日本の経済損失は緊急事態宣言のせいか?

簡潔な説明 

OECDデータ 

新型コロナ後の日本の経済損失は緊急事態宣言のせいだとする主張がある。

この主張を検証する前に、まず、以下の傾向があることを理解してもらいたい(新型コロナは政府対応で抑制できる参照)。

  • 対策の早さの影響
    • 対策が早いほど感染・死亡は少ない
    • 対策の早さは経済に影響を及ぼさない
  • 対策強度の影響
    • 実効再生産数を1未満にできる場合、対策強度は感染・死亡には影響しない
    • 実効再生産数を1未満にできない場合、対策強度が強いほど感染・死亡は少ない

接触削減率と対策期間比率の積が経済への悪影響と相関すると仮定して、接触削減率と経済への悪影響の関係をグラフを描く。 尚、実効再生産数が1を下回らない場合は、何時までたっても対策が解除できないから、対策期間比率は100%である。 実効再生産数が1を下回る場合は、先ほどのlogRt1/Rt2Rt1で対策期間比率を計算できる。

接触削減率と経済への影響

このグラフから以下のことが読み取れる。

  • 実効再生産数が1を下回らない場合は、対策を強化するほど経済が悪化する
  • 実効再生産数が1を下回る場合は、対策を強化した方が早く対策を解除できるので、経済への悪影響が小さい

そのことから次のことが予測できる。

  • 中途半端な対策で実効再生産数が1を上回る期間が長く続いた場合は、対策が強いほど経済が悪化する
  • しっかりした対策で即座に実効再生産数を1未満にした場合は、対策が強いほど経済への悪影響が小さい

よって、世界全体において、対策の強さとGDP変化率は正の相関にも負の相関にもなり得る。 実際にOECDの2020年第2四半期のGDP変化率と比較すると、Government Response Stringencyと経済の関係を見ると弱いの負の相関があるかのように見える。

2020年Q2前年同期比 2020年Q2前期比
Government Response Stringency 最大-0.302-0.288
Government Response Stringency 平均-0.165-0.053

しかし、これは先ほども説明した通り、正の相関にも負の相関にもなり得るのであるから、この相関から何かを読み取ることは不可能である。 また、Government Responseの遅さと経済にはほぼ相関はない。

政府介入時期(累積ベース)と経済 政府介入時期(新規ベース)と経済

CORONAVIRUS GOVERNMENT RESPONSE TRACKER - UNIVERSITY OF OXFORD 人口あたりの新型コロナウイルス感染者数の推移【国別】 - 札幌医科大学 Quarterly GDP - OECD

2020年Q2前年同期比 2020年Q2前期比
累積感染(Government Response Stringency≧40到達時)0.0150.068
新規感染(Government Response Stringency≧40到達時)-0.0250.030

一方で、GDP変化率と人口当たり死者数には負の弱い相関が見られる。

人口あたり死者数とGDP変化率

人口あたりの新型コロナウイルス感染者数の推移【国別】 - 札幌医科大学 Quarterly GDP - OECD

GDP変化率と人口当たり死者数には負のやや弱い相関が見られる。 2次関数で近似しても近似曲線はほぼフラットであり、人口当たり死者数が少ないほど経済損失が少ない傾向は、人口当たり死者数の大小によって影響を受けていない。 相関係数を図にすると、次のとおりである。

2020年第2四半期経済との相関係数

CORONAVIRUS GOVERNMENT RESPONSE TRACKER - UNIVERSITY OF OXFORD 人口あたりの新型コロナウイルス感染者数の推移【国別】 - 札幌医科大学 Quarterly GDP - OECD

よって、死者数が経済に影響を与えている傾向が見られる。 そして、人口当たり死者数が極めて少ないケースでは経済損失に大きなバラツキが見られる。 さらに、日本のデータは近似曲線に極めて近い。

以上を踏まえると、次の様な傾向があると考えられる。

  • 対策の早さは経済に影響を及ぼさない
  • 実効再生産数を1未満にできる場合、対策強度が強いほど経済損失は小さい
  • 実効再生産数を1未満にできない場合、対策強度が強いほど経済損失が大きい
  • 死亡数が少ないほど経済損失は小さい

そして、日本については次のことが言える。

  • 日本の人口当たり死者数はかなり少ない
  • 人口当たり死者数が少ないグループの中で日本の経済損失は平均的

このように、どう見ても、日本の新型コロナ対策は大成功であり、経済的に見ても失敗と言える状況には全くない。 むしろ、対策を怠った場合にはもっと経済損失が大きくなった可能性がある。 つまり、新型コロナ後の日本の経済損失の根本原因は、緊急事態宣言ではなく、新型コロナである。

ただし、人口当たり死者数が極めて少ないケースでは経済損失に大きなバラツキが見られることから、上手な対策をすればもっと経済損失を減らせた可能性はある。 政府としてやるべきことは、そうした分析によって対策として何を行うべきかを検討することであろう。

実測データ 

間違った「8割おじさん」批判で解説する。

現実的な対策案 

接触削減率と単位時間あたりの経済への悪影響が完全に比例する場合は、既に計算した通り、次が最善策となる。

  • 対策を行う場合は、全ての対策を同時に行う
  • 対策を止める場合は、全ての対策を同時に止める

しかし、接触削減率と単位日数あたりの経済への悪影響は必ずしも比例しない。 接触削減率が高く、かつ、経済への悪影響が小さい対策もあれば、接触削減率が低く、かつ、経済への悪影響が大きい対策もある。 例えば、経済への悪影響を接触削減率で割った値が小さい順に対策をグループ分けするとしよう。

  • グループ0(マスク着用等、経済への悪影響がほぼないもの→常時実施)
  • グループ1
  • グループ2
  • グループ3
  • ・ ・ ・
  • ・ ・ ・
  • ・ ・ ・

グループ1を実施して実効再生産率が1を下回ったとしよう。 その場合、グループ2以降を追加実施すると経済への悪影響が大きくなる恐れがある。 グループ1とグループ2の差が大きい場合は、グループ2を追加実施することで対策日数を縮めることができたとしても、それ以上に、単位日数あたりの経済への悪影響が増えれば、経済への悪影響の合計は返って大きくなってしまう。 言い換えると、そうなるようにグループ分けをすれば、グループ1だけで実効再生産率が1を下回った場合は、グループ2以降を追加実施しない方が経済へのダメージは少ない。 既に計算した通り、実効再生産率が1を下回る限りは感染者数への影響は追加実施してもしなくても同じなので、追加実施を回避しても何ら問題はない。 一方で、同じグループ内の対策については、一部だけ実施を回避すれば、先ほど計算した通り、経済への悪影響の合計が大きくなってしまう。 以上を踏まえると、次のやり方がベストの対策であろう。

  • グループ単位で優先順位の高い順(グループ番号の小さい順)に対策を実施して、それで実効再生産率が1を下回れば追加対策を実施しない
  • 実効再生産率が1を下回らない場合は、次の順位のグループの対策を実施する
  • 感染者数が目標数を下回った場合は、即座にグループ0以外の対策を解除する

総合案内

科学一般

疑似科学等

医学

地震

電子工学

相対性理論

量子力学

基本

標準理論

解釈等

実験・思考実験

外部リンク