国費の無駄遣いスパコン「京」を再検証する

最初におさらい 

高性能スパコンを政府が調達したり、開発にテコ入れすることの必要性には全く疑いの余地がない。 そのことは以下のリンク先にまとめた。

しかし、そのことは京の開発プロジェクトを全く正当化しない。

2011年6月期のTOP500で京が1位になったことについて、何も知らずに世界1位という事実だけを見て快挙だとか騒いだ頭の悪い人も多かった。 京が世界1位になったことは快挙でも何でもない。 スパコン1台に対して世界でも例を見ないほどの巨額の直接投資を行なったのだから世界1位をとれて当然なのであって、これで世界1位をとれなかったら日本は完全に終わっている。

というと、何も知らない人は「スパコンへの巨額投資は他国もやってるじゃないか」と言うだろう。 確かに、米国も間接的投資額は日本より巨額の資金をつぎ込んでいる。 しかし、米国の投資は、基礎技術に限定した間接的投資であって、日本のような直接投資はやっていない。 政府が直接音頭をとって、かつ、巨額の国費をつぎ込んで国策スパコンを開発するなんて、一体、どこの発展途上国のやり方か? 確かに、そのやり方は発展途上国では有効なやり方だろう。 国内企業がスパコンを自力で開発できる技術も体力も持たないなら、国が直接援助してスパコン作りを体験する機会を与えることで、最低限の技術を身に付けさせることができる。 しかし、日本はその段階をとっくの昔に通り越しているはずだろう。

2010年11月の「京」システムの3264コアのシステムでの測定やBlue Gene/Qプロトタイプの測定のようにごく小規模のシステムでの試験的な測定結果がTop500に登録されることはあるが、全体の8割というようなシステムでの測定結果が登録されたことは例が無いと思われる。 LINPACKのチューニングを行い、性能を測定するには少なくとも2~3週間程度はシステムを占有する必要があるので、通常はフルシステムが完成してからの測定になる。

80%の計算ノードで測定値を出したのは、10~20PFlopsを目指す米国のBlue Waters、Sequoia、Titanなどのシステムが結果を出してくる前となる2011年6月のTop500に間に合わせて1位を取るためのウルトラCではないかと思われる。

「京」スパコンがTop500で1位に輝く - マイナビニュース

京は、ほぼ同時期に完成が見込まれていたローレンス・リバモア国立研究所のSequoiaにLINPACKで抜かれることがほぼ確実であった。 だから、「例が無い」「全体の8割というようなシステムでの測定結果」という「1位を取るためのウルトラC」を駆使して、TOP500のエントリーを急ぐ必要があったのである。 結果として、2期連続1位となったが、完成直前の2012年6月期には既に2位に陥落している。 大金で、かつ、不意打ちでアメリカを出し抜いて1位になっただけでは到底、日本の技術を誇示できない。 誰もが「それだけ大金つぎこめば1位とれて当然だろ」と思うであろうが、「日本の技術は凄い」とは誰も思わない。 結局、世界では「京」の1位は「日本は金の力で1位を手に入れました。コストパフォーマンスは秋葉原製品を組み合わせてスパコンを作った中国にも圧倒的に劣ります。」と嘲笑われているのかもしれない。

唯一の優位点は、93%という実行効率の高さだけである。 しかし、それは、コストも含めて見れば、決して、評価には値しない。

ビッグデータでは世界一? 

京の新しいベンチマークの結果がニュースになった。

九州大学と東京工業大学、理化学研究所、スペインのバルセロナ・スーパーコンピューティング・センター、富士通株式会社による国際共同研究グループは、2016年6月に公開された最新のビッグデータ処理(大規模グラフ解析)に関するスーパーコンピュータの国際的な性能ランキングであるGraph500において、 スーパーコンピュータ「京(けい)」による解析結果で、2015年11月に続き3期連続(通算4期)で第1位を獲得しました。

大規模グラフ解析の性能は、大規模かつ複雑なデータ処理が求められるビッグデータの解析において重要となるもので、今回のランキング結果は、「京」がビッグデータ解析に関する高い能力を有することを実証するものです。

