PCR検査を拡大すべきか

はじめに 

以下も参考に

特異度 

世界の趨勢だけでなく、国内を見てもそのようなことは生じておらず、PCR検査の本質的誤りによる擬陽性は、最近迅速検査による一件が報告されただけです。 幸い、医師が自動判定による検査結果に疑問を抱き、再判定の結果、陽性判定は撤回されました。 医師の診察、所見はこのようにたいへんに重要です。 臨床がすべての基本なのです。 7月17日現在の本邦での総検査数(一部抗体検査含む)は、62万件ですので、擬陽性率は実績で2ppm(1ppmは、百万分の一)未満となります。 これにより簡単に検出できるヒューマンエラーによる装置操作失敗が原因のものを擬陽性に含めても実績でせいぜい十万分の一の桁未満となりますから、実績での特異度は、99.999+%となります。

この数値は、世界の実績ともだいたいあっています。 むしろ自動化率が著しく低く、報じられている映像からは20年は世界に遅れている本邦のPCR検査態勢でこれだけの数値がでたことはたいへんに賞賛すべきことです。

現実と数字を見れば一目瞭然。PCR検査特異度が99.9999%と99%でも「議論が変わらない」のデタラメさ - HARBOR BUSINESS Online

特異度が99.999%あれば、日本人全員を検査したとしても、偽陽性は1000人くらいで済む。 であれば、全数検査でもしなければ、それほど騒ぐような数値ではなかろう。 ただし、医師が「自動判定による検査結果に疑問を抱」かなかった隠れた偽陽性の可能性を考慮する必要がある。

感度 

PCR検査は、検査対象の遺伝子であるDNA(コロナウィルスの場合はRNA)が存在するか否かの絶対評価です。 相対評価ではありません。 ここ凄く大切です。 チョー大切です。

従って対象となるウィルス等が検体採取時にその場所に存在するか否かが感度を定めます。 そしてウィルス等は、検体を採取する場所にいつも都合良くいるわけではありません。 筆者のように医学研究者でない学者にとってこの感度についての現実の値を知ることは、このジャパンオリジナル・エセ医療デマゴギーを論評するためにたいへんに重要です。 このため新型コロナウィルスのPCR検査における感度の実績値を明記した論文が出るのを待つほかありませんでした。そして出てきました。


【抄訳】 ”COVID-19既感染者205人から(の1070検体から)得られた結果では、感度は下記のようになる。

気管支肺胞洗浄検体93%(簡便とは言えず、患者への負担が大きい)

痰72%

鼻腔スワブ63% (よく資料映像となっているものは、もっと奥まで綿棒を突っ込む鼻咽頭スワブ)

咽頭スワブ32%

偽陰性となる原因は、検体採取の感染からの時期が不適切である場合と、技術的な欠陥によるものである。

なぜ日本だけが囚われる「PCR検査抑制デマ」が生まれたのか? その根源に迫るp.3 - HARBOR BUSINESS Online

これは「COVID-19既感染者205人」、すなわち、感染していることが明らかな人を対象にした平均値である。 どのようにして感染を判定したかと言えば、当然、PCR検査であろう。 であれば、これは既にPCR検査に反応した実績のある人を対象にした平均値である。 PCR検査に反応した実績のない集団であれば、感染しながらも体内でウィルスが十分に増殖していない人等を含むので、感度はもっと低い可能性がある。 もしも、検体に含まれるウィルス数が体質等に影響される場合は、感度はもっと低くなる。 また、重症者、軽症者、無症状で同じ感度になることは保証されない。

さて、確かに検体採取の制限から、SARS-CoV-2におけるPCR検査の感度は、痰で70%強、鼻腔スワブ液で60%強と高感度というわけではありません。 鼻咽頭スワブ液は、痰に近い感度を持つようですが、保守的に65%強程度と想定します。 唾も同様に65%程度と想定します。


さて、保守的に見積もって痰70%、鼻咽頭スワブ液65%、唾を60%の感度として実際の合成感度を試算します。 現実には、それぞれの検体のPCRでの感度はもっと高いという話ですが、ここでは敢えて保守的にゆきます。 計算は簡単、失敗確率の積を1から引けば良いのです。 なお、実際には学習と経験、純粋な独立試行ではない事から、もっと良い値になると考えられます。

なぜ日本だけが囚われる「PCR検査抑制デマ」が生まれたのか? その根源に迫るp.4 - HARBOR BUSINESS Online

確かに、別々の部位の検体の検査結果が負の相関となる場合、すなわち、次のような場合は、確かに、「失敗確率の積を1から引」いた値より「もっと良い値になると考えられ」る。

  • ある部位からの検体で偽陰性の場合、別の部位の検体の感度が高くなる
  • ある部位からの検体で陽性の場合、別の部位の検体の感度が低くなる

しかし、逆に、別々の部位の検体の検査結果が正の相関となる場合、すなわち、次のような場合は、確かに、「失敗確率の積を1から引」いた値より悪い値になると考えられる。

  • ある部位からの検体で偽陰性の場合、別の部位の検体の感度も低くなる
  • ある部位からの検体で陽性の場合、別の部位の検体の感度も高くなる

先ほどの文献には「偽陰性となる原因」が2種類挙げられていたが、それぞれの原因別に相関性を検討する。

  • 「検体採取の感染からの時期が不適切である場合」
    • ウィルスが体内で十分に増殖していない→正の相関
    • ウィルスが既に他の部位に移っている→負の相関
  • 「技術的な欠陥によるもの」
    • 標準より技術力が高いか、または、低い人が双方の検体を採取する場合→正の相関
    • 標準的な技術力を持つ人か、または、別の人が検体を採取する場合→相関なし

