二重スリット実験
二重スリット実験
実験内容と結果
一度別れた後に再び合流するような経路を設け、そこに位相の揃った波を通すと干渉縞が発生する。 トーマス・ヤングは、波のこの性質を利用し、2つのスリットを用いた干渉実験で光が波であることを示した。
光も電子も、それ以上分割できない最小単位を持つ。 こうした性質を持つ物を量子と呼ぶ。 量子力学では、量子は、波としての性質を持つとされる。 量子の波としての性質を確認するためにヤングの実験と同様の二重スリット実験が考案された。 ただし、実際の実験では「スリット」ではなく電子線バイプリズムが用いられた。 これは、1ミクロンの金属糸で左右の経路を分断したものである。 金属糸は、プラスに荷電してあるため、マイナス荷電の粒子の軌道を中央寄りに曲げる働きもある。
たとえば重力下での粒子(図ではボールにしてある)の運動を考えると、高いところほど位置エネルギーmghが大きいから、その分物質波の波長が長くなる(運動エネルギーが減る)。 この場合はポテンシャルは連続的に変化していくが、図のように段階的に変化していくとしよう(図で書いた点線の境界面を上に超えるごとにmgΔhずつポテンシャルが高くなるとする)。
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境界線を上に超えるごとに波長が長くなっていくから、そのたび、波が下に下にと曲げられていく。 上の問題を解くとわかるように、これは重力場中で投げ上げられた物体が落下するという現象だと解釈できる。 古典力学でも波動力学でも運動方程式が出てくるのだが、古典力学では力によって運動量が変化すると説明し、波動力学では波長の差が波を曲げる、と説明するのである。
初等量子力学講義録2005年第7回-琉球大学理学部物質地球科学科准教授前野昌弘の講義録(http://www.phys.u-ryukyu.ac.jp/~maeno/qm/qm7.html)
量子1個分を射出し、スクリーンへの着弾を確認する。 確認した後、また、量子1個分を射出する。 これを、繰り返すと、毎回毎回、スクリーンには1個以下の輝点が発生する。 1個以下となるのは、スクリーンへの着弾確率が100%でないからである。 そして、限りなく多数の射出を繰り返すと、輝点の集合体には一定の模様が現れる。 この模様は、波の干渉縞に良く似ている。
電子線バイプリズムを用いた電子の干渉実験の他、光でも量子1個単位での干渉実験が行なわれている。
ヤングの実験で入射光を非常に弱くしてみる。
スクリーンには、薄い縞模様ではなく、点が現れる!
浜松ホトニクス中央研究所
初めて学ぶ物理学量子論by筑波大学物理学系素粒子理論研究室金谷和至教授(http://www.rccp.tsukuba.ac.jp/people/kanaya/Teaching/2007/070618quantummechanics.pdf)
光の場合も、輝点の集合体による干渉縞模様が発生している。
歴史的経緯
量子1個でも粒子の性質と波の性質が現れることは、物質波が提唱されて間もない頃から予想されていたようである。
問題は、波のような性質をもたらすほど光子の数は多くないことである。
つまり、ある一瞬には、室内の光子数は10の12乗個程度しかない。 これは、1立方ミリメートル当たり10個程度ということであり、空気分子が10の16乗個程度であるのと大きな違いである。
「量子力学の解釈問題―実験が示唆する『多世界』の実在」(ISBN-10:4062576007,ISBN-13:978-4062576000,著:ColinBruce,訳&注:和田純夫)P.35
そして、それは量子1個単位の二重スリット実験によって、予想から約50年後に証明された。
事実関係等の整理
この実験の結果から直接読み取れる事実を次に列挙する。
- 量子1個分からは輝点1個が発生する。(実験の趣旨から考慮して、着弾しない場合は無視して差し支えない)
- 輝点は一定範囲に確率的に分布している。
- 輝点の確率分布は波の干渉パターンに外見が似ている。
