マスクによる新型コロナ感染拡大防止効果

科学的根拠 

Methods

方法

We did a systematic review and meta-analysis to investigate the optimum distance for avoiding person-to-person virus transmission and to assess the use of face masks and eye protection to prevent transmission of viruses. We obtained data for SARS-CoV-2 and the betacoronaviruses that cause severe acute respiratory syndrome, and Middle East respiratory syndrome from 21 standard WHO-specific and COVID-19-specific sources.

人から人へのウイルス感染を回避するための最適な距離を検討し、ウイルスの感染を防ぐためのフェイスマスクと眼の保護具の使用を評価するために、系統的レビューとメタ分析を行った。 21の標準的なWHO固有およびCOVID-19固有のソースから、重症急性呼吸器症候群および中東呼吸器症候群を引き起こすSARS-CoV-2とベータコロナウイルスのデータを取得した。


Findings

調査結果

Our search identified 172 observational studies across 16 countries and six continents, with no randomised controlled trials and 44 relevant comparative studies in health-care and non-health-care settings (n=25 697 patients). Transmission of viruses was lower with physical distancing of 1 m or more, compared with a distance of less than 1 m (n=10 736, pooled adjusted odds ratio [aOR] 0·18, 95% CI 0·09 to 0·38; risk difference [RD] −10·2%, 95% CI −11·5 to −7·5; moderate certainty); protection was increased as distance was lengthened (change in relative risk [RR] 2·02 per m; p{#sub interaction}=0·041; moderate certainty). Face mask use could result in a large reduction in risk of infection (n=2647; aOR 0·15, 95% CI 0·07 to 0·34, RD −14·3%, −15·9 to −10·7; low certainty), with stronger associations with N95 or similar respirators compared with disposable surgical masks or similar (eg, reusable 12–16-layer cotton masks; p{#sub interaction}=0·090; posterior probability >95%, low certainty). Eye protection also was associated with less infection (n=3713; aOR 0·22, 95% CI 0·12 to 0·39, RD −10·6%, 95% CI −12·5 to −7·7; low certainty).

我々の検索では、16か国と6大陸で172の観察研究が特定され、ランダム化比較試験はなく、医療と非医療の設定で44の関連する比較研究が行われた(n = 25,697患者)。 ウイルスの伝播は、1m未満の距離と比較して、1m以上の物理的距離で低かった(n=10,736, プールされた調整オッズ比[aOR] 0.18, 95% CI 0.09 to 0.38; リスク差[RD] −10·2%, 95% CI −11·5 to −7·5; 中程度の確実性);距離が長くなるにつれて保護が強化された(相対リスクの変化[RR] 2.02/m;p交互作用=0.041;中程度の確実性)。 フェイスマスクを使用すると、感染のリスクが大幅に減少する可能性がある(n=2647; aOR 0.15, 95% CI 0.07 to 0.34, RD −14·3%, −15.9 to −10.7; 低い確実性)、使い捨てサージカルマスクなどと比較してN95などとの関連がより強い(例、再利用可能な12–16層の綿マスク;p交互作用= 0.090;事後確率> 95%、低い確実性)。 眼の保護も感染の減少と関連していた(n=3713; aOR 0.22, 95% CI 0.12 to 0.39, RD −10.6%, 95% CI −12.5 to −7.7; 低い確実性)。

Physical distancing, face masks, and eye protection to prevent person-to-person transmission of SARS-CoV-2 and COVID-19: a systematic review and meta-analysis - PMC

そうでなくても、次のことは疑う余地がほぼない。

  • マスクはウィルスの暴露量を減らす効果がある
  • ウィルスの暴露量が減れば感染確率は低下する

マスクに期待される最大の効果は、他人への二次感染を防止する効果である。 富岳等によるコンピュータシミュレーション等により、ウィルスを含む飛沫の飛散距離はマスクによって大きく低減される。 これにより、離れた場所にいる他人へのウィルスの暴露量を減らす効果が期待できる。 また、マスクでウイルス拡散抑え吸い込み減らす効果 東京大など確認 - NHKによれば、向かい合わせにおけるウィルス吸込量についても測定されている。

