観測問題

概要 

観測問題とは、平たく言えば、波動性と粒子性の二重性の整合を取ろうとしたときに立ちはだかる問題。 波的な性質については、シュレーディンガー方程式に従う波動関数で記述できる。 しかし、粒子的な性質は、それだけでは記述できない。 波動関数から確率的に導くことはできるが、確定的な値は導けない。

解決手段 

標準理論では、射影仮説を採用し、観測に伴って波動関数の収縮が起こるとしている。 しかし、その「観測」を明確に定義するのは困難である。

射影仮説は,量子論が,実験事実と合致しかつ無矛盾な理論体系になるために必要であるからこそ導入された公理なのである.


射影仮説には,次の2つの役割がある:
(A)異なる測定値に対応する状態ベクトルの間の干渉をなくす
(B)干渉の無くなった2つの状態ベクトルのうちのどちらかを抜き出す


要するに,どちらか定まらないものから,どちらか一方だけを選び取るためには,いつも定まった値をとるようなダイナミックスに従うものが必要なのである. しかるに,この世界の全てが量子論のユニタリー時間発展に従うと考えると,そのような,常に定まった値をとるダイナミックスに従うものが存在しなくなってしまうので,困るのである. 射影仮説は,このやっかいな問題を断ち切る役割も担っているのだ.

量子測定の原理とその問題点 by 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系&東京大学大学院理学系研究科物理学専攻:清水明教授

射影仮説は、「実験事実と合致しかつ無矛盾な理論体系になるために必要」で、「どちらか定まらないものから,どちらか一方だけを選び取る」。 これは、言い替えると、「実験事実と合致しかつ無矛盾な理論体系になるため」には、「どちらか定まらないものから,どちらか一方だけを選び取る」ことが必要であることを意味する。 そして、「この世界の全てが量子論のユニタリー時間発展に従うと考える」と「どちらか定まらないものから,どちらか一方だけを選び取る」のに必要な「常に定まった値をとるダイナミックスに従うもの」がなくなるなら、「この世界の全てが量子論のユニタリー時間発展に従うと考える」と「実験事実と合致しかつ無矛盾な理論体系」になっていない。 つまり、存在しないはずの「常に定まった値をとるダイナミックスに従うもの」=「観測」を仮定して、射影仮説を適用しないと「このやっかいな問題を断ち切る」ことはできない。

まとめると「観測」は量子論的には存在しないはずである。 しかし、「観測」を仮定することは「実験事実と合致しかつ無矛盾な理論体系になるために必要」である。 存在しないはずの現象では、明確に定義など、できるはずがない。

尚、「観測」をどのように解釈するかで、理論と実験結果の整合性が大きく変わる。

コペンハーゲン解釈を間違って理解し、なんでもかんでも非測定系に直に射影仮説とBornの確率規則を使ってしまうと、
・実験と合わない場合がある
・測定器の誤差も測定の反作用も、計算できない
・理論が内部矛盾を示すことさえある
しかし、コペンハーゲン解釈を正しく理解し、正しく使えば、
・(今まで行われた)全ての実験と合う
・測定器の誤差や測定の反作用も、きちんと計算できる
・整合した理論になる(古典ミンコフスキー時空の上の理論としては)
まあ、それでも気持ち悪いですが.

Modern Theory of Quantum Measurement and its Applications by 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系&東京大学大学院理学系研究科物理学専攻:清水明教授

観測の定義の困難さはシュレーディンガーの猫の思考実験が的確に表しているとされる。