スウェーデンはロックダウン不要の根拠となるか?

偏った比較ではロックダウンの要否は判断できない 

「人々を感染から守るはずのハードロックダウンは、介護施設に住む老人や虚弱者を守れないことが明らかになった。 また、新型コロナによる死亡率も減少しない。 これは、イギリスの事例と他の欧州諸国のそれとの比較を見れば明らかだ」

コロナ独自路線のスウェーデン方式、死者多数もいよいよ「効果」が見えてきたp.2 - PRESIDENT Online

次のような比較は偏りが大きすぎて意味がない。

  • ロックダウンした国のうち、感染抑制に失敗した国だけを抽出
  • ロックダウンしなかった国はスウェーデン1国だけ抽出

ロックダウンした国には感染抑制に失敗した国(イギリス等)と成功した国(ニュージーランド、タイ等)がある。 そのうち、感染抑制に失敗した国だけを抽出して比較することは、故意に偏りを発生させる行為である。

また、比較対象となるスウェーデンはたった1国だけのデータであるので、ロックダウン政策の有無以外に死亡率を大きく左右する要因による統計的バイアスを取り除けない。 例えば、スウェーデンにおける感染を抑制する要因として次のようなものが挙げられている。

第2の点であるが、スウェーデン政府は、従来、危機にあたって高い透明性を示してきた。 データで丁寧に説明責任を果たすアプローチをとっていることがあって、国民の政府に対する信頼度が比較的高いのである。

政府の信頼度

強制措置ではなく国民への推奨によって行動変容を促す政策に、国民は理解を示し、自主的に従っている。 スウェーデンは1990年代の金融危機でも、そうした透明性の高いアプローチによって得られた国民の理解を基に、公的資金を大手銀行に大胆に投入して危機を早期に収束させている。

誤解されたスウェーデン「コロナ対策」の真実p.4 - 東洋経済ONLINE


第2に国民は保健当局など政府を信頼しており、そのためロックダウンを強制しなくとも、ソーシャルディスタンス(社会的距離)の指針におおむね従った。

第3にスウェーデンは子供のいない単身世帯が国全体の56%と、欧州連合(EU)加盟国でずばぬけて高い。 そのため同居者間で感染が起きる懸念が、例えば世代間同居がより一般的なイタリアなどと比べて低いことになる。


スウェーデンは充実した福祉制度が売りだ。 だから労働者は自主隔離がしやすい。 金銭的な苦境に落ち込まないように保証されているからだ。 社会福祉支出の規模はGDPの約25%と、経済協力開発機構(OECD)加盟国で最も高い。 休職すれば賃金の大半が補償される。 こうした制度は自営業者にさえも適用される。

コラム:「スウェーデン流」コロナ対策をマネできない理由 - REUTERS

  • 「国民は保健当局など政府を信頼しており、そのためロックダウンを強制しなくとも、ソーシャルディスタンス(社会的距離)の指針におおむね従った」
  • 「子供のいない単身世帯が国全体の56%と、欧州連合(EU)加盟国でずばぬけて高い」ため「同居者間で感染が起きる懸念」が低い
  • 「休職すれば賃金の大半が補償される。こうした制度は自営業者にさえも適用される」ために「労働者は自主隔離がしやすい」

よって、もしも、同様の条件を満たさない国がスウェーデン式のコロナ対応を選択した場合、スウェーデン以上に感染を拡大させた可能性がある。

以上踏まえると、次のようなアンフェアな比較となっており、そんな比較では何も結論を導けない。

  • ロックダウンした国のうち、感染抑制に失敗した国だけを抽出
  • ロックダウンしなかった国のうち、比較的感染が少ない国だけ抽出

犠牲になったのは高齢者のみではない 

一方で、新型コロナ感染症による死亡者の平均年齢は、現時点での社会庁の統計によると83歳であり、2019年のスウェーデンの平均寿命は83.1歳である。 83歳時点における平均余命は、スウェーデンの生命表によると7年程度であるが、前述の通り、介護施設に入居している基礎疾患を持つ要介護高齢者の予後は悪く、したがって、平均余命は短いと考えられる。

