新型コロナは政府対応で抑制できる

簡潔な説明 

論文 

Stringency of the measures settled to fight pandemia, including lockdown, did not appear to be linked with death rate.

ロックダウンを含む、パンデミックと戦うための措置の厳格さは、死亡率と関連しているようには見えない。

Covid-19 Mortality: A Matter of Vulnerability Among Nations Facing Limited Margins of Adaptation - Frontiers Media

Frontiers Mediaはpredatory publishing (捕食出版)だと指摘されることもある雑誌であることも踏まえて割り引いて読んでもらいたい。 この研究の元になったGovernment Response Stringency (政府対応の厳格さ)はCORONAVIRUS GOVERNMENT RESPONSE TRACKER - UNIVERSITY OF OXFORDから引用している。

Government Responseと感染、死亡との関連 

確かに、Government Response Stringencyの最大値や平均値と累積感染や累積死亡の相関は弱いか全くないかのように見える。

累積感染(7月13日現在) 累積死亡(7月13日現在)
Government Response Stringency 最大(6月30日まで)-0.154-0.124
Government Response Stringency 平均(6月30日まで)-0.024-0.041

そこで、各国のGovernment Response Stringencyと概算実行再生産数の時系列の相関係数をとってみた。 ただし、相関前にGovernment Response Stringencyには、60日周期をカットオフとした低域通過61段FIRフィルタを適用した。 実行再生産数概算値は、30日周期をカットオフとした低域通過31段FIRフィルタを通した新規陽性者数から求めた実行再生産数概算値の7日間の幾何平均とした。

低域通過31段FIRフィルタ(30日周期、ハミング窓) 低域通過61段FIRフィルタ(60日周期、ハミング窓)

尚、出典元のデータは累積感染者数であるが、新規感染者数(前日との累積感染者数の差)がマイナスになる場合は強制的に0人としている。

政府対応の厳格さと概算実行再生産数

CORONAVIRUS GOVERNMENT RESPONSE TRACKER - UNIVERSITY OF OXFORD 人口あたりの新型コロナウイルス感染者数の推移【国別】 - 札幌医科大学

結果、全85ヶ国中、6ヶ国のみが正の相関となったが、他は全て負の相関となった。 全体的にかなり良い負の相関となっている。 つまり、政府介入と感染抑制は非常によく相関しており、政府介入が感染抑制に効果をもたらしていることが示唆される。

ただし、Government Response Stringency≧20を達成した日の概算実行再生産数が計算できない国は除いてある。 というのも、Government Response Stringencyの小さな変化との概算実行再生産数の相関はあまり良くないと予想されるため、Government Response Stringencyが大きく変化した時のデータを使わないと誤差が大きくなると考えられるからである。 事実、それらを除外しないと相関係数がプラスになる国が続出する(ただし、平均はマイナス)。

各国の時系列ではGovernment Response Stringencyが感染抑制に効果を発揮しているのに、Government Response Stringencyと累積感染や累積死亡の相関は弱いか全くないかのように見えるのは何故か。 実は、理論的には、感染抑制の程度はGovernment Response Stringencyの値ではなく、実行再生産数を1未満に押さえ込む時期によって決まるのである。

対策時感染者推移

例えば、次の仮定を置く。

  • 新規感染者数がK1以上になったら対策開始
  • 新規感染者数がK2(<K1)以下になったら対策解除
  • 対策解除時の実行再生産数はRt1(>1)で一定
  • 対策実施時の実行再生産数はRt2(<1)で一定

この場合、全期間のうち対策を実施している期間の割合はlogRt1/Rt2Rt1で表せる。 これはK1やK2には全く依存せず、Rt1とRt2のみによって決まる。 つまり、対策の強度が同じ場合は、対策開始が早いか遅いかに係らず、対策が必要な期間は変化しない。 一方で、K1やK2が小さいほど、1日平均の感染者数は少なくなる。 K1が小さいことは、対策開始が早いことを意味する。 よって、対策開始が早いほど1日平均の感染者数は少なくなる。 そして、K1やK2の倍数がそのまま、感染者数の倍数になる。

グラフに描いてみると分かりやすいだろう。

対策開始時期による感染推移の差

減少している期間が対策期間である。 赤線は青線に比べて、1回あたりの対策期間は倍だが、その回数は半分である。 結果、対策の強度が同じ場合は、対策開始が早いか遅いかに係らず、対策が必要な期間の比率は変化しない。 一方で、累積感染者数は線下側の面積であるので、両者に大きな差が出ていることは見て明らかである。

対策強度による感染推移の差

これも減少している期間が対策期間である。 青線の対策期間は全期間の半分であり、赤線の対策期間は全期間の4分の3である。 よって、対策の早さが変わらない場合、対策の強度で対策期間が変わる。 一方で、累積感染者数は線下側の面積である。 赤線の対策期間は青線の対策期間を横に3倍に拡大した形になっている。 よって、赤線の対策期間の面積は青線の対策期間の面積の3倍である。 対策期間が3倍で、かつ、面積も3倍なら、期間あたりの面積は等しい。 よって、赤線と青線の累積感染者数は等しい。

ただし、以上のことは次の条件でのみ成り立つ。

  • 対策実施時の実効再生産数は一定
  • 対策解除時の実効再生産数も一定
  • 対策実施時の実効再生産数は1未満

たとえば、対策実施時の実効再生産数が1以上である場合は、当然、これが1未満である場合より累積感染者数が増える。 そして、対策実施時の実効再生産数が1以上である場合は、当然、新規感染者がいつまで経っても減らないから、対策を解除できない。

