デコヒーレンス

概要 

デコヒーレンスの理論によれば、ミクロなレベル以上で大幅に異なる状態の間の干渉は、非常に急速に消滅する。 2スリット実験での1つの電子が左のスリットを通ったか右のスリットを通ったかの違いしかない歴史は、大きく干渉し合う。 しかし多くの粒子が異なる状態にある歴史は、ほとんど干渉しない。
「量子力学の解釈問題―実験が示唆する『多世界』の実在」(ISBN-10:4062576007,ISBN-13:978-4062576000,著:ColinBruce,訳&注:和田純夫)P.168

もっと分かり易く噛み砕こう。 デコヒーレンスは、独立した(エンタングルメントしていない)量子同士が相互作用する時に発生する。 デコヒーレンスの進行速度は、相互作用する一連の物体の大きさによって異なる。 小さい物体のデコヒーレンスは極めて遅く、大きな物体のデコヒーレンスは極めて速い。

デコヒーレンス

二重スリット実験で、電子はスリット板(実際には、電子線バイプリズム)と相互作用するが、スリット板は比較的小さいのでデコヒーレンスの速度はあまり速くない。 そして、 電子がスリットからスクリーンに達するまでは1億分の1秒である。 結果として、二重スリット実験では、スクリーンに波が到達するまでの間、デコヒーレンスがほとんど進行しないので、波の干渉が発生する。 しかし、それを「観測」すると、少なくとも、人間というマクロの物体がエンタングルメントするので、デコヒーレンスが急速に進行する。 結果として、デコヒーレンス後の状態だけが観測されるので、あたかも、波動関数の収縮のように見える結果が残る。

検証 

デコヒーレンス理論は、1つのシステムが干渉性を失う(decohere)のにかかる時間(デコヒーレンス時間)、古い表現を使えば状態の収縮が起こるのにかかる時間の正確な計算を可能にする。
「量子力学の解釈問題―実験が示唆する『多世界』の実在」(ISBN-10:4062576007,ISBN-13:978-4062576000,著:ColinBruce,訳&注:和田純夫)P.135


どちらの実験でも、デコヒーレンスの予想は確認された。 誤差は比較的大きいが、現在提案されている新しい実験は、精度を劇的に上げるはずである。
「量子力学の解釈問題―実験が示唆する『多世界』の実在」(ISBN-10:4062576007,ISBN-13:978-4062576000,著:ColinBruce,訳&注:和田純夫)P.137-138

一見、有望に見える理論であるが、 数学的厳密さに欠ける とされる。

ただし、この解釈にも、いくつかの問題点がある。中でも「致命的」ではないかと思われるのが、数学的な厳密さに欠けている点である。 この理論が正当だと認められるには、デコヒーレンスが完全で、分岐した状態が「互いに全く干渉しない」ことが必要である。 ところが、実際に証明できたのは、きわめて簡単なモデル的システムで「互いにほとんど干渉しない」状態に分岐するということでしかない。 わずかに残った「干渉する部分」──死んだ猫にほんの少し混じっている生きた猫の要素?──が、遠い将来、巡り巡って何らかの影響を及ぼすことは、あり得ないとは言えない。
シュレディンガーの猫-科学と技術の諸相(http://www005.upp.so-net.ne.jp/yoshida_n/kasetsu/subject/sub13.htm)


なお,割とポピュラーになっている,「Consistent Histories」とか「多世界解釈」などの理論でも,干渉項が消えることが大前提になっているので,この節で述べた,「実は干渉項が完全に消えることは示せていない」という問題は,大問題として残ったままになっている事を注意しておく.
量子測定の原理とその問題点by東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系&東京大学大学院理学系研究科物理学専攻:清水明教授(http://as2.c.u-tokyo.ac.jp/archive/MathSci469(2002).pdf)

補足すると、多世界解釈では、デコヒーレンスが採用されている。