開示請求のハードルを下げるべきか?
はじめに
詳細は、言論の自由の危機、SLAPPから情報発信者を守れ!に記載するが、先日、言論の自由を根底から脅かしかねない極めて危険な判決が出た。 このままでは、正当な情報を発信する善意の活動家が危険に晒される。
被害者救済のために考えるべきこと
プロバイダー責任制限法について次のような記事をよく見かける。
会員制交流サイト(SNS)で誹謗(ひぼう)中傷を受けた女子プロレスラー、木村花さん(22)が死去するなど、インターネット上で行われる匿名の誹謗中傷が社会問題化する中、被害者が発信者の電話番号の開示を求めることができるよう、総務省が今夏にも開示項目を定めた省令を改正する方針を固めたことが19日、分かった。
高市早苗総務相が同日の記者会見で、省令改正の意向を安倍晋三首相に伝えたことを明らかにした。 高市氏は「省令改正で対応できるものに関しては、この夏を目標にしたい」と述べた。
木村さんの死去を受け、総務省は誹謗中傷の書き込みをした投稿者の特定を容易にし、悪意のある投稿を抑止するための制度改正を急いでいる。 7月には有識者検討会が中間取りまとめを行い全体像を示す方針。
制度改正にはプロバイダー責任制限法の改正が必要でまだ時間がかかるが、国会手続きが不要な省令改正であれば総務省の判断で可能なため、省令部分だけでも先行して改正する。
しかし、これは明らかに論点がおかしい。
被害者救済=送信防止措置≠損害賠償
発信者情報開示は損害賠償の手段であって、開示にも賠償にも被害者救済の効果はない。 被害者を救済することを第一に考えるなら、真っ先にやるべきことは、名誉毀損となる情報の送信防止措置であって、発信者情報の開示のハードルを下げることではない。 そして、既に、送信されてしまった分については、名誉回復を図ることが必要となる。
損害賠償はその代替措置であって、それ自体が被害者救済になるわけではない。 毀損されてしまった名誉を完全に回復することは困難だから、その代わりに、損害賠償を行うのである。 また、損害賠償責任を負わせることは、抑止力としての効果も期待される。
コスチューム事件(テラスハウス)
詳細はテラスハウス(木村花さん自殺)事件と開示請求問題に記載するが、発信者情報開示のハードルを下げても、何ら解決にはならない。 本件のような問題を解決するために有効な措置は、集団による誹謗中傷があった場合に、一時的かつ一括に送信防止措置を講ずる規定の新設であろう。
全ての開示請求者は善人なのか?
開示請求者が全て善人で、かつ、正当な理由がある場合にのみ開示請求される前提であれば、開示請求にハードルを設ける必要はない。 しかし、実情は、そうではない。 SLAPP(訴訟恫喝)による言論弾圧を目的とした不当な開示請求も数多く行われている。 当サイトにおいても、某自称弁護士の痴態のようなSLAPPによる言論弾圧を目的としていると思しき不当な開示請求があった。 言論の自由の危機、SLAPPから情報発信者を守れ!で紹介したように、SLAPP的な開示請求が認められた判例がある。 こうした事例において不当に個人情報が開示されないよう、一定のハードルが必要である。
発信者がシロならば請求を拒否し、発信者がクロならば請求に応じるべきことは言うまでもない。 問題はグレーゾーンである。 開示すべきでない場合に開示してしまった場合、発信者の個人情報が不当に晒される。 そして、一度晒された個人情報を回復元の秘密の状態に回復することはできない。 だからこそ、開示には慎重な判断が必要なのである。
不開示となった場合に開示を求める場合は裁判が必要となる。 しかし、正当な開示請求であれば、当然、得た情報は損害賠償請求に用いられる(目的外使用は法律で禁止されている)。 通常、開示に応じない状況では、損害賠償請求にも応じないだろうから、その際も裁判になる。 結局、発信者が開示を拒否するケースでは係争は長期化するのであるから、開示の判断を早期に行う必要性は乏しい。 また、発信者情報開示の在り方に関する研究会(第1回)議事概要によれば、NTTコミュニケーションズは「開示判決が出たものにつきまして、私どもが不服として争うといったような事案は現状ではございません」(一度も控訴・上告していない)と発言しているから、開示請求裁判は損害賠償請求裁判よりは短期に決着すると見込まれる。
以上ふまえると、グレーゾーンは裁判で決着をつける従来のやり方は、少しだけ係争が長引く程度であり、大きな問題はなかろう。 本当に不当な権利侵害があれば裁判所が開示を命じるのだから、それによって発信者が特定されないことなどあり得ない。 手続きが多少面倒なだけである。
プロバイダ責任制限法の問題点
送信防止措置
平成25年4月26日改正の法律の最大の問題点は、権利侵害の疑いがある場合に一時的な送信防止措置を講ずる規定がないことである。