これについてはJAMA. 2020;323(22):2249-2251. doi:10.1001/jama.2020.8259 - 米国医師会雑誌に参考となる情報がある。

検査の感度

抗体検査・抗原検査・PCR検査 どう使い分ける? - YAHOO!JAPANニュース

鼻咽頭PCRの3週間後以降の検出率が下がることと、便PCRが全体的に1週間弱ほど後ろにずれている点を除けば、PCRの検出カーブはよく似ており、負の相関はあまり強くなさそうである。 一方で、PCRは発症後1〜2週間が最も検出されやすいことから、発症前の患者については、正の相関が強そうに見える。 よって、複数検体の感度は「失敗確率の積を1から引」いた値より高いか低いかは一概には言えない。 発症前に限れば、検出率が低く、かつ、正の相関が強いことから、複数検体の検査でも感度はかなり低いと予想される。

このように適切な検体採取を行えば、90%を超える感度を持つことになりますし、実際そのように運用されています。

なぜ日本だけが囚われる「PCR検査抑制デマ」が生まれたのか? その根源に迫るp.4 - HARBOR BUSINESS Online

複数検体の感度は「失敗確率の積を1から引」いた値より高いか低いかは一概には言えないのだから、「90%を超える感度を持つ」とも断言できない。

とくに発症している人についてはPCR検査陰性の場合であっても経過観察の上で再度検体採取を行い、再検査を行えば、最低でも2検査4検体となり、感度は99%を超えます。 これは医療検査の中では極めて高感度の部類になります。 実際にCOVID-19発症者が、一回目のPCR検査では陰性で、医師の判断で経過観察の上で二回目の検査をしたところ陽性となった臨床例は論文等で報告されているとのことで、海外と同じくまともな運用を行えば、PCR検査の感度は100%に近いと考えて良いです。

なぜ日本だけが囚われる「PCR検査抑制デマ」が生まれたのか? その根源に迫るp.4 - HARBOR BUSINESS Online

複数検体の感度は「失敗確率の積を1から引」いた値より高いか低いかは一概には言えないのだから、「再検査を行えば、最低でも2検査4検体となり、感度は99%を超え」るとは断言できない。 「一回目のPCR検査では陰性で、医師の判断で経過観察の上で二回目の検査をしたところ陽性となった臨床例」は、感度が向上する可能性を示唆しているが、この事例をもって具体的に何%になるかは推定できない。

但し未症状感染者が偽陰性となった場合は、発症しない限り見逃される可能性があります。 これも「PCR検査結果の陰性は、必ずしも非感染を証明するものではない、発症したら直ちに再検査を受ける」という基本中の基本を被検査者に明らかにすることと、 感染者との接触履歴のある検査陰性者は、接触日からの14日間の自己隔離を徹底するという海外では当たり前に行われていることを併用すれば、スプレッダを野放しにする可能性は十分に抑制されます。

なぜ日本だけが囚われる「PCR検査抑制デマ」が生まれたのか? その根源に迫るp.4 - HARBOR BUSINESS Online

「感染者との接触履歴のある検査陰性者」に対しては、その人個人に対して「接触日からの14日間の自己隔離を徹底する」ことで、感染の疑いがあることを直接伝えることができる。 問題は「感染者との接触履歴」のない偽陰性者である。 「PCR検査結果の陰性は、必ずしも非感染を証明するものではない」ことを周知徹底しても、勘違いする人は必ず現れる。

例えば、特定の市町村のみであれば、その市町村の住民にのみ、十分な説明の上、偽陰性であっても「自己隔離を徹底する」よう要請することは可能かもしれない。 しかし、それは、その地域で爆発的に感染が拡大していて、徹底的な対策が必要というコンセンサスがあって初めて成立するやり方である。 爆発的に感染が拡大していない地域を含めた国全域に同じことをするのは困難だろう。

そもそも、感染が拡大した状況では無症状者や軽症者は「自宅や宿泊施設で療養」が原則となっている。 陽性でも陰性でも、どちらにしろ自宅療養を求めるなら、感染者を隔離する意味での検査をする必要がない。 検査の意味があるとすれば、対象の集団の陽性率から感染している可能性の高さを判断することであろう。 感染している可能性が高い集団の陰性者には、偽陰性の可能性が高いことを説明することで、自宅療養の同意が得やすくなる。

言い換えると、最初から感染している可能性の低いことが分かっている集団に検査を行う意味はない。

諸外国の実情 

論より証拠、日本と合衆国といったコロナ大失敗国を除く多くの国々は、それによって大規模な第一次第二波パンデミックを起こしていません。 豪州のように局地的に発生しても直ちに制圧を開始しています。 中国やドイツなど、大規模な第二波のSurgeを起こしたと報じられた国々も徹底した検査と隔離によってわずか数週間で制圧してしまっています。

なぜ日本だけが囚われる「PCR検査抑制デマ」が生まれたのか? その根源に迫るp.4 - HARBOR BUSINESS Online

大規模検査=全数検査ではないことに注意が必要である。 たとえば、例として挙げられているニューヨーク州の事例では、「人口1900万人」に対して「6万人〜7万人/日」であるから、1ヶ月の検査者数は全人口の1割程度となる。 武漢市では全数検査を実施したようだが、中国の全地域で全数検査を実施したわけではない。

成功例に倣うのは適切な態度であろう。 しかし、本当に検査を増やすことで感染を抑制できているのだろうか。 もしも、検査を増やすことで感染を抑制できるとすれば、検査数と陽性数のXYプロットは時系列的に次のようになるはずである。

検査増で感染を減らせる時系列イメージ

まず、検査を増やした直後は陽性者数が増えるはずである。 何故なら、陽性者数が増えなければ、検査増による感染者の炙り出しができていないのだから、それを隔離することは不可能だからである。 そして、感染抑制効果があるなら、一定期間経過後、陽性者数が減少に転ずるはずである。 しかし、名古屋市立大学公衆衛生学教授の鈴木貞夫氏によれば、検査数を増やした国では実際にはそのようになっていないとのことである。

