著作権侵害の非親告罪化が二次創作に与える影響

まとめ 

同人作者が大量逮捕されると主張する者もいるが、それは、権利者が「同人は一切認めない」とあらかじめ公言していない限りあり得ない。

  • しかし、現行法(親告罪)でも次の場合は逮捕・起訴され有罪になる可能性はある。
    • 許諾しない明示がある場合
    • 明示がない場合であっても、権利者への許諾の意思確認が行なわれた結果、許諾しない旨の返答があった場合
  • 非親告罪化によって変わるのは、許諾しない明示がある場合以外はほぼ考えられない。
    • 従来まで泣き寝入りによって告訴を断念していたケースが考えられるが、泣き寝入りが無くなることに不服を言うのは筋違いである。
    • 泣き寝入りではない「許諾はしないが告訴もしない」も理論的にはあり得るが、「認めないが黙認する(=認める)」と言っているに等しいので、現実的にはあり得ない。

非親告罪化の目的 

非親告罪化は、二次創作の取り締まりではなく、海賊版対策のために検討されていることである。

(2)海賊版対策の更なる強化を図る

①著作権法における「親告罪」を見直す

海賊版の氾濫は、文化産業等の健全な発展を阻害し、犯罪組織の資金源となり得るなど、経済社会にとって深刻な問題となっている。 重大かつ悪質な著作権侵害等事犯が多発していることも踏まえ、海賊版の販売行為など著作権法違反行為のうち親告罪とされているものについて、非親告罪の範囲拡大を含め見直しを行い、必要に応じ法制度を整備する。

知的創造サイクルの推進方策 - 首相官邸P.20,21


海賊行為のなかでも、商業的規模に達しているもの、あるいは営利目的によるものについては、文化の健全な発展及びコンテンツ産業の発達にとって明白かつ重大な脅威であること、獲得した金銭は犯罪収益として犯罪組織の資金源になり得ること、動機が悪質であること等、反社会性が高く、経済的な悪影響も大きい。

このような悪質な事犯については、国際組織犯罪の防止・根絶という観点からも、その撲滅を目指して特に強力な取締を推進する必要があるが、現行の著作権法が一律的に親告罪として取締に制約を設けていることは、制度として適当ではないとの指摘がなされ得る。

なお、特許権、実用新案権、意匠権、商標権及び育成者権の侵害行為については、非親告罪となっている。 また、不正競争防止法違反については、営業秘密にかかる不正競争行為を除き、非親告罪となっている。

知的創造サイクル専門調査会(第8回)資料2知的創造サイクルに関する今後の課題(保護分野) - 首相官邸P.16

海賊版対策として非親告罪化が必要な理由は次のとおり挙げられている。

海賊行為が巧妙であったり、権利者が複数存在していることで権利関係が複雑になっている場合には、告訴権者による侵害の立証、関係者の調整等が困難であり負担が大きくなる。

告訴権者が中小企業、ベンチャー企業等、資力や人員の制約が大きい場合には、負担を考慮するあまり、告訴を躊躇する恐れがある。

親告罪は、刑事訴訟法により、「犯人を知った日から6ヶ月を経過したとき」は告訴が不可能になる。 そのため、侵害事実の立証に時間が掛かる場合や、何らかの事情で告訴を躊躇した場合には、出訴期間が経過してしまう事態が発生し得る。 出訴期間が経過すれば、起訴及び没収を含む科罰が不可能になる。

知的創造サイクル専門調査会(第8回)資料2知的創造サイクルに関する今後の課題(保護分野) - 首相官邸P.15

法律論 

刑事訴訟法 

我が国では「疑わしきは罰せず」の原則が適用される。

被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない

刑事訴訟法第三百三十六条

逮捕状の発行にも、逮捕にも「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」が必要とされる。

検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。 ただし、三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。

2 裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。 但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。

3 検察官又は司法警察員は、第一項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。

刑事訴訟法第百九十九条

緊急逮捕においても「罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある」が求められるし、直ちに逮捕状を取る手続を行なわなければならない。 逮捕状が発行されない場合は、直ちに釈放しなければならない。

検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。 この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。 逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない

刑事訴訟法第二百十条

現行犯逮捕においても同様である。

現行犯人が逮捕された場合には、第百九十九条の規定により被疑者が逮捕された場合に関する規定を準用する。

刑事訴訟法第二百十六条

以上により、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」がなければ逮捕されないし、「犯罪の証明がないとき」は無罪が確定する。

著作権法 

著作権法第三節第三款(第二十一条~第二十八条)には、全て「著作者は~権利を専有する」と書いてある。 そして、著作物の利用許諾が可能という規定はあるが、事後許諾を認めない規定は著作権法、著作権法施行令著作権法施行規則の何れにもない。