種類 吸込量
吐出側のみ着用(布マスク)70%以上減少
吐出側のみ着用(サージカルマスク)70%以上減少
吸込側のみ着用(布マスク)17%減少
吸込側のみ着用(サージカルマスク)47%減少
吸込側のみ着用(N95マスク)79%減少

ウィルスの暴露量が減れば感染確率は低下することについて異論を唱える人はいないだろう。 ウィルス1個でも10個でも100個でも1万個でも1億個でも1兆個でも感染確率は変わらないなどと馬鹿なことを言う人はいない。 よって、ウィルスの暴露量を減らす効果があるマスクを使うことで、他人への再感染を防止する効果があることは疑う余地はない。

Surgical Mask Partition Reduces the Risk of Noncontact Transmission in a Golden Syrian Hamster Model for Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) - OXFORD ACADEMICではハムスターを使った検証実験が行われている。 新型コロナに感染したハムスターを入れたケージ(飼育籠)とコロナに感染していないハムスターを入れたケージを少し離して置き、感染側から未感染側に送風機で送風する。 その際、2つのゲージの間にマスクと同物質のフィルターを置くか置かないかで、未感染側のハムスターの新型コロナ感染確率が大きく変わる。 とくに、感染したハムスターを入れたケージの出口側にフィルターを設置すると感染確率が大きく低下する。 コロナに感染していないハムスターを入れたゲージの入り口側にフィルターを設置すると感染確率がそこそこ低下する。 前者のフィルターを感染者がするマスクに見立て、後者のフィルタを未感染者がするマスクに見立てているのである。 現実の状況とは大きく違うものの参考程度にはなるだろう。

WHOのガイドライン 

新型コロナウイルス(COVID-19)に関わるマスク使用に関するアドバイス 暫定ガイダンス 2020年6月5日 改訂版 - WHOによれば、様々な科学的根拠を評価した結果として、「地域感染が知られている、または疑われている地域で、一般市民に医療用マスクと非医療用マスクの使用を奨励すべき場所の例」が示されている。

状況/環境 集団 マスクの使用目的 地域で推奨される場合のマスクの種類
広範な感染が知られているか、または疑われている地域で、物理的な距離、接触の追跡、適切な検査、隔離、疑われる症例および確認された症例のケアなど、他の封じ込め対策を実施する能力が限られているか、またはない地域密閉された環境(食料品店、職場、社交場、大衆集会、学校、教会、モスクなどを含む公共の場)での一般的な集団ソースコントロールできる可能性がある非医療用マスク
人口密度が高く、物理的な距離をとることができない環境、監視や検査能力、隔離および検疫施設が制限されている環境窮屈な状況で生活している人々、難民キャンプ、キャンプのような設定、スラムなどの特定の環境にある集団ソースコントロールできる可能性がある非医療用マスク
物理的な距離が取れない環境(密接)交通機関に乗っている一般市民(バス、飛行機、電車など)
従業員が他の人と密に接触する、または接触する可能性のある特定の労働条件(ソーシャルワーカー、レジ係、サーバーなど)
ソースコントロールできる可能性がある非医療用マスク
物理的な距離をとることができず、感染のリスクが高くなる、または悪影響を及ぼす可能性がある環境脆弱な集団
  • 60歳以上の人
  • 併存疾患のある人
    心血管疾患や糖尿病、慢性肺疾患、がん、脳血管疾患、免疫不全など
予防医療用マスク
地域におけるあらゆる環境COVID−19が疑われる症状がある人ソースコントロール医療用マスク

否定論の間違い 

「科学的根拠がない」 

新型コロナを軽視したがる人たちに限らず、トンデモ論者には、持論の根拠は過小提示し、反論の根拠を過剰要求する傾向がある。 マスクの新型コロナ予防効果には、肯定的根拠は十分にある一方で、否定的根拠は全く足りていない。

確かに、次のようなものは科学的に十分な根拠とは言えない。

  • 不確定要因が大きい間接的な証拠
  • 交絡要因が大きい直接的な証拠

例えば、医学においては、細胞培養実験や動物実験の結果は、不確定要因が大きい間接的な証拠である。 そして、細胞培養実験や動物実験が良好な物質のうち、実際の人間の患者に効果を示す物質はごく一握りにすぎない。 そうなる原因は、不確定要因が大きいからである。 例えば、細胞培養実験の結果が実際の人間の患者に当てはまるかどうかには次のような不確定要因がある。

