量子力学の用語

はじめに 

趣旨が確実に伝わるなら、間違った用語を使っても差し支えない。 しかし、その言葉が持つ本来の意味と誤用のどちらでも文意が通じる場合は、正しい用語を使わないと混乱を産む。 以下、そうした混乱を産みかねない誤用について指摘する。

量子と粒子 

粒子状の性質(1点に存在すること)までを意味しない最小単位を持つ何かという意味で「粒子」という言葉を使う人がいる。 その意味を指す正しい言葉は「量子」であり、「粒子」と言ってしまうと粒子状の性質まで表してしまう。 量子を「粒子」と呼ぶ誤用を許してしまうと、単に「粒子」と言った場合に、それが粒子状の性質について言及したのかどうか分からなくなってしまう。

解釈問題と観測問題 

観測問題とは、射影仮説における波動関数の収縮を引き起こす「観測」が物理的に定義困難なことを意味する。 一方で、解釈問題とは、量子力学のどの解釈が正しいのか答えが出ないことを意味する。 両者は全く違う問題であるが、解釈問題の意味で「観測問題」と言う人がいる。

量子力学と標準理論 

基本 

量子力学(量子論)と隠れた変数理論は違う」という言い方をする人がいる。 これは、「自動車と大型自動車は違う」と言うのと大差ない、明らかに間違った言い方である。 自動車の例では、「小型自動車と大型自動車は違う」というような言い方をしなければならない。 基本原則を言えば、ある呼称に対して、何らかの条件だけに限定することは、次のような場合にだけ許される。

  • 呼称に前提を明示する
  • その時点の知見において、明らかに間違っている等の除外すべき明確な理由がある
  • 正当な手段により、条件限定の物事をそう呼ぶことが明確に定義されている

これは、量子力学(量子論)以前の科学の基本の問題である。 個人的思想や個人的哲学について論じるなら、科学の基本を無視しても差し支えない。 しかし、科学理論を論じるなら、当然、科学の基本には従わなければならない。

また、正しい呼称を使うことは、国語の基本の問題である。 国語の基本も科学の基本も分からぬ者が量子力学(量子論)を語るのは百年早い。

ニュートン力学の例 

ニュートン力学と相対性理論は、違う理論として扱って構わないことになっている。 これは、結論から言えば、その呼称によって前提が明らかになっているからである。

相対性理論は、前提の変更に応じて修正したニュートン力学と言っても過言ではない。 ニュートンも、空想理論を目指してニュートン力学を発表したわけではないだろう。 言うまでもなく、現実に即した理論を目指したのだろうから、その前提等に間違いがあれば、それを修正することはやぶさかではないはずである。 以上のとおり、ニュートン力学も相対性理論も、同じことを目指した同じ分野の理論である。 ただ、その発表当時の知見に差があったために、結論に差が出ただけに過ぎない。

それなのに、この2つは違う物として扱っても間違いとはされない。 それは、どちらにも、「ニュートン」「相対性」といった、前提条件を限定する名前が付けられているからである。 「相対性」とは、時間や距離が相対的であることを前提とした理論であることを表している。 また、何の断りも無く「ニュートン力学」と言った場合は、当時のニュートンの知見から、時間や距離が絶対的であることを前提とした理論であることが明らかである。 つまり、両理論の前提が違うことが名称に明確に詠われているから、違う理論として区別できるのである。

尚、現代では、ニュートン力学を相対性理論の条件付き近似とすることも多いので、その場合は、ニュートン力学を相対性理論と別の理論として扱うのは間違いである。

量子力学の場合 

量子力学(量子論)とは、特定分野の科学理論を示す名前であり、特定の学説だけを意味する言葉ではない。 「量子力学(量子論)」という呼称には、何処にも、隠れた変数理論を除外することが明示されていない。 隠れた変数理論ではない理論に限定したいなら、「量子力学(量子論)」という呼称とは違う呼称を使わなければならない。

今日において、非局所的隠れた変数理論が間違っていることの証明は為されていない。 また、隠れた変数理論は、手続として科学理論の条件を満たしている。 よって、暗黙の了解としても、隠れた変数理論を除外することは出来ない。

では、定義としてはどうだろうか。 隠れた変数理論を除外した定義が、真っ当な物理学会で採択されたと言う話は聞いたことがない。 私が知らないだけかも知れないが、分野を区別する用語について、明確な理由も無く、特定の科学理論だけを除外する定義を採用するとは考え難いだろう。 手続として科学理論の条件を満たしているのであれば、真偽が定かでない理論は、真偽不明な可能性として扱うのが適切な科学的姿勢である。 よって、隠れた変数理論を除外した定義を採用するのは、明らかに非科学的姿勢であり、真っ当な物理学会のやることではない。

以上のとおり、隠れた変数理論を除外した理論を量子力学(量子論)と呼ぶのは、科学的にも国語的にも間違いである。 隠れた変数理論を除外したいのであれば、「量子力学(量子論)の標準理論」や「ノイマン力学」や「ボーア力学」や「非因果的量子力学(量子論)」等、隠れた変数理論を含まないことを明示しなければならない。

尚、ベルの不等式等の説明を行なうときに限れば、局所的隠れた変数理論を除外することも不適切である。 何故なら、ある証明事項を説明するには、その証明以前の用語定義に従わなければ循環論証になるからである。 局所的隠れた変数理論が否定される以前の前提に立つならば、それを除外する条件を満たしていない。


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    科学