スーパーコンピュータ「京」がGraph500で世界第1位を獲得 - 国立研究開発法人科学技術振興機構


これに対しHPCGは、産業利用など実際にソフトをスパコンで動かす際によく使われる計算処理をどれだけ速くできるかを競う。 理研の担当者は「京の総合性能の高さが改めて実証された」と話している。

スパコン「京」初の世界1位…産業利用の計算処理で - 毎日新聞

以下のリンク先で詳しく検証するが、結果を先に言うと、Graph500で1位になったり、HPCGで1位になったことをもって「ビッグデータ解析の分野で『京』が高い能力を持っていることを実証した」「京の総合性能の高さが改めて実証された」ではミスリードが酷すぎる。

独自開発プロセッサ 

そもそも論 

そもそも、京の開発には何のために1千億以上もの経費を必要としたのか。 それは言うまでもなく、プロセッサを独自開発するためである。 しかし、当時、独自プロセッサの開発は意味があったのか。 詳細は以下のリンク先で説明する。

文部科学省の「次世代スーパーコンピュータ・プロジェクト」が始まったとされる2005年10月の一月後の段階で、既に、x86が独走する兆候が出始めている。 京の事業仕分けの真っ只中の2009年11月時点では、x86の独走体制がまさに始まったばかりであった。 事業仕分け真っ只中の2009年当時、Intelは第4四半期だけで23億ドルもの純利益を出している。 たった四半期の純利益で京の開発費用を大きく上回っているのである。 資金力にものを言わせて独走態勢に入ったプロセッサ業者相手に、同じ原理のプロセッサに少しだけ独自技術を加えた猿真似プロセッサで競争を挑んでも勝ち目があるわけがない。 冷静に考えれば、やる前から勝負が見えていたことは明らかであろう。

SPARCの売れ行き 

蓋を開けてみても、やはり、莫大なコストをかけてプロセッサを独自開発しておきながら、世界では全く相手にされていない。

「京」の商用版であるPRIMEHPC FX-10の海外での売れ行きはいかがでしょうか?

残念ながら今のところはまだ海外で売れているとはいえません。

スパコンは富士通のソリューション力の結晶である - HPCwire Japan

2016年6月期にTOP 500にランクインしているSPARC64スパコンはわずか7台であり、全て日本の国立・国営組織のものである。

順位 プロセッサ Linpack性能 コア数 備考
5SPARC64 Ⅷfx10,510,000705,024京(理研)
23SPARC64 Ⅺfx3,157,000110,160PRIMEHPC FX100(JAXA)
26SPARC64 Ⅺfx2,910,00092,160PRIMEHPC FX100(名古屋大学情報基盤センター)
38SPARC64 Ⅺfx2,376,00082,944PRIMEHPC FX100(核融合科学研究所)
85SPARC64 Ⅸfx1,043,00076,800PRIMEHPC FX10(東京大学情報基盤センター)
97SPARC64 Ⅺfx989,60034,560PRIMEHPC FX100(理研)
98SPARC64 Ⅺfx989,60034,560PRIMEHPC FX100(気象庁気象研究所)

その日本の国立・国営組織の調達するスパコンであり、2016年11月のTOP500で京を抜いたOakforest-PACS(国立大学法人筑波大学と国立大学法人東京大学)は、Intelのx86系のメニーコア型プロセッサを採用している。 しかも、そのスパコンは富士通が製造したものである。 自社製スパコンにすら使われないプロセッサに何の意味があろうか。

見通しの甘さ 

正直に申し上げますと、当初はかなり期待していました。 開発を始めた当時、世界を見ると3〜4割がx86などコモディティを使ったクラスタでした。

スパコンは富士通のソリューション力の結晶である - HPCwire Japan

文部科学省の「次世代スーパーコンピュータ・プロジェクト」が始まったのは早くても2005年10月のはずである。 その1月後、x86はTOP500の全台数の68.6%を占め、Intel Xeon搭載のThunderbirdが38.3TFで5位につけている(首位のBlueGene/Lは280.6TF)。 富士通の参加が決まったのは2007年9月であり、その2月後、x86はTOP500の全台数の82.4%を占め、Intel Xeon搭載のHewlett-Packard Cluster Platform 3000 BL460cが117.9TFで4位につけている(首位のBlueGene/Lは478.2TF)。 TOP500において「3〜4割がx86などコモディティを使ったクラスタ」だったのは文部科学省のプロジェクトすら始まっていない2003年11月時点であり、その半年後にはx86のシェアは5割を越えている。 根本的な事実認識を誤っているのでは話にならない。