その事実に対して、従来概念との整合を取るために、次のような仮定を加える。
- 輝点を従来概念「粒子」の着弾点と見なす
この前提で干渉縞が発生するには、干渉縞に見えるような確率分布で粒子の着弾場所が決まらなければならない。 つまり、この実験の結果を説明するためには、粒子の着弾場所が干渉縞風の確率分布に従うことを説明する必要がある。 言い替えると、着弾場所の確率分布を説明できない仮説は、科学的に何の意味も持たない。
粒子と波の二重性
整理した事実関係等から、次のとおり、考察できる。
- 量子を観測すると、直接的には、粒子状の性質が現れる。
- 輝点の確率分布から、間接的に、波の存在が推定される。
つまり、量子には、粒子としての性質と、波としての性質の2つの異なる性質が観測される。 粒子状の性質について、輝点を見れば一目瞭然である。 では、波は、どのようなものか。
- 輝点の分布範囲から、波は一定の空間的な広がりを持っている。
- 波の強度分布と輝点の確率分布がほぼ比例関係にあると推定される(正確には、波の振幅の2乗と確率が正比例)。
- 干渉を起こすためには、波は、2つの経路を通過する必要がある。
ここで重要なことは、波が空間的な広がりを持っていることである。 一方、輝点は、1点に集約されており、空間的な広がりを持たない。 つまり、量子には、1点に集約された粒子状の性質と、空間的な広がりを持つ波としての性質が見られる。
身近な例 どう数える? どこにいる? 入口がいくつ もあったら? 粒子 小石,ボール 1個、2個・・・ 空間の1点に局在している どれかひとつだけ通る 波 水の波,音,電磁波 個数は数えられない。強さはある 空間に拡がっている 全部通り、合流すると重なり合う 初めて学ぶ物理学量子論by筑波大学物理学系素粒子理論研究室金谷和至教授(http://www.rccp.tsukuba.ac.jp/people/kanaya/Teaching/2007/070618quantummechanics.pdf)
1点に集約される性質と、空間的な広がりを持つ性質が両立する…とは、何とも奇妙な話である。 しかも、たった1個分の量子が、1点に集約される性質と、空間的な広がりを持つ性質を併せ持つのは不思議な現象である。 複数の量子であれば、1つ1つは1点に集約されていても、複数の集合体でなら空間的な広がりを構成できるだろう。 しかし、たった1個分の量子では、そのような芸当は不可能である。 誤解のないように補足するが、不可思議な現象は経路が分割された後=スリット(金属糸)通過後にだけ起こっているわけではない。
図を見て分かる通り、経路が分割される前から、波と粒子の存在座標には不一致が見られる。 これが不可思議であることは、経路の分割の前後で変わりはない。 ただし、分割後の不可思議さは多少増えている。 経路分割前には、波の存在範囲に空間的連続性があり、かつ、波の存在範囲のいずれかに粒子が存在する。 一方で、経路分割後には、波の存在範囲が不連続となり、分裂した波の一方には粒子が存在しない。 不可思議さが増えていることは確かだが、不可思議さの増分は元からある不可思議さに比べれば大したことはない。 何故なら、この不可思議さの本質は、波と粒子の空間的特性が一致しないことにあるのであり、それがなければ経路分割後の不可思議さも発生しないからである。 いや、経路が二手に分かれていても、空間的に分断されているわけではないのだから、空間的に連続的な波も実現可能である。
このように考えると、経路が1つだろうが2つだろうが、不可思議さには変化がないと言える。 また、波が2つの経路を通ることも何ら不可思議な現象ではない。 空間的な広がりを持っているならば、その広がりの範囲にある限り、通れる経路を全て通ることは当然の帰結である。 本当に不可思議なことは、波が2つの経路を通ることではなく、2つの経路を通ることが可能なだけの広がりを持っていることなのである。 繰り返すが、粒子として1点に集約される性質と、波として空間的な広がりを持つ性質を両立していることが不可思議なのである。