イギリスの時系列 ドイツの時系列 アメリカの時系列 日本の時系列

「検査を増やせば新型コロナ感染者を減らせる」は正しいのか? 疫学の専門家に聞きました - BuzzFeedNews

イギリスでは検査増加に伴って陽性者数が増えることがないまま、ある時点で急激に陽性者数が減っている。 よって、陽性者数が減少した原因は検査増加ではなくロックダウン等の対策による効果であると見込まれる。 ドイツでは検査増加に伴って陽性者数がやや増加しつつも、ある所から爆発的に増加した後で、急減に減少に転じている。 これも、検査増加による効果では説明しにくい。 日本やアメリカは「第1波」の段階では辻褄があっているようにも見えるものの、「第2波」の存在が説明できない。

ここで、100万人当たり検査数が1万以上の国の検査と感染の推移を以下に示す。

日付 100万人当たり検査数 全員検査における平均検査間隔
Austria2021/1/1248,48820.6
United Arab Emirates2021/1/1514,70968.0
Luxembourg2021/1/1313,82072.4
Cyprus2021/1/1413,51074.0
Israel2021/1/812,26381.5
Denmark2021/1/1211,51486.9
検査と感染(Austria) 検査と感染(United_Arab_Emirates) 検査と感染(Luxembourg) 検査と感染(Cyprus) 検査と感染(Israel) 検査と感染(Denmark)

Coronavirus (COVID-19) Testing - Our World in Data 人口あたりの新型コロナウイルス感染者数の推移【国別】 - 札幌医科大学

各国とも、感染の増加に伴って検査数が増加している. Luxembourgでは、6月後半から感染と無関係に検査を増やしたと読み取れるが、その後の感染はむしろ増加している。 その他、検査数の増加によって感染を抑制したと言える傾向は見出せない。

数理モデルによる検証 

偽陰性の懸念 

PCR検査慎重派の意見:

1. 本来は陽性でないのに誤って陽性と判断される擬陽性の割合がゼロでなく、間違って隔離すると人権侵害の問題がある。

2. 本来は陽性なのに誤って陰性と診断される偽陰性の割合が、大きい場合には30%程度あり、検査しても見逃してしまう率が高い。

3. 検査で陰性と診断されても、次の日には感染するかもしれず、頻繁に検査が必要になる。

1については、私個人は偽陽性率は極めて低いと考えており、大きな問題ではないと思いますが、それを論じることが本稿の目的ではないので、この問題は他の論文にまかせたいと思います。 2や3については、最近、感度(陽性を正しく陽性と判断する割合)の低さが問題ではなく、検査の頻度を増やし、報告までの時間を短くすることが重要であるという論文がハーバード大学医学部のグループから出されました。 また、別の論文では、大学のキャンパスを再開するためには、実効再生産数(Rt)が2.5ならば注)、2日に一回PCR検査をすれば良く、検査のコストも1回10ドル程度に収まるいう論文が、やはりハーバード大学とエール大学のグループから発表されています。 特に後者の論文では、大学の学生数など具体的な数値を使ってシミュレーションを行っています。 つまり、検査の数と頻度を増やすことで新型コロナの拡大を防止し、通常の生活に戻すことが議論されているのです。

ただ、気になるのは、シミュレーションの結果だけでは、検査の感度が70%以外の場合やRtが異なる場合に、どのくらいの頻度で検査が必要かは分かりません。 シミュレーションをやり直してもらう必要があります。例えば、最近の東京のようにRtが1.2の場合はどのくらいの頻度で検査すればよいのでしょうか? また、大学でなく、東京都の1つの区や東京都全体についてもこの考え方は適用できるのかなど、いろいろな疑問が生じます。

この問いに答えるのが理論です。 もし、任意の感度で任意のRtの場合に必要なPCRの頻度を理論的に表すことができれば有用です。 何よりも、何故そうなるか理由が理解できる可能性があります。 そこで、以下ではシミュレーションに頼らず、この論文と同じ結果が得られることをなるべく簡単に示し、一般の場合に使える関係式を示したいと思います。


一方、PCR検査を拡大した場合、無症状者も含めて陽性の人を発見する率は1日当たりどのくらいになるでしょうか? 例えば、最近、検査を拡大する方針を発表した世田谷区で、仮に定期的に検査を行うことを想定して考えてみましょう。 世田谷区の全住民90万人を1日あたり9万人検査して、10日間かけて検査すると仮定します。 検査の結果、陽性が確認された人をなるべく早く安全な場所に隔離して他の人にうつさないようにします。 しかし、もし検査の感度が70%とすると、無症状の人も含めても実際の感染者の7割しか隔離できません。 しかも、全体の検査に10日かかるため、1日当たりでは7%しか発見できないことがわかります。 その間にも日々感染者は増加します。 これで本当に感染者の増大を防ぐことができるでしょうか? その答えはイエスで, 感染を収束させるための条件は、感染者の増加率よりも発見率の方が大きくなることであり、次の関係になります。