ただし、その製品品質から大規模なスーパーコンピュータを賄えるようにはならないと考えていました。 そのため、かえってSPARCのような専用設計されたCPUに世界がもう1度戻ってくると思っていたのです。 そういう専用設計のCPUでしかできないペタフロップス・オーダーの世界を作りたいというつもりでスタートしたのです。 ですが、5年の間に想像以上にx86が広がり、ペタ以上でも使用に耐えるようになってきており、現在ハードウェアの性能よりも海外では特にソフトウェアポータビリティが重要になってきており、当初思っていたような感じではなくなってきています。

スパコンは富士通のソリューション力の結晶である - HPCwire Japan

先にも説明した通り、「開発を始めた当時」は、まさしく、圧倒的な市場シェアを背景にした資金力でx86が急激に高性能化している真っ最中である。 RISCに対して原理的に劣勢とされた状況すら新技術で跳ね返した事実を10年以上前に目の当たりにしながら、「その製品品質から大規模なスーパーコンピュータを賄えるようにはならない」「かえってSPARCのような専用設計されたCPUに世界がもう1度戻ってくる」「当初はかなり期待していました」ではあまりにも楽観的すぎる。 冷静に判断すれば、その時点では多少不利な部分があっても、豊富な資金力があれば、対抗可能な新技術を開発(買収?)する可能性が高いことは容易に予測できたはずである。 予測が甘すぎるから「ペタ以上でも使用に耐えるように」なったことを「想像以上」だなどと寝惚けたことが言えるのである。

仮に、x86のレジスタ数が少ない(64bit命令で倍に増えたが、それでもRISCよりは少ない)所や、命令変換のための構造の無駄に付け入る隙があると予想したとしよう。 それによって「かえってSPARCのような専用設計されたCPUに世界がもう1度戻ってくる」としても、IBMのPOWERに勝てないだろうことは容易に予想がついたはずである。 IBMのPOWERは、純然たるRISCであり、「SPARCのような専用設計されたCPU」のひとつである。 x86のような弱みは全くなく、スパコンの当時のTOP500の約1割を占め、首位争いの常連でもあった。 x86に勝てても、IBMのPOWERに負ければ全く意味がない。

IBMは以前はMacintosh用のプロセッサを供給しており、当時は、主要ゲーム機3機種全てのプロセッサを供給していた。 コンピュータの老舗であり、コンシューマ市場も抑えており、スパコンの上位の常連でもあるIBMが強敵であることは誰の目にも明らかだろう。 にもかかわらず、IBMのPOWERが眼中にもなかったと言うなら、呆れるほかない。

もしも… 

もしも、Intel/AMD/IBMあたりからプロセッサの提供を受けるか、従来のスパコンとは全く違う視点のスパコンであれば、専門家達も反対はしなかっただろう。 それならもっと安いコストで高性能なものが作れたであろうと予想できるし、日本の技術開発にも意味はあったかもしれない。

「独自プロセッサを開発しないスパコン開発には意味がない」と言う人もいるだろうが、既に説明した通り、今の時代に、ノイマン型の独自プロセッサでプロセッサ市場に新規参入するメリットはない。 もちろん、他の事業でIntel以上に稼いでいる企業が、Intel以上に豊富な資金力を投入して挑戦するのでもなければ…である。 資金力がなければ、プロセッサ市場でどんなに頑張っても、三日天下が関の山である。

スパコン技術がプロセッサだけで成り立っているわけではないからこそ、無理に独自プロセッサにこだわる必要もないのである。

文部科学省の激甘評価 

文部科学省による激甘かつ恣意的な評価は以下のリンク先で批判した。

京の再評価まとめ 

  • アメリカのスパコン調達金額の何倍ものお金をかけて京を開発した
  • 京の性能はソコソコ以上はあると推定できるが、費用対効果は極めて悪い
  • 独自開発したプロセッサは日本の国立・国営組織にしか相手にされていない

やはり、スパコン京の開発が壮大な無駄遣いであったという事実は揺るがない。


  • このページの参照元

総合案内

法律

政治

経済

外交

中立的TPP論

外部リンク