波と粒子の空間的特性が一致しないことに対する一定の答えが、ボルンの確率規則である。 そして、確率規則に対する考えは、主に、次の2通りがある。
- 途中の過程においても、観測時のおいても、常に、粒子は古典力学(相対性理論や未知の法則も含む)と確率規則の両方に従った軌道をとる(隠れた変数理論)
- 途中の過程ではどうかは分からないが、観測結果は確率規則に従う(量子力学の標準理論)
通俗説では、二重スリット実験が隠れた変数理論を否定しているかのような誤った説明が為されるが、二重スリット実験では隠れた変数理論を否定することはできない。
時系列的考察
この実験では、少なくとも着弾までは波としての性質を維持しなければならない。 もし、着弾前に波としての性質が失われてしまえば、干渉縞は発生しない。 一方で、干渉縞は、着弾した粒子に対応する多数の点で構成されているので、スクリーンを観測するまでに、粒子としての性質が現れなければならない。 では、着弾後は波としての性質を維持しているのだろうか。 また、着弾前は粒子としての性質があるのだろうか。 いずれも、この実験結果からは知りようがない。 この実験が意味することは、量子が、着弾までは波だったことと、着弾してから観測までの間に粒子としての性質が現れていることだけである。 着弾後の波はどうなったか、着弾前の粒子はどうだったか、について本実験から結論を導くことは出来ない。
| 粒子状の性質 | 波の性質 | |
|---|---|---|
| 着弾前 | ? | あり |
| 着弾時以降 | あり | ? |
表で「?」となっている部分は、隠れた変数理論の真偽によって変わるが、二重スリット実験では言及することができない。
良くある誤解
空間的広がりのない波
粒子と波の二重性と聞いて、1点に集約された「波」を思い浮かべるのは間違いである。 二重スリット実験をはじめとする各種実験結果は、空間的な広がりのある波でないと説明できない。 集約された1点で振動しているだけでは、干渉縞は説明できないのである。 粒子と波の二重性の本質は、物質と振動の二重性ではなく、1点に集約される性質と空間的広がりを持つ性質の二重性にある。 そこを勘違いするとトンデモな珍説へと迷走することになる。
隠れた変数理論の否定
「1つの粒子が2つの経路を同時に通過した証拠だ!」と明らかに間違った解釈をする人がいる。 そう主張する人は、「粒子が片方しか通過しないなら、干渉縞が出来ずに、縦筋が2本できるだけだ」と言う。 しかし、粒子の通過経路数以外の条件が同じならば、粒子の着弾場所が干渉縞風の確率分布となることを説明できない。 よって、粒子が2つの経路を同時に通過しても、2つの輝点が同時に発生すること以外に何も変化は起こらない。 このように、粒子の通過経路数の違いだけで干渉縞を発生させることは不可能である。 干渉縞を説明できたとしたら、それは、何処かで粒子の通過経路数以外の条件を変えているのである。
粒子の通過経路数を変えただけでは、どうやっても、粒子の着弾場所が干渉縞風の確率分布に従うことを説明できない。 具体的には、粒子の通過経路数を変えても次のことが全く説明できない。
- どうして都合良く交錯する軌道をとるのか?
- どうして粒子同士が干渉するのか?
- 粒子同士の干渉がどうして着弾点を決めるのか?
つまり、干渉縞を説明できる可能性があるのは、粒子の通過経路数以外の条件である。
着想の非論理性
「粒子が2つの経路を同時に通った」とする仮説は、何処からそのような着想を得たのか理解に苦しむ。 何故なら、その仮説は、本実験の論点とは全く関係がないからである。 その仮説は、何の問題解決にもならず、疑問を増やすだけに過ぎない。 論理的に考えれば、そのような仮説が産まれる余地はない。
