「○○学界は閉鎖的」論法

どのような学界も(真っ当な学界であれば)斬新な新説を待望している 

現代科学において、主流学説と違う主張が受け入れられないことがある。 しかし、その主張が受け入れられない原因は、主流学説と違うからではなく、次のような問題があるからである。

  • 現実の化学や物理の基本法則とは全く違う法則が適用されている自身の空想のみを書き連ねている
    • ただし、新しい法則を提唱する場合は、その法則自身の矛盾がないことと、実験事実と適合していることを示せばよい
  • 実験・観察における実測値と証明済数式での理論値との定量的比較は一切行わない

現代科学は、常に、主流学説と違う画期的な新発見を求めている。 ただし、画期的な新発見は科学の必須条件に従ってはじめて生まれるものである。 疑似科学理論からは珍妙な奇説しか生まれない。 例えば、相対性理論量子力学は、それまでの主流学説と違う仮説であったが、ちゃんと受け入れられている。 化学の世界では、四元素説もフロギストン仮説も退けられてきた。 地学の世界では、天動説も退けられてきた。 生物学の世界では、自然発生説も環境変異遺伝説も退けられてきた。 このように、現代科学は、常に、主流学説を覆し得る画期的な新発見を求めている。

疑似科学者やトンデモ論者は、「〇〇学界は閉鎖的だ」と主張する。 しかし、自ら証明責任を果たしていれば、真っ当な学界はちゃんと受け入れる。 自らの証明責任を果たそうとせず、他人に転嫁するから、受け入れられないのである。 だから、本当に閉鎖的なのは、頑なに証明を拒む疑似科学者やトンデモ論者の方である。

自分たちの頭の中でだけ通用する空想のみを提示して、他人に受け入れられると思う方がおかしい。 本人にとって見れば、自分の空想は掛け替えのない宝物に見えるかも知れない。 しかし、現実の化学や物理の基本法則を無視しているのでは、他人から見ればただの妄想にすぎない。 科学者が見て価値を感じる物、すなわち、科学の必須条件に沿った仮説を提示しないから、科学者たちは受け入れないのである。

自らの誤りを顧みない素人たち 

真っ当な思考力を持つ人なら、専門家の見解と素人の見解が一致しないときは、真っ先に素人の見解を疑う。 その分野の専門知識を勉強したり、実験結果やシミュレーション結果や計算結果と照合するなどして、素人の見解に誤りがないか徹底的に検証する。 その上で、素人の見解に誤りがないことが確認できた場合に、次に、専門家の見解を同様に検証する。 真っ当な思考力を持つ人なら、当然、しっかりした検証ができた場合にしか専門家の見解を批判することはない。

ところが、疑似科学家たちは、いずれも、素人である自らの誤りを一切顧みない。 ダニング=クルーガー効果により、能力の低い人ほど、自己を過大評価する。 彼らは、その分野の専門知識を勉強することもなく、実験結果やシミュレーション結果や計算結果と照合することも一切しない。 素人特有の無知に基づいた納得論法「かもしれない」論法のみを根拠として、専門家が間違っていると安易に断ずるのである。 そして、そうした主張が認められないと、「日本の○○学界は閉鎖的」だと言う。

もちろん、専門家と言えども、間違うことが絶対ないとは言えない。 しかし、専門家が間違う可能性よりも、素人が間違う可能性の方が圧倒的に高いことは言うまでもない。 だから、真っ当な人は、専門家が間違いよりも先に素人の間違いを疑う。 しかし、疑似科学家たちは、いずれも、素人である素人である自らの誤りを一切顧みずに、専門家が間違っていると安易に断ずる。

人が間違いを犯す場合には、次のような可能性がある。

  • 単純ミス
  • 専門外である

その道の専門家であっても、単純ミスは避けられない。 しかし、単純ミスであれば他の専門家が気付くだろうし、自身の再考によっても誤りを修正できる。 だから、単純ミスが、一人の専門家の一時的見解として生じることはあっても、専門家の多数派の共通見解として長期間放置されることはあり得ない。

もう一つの可能性として、専門外であることが挙げられる。 難儀なことに、その人にとって何が専門であるのか、素人には容易に判断できない場合もある。 分野名からは何を専門とするのか、わかりにくいものもある。 また、専攻分野が全く同じ人でも、自らの専攻分野の類似分野に関しても幅広い知識を持つ人もいれば、少しでも自らの専攻分野から外れることには全く無知な人もいる。 だから、人によって専門の範囲は全く違う。 そのため、その人が専門家であるのかどうかは慎重に判断する必要がある。

一見専門に見えるが実は専門外である事例 

特殊な事例として、量子力学分野が挙げられる。 例えば、「【図解】量子論がみるみるわかる本」(ISBN4-569-63370-6, 監修:佐藤勝彦)等には、素人向けの啓蒙書として看過できない致命的な誤りがある。 しかし、この本の監修者の佐藤勝彦氏は、インフレーション宇宙論の提唱者であり、理論物理学者としては申し分のない実績のある人である。 そのような人がなぜ間違いを犯したのかと言えば、それは、間違いの内容が量子力学の標準理論の扱う範囲外だからである。 この本の標準理論の内容に関しては致命的な間違いは認められない。 しかし、標準理論から逸脱した説明には看過できない致命的な誤りがある。