収束条件: 感染者の増加率 < 感染者の発見率

コロナ収束に必要なPCR検査の数と頻度 - 科学者によるCOVID−19まとめサイト

この数理モデルでわかることは、偽陰性者を取りこぼしてでも新たに陽性者を掘り起こせれば、対策の効果が出ることである。 一方で、偽陰性に対する懸念は、偽陰性者が、感染していないとお墨付きをもらったと誤解することで、ウィルスを拡散してしまう危険性である。 つまり、「感染しているかもしれないから人との接触を避けよう」と考えていた人が、陰性判定によって「感染していないとお墨付きをもらったから人との接触を避ける必要はない」と考えて自粛を解除することである。 この懸念については数理モデルには組み込まれていないし、解決策も示されていない。 具体的には、感度が50%未満であれば、新たに掘り起こせる陽性者よりも偽陰性者の方が多いため、隔離効果よりも自粛解除効果の方が上回る可能性がある。 しかし、事前確率(推定罹患率)の高い集団に対する検査であれば感度が50%を超えるかもしれないが、事前確率(推定罹患率)の低い集団に対する検査では感度が50%を下回ることも十分に考えられる。 PCR検査は適切な時期を逸すれば感度が著しく低下するので、感染時期が定かでない集団への検査では必要な感度が維持できない恐れがある。

検査の感度

抗体検査・抗原検査・PCR検査 どう使い分ける? - YAHOO!JAPANニュース

発症者は発症してから検査するので、通常は、発症日からあまり日が経たないうちに検査するので、体内のウィルス量が多い日に検査することが期待できる。 濃厚接触者は濃厚接触が発覚してから検査する。 発症者の濃厚接触者であれば、発症者の発症2日前〜発症者の陽性発覚日の間に接触している。 濃厚接触者は保健所が調査し、調査に要する日数だけ検査が遅れるが、発症前には検査を受けられるものと考えられる。 濃厚接触日からの経過日数が短い場合は、数日隔離した後に検査を受ければ良い。 そのため、濃厚接触者の体内のウィルス量が多い日に検査することが期待できる。 ところが、無差別に検査を行う場合、必ずしも、体内のウィルス量が多い日に検査できるとは限らない。 偶然にも体内のウィルス量が多い日に検査すれば感度が高いが、体内のウィルス量が少ない日に検査すれば感度は低い。 結果、発症者や濃厚接触者の検査と比べて無差別検査の平均感度が大幅に低下すると予想される。 そして、個々の検査対象者の検査間隔が長くなるほど、体内のウィルス量が多い日に検査できる確率が下がるので、平均感度が下がると予想できる。 それは次の図を見てもらうとわかりやすいだろう。

検査間隔と感度

赤矢印のタイミングで検査できれば、かなり高い感度が期待できる。 しかし、同じ検査間隔でも青矢印のタイミングで検査すれば、感度は0に近い。 あらゆるタイミングの平均感度はかなり下がる。 もっと検査間隔が長くなると、橙矢印や緑矢印のようになり、体内のウィルス量が多い日に検査できる確率は下がる。 結果として、平均感度も下がる。 逆に、検査間隔が短くなれば、どのタイミングで検査しようとも比較的高い感度が得られるため、平均感度は高くなる。 この図の赤矢印と青矢印の間隔の場合、ピーク時に100%の感度が得られるなら、平均感度は63.5%となる。 検査間隔を1.5倍にすれば平均感度は43.1%となり、検査間隔を2倍にすれば平均感度は32.6%となる。 このように、感染や発症の時期がわからない人を検査する場合は、検査間隔が平均感度を大きく左右する。 同じ人をきっちり1週間置きに検査するならそれなりの感度にはなるだろうが、それでも「真陽性率(感度)が80%の検査」は困難かもしれない。

濃厚接触者に検査をする場合、感染が疑われる日より前に検査することはあり得ないし、感染が疑われる日から1ヶ月以上経過してから検査することもまずないだろう。 しかし、無差別に検査すれば、感染する可能性がある日より前に検査することも、それより1ヶ月以上経過してから検査することもあり得る。 つまり、こうした感度低下は無差別検査特有の問題である。

こうした無差別検査特有の感度低下はこの数理モデルに組み込まれていないため、事前確率(推定罹患率)の低い集団に対する検査をむやみやたらと増やすべきという結論は導けない。 仮に、事前確率(推定罹患率)の低い集団に対する検査の感度が50%を超えたとしても、事前確率(推定罹患率)が低い集団から炙り出せる感染者はそれほど多くない。

ここで、日本で検査を拡大した場合にどれくらいの感染者を炙り出せるか計算してみる。 About - covid19-projections.comは、各国の真の感染数は陽性者数の5〜15倍であるとの指摘しているので、それを前提にグラフを描く。

追加陽性者が全偽陰性者を上回る閾値 追加陽性者が目標値を上回る閾値

追加検査なしの陽性者数の10%相当を炙り出すには、真の感染数が陽性者数の15倍と仮定しても、100万人弱の追加検査が必要である。 尚、これは追加検査の感度が最小検査の感度と等しい前提での計算である。 ちなみに、厚生労働省の12月26日時点のPCR検査の1日あたりの最大能力は112,953件である。 よって、事前確率(推定罹患率)の低い集団の検査を増やしてもあまり感染抑制効果は見込めないようだ。 感度は経過日数に依存するので、経過日数不明の検査の感度は経過日数が分かっている場合より低下すると考えられる。

ここで、感染から陽性までの日数を無視し、かつ、陽性者は隔離されて翌日以降の二次感染者を生み出さないと仮定して、検査拡大が実効再生産数に与える影響を考える。

N
陽性者÷総感染者数
α
1日当たりの追加検査数(最小検査人数を除く人口比)
K1
最小検査の感度
K2
追加検査の感度
Rt
概算実効再生産数実測値
Rt0
感染者を隔離しない場合の実効再生産数推定値
Rtx
追加検査を行なった場合の実効再生産数推定値(最小検査のみ考慮)
I0
当日の最小検査の陽性者数
I1
翌日の最小検査の陽性者数
I1x
追加検査した場合の翌日の陽性者数
I0h
当日の隠れ感染者数
I0n
当日の隠れ感染者数のうち検査されていない隠れ感染者数
I0+
追加検査した場合の当日の追加捕捉感染者