干渉縞は、輝点の濃淡によってではなく、輝点の配置によってのみ形作られている。 干渉縞形成に必要なことは、干渉縞を形作るような場所に粒子が着弾することだけである。 だとすれば、粒子性が常に保たれている前提においては、干渉縞は粒子の軌道によって形作られているはずである。 よって、問うべきことは何が粒子の軌道を制御しているかである。 言い替えると、粒子の軌道を説明できなければ、干渉縞は説明できない。 干渉縞は説明するためには、粒子の軌道を説明しなければならないのである。 粒子の軌道が決まった後の振る舞いを論じても干渉縞は説明できない。
干渉縞を説明するにあたって必要はことは、波の影響によって軌道が変化することだけである。 しかし、「粒子が2つの経路を同時に通った」「2つの経路を同時に通った粒子が干渉した」とする仮説では、粒子の軌道を全く説明できない。 粒子の軌道を説明するのに、「粒子が2つの経路を同時に通った」と考える必要はないし、粒子が干渉を起こしたと考える必要もない。 説明すべきことが説明できないのでは、全く無用の仮説である。
本末転倒論
「2つの経路を同時に通った」粒子が干渉を起こすためには、「2つの経路を同時に通った」粒子が交錯する必要がある。 「2つの経路を同時に通った」粒子が交錯するためには、交錯する軌道をとる必要がある。 それでは、粒子の軌道が決まってから干渉を起こすことになる。 干渉縞を説明するためには、干渉によって粒子の軌道が決まらなければならない。 「2つの経路を同時に通った」粒子が干渉を起こすと仮定すると、順番が逆となり、本末転倒である。
干渉の謎
波ではない粒子が干渉を起こすのもおかしな話である。 仮に、波ではない粒子が干渉を起こしたとして、どのような干渉を起こすのか。 繰り返すが、干渉縞は、輝点の濃淡によってではなく、輝点の配置によってのみ形作られている。 波ではない粒子の干渉で、そのような現象を説明できるだろうか。
まとめ
確かに、波の影響で粒子の軌道が変化することは不可思議である。 しかし、確率規則に忠実に解釈する限り、その1点しか謎が残らない。 一方で、「粒子が2つの経路を同時に通った」と考えた場合は、同じ謎が解決しないばかりか、もっと多くの謎が発生する。
確率規則は不可思議であるが、それは二重スリット実験をどのように解釈しようとも解決しない。 つまり、その問題は、二重スリット実験では解決できない問題である。 二重スリット実験は、単一の量子でも粒子と波の二重性が現れることを確認しただけに過ぎない。 確率規則の謎に迫るには、二重スリット実験では全然足りないのだ。 だから、二重スリット実験の解釈においては、「確率規則の謎を解き明かせないから不完全」だと考える必要はない。 確率規則の謎は、別の方法で解き明かすべきことなのである。 と言っても、現代(?)科学では解き明かせないのだけど。
以上のように、波としての性質を無視すればどんな説明を持ってしても干渉を説明できず、波としての性質を考慮すれば隠れた変数理論でも干渉は説明できる。 よって、この実験結果には、隠れた変数理論を否定する理由は全くない。 隠れた変数理論を否定する時に波としての性質を無視するならば、それ以外の説でも同じ前提を用いないとフェアでない。 広がりのある波と一点に集中する粒子の性質が両立することの不可思議さは、隠れた変数理論でも他の説でも変わりない。 それなのに、その不可思議さを「粒子が2つの経路を同時に通った」説で許容しておいて、隠れた変数理論で許容しないのはフェアではない。 アンフェアなダブルスタンダードを用いるのでは、隠れた変数理論と無関係な前提を操作して、それを隠れた変数理論による影響にすり替えているに過ぎない。
前提事項の混同
実験時間の半分だけ、右のスリットを閉じて撮影し、残りの時間を左のスリットを閉じて撮影すると、写真のような干渉縞は得られません.そのため、電子は、両方のスリットがあいていることが大切で、「粒子として、一方のスリットを通ったとする見方」は、誤っているのではないでしょうか。
Wikipediaの二重スリット実験のノート
ある物事を肯定又は否定する証明をする時は、そのための必要十分条件を考慮しなければならない。 比較実験を行なうときの大原則として、比較項目以外は同じ条件でなければならない。 しかし、彼の言い分では、比較項目以外の重大な条件が変わってしまっている。
