量子力学

主流学説と通俗説の違い 

相対性理論においては、主流学説=通俗説と勘違いした人は、ほぼ全員、その通俗説を批判する。 しかし、量子力学では、不思議なことに、主流学説=通俗説と勘違いして、かつ、通俗説を信じる人が少なくない。 この違いが生じる理由は良く分からないが、どちらも、主流学説=通俗説とする勘違いを無批判に受け入れている。

量子力学の通俗説はかなり根深い。 専門の学生を名乗る人物でさえ、通俗説を真に受けていることが少なくない。 しかし、常識で考えて、物理学者が馬鹿げた仮説を無批判に受け入れるわけがない。 そう思える状況があったとしたら、真相は、次に2つのどちらかである。

  • 実は、物理学者も否定しているのだが、何故か、通俗説では物理学者が支持したことになっている
  • 一見、非常識に見えるが、それを受け入れるべき明確な根拠がある

疑問に思ったら、先ず、物理学者がどんな根拠に基づいてそう主張しているのかを調べてみるべきだろう。 ちゃんとした根拠が示されないなら、その情報を真に受けるべきではない。 そのような根拠のない情報は、実は、物理学者自身の言葉ではないことが多い。 「○○さんが、こう言っていた」という話が捏造されているのである。

そこで、このサイトでは、次のような原則に従って集めた情報を掲載している。

  • なるべく信頼できそうな物理学者の発信する情報を掻き集める
  • 歴史的経緯についても調べてみる
  • 根拠のない仮説には、遠慮なくオッカムの剃刀を適用する(無根拠なら可能性を広げるのが原則)
  • 前3原則に従った記述のみに留め、自ら独自仮説を提示することは絶対にしない

人間原理? 

「人間の意識が状態を確定させる?バカじゃねえの」と思った貴方は正常である。 通俗説では、人間原理的な仮説が、あたかも、主流学説であるかのように説明している。 しかし、それは、真っ赤な嘘であるので真に受けてはいけない。 通俗説が間違っているのであって、物理学者が馬鹿なわけではない。 現実には、人間原理的な仮説を支持する物理学者は極めて少ない。

現在、最も多数の物理学者の考えは、実験で分からないことを棚上げする考えである。 証明できない以上、仮説を述べることは出来ても、断定的に論じることは出来ない。 科学では、証拠もないのに断定することを禁じる考え=オッカムの剃刀と呼ばれる原則が重視される。 実験を重視し、分かる所から少しずつ理論の足場を固める考えはコペンハーゲン解釈と呼ばれる。

重ねあわせと隠れた変数理論 

観測前の状態が確定してるのか、していないのか、その答えは未だ明確ではない。 ただし、現在は、確定していない説が極めて有力となっている。

観測前から確定しているとする説は、隠れた変数理論と呼ばれる。 隠れた変数理論については、過去に、肯定か否定かを問わず、様々な立場で論文が発表され、実験も行なわれた。 そして、コッヘンとシュペッカーが隠れた変数理論が極めて困難となることを数学的に証明した。 これを覆すには、量子力学に現在採用されている定理とは別の定理が必要になる。 現在採用されている定理は、実験結果と良く合致しており、矛盾は何も見つかっていない。 それに勝るような、実験結果と良く合致し、かつ、隠れた変数理論と両立する新定理を提唱するのは難しい。 現在でも隠れた変数理論の研究が続けられているが、未だに、新定理の構築に成功した人はいない。

このように、確定していない可能性が高いと結論づけるだけの、それ相応の理由がある。 物理学者は、根拠もなく確定していないと決めつけている訳ではないのだ。 安易に決めつけることなく、多くの検証を行なっているのである。

観測問題と猫 

観測前の状態が確定していないとするなら、何時、どのようにして状態が確定するのか。 実は、何が状態を確定させるのかは良く分かっていない(=ミクロとマクロの境界が定義できない)。 誰もが「猫の生死が確定しないなんて、ありえない」と思う。 それは、物理学者も例外ではない。

しかし、どの段階で猫の生死が確定するのか、現在の物理学では良く分かっていない。 猫の生死が確定すると、実験結果と矛盾してしまう。 かと言って、猫の生死が確定しなくても、実験結果と矛盾してしまう。 現在の量子力学は、観測問題については、明確な結論が出ていない。 実験結果だけを見て、それに合わせて数式処理するしかほかない。

とはいえ、希望が全くない訳ではない。 観測問題を解決すると期待される新たな理論は存在する。

デコヒーレンス

ただし、その理論は未完成である。

Web百科事典 

こと学術的分野においては、日本語版Wikipediaは信用しない方が良い。 日本語版Wikipediaには、明らかな疑似科学や、疑似科学的解釈に誤読されやすい内容を多々含んでいる。 そうしたことのないようなルールがあるのだが、そのルールを都合よく捻じ曲げることがまかり通っているため、自浄作用は期待できない。

歴史的経緯 

下のリンク先で詳細説明していることを簡単に要約してみた。

前時代 

光の論争 

古典的な物理学の世界では、光の正体が粒子か波かという論争が長く続いていた。 そして、ヤングの実験マクスウェルの方程式によって、光=波と決着した。 しかし、アルベルト・アインシュタインが光電効果光量子仮説にて説明したことによって、光の粒子説が復活した。 今日では、光が粒子と波の双方の性質を併せ持つことは否定しようがない事実として認められている。

