スパコン調達の必要性

調達・導入の原則 

以下のリンク先にも書いてある通り、スパコン「京」は無駄遣い以外の何物でもなかった。

しかし、高性能なスパコンの調達・導入の必要性まで安易に否定することは正しい姿勢とは言えない。 その必要性は、どのような国を作ろうとするかによる。

日本の主要産業が、科学技術に基づいた工業製品であることは疑う余地がない。 そして、日本国民であれば、その大多数が、日本の経済発展を目指すことには異論がないだろう。 さらに、その手段が、日本の主要産業を伸ばすことによって達成されることにも、多数の日本人が同意するであろう。 であれば、科学技術とその産業利用を育成することが重要であり、そのために、高性能なスパコンの調達・導入が必要なことは言うまでもない。

問題は、その調達・導入をどのように行うかである。 そのためには次のことを検討する必要がある。

  • 各1台当たりに必要な性能を根拠に基づいて積み上げること
  • 必要な総性能を根拠に基づいて積み上げること

その1台に求められる最高性能を超えるスパコンを作っても無駄になる。 何故なら、総性能が同じなら、性能の低いスパコンを多数作った方が価格が安いからである。 かと言って、その1台に求められる最低性能を満たさないスパコンを作っても役には立たない。 ちょうど良い性能のスパコンを必要な数だけ調達・導入することが重要である。

科学への無理解 

次のような研究に対して、「そんな夢物語を追い続けても我々の日常生活には何の役にも立たない」と言う人がいる。

  • 人類が生まれてもいない遥か過去の宇宙
  • 我々が生きているうち行き着くことができない遥か遠くの宇宙
  • 見ることもできない極端に小さな世界、

しかし、それは科学に対する無理解からくる誤解であり、科学の引き出しの重要性を説明することで論破できる。

例えば、GPSは、カーナビのみならず、携帯端末にも搭載され、日常生活において位置情報を取得するために欠かせない機器の一つである。 このGPSは、次のリンク先を見て貰えばわかる通り、一般相対性理論に基づいた時刻の補正をしないとまともな精度が出ない。

一般相対性理論は、宇宙の謎に迫ることができる非常に壮大な理論である。 アインシュタインが一般相対性理論を発表した時、将来、GPSに活用されるなんて夢にも思ってなかっただろう。 もっと言えば、一般相対性理論に使われたリーマン幾何学は、一般相対性理論よりも50年前以上に考案されているが、それまでは何に使うか全く分からない数学理論であった。 発案時には何に使えるのかすら分からない数学や引き出し=リーマン幾何学があったからこそ一般相対性理論が生まれたのであり、発表当時には日常生活に全く役に立たなかった科学の引き出し=一般相対性理論があったからこそ高精度のGPSが作れたのである。 このように、数学や科学の世界では、現時点では日常的は全く役に立たないものであっても、将来の日常生活に役立てるために必要な引き出しになるものがある。 だから、それら引き出しを増やすことは、我々の日常生活を支える実用科学の発展にとって重要である。

現代生活になくてはならないICの製造においても、量子力学的効果を無視できなくなっている。

GRAPEスパコンも日本の天文学の成果と言っても過言ではなかろうが、これは、創薬分野における安くて高性能な分子動力学計算機として大活躍した。 天文学の引き出しが創薬分野の役に立ったのである。

これら先人達が残してくれた引き出しが多数あるからこそ、現代の実用科学の発展があるのである。 それと同様に、将来の実用科学の発展に支障が出ないよう、今増やせる引き出しはドンドン増やしておくべきであろう。 でなければ、10年後、20年後の実用科学で行き詰まってしまう。 それら引き出しは、10年後に必要になるかもしれないし、1年後に必要になるかもしれないし、明日必要になるかもしれない。 それらが必要になるであろう時代の到来を無視し、必要性の判断材料がない現代の「常識」に基づいて安易に不要と決めつけるのは愚かな行為である。

スパコンの必要性 

気象予測、工業製品開発、創薬等の実用科学はもちろん、引き出しとなる科学分野においても、多くの分野の発展に高性能なスパコンが必要なことは今更言うまでもないだろう。 そして、すでに説明した通り、それらスパコン調達・導入の際には、次のことを検討する必要がある。

  • 各1台当たりに必要な性能を根拠に基づいて積み上げること
  • 必要な総性能を根拠に基づいて積み上げること

結果、調達・導入するスパコンを全て合わせた合計の総性能としては、世界最速クラスに並ぶ程度の処理能力は必要だろう。 しかし、それは、たった1台の世界最速クラスのスパコンを汎用機として調達・導入する必要性を示していない。 実際には、1つの用途のために多数の計算資源が必要になるのではない。 様々な用途に必要な計算資源を合算した結果として、世界最速クラスに並ぶ程度の処理能力が必要になるのである。 だから、世界最速クラスより少し劣るくらいのスパコンを専用機として何台も調達・導入した方が遥かに役に立つだろう。

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