J.Wheelerの遅延選択実験

実験概要 

以下は、大物物理学者のJ. Wheelerが提唱した実験である。 マッハ・ツェンダー干渉計の原理を応用して、次の(a)と(b)の光の干渉実験のセットを用意する。 BS1/BS2はハーフミラー(ビームスプリッター)であり、D1/D2は検出器である。

遅延選択実験1

(a)と(b)の違いはBS2があるかないかだけである。

レーザー光が光源として使われ、光が検出器に到達するまでの時間のエネルギー量が量子1単位以下になるように調整されている。 (a)では2つの経路を通った波が、それぞれ別々の検出器に到達するため、波の干渉が生じない。 その結果、D1とD2の検出確率は半々となる。 (b)では2つの経路を通った波が、それぞれBS2で半分ずつに分けられ、それぞれの合成波がD1とD2に到達する。 D1では両経路の位相が逆相になり、かつ、D2では両経路の位相が同相になるよう、経路長が調整されている。 結果として、D1では合成された波が打ち消しあうので、D2でしか光を検出できない。

では、光がBS1を通過した後に、BS2を置くかどうかを決めるとどうなるか。 実際には、ビームスプリッターを高速で出し入れするのは難しいので、高速シャッター(オプティカルチョッパー)を用いて等価的装置を構成している。

遅延選択実験2

シャッターを閉じると、BS2には下の経路の光しか通らないが、BS2はハーフミラーであるのでD1とD2の検出確率は半々となる。 シャッターを開くと、BS2には両方の経路の光が通り、かつ、波の干渉により、D2でしか光を検出されない。 つまり、BS2を入れない場合は(a)と同じ結果が得られ、BS2を入れた場合は(b)と同じ結果が得られるのであり、実験結果には何も変化はない。

以上の結果は波動性と粒子性の二重性で何の問題もなく説明できる。

珍妙な仮定 

どういうわけか、次のような珍妙な仮定を持ち出す人がいる。

  • (a)では、BS1以降の一方の経路を波動性のない粒子が通過する
  • (b)では、BS1以降の両方の経路を粒子性のない波が通過する

高速シャッターを用いる場合に当てはめると次のようになる。

  • シャッターを閉じた場合は、BS1以降の一方の経路を波動性のない粒子が通過する
  • シャッターを開いた場合では、BS1以降の両方の経路を粒子性のない波が通過する

どうして、そのような珍妙な仮定を持ち出すのか全く意味がわからない。 常識的に考えれば、(a)と(b)で共通となっているBS2までの経路で光が違う振る舞いをするとは考える理由が全くない。

この仮定では、最初にシャッターを閉じておいて、BS1通過後にシャッターを開けると、BS1通過後の光は粒子であるため、D1とD2の検出確率は半々となるはずである。 しかし、実際の実験では、シャッターを開けた場合はD2でしか光を検出していない。 この矛盾する結果に対して、最初の仮定を持ち出した人は、未来が過去を決める証拠だなどと言い出す。 正常な思考力を持つ人なら、全く意味がわからないだろう。 ある仮定で実験結果が説明できないなら、真っ先に、その仮定が間違いではないかと疑うのが科学的な姿勢である。 仮定を検証することなく、さらに突拍子もない仮定を追加するのでは、疑似科学の典型的な事例である。

実験の真相 

Wheeler「光子がスリットを通過した後に光源を置くかどうか(すなわち、波動性と粒子性のどちらを観測するか)の選択を行ったとしたらどうなるだろうか?」

もしこれまでと同じように、光源があった時に粒子性を示し、光源が無い時に波動性を示せば、スリットを通過した時点ではどちらの状態か決まっていないことが言える。

つまり、波動性も粒子性も一光子に共存しているという事が言える!?

大阪大学大学院 久野・山中研究室合同発表資料

これによると、測定の仕方が量子の波の性質に影響を及ぼすかどうかを調べようとしたようだ。 具体的に言い替えると、二重スリット実験を分かりやすく説明で説明した二重スリット実験で粒子がどちらのスリットを通過したか調べると干渉縞が発生しなく原因について、次のどちらによるのかを調べようとしたようだ。

  • どちらのスリットを通過したか調べることで量子が波の性質を失う
  • 波の性質を保持しているが、それとは別の原因で干渉縞が消える

波の性質を失うことによって干渉が発生しなくなるのならば、スリット(この実験では1つ目のビームスプリッターに相当)を通過する段階で波の性質を失っていなければおかしい…………本当に? 干渉領域より遙か手前で波の性質を確認できても、干渉領域に達した段階で波の性質を保持している証拠にはならないはずである。 それはともかく、次のような実験を行なえば、1つ目のビームスプリッターを通過した時点で波の性質を保持しているかどうかは確認できる。