量子力学では、計算方法が示す物理的意味について、標準理論では意図的に言及を避けており、個人で思考したり、仲間内で雑談することはあっても、公式に議論されることはまずない。 この点、主流派以外は、隠れた変数理論などの踏み込んだ議論を行う。 しかし、主流派は、そうした議論を意図的に避けているし、これから学ぶ人にも考える前に計算するよう指導する。 言及を避けているのだから、当然、主流派にとっては、計算方法が示す物理的意味に関しては全くの専門外なのである。 しかし、量子力学をよく知らない素人向けの啓蒙書としては、計算方法が示す物理的意味の説明が重要となり、標準理論から逸脱した説明が必要になる。 結果、主流派に与する人の書く素人向けの啓蒙書では、同様の誤りがよく見られることになる。

もちろん、記載内容が誤っていることは、信頼できる情報源に基づいて、標準理論が言及する範囲や専門誌に掲載された査読済み論文を調べることで判明する事実である。 決して、素人特有の無知に基づいた納得論法「かもしれない」論法を根拠としているわけではない。 つまり、一見専門のように見えて、実は専門外であることを、科学的根拠に基づいて示しているのである。

以上のように、ちゃんと検証した上で「専門家が(専門外の言及において)間違っている」と主張することは間違ったことではない。 自分たちが誤っている可能性を棚に上げて専門家が間違っていると安易に断ずるから、疑似科学家たちの主張は真っ当な言説として扱われないのである。

「日本の○○学界は閉鎖的」論法 

「日本の○○学界は閉鎖的」という主張も疑似科学ではよく使われる詭弁である。 しかし、それなら、「日本の○○学界」の権威の及ばない欧米の専門誌に論文を寄稿すれば良い。 欧米の○○学界にすら認められていない珍説なのに、「日本の○○学界は閉鎖的」と主張するのはチャンチャラおかしい。

そうでなくとも、画期的な大発見であれば、英語圏の専門誌に論文を寄稿するのは当然のことである。 どの学術界でも、英語以外の論文はあまり高く評価されない。 だから、まじめな研究者は、画期的な大発見をしたなら、当然、英語圏の専門誌に論文を寄稿する。 英語圏の専門誌に寄稿しないのでは、英語圏の専門誌では扱ってもらえないレベルの代物(証拠が弱い、画期的ではない等)だと自称しているに等しい。

リソースの有効利用 

科学教育の場では、到底実現し得ない夢物語に労力を割くことを嫌う傾向がある。

例えば、量子力学では、素人はその背景にある真の原理を解明したがるが、教育の場では「黙って計算しろ」と言われる。 それは、量子力学の真の原理を解明することが不可能(もしくは、不可能に限りなく近いほど困難)であるとわかっているからである。 不可能なことを追い求めることは、人や物等の資源(リソース)の無駄遣いとなる。 だから、量子力学の世界では「黙って計算しろ」と言われるのである。

科学の進歩は今ある手掛かりに基づいて一歩ずつ着実に行うものであり、何の手掛かりもない飛躍的な進歩は不可能である。 例えば、現代科学でワープ・エンジンや物質転送機を開発することは到底不可能なことである。 それなのに、ワープ・エンジンや物質転送機を作る研究に没頭してはリソースの無駄遣いとなる。 もちろん、将来のワープ・エンジンや物質転送機の開発につながる基礎技術のうちの一つであれば、現代科学でも成し遂げることができるかもしれない。 しかし、それらの過程をすっ飛ばして、いきなり、現代科学でワープ・エンジンや物質転送機を作ることは不可能である。 だから、そうした無謀な努力に対しては、いずれの学界も否定的である。 しかし、もし、本当にワープ・エンジンや物質転送機の開発に成功し、その明確な証拠が示せるなら、学界がそれを拒絶することはあり得ない。

少し脱線 

補足するが、真面目な科学誌には多数のワープ理論が掲載されているが、これらは相対性理論の光速の壁を回避する方法についての考察であり、ワープを実現する方法ではない。

わかりやすい例として、キップソーンのタイムマシンの例を挙げる。 相対性理論に基づいて計算すると、ブラックホール同士を繋げることが可能で、それにより2つの空間を繋げるワームホールが作れることになる。 キップソーンは、その片方のブラックホールを高速で動かせば、2つの出入口に時間差が生じて時間旅行が可能になるとした。 しかし、この理論はタイムマシンの開発に全く役に立たない。 というのも、次のような重大課題が全く未解決であるからである。

  • どうやってブラックホール同士を繋げるか
  • 一方のブラックホールをどうやって動かすか
  • 潰れずにブラックホール内部にどうやって突入するか
  • ブラックホール内部からどうやって脱出するか

同様に、科学誌に掲載されたワープ理論では、ワープ・エンジンの開発に必要な重大課題が全く未解決である。 だから、これらのワープ理論に基づいてワープ・エンジンが開発できるわけではない。

ついでに言えば、量子テレポーテーションも物質転送機を作るうえでは全く役に立たない。

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