具体的に言うと、粒子の振る舞いが比較項目なのだから、波の振る舞いは同じにしなければならない。 つまり、粒子の通過を片方に制限しても、波が2つの経路を通る状況を維持しなければならない。 しかし、彼の言い分では、波の振る舞いが変わってしまう。 その結果、干渉縞が出来ない原因が、粒子の振る舞いにあるのか、波の振る舞いにあるのか分からなくなる。
いや、波としての性質が干渉を起こすのだから、常識的に考えて、波の振る舞いの変化が干渉縞に影響を与えた可能性が高い。 片方の経路を閉じた状態で干渉縞が生じないのは、単一の波では干渉を起こせないからであって、「粒子として、一方の経路を通ったとする見方」が誤っているからではない。 少なくとも、二重スリット実験では「粒子として、一方の経路を通ったとする見方」を否定することはできない。 その「見方」は正しいかも知れないし違うかも知れない。 二重スリット実験では、それ以上のことは言えない。
干渉縞を得るためには、粒子が2つの経路を通る必要はないし、2つの経路を通っても干渉縞は出来ない。 粒子が2つの経路を通ろうとも、干渉縞に見えるような確率分布で粒子の着弾場所が決まらない限り、どうやっても干渉縞は出来ない。 干渉縞に見えるような確率分布で粒子の着弾場所が決まるならば、1つの経路通過でも干渉縞を説明できる。 粒子が直進しないのは確率規則に従うからであり、軌道が確率規則に従えば1つのスリット通過でも干渉縞がちゃんと出来る。
単一スリット実験
単一スリットでは、波の性質が現れないと説明されている場合があるが、これは間違いである。 実際の単一スリット実験は行なわれてはいないようだが、量子力学の理論に従えばスリットを通過した量子は波特有の回折現象を起こすはずである。 粒子と波の二重性は、二重スリット特有の現象ではない。 波の性質は、経路の数に関係なく発生する。 ただ、干渉縞が発生した方が、波の性質を裏付ける証拠能力が高いだけに過ぎない。
過程を検証する試み
様々な方法が考えられたが、いずれも不確定性原理の壁等に阻まれて、現実には実現不可能である。
ファインマンの思考実験
ファインマンは二重スリット実験で粒子がどちらを通ったかを観測する思考実験を考えた。 しかし、粒子を検出しようとすると、どうしても、その粒子の運動量を変化させてしまう。 その結果、波の波長を変えることになり、干渉縞が現れなくなるという結論に達した。
反跳運動量
二重スリット実験を巡るアインシュタイン/ボーア論争を分かりやすく要約すると、アインシュタインは着弾点と反跳運動量(通過した粒子から受ける作用によるスリットの運動量変化)が分かれば粒子の通過した経路が分かると主張し、ボーアは次のように反論した。
- 反跳運動量を測定するためには、スリットの運動量の不確定性を小さくしないといけない
- 干渉縞の発生位置はスリットの位置によって決まるから、干渉縞を作るにはスリットの位置の不確定性を小さくしないといけない
- 不確定性原理により、スリットの運動量の不確定性を小さくすると位置の不確定性が大きくなる
これは、反跳運動量を測定しようとすると、スリットの位置が不確定になり、その結果、波の位相関係も不確定となるから干渉縞がぼやけるという話である。 言い替えると、反跳運動量も不確定性原理の壁に阻まれるということである。
片側検出器
片方の経路の出口にだけ検出器を置けば粒子の通った経路が分かるし、干渉縞も半分残るはずだ、とする主張がある。
- 粒子の通った経路が分かる
- 検出器が粒子を検出すれば、検出器のある方を粒子が通った
- 検出器が粒子を検出しなければ、検出器のない方を粒子が通った
- 干渉縞が半分残る
- 検出器のある方を粒子が通ると、粒子の運動量が変わって、干渉縞が現れなくなる
- 検出器のない方を粒子が通ると、粒子の運動量が変わらないから、干渉縞が現れる
これは、量子の波に影響を与えずに粒子だけ検出することが可能という前提でのみ成り立つ。 その前提を証明できなければ、「干渉縞が半分残る」とまでは言えない。
観測の影響?
