[携帯電話]
時代錯誤な考え
日本のMVNOを牽引してきた日本通信が時代錯誤の考えを持っていることに失望した。
「数%のユーザーが帯域の大半を占有しており、あまり通信をしない人も同じ料金を払ってヘビーユーザーをサポートしている。こうしたビジネスモデルだと、バランスが崩れてどこかで破綻する」と三田氏は憂慮する。同氏は「MVNO制度でキャリアのネットワークをオープンに使えるので、SIMロック解除の流れに乗って、新しい市場にアイデアを紹介したい」と意気込む。
日本通信はどのような根拠に基づいて「こうしたビジネスモデルだと、バランスが崩れてどこかで破綻する」と主張しているのだろうか。定額モデルを否定して従量モデルを推奨するのでは、誰の目から見ても時代の流れに逆行している。敢えて時代に逆らった逆説を唱えるならば、漠然とした不公平感に基づいた感情論ではなく、根拠を示して論理的に説明しなければ説得力がない。
「超ヘビーユーザー」が「一般ユーザー」の足を引っ張るからこその応分負担論である。「一般ユーザー」の足を引っ張らない前提に立てば、応分負担を論じる必要は全くない。パン屋から無料でパンの耳を分けて貰う人を見て「せこい」とは思っても「ずるい」とは思わないだろう。「それは俺が買ったサンドイッチのパンについていた耳だから、応分負担して俺に何円か還元しろ」と誰が言うだろうか。同じように、誰も使わない無駄な資源を有効活用したとしても、応分負担の必要があるとは言えまい。よって、回避できない設備投資のうち使っても劣化しない未使用資源を活用するのであれば、応分負担を論じる必要は全くない。顧客満足度を高めるために通信事業者が考えるべきことは、「一般ユーザー」の足を引っ張らないように「超ヘビーユーザー」を利用させる技術的手段である。そして、それは現在の技術で十分に実現が可能であり、「キャリアのネットワークをオープンに使える」ならば契約上の障害もない。
故意に設備利用の無駄を作って「超ヘビーユーザー」に応分負担させても、顧客満足度を高めることにはならない。可能かつ必要な技術的手段を論じずに、旧態依然の時代遅れな考えに縛られているようでは、先が見えている。
顧客満足度を高める技術的手段
昔のようなクロスバー交換機等では、機械的部分は動作するたびに劣化する。また、電流を流せば機械的接点は劣化する。さらに、技術的に回線容量に限界があり、かつ、帯域保証型の通信が主流であったので、利用者の通信機会を大きく制限しないと回線がパンクしかねない。そのため、当時、従量料金の採用は不可欠であった。
現在では、通信設備として機械的構造は殆どなくなり、電子機器によって置き換えられている。フラッシュメモリなどの一部例外を除いて、電子機器は、使用回数に比例して劣化しない。コストを左右する要因は主に回線の太さ(通信速度)であって、太さが変わらないならば通信量の大小はコストに殆ど影響しない。光通信方式の普及により、昔よりも格段に回線容量は増え、また、ベストエフォート方式ならば、需要が増大しても、通信速度が遅くなるだけで回線がパンクすることを心配する必要はない。そうした技術的進歩に伴って、定額料金が実現可能になった。
ベストエフォート方式では、限られた資源を多数で共有するから、低コストでピーク性能を上げられる反面、需要が集中すれば性能は低下する。設備性能を超えたサービスは提供できないが、設備性能の範囲内ならば最大限のサービスを提供できる。利用者間の不公平を生じさせないためには、「一般ユーザー」を優先する仕組みを作れば良い。「一般ユーザー」が通信するときは「一般ユーザー」を最優先しつつ、「一般ユーザー」が通信しないときは「超ヘビーユーザー」に通信路を完全に解放する。優先順位制御が適正に実行されれば、「超ヘビーユーザー」の通信は「一般ユーザー」の通信の邪魔にはならない。帯域制限では「一般ユーザー」が使用しないときに無駄が生じるが、優先順位制御では設備の能力を最大限に利用できる。
応分負担プランは支持されるか?