I0h=I0×(N-1)である。 平均世代時間が5日であれば、Rt=(I1÷I0)5となる。 検査で捕捉できなかった感染者のみが二次感染を生じさせると仮定すれば、I1=[K1×I0h÷N]×Rt01/5=[K1×I0×(N-1)÷N]×Rt01/5となる。 よって、Rt0=[N÷{(K1×(N+1)}]5×R0となる。 検査されていない隠れ感染者数は隠れ感染者数から最小検査の偽陰性者を引いた数となる。 よって、I0n=I0h-I0×(1-K1)=I0×(N-1)-I0×(1-K1)=I0×(N+K1-2)となる。 追加検査した場合の当日の追加捕捉感染者は、検査されていない隠れ感染者数にαとK2を掛けた数となる。 よって、I0+=I0n×α×K2=I0×(N+K1-2)×α×K2となる。 追加検査した場合の翌日の感染者数は、追加検査でも捕捉できなかった当日の感染者にRt01/5を掛けた数となる。 うち、翌日の最小検査の陽性者数は、これにK1分のNを欠けた数となる。 よって、I1x=(K1÷N)×(I0h-I0+))×Rt01/5=I0×{(N-1)-(N+K1-2)×α×K2}÷(N-1)}×Rt1/5 Rtx=(I1x÷I0)5であるので、Rtx=[{(N-1)-(N+K1-2)×α×K2}÷(N-1)}×Rt1/5]^5=[{(N-1)-(N+K1-2)×α×K2}÷(N-1)}]^5×Rtとなる。 ここで、最小検査の感度を90%とすると次のグラフが描ける。

追加検査と実効再生産数

Nが大きく、かつ、追加検査の感度が高ければ、検査拡大により大きく実効再生産数を下げることができる。 しかし、Nが小さい場合や、追加検査の感度が低い場合は、実効再生産数を少ししか低減できない。 尚、追加検査の感度が50%を下回れば追加偽陰性者が追加陽性者数を上回るが、ここでは偽陰性者を野に放つことによる逆効果は考慮していない。

事前確率(推定罹患率)の低い集団に検査を拡大するよりも、事前確率(推定罹患率)の高い集団の取りこぼしを防ぐ方が、感染抑制効果が高いと思われる。 神奈川県内の自宅療養者死亡 データ入力にミス - 産経新聞によれば、発症しながら9日も検査を受けていない人がいた。

日付 経過日数 状況
12月23日0発症(38度台の発熱)
1月1日9医療機関受診
1月3日11陽性判明
1月4日12血中酸素飽和度悪化
1月5日13安否確認応答なし
1月6日14死亡

この人が発症した段階で事前確率(推定罹患率)の高い集団に属することは疑う余地がなかろう。 このような人たちが確実な検査を受けられなければ、大量の取りこぼしが発生する恐れがある。

また、事前確率(推定罹患率)の低い集団への検査の拡大は、「感染者との接触履歴」のない偽陰性者を大量に産む。 とくに、感度が50%を下回る場合は、陽性者を隔離する効果よりも偽陰性者に陰性をお墨付きを与える逆効果の方が上回る恐れがある。 「PCR検査結果の陰性は、必ずしも非感染を証明するものではない」としても、検査の結果に関わらず自己隔離を求めるなら検査の意味がない。 そもそも、事前確率(推定罹患率)の低い集団の陰性者に自己隔離を迫ることは合理的とは言い難い。 合理的ではない要請に従う人がどれだけいるだろうか。 事前確率(推定罹患率)の高い集団であってこそ、陰性者に自己隔離を迫る合理的理由が成立するのである。

感染拡大の予兆の早期探知のためのモニタリング検査 - 内閣官房によれば、2021年4月12日〜18日の期間は10,511人が検査して14人が陽性疑いである。 そこから日本人全員に検査したとすると、約167436人の陽性疑いが出る計算となる。 一方で、同期間の日本の新規感染者数合計は27,683人である。 単純計算で公表された新規感染者の約6.05倍の真の感染者が居る計算になる。 ただし、「地域の繁華街・歓楽街等で検査を受けることができる事業所等」「密になりやすく、多くの人が出入りし接触する環境にある事業所や大学」を対象として検査しているので、実際の真の感染者はもっと少ないかもしれない。 この数値から推測すると、通常の生活に戻せるようにするには、1日3〜4千万人程度の検査が必要だろう。 これまでの半自粛状態を継続しつつ実効再生産数を1未満にするにしても、毎日1千万人近くの検査をする必要がありそうだ。

適正な検査間隔 

より一般的に、任意のRtと任意の感度の場合、検査と隔離で感染拡大を止めるための条件は、囲み枠の中の条件式で与えられます。 新型コロナの場合、PCR検査の感度は、70%から98%と言われていますので、様々のRtの場合について、感度が70%の場合と98%の場合について計算した結果を表1に示します。 例えば、Rtが1.2ならば、感度が70%の場合、17.5日よりも短い間隔で定期的に検査すれば、新規感染者数は徐々に減少することがわかります。 つまり、ひと月に2回程度の検査で良いことになります。 これを一つの都市や区などの単位で行う場合の経済効果については、次の項で議論します。

コロナ収束に必要なPCR検査の数と頻度 - 科学者によるCOVID−19まとめサイト

まず、PCR検査の感度は一律何%と言えるものではなく、経過日数によってはかなり低くなってしまう。

検査の感度

抗体検査・抗原検査・PCR検査 どう使い分ける? - YAHOO!JAPANニュース

既に説明した通り、無差別検査では個々の検査対象者の検査間隔が長くなるほど平均感度が下がる。 結果、偽陰性者のリスクを無視できる程度に軽減するには、この数理モデルでの計算よりも検査間隔を狭める必要があろう。