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第3条第1項
特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下この項において「関係役務提供者」という。)は、これによって生じた損害については、権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって、次の各号のいずれかに該当するときでなければ、賠償の責めに任じない。 ただし、当該関係役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合は、この限りでない。
一 当該関係役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき。
二 当該関係役務提供者が、当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき。
要約すれば、次のいずれかでなければ、送信防止措置を講じなくても権利侵害によって生じた損害の責任を特定電気通信役務提供者が問われることはない。
- 他人の権利が侵害されていることを知っていた
- 他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある
言い換えれば、権利侵害に該当するかどうかが不明な場合や、権利侵害に該当すると断定できたと「認めるに足りる相当の理由」がない場合は、送信防止措置を講じなくても権利侵害によって生じた損害の責任を特定電気通信役務提供者が問われることはない。
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第3条第2項
特定電気通信役務提供者は、特定電気通信による情報の送信を防止する措置を講じた場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者に生じた損害については、当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって、次の各号のいずれかに該当するときは、賠償の責めに任じない。
一 当該特定電気通信役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき。
二 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者から、当該権利を侵害したとする情報(以下この号及び第四条において「侵害情報」という。)、侵害されたとする権利及び権利が侵害されたとする理由(以下この号において「侵害情報等」という。)を示して当該特定電気通信役務提供者に対し侵害情報の送信を防止する措置(以下この号において「送信防止措置」という。)を講ずるよう申出があった場合に、当該特定電気通信役務提供者が、当該侵害情報の発信者に対し当該侵害情報等を示して当該送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会した場合において、当該発信者が当該照会を受けた日から七日を経過しても当該発信者から当該送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき。
要約すれば、次のいずれかであれば、送信防止措置によって生じた損害の責任を特定電気通信役務提供者が問われることはない。
- 他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由がある
- 七日を経過しても当該発信者から当該送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がない
第3条の2には、公職の候補者等に係る特例が規定されているが、当然、それは公職の候補者等でない場合には該当しない。
以上をまとめれば、権利侵害に該当するかどうかが明確でない場合であって、かつ、次のいずれかに該当する場合は、特定電気通信役務提供者が法的責任を問われないためには、送信防止措置を講じない選択が為される可能性が高い。
- 7日以内の期間において、発信者から返事がない場合
- 7日以内に発信者から送信防止措置に同意しない旨の申出があった場合
すなわち、平成25年4月26日改正の法律では、権利侵害の疑いがあっても、権利侵害が確定しない限り、迅速な送信防止措置を講じることができない。 これこそが改正すべき最大の問題点だろう。 これを次のように改正すべきだろう。
- 送信防止措置を講じなくても権利侵害によって生じた損害の責任を特定電気通信役務提供者が問われない条件を以下の通り変更
- 他人の権利が侵害される可能性があることを知っていたか