  • 当該物質が体内で化学変化を起こさずに患部に到達するかどうか
  • 当該物質が患部に到達する量が効果を発揮するのに十分な量であるかどうか

培養したがん細胞に塩を振りかけると死滅する。 しかし、体内のがん細胞を死滅させるのに必要な塩の血中濃度を確保すると、人間にとっての致死量を超えてしまう。 がん細胞にだけ選択的に塩を送り届けることができれば治療に使えるかもしれないが、それは現代の技術では不可能である。 塩と同様、細胞培養実験では、大抵の物質にがん細胞を死滅させる作用が認められる。 しかし、それが実際の人間の患者に有効かどうかは全く別である。

一方で、動物実験の結果が実際の人間の患者に当てはまるかどうかには次のような不確定要因がある。

  • 実験動物と人間では体の作りが違うので同じ効果を示すとは限らない
  • 人体に換算した投与量が実際の人間の患者に使用する量より遥かに大きいことが多い

こうした不確定要素があるから、細胞培養実験や動物実験は科学的に十分な根拠とは言えない。 しかし、マスクの新型コロナ予防効果には、倫理的に直接的証拠の提示が困難であるが故に直接的証拠こそないが、不確定要因がほぼない間接的な証拠がある。

  • マスクはウィルスの暴露量を減らす効果がある
  • ウィルスの暴露量が減れば感染確率は低下する

これらには科学的根拠が十分にあり、かつ、これ以外に結果を大きく作用する不確定要因がないため、マスクの新型コロナ予防効果は科学的根拠が十分と言って差し支えない。 それに対して、マスクの新型コロナ予防効果を否定する科学的根拠はない。

「マスクの効果を否定する研究結果」 

これは宮川絢子氏が拡散したデマであるが、この研究はマスクの効果を全く否定していない。

A total of 3030 participants were randomly assigned to the recommendation to wear masks, and 2994 were assigned to control; 4862 completed the study. Infection with SARS-CoV-2 occurred in 42 participants recommended masks (1.8%) and 53 control participants (2.1%). The between-group difference was −0.3 percentage point (95% CI, −1.2 to 0.4 percentage point; P = 0.38) (odds ratio, 0.82 [CI, 0.54 to 1.23]; P = 0.33).

合計3030人の参加者がランダムにマスク着用の推奨群に割り当てられ、2994人が対称群に割り当てられ、4862が調査を完了した。 SARS-CoV-2の感染は、42人のマスク推奨群(1.8%)と53人の対照群(2.1%)で発生した。 群間の差は-0.3%ポイント(95%CI、-1.2〜0.4パーセントポイント; P = 0.38)(オッズ比、0.82 [CI、0.54〜1.23]; P = 0.33)であった。

Effectiveness of Adding a Mask Recommendation to Other Public Health Measures to Prevent SARS-CoV-2 Infection in Danish Mask Wearers - Annals of Internal Medicine

この結果の解釈には注意が必要である。

  • マスクに期待される最大の効果である他人への再感染を防止する効果を測定していない
  • 自分への感染を予防する効果についても有意差が出にくいデザインを採用している
  • 有意差には至っていないものの自分への感染を予防する効果を示唆している

とくに、マスクに期待される最大の効果である他人への再感染を防止する効果を測定していない点には注意されたい。 尚、単純計算で、マスク単独で感染確率を約14%下げている。 ただし、95%信頼区間では46%減〜12%増となる。

At baseline and in weekly follow-up e-mails, participants in both groups were encouraged to follow current COVID-19 recommendations from the Danish authorities.