では、現実的にどの程度の検査間隔が可能なのか。 以下に、100万人当たり検査数が1万以上の国を挙げる。

日付 100万人当たり検査数 全員検査における平均検査間隔
Austria2021/1/1248,48820.6
United Arab Emirates2021/1/1514,70968.0
Luxembourg2021/1/1313,82072.4
Cyprus2021/1/1413,51074.0
Israel2021/1/812,26381.5
Denmark2021/1/1211,51486.9
各国の検査数

Coronavirus (COVID-19) Testing - Our World in Data

オーストリアは突出して検査が多いが、グラフを見るとそれは一過性であることがわかる。 恒常的に多数の検査を実施している国では、100万人当たり1万5千から2万程度であり、平均検査間隔は50日以上となる。 大量検査を実施している国と同等の検査数でも、全員検査では感度が大きく落ちる。 まともな感度を確保するには、それより遥かに多数の検査が必要となる。 それは現実的な数値だろうか。

経済効果 

では、PCR検査の費用を考えた時、住民の殆どをPCR検査するような大規模PCR検査は現実的なのでしょうか? 経済効果と合わせて考えてみます。 PCR検査の費用は現在、保険でカバーされており、費用は1件あたり約2万円と言われています。 しかし、実は原価は非常に安いことと、プール式と言って複数の人の検体をまとめて検査することで、1件当たり700円から1000円でできるとの試算もあります。 文献2の論文でも用いられている1件あたりの費用が1000円の場合について、仮に10日に1度定期的に検査する費用を国全体で見積もってみます。 1年間で36回ですので、年間1人当たり約4万円かかります。 これを新型コロナによる損害と比較してみます。 日本のGDPは年間約500兆円で、1人当たり約400万円です。 コロナ下の非常事態宣言により、一か月で約24兆円、GDPの約5%が失われたといいます。 約2か月間の自粛で約10%、1人当たりでは約40万円の損失に相当します。 もし、もう一度非常事態宣言を行うならば、その度に1人当たり40万円が失われますが、それよりも、10日ごとの検査で年間1人4万円使う方が圧倒的に安く済むことがわかります。 今後PCR検査の費用は日進月歩で下がるものと予想されますが、1件当たり1万円以下まで下がれば、全国民の定期検査というのも夢物語でなくなります。 何よりも、この方法により、多くの人の健康と命を救うことができますし、非常事態宣言時のように皆が家に閉じこもるのではなく、今と同じ程度に外に出て仕事をし、たまには外食をしたり、人々が集うことができる状態を保ったまま感染者を減らすことができるとすれば、これは何ものにも代えがたいことだと思います。 ワクチンが開発され普及するまで閉じこもるのではなく、医療機関の安全を保ちつつ、出張や帰省、旅行に出かけたり、大学のキャンパスにも学生が戻れる日常を取り返すためにも、大規模な検査を行うことが、健康・安心と経済を両立できる方法であることがわかります 。

コロナ収束に必要なPCR検査の数と頻度 - 科学者によるCOVID−19まとめサイト

実際に支払う費用ではなく原価を採用する理由は謎であるが、そこはひとまず置いておこう。

経済効果を考慮するなら最も損失の少ない選択肢を模索するのが妥当であり、「約2か月間の自粛」による損失と単純比較するのは乱暴である。 このやり方では「約2か月間の自粛」と全数検査のどちらがマシかを論じることはできても、ベストの選択肢を論じることはできない。 事前確率(推定罹患率)の大きい集団や二次感染させる危険性の大きな集団とそれ以外の集団では費用対効果が全く違う。 事前確率(推定罹患率)の大きい集団を検査すれば多数の感染者を捕捉できるが、事前確率(推定罹患率)の小さい集団を検査しても多数の感染者を捕捉できない。 二次感染させる危険性の大きな集団の感染者を隔離すれば拡散抑止効果が大きいが、二次感染させる危険性の小さな集団の感染者を隔離しても拡散抑止効果は小さい。 そのため、検査費用は検査の対象人数に比例するが、拡散抑止効果は検査の対象人数に比例しない。 その結果、ある一定以上になると、検査対象を拡大しても、費用が膨らむだけで拡散抑止効果は殆ど増えなくなる。 もしも、事前確率(推定罹患率)の大きい集団や二次感染させる危険性の大きな集団にのみ検査することで目的を達成できるなら、全数検査は不要なことに多額の費用を払うことになる。 であれば、経済効果が最善となる検査範囲が存在するのであり、それは全数検査とイコールではない。 もちろん、極めて全数検査に近い可能性もあるが、計算していない以上、確かなことは何も言えない。 もっと細かい計算をしないと、経済効果が最善となる検査範囲がどれだけかはハッキリしない。

また、先ほども指摘した通り、感染初期の感染者や偽陰性者のリスクを考慮すれば、検査間隔をかなり短くする必要がある。 仮に、検査間隔を3日にすれば、単価千円でも1人当たり年間12万円掛かる。 検査間隔を1日にすれば、単価千円でも1人当たり年間36.5万円掛かる。 実際に支払う費用で計算するともっと高くなってしまう。 それだけの費用を要するなら、全数検査は経済的には非現実となる。

さらに、全数検査では、PCR検査に必要な人手の確保も難しい。 第51回厚生科学審議会感染症部会【資料2-1-1】プール検査最終報告p.7によれば、5000件を5名で検査する場合、個別検査でのプール化作業・分注作業における「人の手による作業時間」は10時間とされている。 職員1人につき8時間で検査できる件数は800件となる。 1年単位の変形労働時間制について - 厚生労働省静岡労働局によれば、 年間所定労働日数は260日である。 365日中260日勤務すると仮定すれば、職員1人につき1日で検査できる件数は平均で569.9件となる。 よって、1日に1000万の検体を検査するには17548.1人の職員が必要となる。 これで、1週間で国民の約6割の検査が可能となる。 ただし、プール化作業・分注作業以外の事務処理や検体採取等も含めるともっと職員が必要となる。