- 他人の権利が侵害される可能性があることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある
- 他人の権利が不当に侵害される可能性があれば、一時的な送信防止措置によって生じた損害の責任を特定電気通信役務提供者が問われることはない
発信者情報開示
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第4項
開示関係役務提供者は、第一項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。 ただし、当該開示関係役務提供者が当該開示の請求に係る侵害情報の発信者である場合は、この限りでない。
「故意又は重大な過失がある場合」でなければ、開示の請求に応じないことによって生じた損害の責任を特定電気通信役務提供者が問われることはない。 逆に言えば、「故意又は重大な過失」で開示の請求に応じなければ、それによって損害の責任を特定電気通信役務提供者が問われるということである。 であれば、特定電気通信役務提供者は、開示すべきかどうか、問題に真摯に向き合わなければならない。 徹底的に検討した結果として、開示すべきではないか、判断不能となる場合にのみ、開示をしなくて良いのである。 先にも説明した通り、判断不能の場合に開示することは問題がある。 だから、グレーゾーンを最大限に狭める努力をしてもグレーゾーンのままであれば、開示すべきではないことは言うまでもない。
以上踏まえれば、この規定が最大限妥当であることは疑いの余地がない。 ただし、特定電気通信役務提供者には、サーバ管理者、BBS設置者等も含まれる。 このような発信者個人を特定できない情報(IPアドレス等)しか持たない特定電気通信役務提供者は、開示しないことを免責せず、開示することを免責すべきだろう。
法運用上の問題点
匿名の投稿者は昨年3月上旬、ツイッターでネット上の記事を引用し、「(松井氏が過去に)女子中学生を暴行し自殺に追いやった」などと2度にわたり投稿した。 判決理由で池上裁判官は「そうした事実がないことは証拠上明らかで、ネット上の記事にも客観的裏付けはない」と認定。 政治家への評価という公共性や公益目的があるとしても「投稿は松井氏の社会的評価を低下させた」とした。
判決文では、真実と事実(真偽を問わない事実関係)は明確に区別されるので、「そうした事実がないことは証拠上明らか」と記載されることはあり得ない。 よって、おそらく、これは、真実性の証拠がないとした判決を産経新聞が勝手にそのような表記に書き換えたものと推測される。
前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
刑法第230条の2第1項によれば、真実性とは「真実であることの証明」である。 加えて、判例では、真実と信じるに相当な理由がある場合も真実性が認められる。 民法においても、刑法と同様の判断が為される。 そして、その真実性は発信者側が証明しなければならない。
「ネット上の記事」が真実と信じるに相当な理由があるためには、少なくとも、次の条件を満足する必要があろう。
- 信頼に足る人物・組織が発信した情報
- 情報源の人物・組織が明らかで、その情報が改変されておらず、かつ、嘘や間違った情報を発信するとは考えられないケース
匿名の「ネット上の記事」でかつ、真実と信じるに相当な理由があるソースを示されていない場合は、真実と信じるに相当な理由があるとは考えられない。 例えば、当サイトのISD条項憲法違反論への反論や某自称弁護士の痴態では、ご本人を自称する人のブログ記事を情報源としており、 自らのプロフィール にも「発信者情報開示を請求中」とSLAPPを仕掛けた事実が記載されているので、請求者本人であることは疑いの余地がない。 疑似科学者列伝:武田邦彦もご本人を自称するサイト等の情報を元にしている。 槌田敦氏が似非科学者の証拠は、論文の共著者を自称してご本人を擁護する目的のサイト、大学公式サイト、学術団体のサイト等の情報を元にしている。 仮に、これらの情報が真実でなかったとしても、一般人にとっては真実と信じるに相当な理由が成立していよう。
本記事の裁判では、公共性や公益目的が認められていることから、本件事件の争点は真実性であろう。 しかし、この記事には「ネット上の記事」としか書かれておらず、真実性の有無の明確性が読み取れない。 これでは、次のいずれであるのかがわからない。
- 真実性が認められる余地があったが、裁判所は真実性がないと判断した
- 真実性がないことが明らかであったが、真実性があると主張してゴネた
前者であれば、プロバイダの不開示判断は妥当であろう。 後者であれば、プロバイダの不開示判断は不当であろう。