原子モデル 

アーネスト・ラザフォードは、ラザフォード散乱により、原子核の存在を確認し、長岡型原子モデルが正しいことを示した。 しかし、マクスウェルの方程式によると、プラスの電荷の周りをマイナスの電荷が回転する場合は、電磁波が放出して、電子の運動エネルギーは失われて一瞬で原子が崩壊してしまう。

ニールス・ボーアは、水素の真空放電のスペクトルが飛び飛びになる事実を元に、電子の軌道は量子条件を満たす軌道に限られ、その場合は電磁波を放出しないという仮説を発表した。

始まりの時代 

物質波 

光量子仮説を知ったルイ・ド・ブロイは、波と考えられていたものが粒子だったなら、粒子と考えられていたものが波でもおかしくないとして、物質波を提唱した。 そして、これは、ボーアの量子条件をうまく理由付けすることが出来た。 さらに、エルヴィン・シュレーディンガーは、物質波をシュレーディンガー方程式に従う波動関数として、その運動を数式化した。

補足しておくと、物質波は空間を拡がる波であり、決して、糸電話の糸を伝わる音のような直線上を伝わる波を想定してはならない。 素人考えで粒子の性質と両立する波を考えようとして、粒子の軌道上を進む波を考えてしまいがちだが、物質波は、粒子の軌道に限定されない自由な空間を進む波であることに注意する必要がある。 「そんな馬鹿な」と思うかも知れないが、これは実験によって実証されている事実である。 だからこそ、波動性と粒子性の二重性は不可思議な現象として議論されてきたのである。 複数の粒子が空間を拡がる波を形作っているとする説もあったが、それは、粒子の数が少な過ぎて不可能だと考えられている。 後の時代になって、二重スリット実験によって単一の粒子でも空間を拡がる波となることが実証されている。

確率規則 

二重性を持つことが実験で確認された事実とはいえ、粒子と波は性質が次のように違う。

  • 粒子は一箇所に存在するが、波は空間を拡がって行く
  • 粒子は不可分であるが、波は分割することが出来る
  • 直接的に観測されるのは粒子としての姿で、波は痕跡として間接的にしか観測されない

これらの性質の整合性を取るため、マックス・ボルンは確率規則を導入した。 それに対して、可観測量(物理量)を記述する隠れた変数があるはずだとアルベルト・アインシュタイン達から非難されている。

不確定性原理 

Werner Karl Heisenbergは、量子の位置と運動量等の2つの可観測量を同時に、かつ、正確に測定できないとする、不確定性原理を発表した。 これは、量子の可観測量は決まっているが分からないとする解釈と量子の可観測量は観測まで決まってないとする解釈を産んだ。

数学的基礎の確率 

1932年に、フォン・ノイマンの『量子力学の数学的基礎』という書籍等によって、量子力学の数学的基礎が確立した。 数学的基礎では、現実と実験結果の辻褄を合わせるために、観測に伴う波動関数の収縮を導入する射影仮説が採用された。 しかし、観測が何なのか、物理的に明確に定義することは困難であり、それは観測問題と呼ばれている。 コペンハーゲン解釈では、射影仮説を加工せずにそのまま採用する。

隠れた変数理論 

フォン・ノイマンの『量子力学の数学的基礎』では、隠れた変数理論(因果的決定論)が不可能であることを数学的に「証明」したとされる。 この「証明」に反発した人達は、EPR論文や『シュレーディンガーの猫』等、隠れた変数理論が間違っている場合の矛盾を示す思考実験を発表する。 1952年、デビット・ボームは、フォン・ノイマンの「証明」では否定できない、非局所的隠れた変数理論(ド・ブロイ&ボーム理論)の式を発表した。 これにより、フォン・ノイマンの「証明」に使われた仮定に誤りがあることが分かっている。 その後、コッヘン・シュペッカーの定理(1967)によって、隠れた変数理論が困難であると証明された。 ただし、一部の物理量を隠れた変数で記述できることは否定されておらず、その試みは今も続いている。

最新研究 

収縮理論 

デコヒーレンスや重力による収縮理論等、観測問題を解決すると見込まれる理論があるが、まだ、完成には至っていない。

多世界解釈 

Hugh Everettは、観測に伴う不連続な状態遷移をなくそうと試みた。 残念ながら、その試みは、実験事実と一致せず、失敗に終わった。 しかし、彼の残した数式(エヴェレットの定式化)は、多世界解釈と呼ばれる新しい解釈を産んだ。 多世界解釈の本質は、多世界を仮定することによる確率的理論の排除、すなわち、隠れた変数理論の復活にある。 多世界解釈は、その構成の1つとしてデコヒーレンスを採用しているが、デコヒーレンスは観測問題に決着をつける可能性のある理論である。 デコヒーレンス以外の多世界解釈の構成要素は、観測問題に決着をつける試みとならない。

コペンハーゲン解釈 

量子測定理論により、 被測定系でなく測定器に射影仮説を用いることで、測定器の誤差や反作用も、量子論で矛盾なく計算できる とされている。