著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができる。

2 前項の許諾を得た者は、その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において、その許諾に係る著作物を利用することができる。

3 第一項の許諾に係る著作物を利用する権利は、著作権者の承諾を得ない限り、譲渡することができない。

4 著作物の放送又は有線放送についての第一項の許諾は、契約に別段の定めがない限り、当該著作物の録音又は録画の許諾を含まないものとする。

5 著作物の送信可能化について第一項の許諾を得た者が、その許諾に係る利用方法及び条件(送信可能化の回数又は送信可能化に用いる自動公衆送信装置に係るものを除く。)の範囲内において反復して又は他の自動公衆送信装置を用いて行う当該著作物の送信可能化については、第二十三条第一項の規定は、適用しない。

著作権法第六十三条

つまり、著作者が許諾しないことを明確にしない限り著作権侵害は成立せず、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」がないので逮捕はできない。 尚、第63条第2項は事前許諾を必要とする規定ではなく、「著作物を利用することができる」範囲を「許諾に係る利用方法及び条件の範囲」とした規定である。 それは、立法趣旨を見れば良く分かる。

(3)立法趣旨

①旧著作権法及び著作権制度審議会答申(昭和41年)

旧著作権法は,著作物の利用の許諾についての規定を置いていない。

著作権制度審議会答申においても,利用の許諾に関する答申はなく,答申を受けて作成された文部省試文化局試案(昭和41年10月)においても,利用の許諾に関する条文案はない。

しかしながら,その後の検討において,「権利行使の最も普遍的かつ普通の態様である利用許諾の規定がないということは適当ではない」とされ,現行著作権法第63条第1項から第4項と同様の条文案が作成された。 しかし,第1項及び第2項については,当たり前のことを確認的に規定したものとして理解されていたようであり,当該条項についての議論は見あたらない。

②著作権法改正(平成9年)

第2項に関連する規定として,第63条第5項が平成9年の著作権法改正で追加されている。 第5項は,送信可能化の許諾にかかる利用方法及び条件のうち,送信可能化の回数,又は送信可能化に用いる自動公衆送信装置に係るものについては,これに反しても公衆送信権の侵害とならないと規定している。

文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 契約・利用ワーキングチーム検討結果報告II.検討内容2.著作権法第63条第2項の解釈について(許諾に係る利用方法及び条件の性質) - 文部科学省

著作権法第63条第1項及び第2項は、昭和41年の改正前にはなかった条文である。 「当たり前のことを確認的に規定したもの」であるので、許諾は、第二十一条~第二十八条の著作者が専有する権利に当然含まれているという認識だったのだろう。 そして、ろくに議論もせずに「当たり前のことを確認的に規定」したのであれば、言うまでもなく、それまでの規定を変更しようとはしなかったと考えられる。 つまり、第63条第1項及び第2項は確認規定として存在するだけであり、許諾は、第二十一条~第二十八条の著作者が専有する権利の一部なのである。 著作者が専有するということは、著作者の胸三寸であるから、法律で特段の規定が設けられていない以上、著作者の意思次第で事後許諾も有効となる。

一方で、著作者が許諾しないことを明確にしていれば、著作者が権利を専有する行為を無断で行なった時点で著作権侵害が成立する。 例えば、「禁無断複製」等を明示している商品を無断で複製すれば、著作権第21条の複製権侵害が成立する。 当然、許諾しない明示がある場合は、著作者が権利侵害を容認するはずがないので、親告罪であっても、逮捕・起訴され有罪になる可能性がある。 この場合に関しては、知的創造サイクル専門調査会が挙げたケース以外は、非親告罪化の影響はない。

非親告罪化の目的は著作権強化であって権利制限ではないので、非親告罪化によって権利者の許諾権が制限されることは考えられない。 よって、非親告罪化しても許諾の有無を決めるのは著作者であることには何ら変わりはない。 そして、許諾の有無の決定を保留することも著作者の自由である。 だから、著作者が許諾の有無の決定を保留してしまえば、著作権侵害の成立要件を満たさないため、逮捕・起訴はできないのである。

もちろん、たとえ、事後であっても、著作者が許諾しないと明言すれば、逮捕・起訴され有罪になる可能性がある。 しかし、それは、親告罪であっても、基本的には何ら変わらない。 知的創造サイクル専門調査会が挙げたケースは、当然、罪に問われるケースであろうから、これを問題視することは筋が違う。 それ以外にも「許諾はしないが告訴もしない」も理論的にはあり得るが、「認めないが黙認する(=認める)」と言っているに等しいので、現実的にはあり得ない。