「明らか」とは、権利の侵害がなされたことが明白であるという趣旨であり、不法行為等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことまでを意味する。
ここまでは良い。
(例えば、公務員を被害者とする名誉棄損のような場合、摘示した事実が真実であることが証明されれば違法性が阻却されることになるから、発信者情報開示を請求された開示関係役務提供者としては、摘示された事実が真実でないことの確信が抱けない限り、発信者情報開示請求に応じてはならないこととなる)
これは明らかにズレている。 刑法や民法では、真実性は発信者側が証明しなければならない。 だから、「摘示された事実が真実でないことの確信が抱け」るかどうかを判断基準とするのは刑法や民法と合致しない。 刑法や民法に合わせるなら、真実性の証明が為されていないことの確信が抱けるかどうかを判断基準とすべきである。
意見の聴取に対して一応の根拠を示して反論の根拠が示されたような場合には、「権利を侵害されたことが明らか」とはいえないのであるから、請求を拒絶しなければならないこととなる。
コジツケ的な「一応の根拠」「反論の根拠」であっても、それを示して反論すれば、この総務省の解説では、「『権利を侵害されたことが明らか』とはいえない」となって、「請求を拒絶しなければならない」ことになる。 根拠内容の妥当性が判断基準として挙げられていないため、本来は開示すべき場合であっても、ゴネて開示を拒むことが可能になっている。
ただし、発信者の意見が強行法規や公序良俗に反するものであるような場合にまで、当該発信者の意見に従った裁判上又は裁判外の行為を一律強いるものではない。
コジツケ的な「一応の根拠」「反論の根拠」であっても、そのこと自体が「強行法規や公序良俗に反する」わけではない。 例えば、「ネット上の記事」を鵜呑みにしたとしても、それを反論の根拠としたとしても、そのこと自体が「強行法規や公序良俗に反する」わけではない。 よって、例外を「発信者の意見が強行法規や公序良俗に反するものであるような場合」に限定すれば、コジツケ的な根拠を提示してゴネることが可能になる。
検討されている改正内容
発信者情報開示の在り方に関する研究会 - 総務省にて検討されている。
研究会(第1回)
開示判決が出たものにつきまして、私どもが不服として争うといったような事案は現状ではございません。
【上沼構成員】上沼です。 NTTコミュニケーションズ様、どうもありがとうございました。 先ほど、裁判のほうに行ったときに、開示の判断が出たときに控訴はされていないとおっしゃっていたと思うのですが、任意開示の段階では明白とは判断ができないということで裁判となったが、裁判所は権利侵害が明白として判断したことについて不服はないということかと思うんですが、そうすると明白性の判断がプロバイダレベルと裁判所のレベルでずれているというようなことになるのかなと思うんです。 判断がずれても、控訴されない理由というか、その辺のところをちょっと教えていただければなと思うんですけれども、いかがでしょうか。
【小原部長】NTTコミュニケーションズの小原でございます。 ご質問ありがとうございます。
判断がずれているという理解かどうかもありますが、訴訟上、訴訟展開上はそのようになりますが、どうしても権利侵害の明白性の判断、また通信事業者、アクセスプロバイダとしては通信の秘密、プライバシー、それから表現の自由といったところで非常に慎重な対応が求められている中で、私どもが任意に権利侵害の明白性と、特に名誉毀損の場合ですけれども、判断をするのは非常に難しいということで、訴訟に委ねるというようなことのほうがもしかすると実態に近いかもしれません。
【村上氏】すみません、NTTコミュニケーションズの村上です。
今の小原からの説明に特段補足はございません。 やはり名誉毀損というのは判断しづらいかなというところで訴訟に委ねているというのが実態です。
【上沼構成員】ありがとうございます。接続プロバイダの方が拒否するために裁判に委ねているというようには思ってはいないんですけれども、ただ負けたほうがいい訴訟って大変だろうなという、そういう意味です。
【上沼構成員】ありがとうございます。上沼です。
1点、通信の秘密を守るために、ISPの方々は本来負けたい訴訟で頑張ってくださっているというのは非常にありがたいことだなとは思っているんですが、ただすごくアンバランスなのではないかなというのを若干感じております。
【小原部長】事後の検証自体をやられている事業者さんはいらっしゃるかもしれませんけれども、私どもとして客観性を示しているということは、現状ではございません。 またその判断基準の公表につきましては、私ども自社特有の判断基準ということを持っているというよりも、やはりガイドライン等に従って対応していると、比較的ニュートラルに対応しているという状況でございますので、そういったことを、実務的な手続を含めてWEB上で手続をご案内し、またガイドライン等についても御覧いただけるようにリンクを貼ったりと、そういった営みをしています。