仮に、検査に必要な費用や人員の問題をクリアしたとしても、検査間隔を短くすればするほど検査を受ける側の負担も大きい。 先ほども説明した通り、必要な感度を維持するためには、検査間隔をある程度短くしなければならない。 しかし、検査間隔を短くしすぎると、検査を受けるために頻繁に仕事や学校を休む必要が生じる。 また、任意で検査を受けてもらうと、短い期間で検査する必要性を理解できない国民は検査を受けなくなる。 検査を強制にすると、個人経営の自営業者などは経営に悪影響も出るだろう。 必要性を説明し、かつ、期間を限定して実施すれば納得してもらえるかも知れないが、その場合、完全に収束できなければ再度の実施が必要になる。 しかし、何度も実施することになれば、それだけ国民の負担が大きくなる。

このように、社会のリソースを大きく消費して実施する以上、ダメ元でやってみるというわけにはいかない。 効果がなければ、大量のリソースを無駄に消費した社会的負担が残るだけである。 逆効果になっては目も当てられない。 以上踏まえると、費用対効果を実証しない限り、現実的に、全数検査はあり得ない。 現状の対策で打つ手がなくなった場合にはダメ元でやることも一つの方法であろうが、少なくとも、日本の現状はそこまで追い詰められてない。 何故なら、新型コロナは政府対応で抑制できるで説明したようなベストの規制を導入していないからである。 現状の日本政府が採用している対策は、可能な限り規制を緩めるという経済損失を大きくする方法である。 それ以前に、中途半端な国民の自発的自粛が続いており、これは感染抑制への寄与が小さい一方で、確実に経済にダメージを与える。 この状況を改めてメリハリのある規制を導入すれば、命と経済のどちらの面においても改善が見込める。 それを導入しないうちに、破れかぶれで未検証の全数検査を導入するのは時期尚早であろう。

費用対効果を実証する方法として、限られた地域等で実験的に実施することも考えられよう。 その場合、不確定なパラメータを計測することが目的であり、必ずしも、新規感染者がいなくなるまで実験する必要はない。 計測したパラメータに基づいてシミュレーションした結果、費用対効果が見込めるなら実施に踏み込める。 また、費用対効果を上げる方法として、超高感度かつ低価格の手間がかからない簡易検査を開発することも挙げられる。

費用対効果を実証するまでは、現実を考えると次のようなやり方がベストだろう。

一方、人数の小さい集団に関して定期的検査を行うことは、より現実的です。 一旦感染が起こると危険性が高い集団では、定期的に検査を行い、感染者を安全に隔離することで大きな効果が見込まれます。 例えば、病院や医療従事者、介護施設、接待を伴う飲食業などの集団がこれに該当すると思われます。 また、特定の地域でのみ感染が拡大していて、周辺地域では感染者が少ない場合は、局所的な閉じ込めと一斉検査を組み合わせることにより、単に一律のロックダウンを行う場合に比べて、急速に感染者を減らすことが可能です。

コロナ収束に必要なPCR検査の数と頻度 - 科学者によるCOVID−19まとめサイト

事前確率(推定罹患率)や二次感染させる危険性が一定以上ある集団に対して徹底的に検査を行うのが現実的だろう。 その場合、その閾値を幾つにすべきかが議論の対象となる。 例えば、濃厚以外の接触者も全員検査 山梨県「隠れた感染源把握」 - 産経新聞によれば、山梨県では濃厚でない接触者にも検査を行うこととしている。 これは「濃厚」の定義を変えるのと同義であり、事前確率(推定罹患率)の閾値を変更することに等しい。 こうした試みが成功するかどうかはやってみなければわからないが、成功したならば他府県も真似をすると良いだろう。

国際通貨基金の試算 

ロックダウンとは異なり、広範な検査を通じて情報の質を高めれば人々の接触を維持しながら感染リスクを下げることができ、明らかに経済を後押しすることになる。 無症状感染者に対する検査が全くなされず、ウイルスの伝播が検出されないとすると、典型的な国の場合で初年度にGDPが15%という驚異的な落ち込みを記録することになる。 感染リスクが高ければ、人々は可能な限り外出を控え経済活動を縮小することを選択する。 検査を通じて無症状感染者のうち50%が特定され、感染抑制のために隔離される場合、損失はGDPの3.3%にとどまることになる。 これは、全人口の約60%を対象に真陽性率(感度)が80%の検査を毎週行うことができれば達成可能である。

新型コロナの打撃が大きい貧困層 検査拡大が助けに - 国際通貨基金

次の2つは隠れ感染者数に依存するはずであるが、この隠れ感染者数の値が明示されていない。

  • 「無症状感染者に対する検査が全くなされ」なかった場合の「GDPが15%という驚異的な落ち込み」
  • 「検査を通じて無症状感染者のうち50%が特定され、感染抑制のために隔離される場合、損失はGDPの3.3%にとどまる」

また、日本の「全人口の約60%」に検査を「毎週行う」には1千万人/日以上の検査が必要である。 そのためには、12月29日時点の最大検査能力が112.953件/日なので、検査能力を現在の900倍に高めなければならない。 そこまで最大検査能力を高めるだけの機器や人員を確保できるのだろうか。 先ほど計算した通り、この数の検査を行うには、プール化作業・分注作業だけで17548.1人の職員が必要となる。 事務処理や検体採取等も含めるともっと職員が必要となる。 検査数が多い国のいずれも「全人口の約60%」に「毎週行う」だけの検査を行なっていない。