ベースライン時および毎週のフォローアップ電子メールで、両群の参加者は、デンマーク当局からの現在のCOVID-19勧告に従うように奨励された。

Effectiveness of Adding a Mask Recommendation to Other Public Health Measures to Prevent SARS-CoV-2 Infection in Danish Mask Wearers - Annals of Internal Medicine

「デンマーク当局からの現在のCOVID-19勧告に従」う条件であれば、有意差が出にくいのも当然である。 というのも、ある対策の効果が他の対策で低減されることは当たり前だからである。

  • 対策Aで50%低減
  • 対策Bで50%低減
  • 対策Cで50%低減

3つの対策が完全に独立した別個のものであれば、3つの対策を同時に実施することでリスクを87.5%低減できる。 対策Aと対策Bを実施している場合、追加の対策Cを行うことで12.5%の低減効果がある。 つまり、既に別の対策をしている場合、新規の対策は単独で行う場合に比べてリスク低減効果が低下する。

この研究においても、両群とも「デンマーク当局からの現在のCOVID-19勧告」により感染確率が低減されている。 それ故に、両群の差が生じにくくなって、結果、有意差が出にくい。 この論文は、そうした当たり前のことを証明したに過ぎない。

もちろん、このことは追加対策を実施しなくて良い根拠にはならない。 追加対策の必要性は、感染状況と実行再生産数を考慮する必要がある。 感染が下火になっているなら、実行再生産数が1を下回れば、それ以上の追加対策は必要ない。 逆に感染が拡大している状況なら、実行再生産数が1を下回っていても少しでも下げた方が望ましいので、追加対策をした方が望ましい。

Based on the lowest adherence reported in the mask group during follow-up, 46% of participants wore the mask as recommended, 47% predominantly as recommended, and 7% not as recommended.

追跡期間中にマスク群で報告された最低遵守度によると、参加者の46%が推奨どおりにマスクを着用し、47%が主に推奨どおりにマスクを着用し、7%が推奨されていないマスクを着用した。

Effectiveness of Adding a Mask Recommendation to Other Public Health Measures to Prevent SARS-CoV-2 Infection in Danish Mask Wearers - Annals of Internal Medicine

「7% not as recommended」を除いた分析で結果に大差がないことは記載されているが、「46% of participants wore the mask as recommended」だけの結果は記載されていない。 よって、完全な推奨通りでないことが結果にどう影響を与えたかは不明である。

以上まとめると、この研究でマスクの効果を論じることは不可能である。 宮川絢子氏は「特定の状況で選択的に使うことに利点はあると考えるが、大衆に関してマスクを一律にすることは推奨しない」とするテグネル氏の見解が裏付けられたと主張しているようだが、この研究からそうした結論を導くことは不可能である。 まず、マスクに期待される最大の効果である他人への再感染を防止する効果については、この研究結果では何も語れない。 もちろん、マスクが自分への感染を防ぐ効果も、この研究結果では否定できない。 言えることは、マスク以外の対策の効果も高そうであることと、それによってマスクの効果が低下するという当たり前の可能性だけである。

「繊維の隙間はウィルスより遥かに大きい」 

確かに、繊維の隙間はウィルスより遥かに大きい。 だから、マスクでウィルスを100%阻止することは不可能である。 しかし、感染防止効果を期待する上でウィルスを100%阻止することは必須ではない。 完全に開けた空間ではない以上、ある程度のウィルスを阻止することは可能である。 とくに、唾液等のウィルスを含む飛沫なら、ウィルスそのものよりは阻止しやすい。 静電気による吸着効果も期待できる。 結果、感染確率を一定程度下げる程度にウィルス量を減らすことができれば一定の感染防止効果が発生する。 よって、繊維の隙間がウィルスより大きいことは、マスクの感染防止効果を否定しない。

「マスクの逆効果」 

マスクの表面に触ってウィルスが手に付着すれば、ウィルスを体内に取り込んで返って感染しやすくなる、という人がいる。 しかし、その人は、ウィルスが生物の細胞内でしか増殖しないことを知らないのではないか。 再取り込み量が阻止量を超えないなら、最悪でもプラスマイナスゼロにしかなり得ない。 よって、逆効果になることはあり得ない。 ただし、何日も使用していたマスクを触った場合は、数日分のウィルスを一気に取り込むことで感染しやすくなることはあるかもしれない。 しかし、毎日取り替えていれば、そのようなことも起こり得ない。


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