尚、粒子として観測しても、確率的に波としての性質が観測されるのであって、波としての性質がなかったことになるわけではない。 その証拠に、二重スリット実験の干渉縞は、正しく、粒子として観測して現れた波である。 「観測」の影響を受けるのは波動関数の収縮だけである。 粒子として観測しようとすると波の性質がなくなるとか、波として観測しようとすると粒子の性質がなくなるとか、その手の話は嘘なので信じないように。 John Archibald Wheelerが提唱した遅延選択実験にて、粒子として観測しようとすると波の性質が失われるかどうかの確認が行なわれた。 その結果、少なくとも、経路が別れた(スリットを通過した)直後には、波の性質が失われていないことが現実の実験結果として確認されている。
誤った説明の例
この解説では二重スリット実験の核心部分の事実が全て嘘なので、見た者を誤った理解へ誘導してしまう。 瑣細なことでは本当のことを言っているが、重要部分は全て嘘である。 また、実験事実に基づかない仮説が唐突に提示されており、これも、見た者を誤った理解へ誘導してしまう。
まず、単一スリット実験において「スクリーンには、普通の粒子の場合と同じ一本の線ができる」は実験事実に基づいていなければ、量子力学の理論にも基づいていない。 現実に電子の単一スリット実験は行なわれていないようである。 電子の二重スリット実験で実際に使われたのは電子線バイプリズムであり、これは、1ミクロンの金属糸で左右の経路を分断しているだけで、本当に2つのスリットを用いたわけではない。 実際にスリットで実験すると要求される精度でスリット板を作るのは極めて困難なため、このような装置が代替手段として用いられていると思われる。 よって、単一スリット実験も実際に行なうのは困難と思われる。 また、量子力学の標準理論においても、スリットによる回折現象が起きるはずなので、「普通の粒子の場合と同じ」結果はあり得ない。 理論的にも、量子による単一スリット実験は、波の単一スリット実験と同様に横に広がった模様になるはずである。
「発射された一個の電子は、スリットの前で波となり、同時に2つのスリットを通りぬけて、干渉を起こし、スクリーンにぶつかるときは1個の粒子に戻った」とする仮説は、実験事実に基づかない唐突な仮説である。 二重スリット実験の結果からは、その仮説は生まれ得ないが、Dr.Quantumの解説ではその仮説を提示する合理的理由は示されていない。
そもそも、文章で「波」と説明しておいて絵が2個の粒子なのはおかしい。 空間的に広がりのある波として絵が描かれていれば、まだ、マシなほうだ。 発射直後から波として広がり始めて、着弾直前まで広がり続けるのならば、一つの学説の説明にはなる。 しかし、この絵のような粒子状の「波」ではデタラメにも程があろう。 正しく量子力学を理解できているなら、ここまでデタラメな絵は描かない。 この絵で二重スリット実験を説明することが不可能なことは既に説明した通りである。
これも思考実験によって結論付けられた問題に過ぎない。
「彼らが観測を始めたとたん、電子の振る舞いは普通の粒子となり」「観測された電子は、観測される前とは違う振る舞いをした」は思考実験の前提に反している。 思考実験である以上、既知の物理法則に基づいた考察しか出来ず、未知の物理法則を想定することはできない。 そして、既知の物理法則を適用する以上、「違う振る舞い」はあり得ない。 実際の思考実験では「観測された電子」「観測される前」は同じ振る舞いをすることを前提として結論を導いている。 この思考実験の結果を否定するような実際の実験結果が出たとする事実は存在しない。
干渉縞が消える原因は、波長や位相のずれにより干渉縞が生じなくなるからである。 干渉縞が発生する為には波長や位相が揃っていなければならない。 観測しようとして光子等をぶつければ、電子の運動量が変わる。 物質波の理論によれば、運動量が変われば波の波長も変わる。 その結果として、波長や位相が揃った状態を維持出来なくなる。 波長や位相が崩れれば、当然、干渉縞は発生しない。 観測機器の影響で波としての性質が失われるわけでも、観測機器の影響で粒子としての性質が現れるのでもない。 ただ、単に、波長や位相の変化により干渉縞が生じなくなるだけなのである。 この思考実験では、二重スリットを用いて隠れた変数理論の真偽を検証することは困難であると結論付けたにすぎない。 Dr.Quantumの解説のような「まるで、自分が見られていることに気づいたかのように」「観測された電子は、観測される前とは違う振る舞いをした」という事実が確認されたわけではない。 現実に行なわれた遅延選択実験は、逆の結果を示唆している。
また、観測の影響で干渉縞が発生しないだけであり、決して、「二本の線」にはならない。 理論的には、着弾模様は横方向にダラーっと広がった模様になる。 干渉縞が発生するようにスリットの幅や間隔を設定しているなら、当然、左右の波が交錯しなければならないから、着弾模様は左右が繋がっていないとおかしい。 「二本の線」のように着弾模様がクッキリと左右に分離することはあり得ないのである。