以上のとおり、二次創作については、非親告罪化の影響はまずない。

民法 

民法規定の 隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる 民法第九十七条 を持ち出して、事後許諾は法的に無効だと主張する者もいる。

しかし、これは民事上の効力を示した規定であり、刑事上の刑罰とは全く別である。 例えば、契約違反などを行なっても、それを犯罪とする規定はないし、罰則もない。 特別な規定が設けられていない限り、民事に関する規定は、刑事には影響しない。 刑法には、民事上の法律行為の効力が及ばない行為を犯罪の成立要件とする規定はない。 著作権法にも、許諾に関する民事上の効力が及ばない著作物の利用を著作権侵害とする規定はない。 文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 契約・利用ワーキングチーム検討結果報告II.検討内容2.著作権法第63条第2項の解釈について(許諾に係る利用方法及び条件の性質) - 文部科学省においても、民事上の効力となる契約で定められた利用条件が著作権法第63条第2項の「許諾に係る利用方法及び条件」と等しいとする考えには否定的である。

尚、民法では、任意規定よりも意思表示を優先としている。

法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。

民法第九十一条


第63条第1項の「許諾」は,契約の他に単独行為によっても可能であると解されている。

文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 契約・利用ワーキングチーム検討結果報告II.検討内容2.著作権法第63条第2項の解釈について(許諾に係る利用方法及び条件の性質) - 文部科学省

以上により、権利者が許諾の効力を遡及する意思表示をすれば、それは民事上で有効となる。 よって、民事的にも事後許諾は有効である。

可能性論 

ネット上のデマ 

例えば「ドラえもん」などは、よくパロディ化されて他の漫画に登場したりしますよね。で、その絵柄が、結構似ていたとします。

大げさに言うと、これを読んだ市民がこぞって警察に通報しちゃう危険性がある、ということです。 そして藤子プロが許諾してくれなければ、描いたマンガ家さんが逮捕されちゃう可能性があります。

★ホントは怖いTPP ・・・「非・親告罪化」で日本の漫画界はどうなる? - 赤松健の連絡帳

これは、既に説明した通り、親告罪でも何ら変わらない。 親告罪でも、著作者が許諾しないことを明言する場合は「描いたマンガ家さんが逮捕されちゃう可能性」がある。 非親告罪でも、著作者が許諾しないことを明言しない場合は、著作権侵害が成立しない。

・・・今までは黙認していた原作者(マンガ家)だって、警察から「コミケ同人誌に正式な許諾を出しましたか?」と訊かれれば、公式に「はい。」と言うことはありません。 つまり、守ってはくれません。

★ホントは怖いTPP ・・・「非・親告罪化」で日本の漫画界はどうなる? - 赤松健の連絡帳

既に説明した通り、著作権法には事後許諾を禁止する規定も、非公式な許諾を無効とする規定もない。 著作者に黙認の意思があるなら、許諾するかしないかを保留すれば良いだけである。 このケースで権利者が「はい」と答えないことをもって逮捕することはできない。

それどころか、悪意のある商業漫画家が、仕事の減った弁護士と組んで、バンバン民事訴訟を起こす可能性がありますよね。

「とりあえずコミケの該当ジャンルを全部訴えてみて、賠償金が取れればラッキー!」という感じで、やたらと訴訟が横行するかもしれません。

★ホントは怖いTPP ・・・「非・親告罪化」で日本の漫画界はどうなる? - 赤松健の連絡帳

このケースは、親告罪でも完全に同じである。 現行法でも「悪意のある商業漫画家」が「バンバン民事訴訟を起こす」ことは防げない。

ところで、もし

非親告罪化なんて入っても、実際には(コミケ同人ごときでは)警察は動かないし、逮捕なんて絶対ありっこないよ。

という論客がおられましたら、ぜひメール(********@biglobe.jp )でご連絡いただきたいのです。

もし納得のいく御説でしたら、それを公開し、私もすぐにこの活動を停止したいと思います。よろしくお願いいたします。

★ホントは怖いTPP ・・・「非・親告罪化」で日本の漫画界はどうなる? - 赤松健の連絡帳

赤松氏には、逮捕できない理由を説明したが、発信の目的を問われて回答したっきり、音沙汰無しである。 2013年4月6日現在、 赤松健の連絡帳 の最新エントリーは ★ホントは怖いTPP ・・・「非・親告罪化」で日本の漫画界はどうなる? - 赤松健の連絡帳 のままであり、内容も更新されていない。 テキストの取り扱いは赤松氏に一任すると回答してあるので秘密にする必要はない。 しかし、赤松氏は、意見を募っておいて寄せられた意見の紹介も反論も公開せず、自らの主張の訂正や補足もしない。 このような赤松氏の行動は非常に不実であろう。

後日談 

(追記予定)


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