そのため、新型コロナウイルス感染により、死亡が若干前倒しになっただけだとする見方もある。 もしそうであるとすれば、長期的には超過死亡率は相殺されてくるはずである。

新型コロナ「第二波がこない」スウェーデン、現地日本人医師の証言 - YAHOO!ニュース(Forbes)

「83歳時点における平均余命は、スウェーデンの生命表によると7年程度」と根拠を示してデータを示しているが、「介護施設に入居している基礎疾患を持つ要介護高齢者」の「平均余命は短い」とする根拠は示されてない。

確かに、スウェーデンの新型コロナによる死者数をみると8月11日時点で5766人であり、死亡率は100万人あたり570人を超える。 この比率は日本の8.3人との比較はもちろん、他の北欧諸国と比較しても高い水準にあり、これが批判の対象となっている。 欧州各国との比較ではベルギー、英国、スペイン、イタリアなどに次ぐレベルである。

だが、死者が多かった背景としては、むしろ介護システムの問題が大きかったと考えられる。 死者の9割は70歳以上であり、その5割が介護施設に居住していた。 これら介護施設は市町村が管轄するもので、重度の要介護の高齢者が入っている。 感染防止対策が不十分な環境下にあったパート勤務の介護者などが施設での介護を行っていたため、クラスターが発生したという構造的な問題があったのである。


こうした現状を踏まえれば、ロックダウンしなかったことが死者の数に直結しているとは、必ずしも言えない。

誤解されたスウェーデン「コロナ対策」の真実p.1 - 東洋経済ONLINE

スウェーデンの死者を日本の人口に換算すると次のとおりとなる。

スウェーデンの死者数を日本人口に換算

Number of coronavirus (COVID-19) deaths in Sweden in 2020, by age groups - statista

ここで、「ロックダウンしなかったことが死者の数に直結している」ことを以下に示す。

年代別死者割合

Number of coronavirus (COVID-19) deaths in Sweden in 2020, by age groups - statista 新型コロナウイルス感染症の国内発生動向(2020年8月19日18時時点) - 厚生労働省

確かに、80歳以上の死亡比率が高いことは、介護施設で「クラスターが発生したという構造的な問題」が原因であろう。 しかし、他の世代の死亡比率は日本と比べても大差ない。 よって、他の世代の死者数の増加は、介護施設で「クラスターが発生したという構造的な問題」が主原因ではない。 仮に、80歳以上の死亡比率を日本と同じ程度に抑えたとしても、日本人口に換算すると5万人以上に相当する死亡者が出ている。 これは世界的にも人口当たりの死者数が多い方に該当する。 よって、明らかに「ロックダウンしなかったことが死者の数に直結している」のである。

経済への影響 

英国など当初は厳格な規制に否定的だった国が方向転換してロックダウンに踏み切るなか、スウェーデンは基本方針を変えていない。 その結果、人口100万人当たりの死者数は隣国ノルウェーの10倍近くになり、近隣諸国は国境を開放してもスウェーデンとの往来は禁止している。 テグネルはロックダウンを実施しなかったことで前任者から批判を受けている。

ルンド大学のフランクスは、「ノルウェーと同様の抑止策をとっていれば、確実に死者数を減らせたはずです」と断言する。 スウェーデンのやり方は感染の第2波が起きたときに効果を発揮するいう議論もあるが、時間が経つにつれノルウェーでも抗体保持者が増え、最終的には大きな違いはなくなるだろう。 一方で、こちらも議論の余地はあるが、経済面での回復は早い可能性が高い。

スウェーデンの新型コロナウイルス対策が「完全なる失敗」に終わったと言える理由 - WIRED

感染抑制に失敗した国や成功した国等の一例を以下に挙げる。

国別死亡率

人口あたりの新型コロナウイルス死者数の推移【国別】 - 札幌医科大学医学部 附属フロンティア医学研究所 ゲノム医科学部門

ノルウェーの周辺国のフィンランドやノルウェーの人口当たり死亡数はスウェーデンの10分の1以下、デンマークは5分の1以下である。 経済への影響は以下の通り。

GDP変化率(前年同期比) GDP変化率(前期比)