接触削減率と対策期間比率の積が経済への悪影響と相関すると仮定して、接触削減率と経済への悪影響の関係をグラフを描く。 尚、実効再生産数が1を下回らない場合は、何時までたっても対策が解除できないから、対策期間比率は100%である。 実効再生産数が1を下回る場合は、先ほどのlogRt1/Rt2Rt1で対策期間比率を計算できる。

接触削減率と経済への影響

このグラフから以下のことが読み取れる。

  • 実効再生産数が1を下回らない場合は、対策を強化するほど経済が悪化する
  • 実効再生産数が1を下回る場合は、対策を強化した方が早く対策を解除できるので、経済への悪影響が小さい

そのことから次のことが予測できる。

  • 中途半端な対策で実効再生産数が1を上回る期間が長く続いた場合は、対策が強いほど経済が悪化する
  • しっかりした対策で即座に実効再生産数を1未満にした場合は、対策が強いほど経済への悪影響が小さい

また、日本の経済損失は緊急事態宣言のせいか?にて説明している通り、死者数と経済損失には次のような相関がある。

人口あたり死者数とGDP変化率

人口あたりの新型コロナウイルス感染者数の推移【国別】 - 札幌医科大学 Quarterly GDP - OECD

以上のことから、次のことがわかる。

  • 対策の早さの影響
    • 対策が早いほど感染・死亡は少ない
    • 対策の早さは経済に影響を及ぼさない
  • 対策強度の影響
    • 実効再生産数を1未満にできる場合
      • 対策強度は感染・死亡には影響しない
      • 対策強度が強いほど経済損失は小さい
    • 実効再生産数を1未満にできない場合
      • 対策強度が強いほど感染・死亡は少ない
      • 対策強度が強いほど経済損失が大きい
  • 死亡数の影響
    • 死亡数が少ないほど経済損失は小さい

以上の通り、感染・死亡の抑制と経済損失の抑制は全く競合しない。 よって、最も感染・死亡を抑制する施策と最も経済損失を抑制する施策は完全に両立できる。 感染・死亡抑制のためには早く対策し、経済損失抑制のためには強く対策することが最善策である。

以上を裏付けるために、Government Response Stringencyが一定値(ここでは40)を達成した時の感染者数をGovernment Responseの遅さと見做して、以下、累積感染者数や累積死亡者数との相関をとった。 感染から報告までの平均を14日とし、14日後に報告された値をその日の感染者数と見做している。 また、第2波も含めると分析が非常に難しくなるので、第1波のみを抽出するために6月30日までの分析とした。 さらに、各国の3月以前は新規数から計算した概算実行再生産数が極端に大きくなることがあり、通常の蔓延状態に至っていない可能性があると思われるので、3月1日以降の分析とした。

政府介入時期(累積ベース)と感染・死亡 政府介入時期(新規ベース)と感染・死亡

CORONAVIRUS GOVERNMENT RESPONSE TRACKER - UNIVERSITY OF OXFORD 人口あたりの新型コロナウイルス感染者数の推移【国別】 - 札幌医科大学

累積感染(7月13日現在) 累積死亡(7月13日現在)
累積感染(Government Response Stringency≧40到達時)0.3890.590
新規感染(Government Response Stringency≧40到達時)0.4360.645

以上から、政府介入が遅いほど、累積感染者数や累積死亡者数も増えることがわかる。 また、Government Responseの遅さとGovernment Response Stringencyの相関をとると意外な結果がわかった。

Government Response Stringency 最大 Government Response Stringency 平均
累積感染(Government Response Stringency≧40到達時)-0.242-0.226
新規感染(Government Response Stringency≧40到達時)-0.233-0.212

相関性は高くないが、Government Responseが遅いほどGovernment Response Stringencyも小さくなる傾向がある。 これは、各国の対策への積極性が、Government Responseの早さとGovernment Response Stringencyの大きさの双方に影響しているからと思われる。

尚、ここで言う対策の早さは国内蔓延時期に対する相対的な早さであって、絶対的な日にちの早さではない。 絶対的には対策が遅くとも、それ以上に国内蔓延時期の到来が遅ければ、相対的には対策が早いことになる。

各国の対策の相対的早さヒストグラム 各国の感染状況別ヒストグラム

CORONAVIRUS GOVERNMENT RESPONSE TRACKER - UNIVERSITY OF OXFORD 人口あたりの新型コロナウイルス感染者数の推移【国別】 - 札幌医科大学

日本は2020年3月2日にGovernment Response Stringencyが40に達しており、対策が遅いグループ(3月8日〜3月24日)より6〜22日早い。 実効再生産数を2.5とすると、その日数差だけで3.00〜56.35倍の新規感染者数が変わる(常用対数で0.48〜1.75の差)。 一方で、その日の日本の100万人あたり新規感染者数は0.1344(常用対数で-0.87)であり、感染が多いグループ(0.59〜2.39)と常用対数で1.42〜3.22の差がついている。 これは単純に日数差だけでは説明がつかず、ウィルスの流入時期の差によるものと思われる。

Government ResponseとBCG政策の関係 

新型コロナとBCGにて説明する。

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