日付 100万人当たり検査数 全員検査における平均検査間隔
Austria2021/1/1248,48820.6
United Arab Emirates2021/1/1514,70968.0
Luxembourg2021/1/1313,82072.4
Cyprus2021/1/1413,51074.0
Israel2021/1/812,26381.5
Denmark2021/1/1211,51486.9
各国の検査数

Coronavirus (COVID-19) Testing - Our World in Data

オーストリアは突出して検査が多いが、グラフを見るとそれは一過性であることがわかる。 恒常的に多数の検査を実施している国では、100万人当たり1万5千から2万程度であり、1週間あたりで人口の10.5〜14%に相当する。 世界のどこの国も実施していないことが日本にできるのだろうか。

さらに、感染日や発症日が特定できない人の「真陽性率(感度)が80%」が達成可能なのだろうか。 既に説明した通り、感染や発症の時期がわからない人を検査する場合は、検査間隔が平均感度を大きく左右する。 同じ人をきっちり1週間置きに検査するならそれなりの感度にはなるだろうが、それでも「真陽性率(感度)が80%の検査」は困難かもしれない。

結局、以下の全てのパラメータが期待通りになれば期待通りの結果が得られる、という不確実なフェルミ推定に過ぎない。

  • 隠れ感染者数
  • 1日当たりの最大検査能力
  • 無差別検査の感度

フェルミ推定はパラメータが不適切である場合は、実態からかけ離れた予想をしてしまう。 仮定が正しければ結論が正しい、は循環論証であり何も証明しない。 確かに、定性的には大量検査の感染抑制効果は否定できない。 しかし、定量的にどの程度効果があるかは不明であり、費用対効果等が見込めるかどうかは定かではない。 また、感度によっては逆効果の方が上回る場合もある。

冷静な指摘 

人間行動は予測不能であり、「もし◯◯であれば介入Aは有効」という言明の評価は〔仮定の達成度合いの見積りについて〕非常にシビア。


例えば「もし民間検査での陽性者が自己隔離すれば、民間検査による無症候性感染者の検出は有効(Rを減らす)」とするのであれば、それを示した実地の研究結果を提示するか、その介入がもたらす負の側面〔上記例においては「検査を受けたにも関わらず検出されなかった(偽陰性)無症候性感染者による伝播促進の可能性」〕について慎重に検討されている必要があり、そこに言及していなければ無意味とする立場です。


医療業界では、特定の介入に対する個々の人体の反応やヒトの集団の反応は未だに「ブラックボックス」であるため、特定の介入〔民間検査の拡充、飲食店の時間制限など〕の効果は畢竟RCTなど、バックグラウンドを揃えた2群を比較して特定の介入の効果をみることが理想とされています。 Covid-19について理想的なRCTが行われることは稀なので、よりバイアスがかった手法での評価となります。 ですので、医療業界では「もし〜であれば、介入◯◯は有効である」というのはあまり意味ある言明とは看做されないのが通例です。 個人的に、PCR検査なり、より感度が落ちる抗原検査なりの繰り返しと、適切な〔自己〕隔離で現在の感染症がコントロールできるなら言うことはない(言葉遣いが荒いですがnoteに書いたスタンス)ですが、社会的に実装するのは困難で、いわゆるアベノマスクが国民に行き渡るまでのタイムラグ・本当に感染を伝播させている層が自己検査/隔離に応じてもらえるのか、などを考えると、臨床医としての僕は悲観的です。

2021.01.08 検査について(HAGINO M.D.) - note

無差別検査で新規の陽性者を掘り起こせれば、感染を抑制する効果があることは定性的には疑いの余地がない。 しかし、その定量的な効果は定かではなく、偽陰性によるマイナスの効果の影響についても検証が不十分である。 さらに、費用対効果も定かではない。 よって、机上の空論で無差別検査の有効性を論じることには意味がない。

結論 

以上踏まえると、次のような事前確率(推定罹患率)の高い集団や高リスク集団には徹底的な検査が必要だろう。

  • 感染が疑われる症状がある人
  • 感染(が疑われる)者の濃厚接触者(接触確認アプリ含む)
  • 医療従事者など感染者と接触する機会が一定程度ある人
  • 他者と接触する機会が極めて多い人
  • 3密状態の場所に立入る機会がある人

事前確率(推定罹患率)の閾値には議論の余地がある。 しかし、費用対効果を実証しない限り、無差別検査は有効とは言い難い。 無差別検査を実施するなら、費用対効果を実証することが前提となる。 つまり、検査は、不足してはいけないが、限りなく増やせば良いというものでもない。

将来、手間も人手もお金もかからない簡易検査が開発されれば、全国民の毎日検査を義務付けると良かろう。 その簡易検査は、感度は高くなければならないが、特異度は必ずしも高くなくて良い。 何故なら、簡易検査で陽性となった人にはPCR検査を義務付ければ良いだけだからである。 偽陰性を生まないためには感度を高くする必要があるが、特異度が低くても結果の確定をPCR検査に委ねれば偽陽性の心配はない。 ただし、あまり特異度が低すぎると実質全員のPCR検査を行うのと等しくなってしまうので、ある程度の特異度は確保する必要がある。

例えば、抗原検査ならば国民全員を毎日検査することも可能であろう。 ただし、抗原検査はPCR検査よりも感度が落ちるとされる。 しかし、一方で、PCR検査も、検査間隔が長ければ、平均感度は落ちてしまう。 もしも、抗原検査のピーク感度がPCR検査の平均感度を上回るなら、毎日の抗原検査を簡易検査として採用することが現実的となる。 その際、抗原検査で陽性となった場合のPCR検査を義務付け、かつ、抗原陽性者の即日のPCR検査が可能な体制を整えれば、無差別検査も正当化できるかもしれない。

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