまり、ハードウェア的にはどうってことのない、市販品を並べただけで「金さえあれば作れる」ものでしかない。逆に言えば、「だからこその脅威」でもあるし、「コモディティなパーツ」を使うことに意味があるとも言える。「中国でさえ」と侮ることは厳禁なのだけど、そういったものがいつでもトップを狙える位置にいるんだということは、考えておくべきだ。
「京速」必要論を唱える人は、「だからこその脅威」を全く理解できないと思う。
いまだにノルウェーで勲章もらった人があれこれ言ってるようだけど、この人達は「世界一速いコンピュータが欲しい」のか、「世界一速いコンピュータを作らせたい」のかはっきりするべき。多分、この人の立場であれば「世界一速いコンピュータで研究したい」はず。もうちょっと虚栄心を加えるなら、「世界一速いコンピュータを所有したい」があるかも知れない。
でも、そうであるなら「1100億」でCrayなりIBMなりに発注すれば、コストパフォーマンスからすれば2010〜2012年の間、世界一に君臨するスパコンを購入出来る。計算能力的にも虚栄心的にも、申し分ない。「特亜の脅威」には周回の差がつけられるはず。「使う」「所有する」という意味では、むしろこっちの方が
4〜10倍お得
なのだ。日本のコンピュータ産業のためにならない? え? ってことはあれって
ITゼネコンへの補助金
だったの?
「ノルウェーで勲章もらった人」に限らず、「京速」必要論を唱える人は、決まって、目的を混同して論じている。
参考文献
- http://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/hot/20091124_330515.html
- http://journal.mycom.co.jp/news/2004/07/14/016.html
- http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/NC/NEWS/20020315/3/
- http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0509/28/news107.html
- http://www.computerworld.jp/news/hw/16446.html
- http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0509/28/news107.html
- http://japan.cnet.com/blog/petaflops/2007/11/18/entry_25001820/
- http://itpro.nikkeibp.co.jp/a/it/tecima/tec0713/ima_07_2.shtml
- http://jun.artcompsci.org/articles/future_sc/face.html
最終更新時間:2010年01月29日 22時51分31秒
管理人の注目サイト