Quarterly GDP - OECD 第2四半期のGDP成長率は前年同期比マイナス12.2%と大幅に悪化 - 日本貿易振興機構 タイ第4四半期GDP伸び率、予想下回る前年比1.6% 5年ぶり低水準 - REUTERS

残念ながら、OECDにはタイのデータはなかったので、他の情報源から前年同期比のみ補完した。 全体的な傾向として、人口当たり死者数をそこそこ抑制した国の経済的損失が最も小さく、人口当たり死者数を全く抑制できなかった国の経済損失が最も大きい。 よって、人口当たり死者数を抑制しようとしすぎると、経済的損失が大きくなるようにも見える。 しかし、OECDの2020年第2四半期の全データと人口当たり死者数を比較すると、その様な傾向は見られない。

人口あたり死者数とGDP変化率

人口あたりの新型コロナウイルス感染者数の推移【国別】 - 札幌医科大学 Quarterly GDP - OECD

人口当たり死者数が極めて少ないケースでは経済損失に大きなバラツキが見られる。 しかし、2次関数で近似しても近似曲線はほぼフラットであり、人口当たり死者数を抑制しようとしすぎたことによって経済的損失が大きくなる傾向は全く見られない。

以上を踏まえると、経済的に見ても、スウェーデンが新型コロナ対策で成功したと考える根拠はない。 確かに、感染を抑制できなかった他の国と比べると、経済的損失は小さい。 しかし、人口当たり死亡数は世界でもトップクラスである。 日本と比べれば、人口当たり死亡数はスウェーデンの方が60倍多いが、経済的損失は大差ない。 周辺国と比較すると、フィンランドやノルウェーは、人口当たり死亡数をスウェーデンの10分の1以下に抑えながら、同時に、経済的損失もスウェーデンより小さい。 同じく周辺国のデンマークは、人口当たり死亡数をスウェーデンの5分の1以下に抑えながら、経済的損失はスウェーデンと大差ない。 これでスウェーデンの事例が成功だと言うのは無理があろう。 最大の失敗国はスペインやイギリスであるが、スウェーデンは、これよりマシなだけであって、それなりに失敗した国と言えよう。

ジェトロ、ブラジルでの新型コロナ感染拡大の背景についてウェビナー開催 - 日本貿易振興機構ブラジル、コロナ死者10万人突破 感染300万人 - 日本経済新聞ブラジル大統領の支持率、過去最高 新型コロナ軽視発言封印で? - JIJI.COM等によれば、ブラジル大統領は新型コロナの危険性を軽視し、対策を疎かにした。 なぜブラジルは「新型コロナ感染大国」へ転落したのかによれば、ブラジル保健省は3月中旬には次のような対策を打ち出したが、24時間も経たないうちに軌道修正している。

  • クルーズ船の運航停止を命令
  • 地方自治体に大規模イベントの中止要請
  • 海外からの旅行者には1週間の自主隔離

ブラジル、コロナ死者10万人突破 感染300万人 - 日本経済新聞によれば、州政府は大統領に逆らって営業活動制限、外出自粛、ロックダウン等を行ったが、貧民街の低所得者層を中心に対策に従わない市民が多かったために感染が拡大したとされる。 結果、世界的にもトップクラスの人口当たり死亡数となった。 ブラジルは日本の60倍近い人口当たり死亡数である一方で、経済的損失は日本よりやや悪い。 ブラジルも、最大の失敗国よりはマシなだけであって、それなりに失敗した国と言えよう。

