TPPと米国国内法

中立かつ客観原則 

ここでは中立的な立場で事実関係を検証する。 賛成か反対かという結論は先に立てず、現実に起きた出来事、確実に起き得ること、一定程度の期待値を示す根拠のあることを中立かつ客観的に検証する。 可能性レベルの物事を論じるためにも、無視できない可能性があることを示す根拠を重視し、根拠のない当てずっぽうや思い込みや伝聞等の不確かな情報は、それが妄想に過ぎないことを示した上で門前払いとする。 賛成論でも間違いは間違いと指摘するし、それは反対論でも同じである。 ここでは賛成論にも反対論にも与しない。

TPP総論 

長期的視野では話は別だが、短期的視野で見ればTPPに参加するかしないかは大きな問題ではない。 それよりも、TPPとは全く無関係な混合診療完全解禁がもたらす患者の治療機会喪失の危険性やイレッサ訴訟の行く末によるドラッグラグ・未承認薬問題の悪化の方が、遥かに大きな問題であろう。 だから、TPPよりも重要な争点において国民に不利益をもたらす政策を党員に強要する日本維新の会は落選運動の対象とせざるを得ない。 混合診療の完全解禁を公約とする日本維新の会およびみんなの党には一切の主導権を握らせてはならない。 そのためには、これらの党に対する落選運動が必要なだけでなく、与党とこれらの党との連携も絶対に阻止しなければならない。 具体的運動の詳細は自民党への抗議方法を見てもらいたい。

米国国内法上の扱い 

合衆国憲法では、条約と連邦法は対等法であり、後法優先の原則がある。 また、協定の履行法にも国内法を優先する規定がある。 さて、では、それを法的根拠として、自由貿易協定の不履行を行なうことは可能だろうか。

国際法上の扱い 

条約法に関するウィーン条約(以下、「ウィーン条約法条約」)では 当事国は、条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用することができない 条約法に関するウィーン条約 - 東京大学東洋文化研究所田中明彦研究室 とされているので、自国の国内法を援用しての協定の不履行は認められない。 ただし、 いずれの国も、条約に拘束されることについての同意が条約を締結する権能に関する国内法の規定に違反して表明されたという事実を、当該同意を無効にする根拠として援用することができない。ただし、違反が明白でありかつ基本的な重要性を有する国内法の規則に係るものである場合は、この限りでない 条約法に関するウィーン条約 - 東京大学東洋文化研究所田中明彦研究室 とする規定はある。 「条約に拘束されることについての同意」とは批准等の締結手続を指す。 「条約を締結する権能に関する国内法の規定」とは、条約を締結するためには国会承認が必要とか、そういった規定のことである。 問題となっている米国の国内法は、条約の締結手続に関するものでもなければ、米韓FTAの留保事項に関するものでもない。 単に、締結した協定文についての米国国内での効力について規定しているだけに過ぎないので、「条約を締結する権能に関する国内法の規定」には該当しない。 よって、「自国の国内法を援用することができない」ので 効力を有するすべての条約は、当事国を拘束し、当事国は、これらの条約を誠実に履行しなければならない 条約法に関するウィーン条約 - 東京大学東洋文化研究所田中明彦研究室

現実問題として、協定に実効性を持たせているのは各国の国内法であるから、このようなやり方での一定の時間稼ぎは不可能ではないであろう。 だが、このようなやり方が通用してしまえば、条約・協定は全て骨抜きにされて協調的国際関係が根本から崩れてしまうから、他の全ての国が黙ってはいない。 その場合は、WTO紛争解決手続等に紛争解決が付託されることになることが予想され、国際紛争仲裁機関はウィーン条約法条約および国際慣習法を採用すると考えられる。 ウィーン条約法条約には批准していない国もあるが(たとえば、ウィーン条約法条約参加国リストでは米国は署名のみで批准していない)、ウィーン条約法条約は国際慣習法を法典化したものであり、前文では 自由意思による同意の原則及び信義誠実の原則並びに「合意は守られなければならない」との規則が普遍的に認められていることに留意 条約法に関するウィーン条約 - 東京大学東洋文化研究所田中明彦研究室 と、次の3つの原則が既に国際慣習法として確立していることを指摘している。

第094回国会参議院本会議においても、外務委員長が 主として国際慣習法として形成されてきた条約法、すなわち、国家間の条約の締結、効力発生、適用、解釈、無効、終了、運用停止等に関する規則を統一し、法典化したもの 第094回国会参議院本会議第21号会議録情報秦野章外務委員長発言 としているとおり、ウィーン条約法条約は従来の国際慣習法を法典化したものに過ぎない。 平成15年版外交青書第3章分野別外交第5節国際法規範の形成に向けた取組 - 外務省にも同様のことが記載されている。 以上により、ウィーン条約法条約未批准を理由として国内法を援用して条約・協定を反故にする権利があると主張しても、その主張を国際紛争仲裁機関が認める余地はほぼない。

国内法は誰を縛るか? 

そもそも、各国の憲法や法律は、その国における政府や国民の権利や義務を記したものであり、それは一部例外を除いて国外にまで効力が及ぶものではない。 であれば、米国の協定履行法における国内法を優先する規定は、次の最初の項目にのみ適用されると解釈すべきだろう。

  • 米国民が他の米国民や米国政府に対して国内法にない協定上の権利を主張すること
  • 米国民が他国民や他国政府に対して国内法にない協定上の権利を主張すること
  • 他国民が米国民や米国政府に対して国内法にない協定上の権利を主張すること

1番目については制限しても、協定の不履行にはならない。 2番目を制限すると、協定に加入するメリットが失われる。 3番目を制限すると、国際法違反になる。 つまり、2番目と3番目は、制限するメリットがないか、制限することが禁止されている。 よって、まとめると、米国の協定履行法の規定は、米国民が他の米国民や米国政府に対して権利を主張することを制限していると解釈するのが妥当であろう。 米国民が他国民や他国政府に対して権利を主張するときや、他国民が米国民や米国政府に対して権利を主張するときを対象にしたとまでは言えない。 仮に、それらを規定する意図があったとしても、国際法上、それらの規定は無効となる。

協定不履行法は意味があるか? 

仮に、国内法で協定の不履行を規定したと主張しても、国際法と矛盾する国内法の援用は無効であるという国際紛争仲裁機関の結論が出るまでの時間稼ぎが関の山であり、その代償として国際社会の信用を大きく損なう。 結果として、そうした国内法が存在しても、一度も使用されることのない抜かずの宝刀となるか、国際世論に負けて撤回するかのどちらかになることは目に見えている。 つまり、国内法援用を根拠にして協定の不履行を正当化する行為は、事実上、北朝鮮のように初めから国際社会の信用が全くない国にしかできない裏技であろう。

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