「超ヘビーユーザー」と「一般ユーザー」が同一料金なのは不公平だと主張する人は少なくいない。では、「一般ユーザー」は応分負担プランを支持するだろうか?
ただ、ドコモは上位1%の超ヘビーユーザーがトラフィック全体の30%を占めているなど、これらの定額サービスが必ずしも公平とは言い難いと同社は考える。モバイルデータ通信のトラフィックは、2015年には2010年の26倍に伸びるという観測もあり、「サービス事業者として(公平性を確保できるよう)真剣に取り組まないといけない」と福田氏は力を込める。同氏によると、超ヘビーユーザーの通信量は、一般ユーザーの42人分に相当するという。結果として超ヘビーユーザーも一般ユーザーも同じ6000円前後の料金を払っているので、日本通信は「通信料金は応分負担すべき」と考える。
全体の1ヶ月の通信量平均を1とすると、「上位1%の超ヘビーユーザー」の通信量平均は30、残りの99%の「一般ユーザー」の通信量平均は約0.7となる。よって、応分負担プランを採用すれば、「上位1%の超ヘビーユーザー」の料金は30倍になる一方で、「一般ユーザー」の料金は3割減程度にしかならない。このような応分負担プランは99%の「一般ユーザー」に支持されるだろうか?
本当に99%の「一般ユーザー」が応分負担プランを支持するならば、定額制を廃止して完全従量プランに戻せばよい。ただし、パケット単価は平均的な使い方で定額料金と変わらないレベルに設定する必要がある。そのプランが99%の「一般ユーザー」から支持されるならば、「上位1%の超ヘビーユーザー」だけを他社に追い出すことができるし、他社から「一般ユーザー」を奪うことが出来るだろう。そうすれば、料金収入を減らすことなく、大幅にトラフィックを減らすことができる。そんな通信会社にとって理想的なプランを、何故、何処も採用しないのか。
それは、「一般ユーザー」が応分負担プランを支持しないからである。平均的な使い方よりも多少料金が高くなっても、その分は保険だと考えれば、多少の負担増は許容できる。うっかり使いすぎたときに目が飛び出るような料金を請求されるくらいなら、多少の保険料を払ってでも定額料金で済む方が良いと考える方が多数派ではないか。保険料の金額には議論の余地があるだろうが、保険料0円の完全応分負担プランを支持する人は少数派だろう。だから、応分負担化すれば「超ヘビーユーザー」だけでなく「一般ユーザー」の大多数も他社に流出してしまう。「一般ユーザー」を囲い込むためには、応分負担プランを採用してはならないのである。
日本通信のプラン
日本通信がb-mobile Fairを開発したのは、現在のモバイルデータ通信が「フェアじゃない」と同社が考えたことが発端だ。
1カ月あたりの通信量が754Mバイト以内なら、他社のパケット定額サービスよりも得になる計算(写真=左)。
b-mobile Fairのユーザー層はヘビー/レギュラー/ライトユーザーとしている(写真=右)
従量プランを利用する人は、ライト・ユーザーで、かつ、毎月の通信量を一定以下に抑えるよう管理できるマメな人である。このことは日本通信も分かっているようで、「(写真=右)」ではこのプランが「超ヘビーユーザー」を対象外としている。「超ヘビーユーザー」が対象とならないプランでは、「超ヘビーユーザー」は「定額」を選択することになって応分負担とならない。よって、日本通信の言う「フェアじゃない」状況はb-mobile Fairでは解消されず、これを「Fair」と呼ぶのは誇大広告であろう。
尚、図を見ると、「754Mバイト以内」は「2段階定額」と比較した場合であって、「定額」と比較するともっと少なくなる。ヘビーユーザーは「2段階定額」ではなく「定額」を選択するはずなので、「2段階定額」と比較するのはおかしい。
最終更新時間:2011年04月09日 22時39分44秒
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