以上のデータから見えてくることは、次のようなことであろう。

  • 感染を抑制できなかった国の経済的損失は大きい
  • 対策方法によって感染抑制効果や経済的損失に差がある

各国の対策内容にまで踏み込めば、個々の対策の感染抑制効果と経済への影響を論じることができるかもしれないが、ここではそこまではしない。 政府としてやるべきことは、そうした分析によって対策として何を行うべきかを検討することであろう。 そうした戦略的な分析を行っていれば、感染抑制と経済のバランスはもっと改善されたかもしれない。

その後 

スウェーデンは、集団免疫を目指したわけではないが結果的に集団免疫に達して成功したと主張する人がいた。 しかし、集団免疫の効果は長続きしないことが指摘されている

新型コロナウイルスに感染して抗体ができても、免疫が急速に減退する可能性があることが、英大学インペリアル・カレッジ・ロンドンの大規模調査で明らかになった。 抗体の効果を数カ月で失う恐れがあるという。


調査は英イングランド地方の36万人以上の成人が対象。 6月下旬から7月上旬に全体の6%から抗体を検出したが、9月には4・4%だった。

研究チームによると、特に65歳を超える高齢者や無症状の感染者の間で、抗体が検出されなくなった。 一方、医療業界では相対的に多くの人が抗体を持ち続けた。 病院などでウイルスにさらされていることが影響したとみられる。

「コロナ抗体できても免疫が急速減退の可能性」 英調査、数カ月で喪失も - 産経新聞

事実、スウェーデンでは11月から再び感染が拡大し始めた。

スウェーデン政府はウイルスとの長期戦で国民を疲弊させないとの考えから、外出制限や店舗の営業停止など、厳しい措置を見送ってきた。 マスク着用も義務化していない。 10月までは、外出制限をした英仏やスペインに比べ、約1週間で計測した10万人当たりの新規感染者数が下回っていた時期があり、感染拡大を抑制する独自の手法が一定程度、評価されていた。

しかし11月以降、感染者数が増加。 10月の新規感染者は1日につき4000人前後だったが、12月に入ってからは1万人を超える日が増えている。


感染拡大を受け、スウェーデン政府は11月、9人以上の集会を禁止するなど規制をやや強めたが、状況は悪化の一途をたどった。 英紙フィナンシャル・タイムズによると、同国内では新型コロナの第2波が深刻化。 一部の地域で集中治療室(ICU)の病床の確保が限界に達している。

「私たちは失敗した」スウェーデン国王が新型コロナ対策批判 - 産経新聞

結局、スウェーデンも厳しい規制を余儀なくされている。

スウェーデンのロベーン首相は18日、混雑時の公共交通機関でのマスク着用を推奨すると発表した。 新型コロナウイルス対策で同国がマスク着用を推奨するのは初めて。 公共施設の閉鎖など新たな規制強化策も実施する。 国内で感染者数や死者数が急増する現状を受け、厳しい規制を敷く方針に転換した形だ。

同国はウイルスとの長期戦で国民を疲弊させないとの考えから、外出制限や店舗の営業停止など、厳しい措置を見送ってきた。 マスクについても、市民が着用に慣れていないことを政府側が考慮し、義務化や推奨を実施しない方針を続けてきた。

しかし、スウェーデン政府が18日に発表した新型コロナ対策では、規制を大幅に強化。 マスク推奨のほか、来年1月24日まで図書館や屋内プール、博物館などの公共施設に閉鎖を要請し、高校でのオンライン授業の実施を促した。

さらに、今月24日以降は飲食店で1テーブルに同席できる最大人数を8人から4人に制限するとした。

スウェーデンの感染状況をめぐっては、11月以降、感染者数が増加。 10月の新規感染者は1日当たり4千人前後だったが、12月に入ってからは1万人を超える日が増えている。

スウェーデン政府がマスクを初めて推奨 新型コロナ対策の方針を転換 - 産経新聞

これがスウェーデンの現実である。


このページへのご意見は節操のないBBSにどうぞ。

総合案内

科学一般

疑似科学等

医学

地震

電子工学

相対性理論

量子力学

基本

標準理論

解釈等

実験・思考実験

外部リンク