  1. 最初は、2つ目のビームスプリッターを抜いておいておいて、粒子性を測定する装置にしておく。
  2. 量子が1つ目のビームスプリッターを通過した後、2つ目のビームスプリッターを入れて、波動性を測定する装置に切り替える。
  3. これで干渉が発生すれば、粒子性を測定しようとしても、最初のビームスプリッターを通過するときに波の性質を持っている。

つまり、1つ目のビームスプリッターを通過した段階で波の性質を保持しているかどうかという物理現象より後に、測定の仕方を「遅延」選択しているのだ。 実際には、ビームスプリッターを高速で出し入れするのは難しいので、高速シャッター(オプティカルチョッパー)を用いて等価的装置を構成している。

遅延選択実験2

これにより、どのように測定しようとしても、1つ目のビームスプリッターを通過した段階で波の性質を保持していることは確認された。 少なくとも「波を測定しようとしたか、粒子を測定しようとしたかに関係なく、経路が別れた直後は波としての性質を維持している」とは言えるだろう。 しかし、測定の仕方が量子の波の性質に影響を及ぼさない(もっと厳密に言うと、量子は、その時々で、波になったり粒子になったりするのではなく、波としての性質と粒子としての性質が一体不可分の物と表現すべきだろうか)ことが確認された……………と言えるのだろうか?

まとめ 

通俗説 

分かりやすい二重スリット実験の説明で説明した二重スリット実験のスリットを通過した後は次のいずれかになると主張する人がいる。

  • 経路を特定しようとすると波動性のない粒子になる
  • 経路を特定しないと(粒子性のない)波になる

もちろん、このように考える合理的理由は何もない。 しかし、何故か、彼らはこのような珍妙な仮定を採用する。 この仮定で遅延選択実験を行うと、最初のビームスプリッター(二重スリット実験のスリットに相当)を通過する時点では経路を特定するセットにするか、特定しないセットにするか、未だいずれかを選択していないにも関わらず、次のような結果となる。

  • 経路を特定しようしても、しなくても、最終的かつ結果的に経路を特定するセットになっていれば、波動性の有無は不明で粒子性のみ観測される
  • 経路を特定しようしても、しなくても、最終的かつ結果的に経路を特定しないセットになっていれば、二つの経路を通過する波動性=干渉(と粒子性)が観測される

最初の仮定を採用すると、この実験結果は、説明が困難である。 しかし、彼らは、未来の選択に合わせて量子が粒子になったり波になったりすると主張する。 つまり、珍妙な仮定に更なる珍妙な仮定を重ねて、この結果が未来が過去を決める証拠だと言う。

物理学者の見解 

大阪大学大学院の久野・山中研究室合同年末発表会によれば、Wheelerは次のいずれが正しいかを検証しようとした。

  • スリットを通過した後は次のいずれかになる
    • 通過スリットを特定しようとすると波動性のない粒子になる
    • 通過スリットを特定しないと(粒子性のない)波になる
  • 通過スリットを特定しようとするかどうかによる変化はない(波動性と粒子性を併せ持つ)

実験を行うと、最初のビームスプリッター(二重スリット実験のスリット)を通過する時点では経路を特定するセットにするか、特定しないセットにするか、未だいずれかを選択していないにも関わらず、次のような結果となる。

  • 経路を特定しようしても、しなくても、最終的かつ結果的に経路を特定するセットになっていれば、波動性の有無は不明で粒子性のみ観測される
  • 経路を特定しようしても、しなくても、最終的かつ結果的に経路を特定しないセットになっていれば、二つの経路を通過する波動性=干渉(と粒子性)が観測される

前者の仮定を採用すると、この実験結果は、説明が困難である。 よって、前者の仮定は間違いで、後者の仮定が正しいと推測される。

この実験結果から確実に言えることは、Dr.Quantumによる二重スリット実験トンデモ解説とは違い、量子の「振る舞い」は「自分が見られている」かどうかによって変化しないということである。 つまり、「まるで、自分が見られていることに気づいたかのように」「観測された電子は、観測される前とは違う振る舞いをした」は遅延選択実験の結果と整合しない。 あまりにもバカバカしい珍説を敢えて検証し、当然予想される通りその珍説が正しくないことを証明したという以上の意味はないようである。

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