NTTコミュニケーションズの小原部長は、「判断をするのは非常に難しい」と言っているが、「負けたほうがいい」とも「本来負けたい」とも言っていない。 後から、「比較的ニュートラルに対応している」とも発言している。 上沼紫野弁護士のような歪曲により恣意的な結論に誘導する人は構成員から外してもらいたい。
近時、開示請求の対象としてインターネットサービスプロバイダに対して開示請求をしていく際に、IPアドレス、タイムスタンプだけでは情報が足りず通信を特定できないというように言われてしまう例が非常に増えております。 要求される情報としては接続先のIPアドレスというものであったり、接続先のURLというものが要求されることが非常に増えております。
「インターネットサービスプロバイダに対して開示請求をしていく際に、IPアドレス、タイムスタンプだけでは情報が足りず通信を特定できない」原因については説明されていない。
次のページをお願いします。 ログイン型投稿と言われるものです。 ログイン型投稿というのは投稿時の記録が存在しておらず、ログイン時の記録のみがあるものを指していると、そういう通信であるということです。 専ら海外プラットフォーマー、Google、Twitter、Facebook等なんですけども、そこはログインしてからサービスをすることができる設定になっておりまして、当該ログイン時のIPアドレス、タイムスタンプしか保有していないと、こういうタイプの投稿をログイン型投稿と呼ぶんですが、プロバイダ責任制限法は当該権利の侵害に係る発信者情報の開示を認めるだけにとどまります。 そうすると、条文を素直に読むと、接続時のIPアドレスとかタイムスタンプを基にした開示請求を認めるだけにとどまり、ログインはアカウントとパスワードだけの通信ですので権利侵害が伴わないということになって、条文上の素直な解釈としては開示を認めないということになってくるかなと思います。
次のページに行っていただけますか。 近時は掲示板などよりもTwitterを利用した権利侵害が非常に多いという認識がありまして、このような場合に権利救済ができない、被害者が泣き寝入りを強いられるという場面が非常に増えてしまうのではないかと思っております。 この点に関しては裁判例も非常にいろいろあるんですけども高裁でも結論が分かれておりまして、最高裁の判決はないという、そんな状況です。 ですので、認められたり認めなかったりということの振れ幅が大きいということが言えます。 ちなみに裁判所が認める傾向にあるものは、投稿時の直前のログインに関する開示を認めるということになっています。
次の6ページをお願いします。 私見なんですけども、直前のログインの情報開示を認めるものが判決としては多いんですが、これだけだと投稿者を特定することはなかなか難しいのではないかなと思っております。 例えば、直前のログインが海外のものである場合は特定できないということがあります。 具体的には、発信者がAPIを利用してTwitterに書き込む、外部サービスを利用して投稿した場合に、その外部サービスが海外サービスの場合、Twitter経由ではIPアドレスがたどれなくなってしまうという、こんな問題があります。
一般的には、アカウントを利用しているのは1人であることが通常であると思いますので、ログインした者イコール発信者であるとみなしてもいいのではないかなと思っております。 なので、こういう形のログイン型投稿に関する何かしらの手当てというものをしていただければと考えております。
まず1点目の課題としましては、現行の省令に定められている発信者情報の対象のみでは、発信者を特定することが技術的に困難な場合が増加しているということが挙げられます。
この課題の対応策としては、下にありますとおり発信者情報開示請求の対象となる発信者情報の拡充について検討が必要ではないか。 例えば電話番号の追加を検討するのはどうか。また、その場合の課題等は何か。 さらに全てのプロバイダが電話番号を保有しているわけではありませんので、ログイン時のIPアドレスなど、投稿時以外のIPアドレスについてはどうかといった項目が検討の方向性として考えられるのではないかということでございます。
昨今は投稿時のIPアドレスがないとか、またその接続先であるコンテンツプロバイダのIPアドレスが時間によって変動するといったような例もありまして、通信経路をたどって発信者を特定することが困難なケースが増加しているということもあります。 したがって、通信経路によらずに発信者を特定する方法としまして、点線で④’とありますとおり携帯の電話番号や、その下の④”というところにありますとおりログイン時のIPアドレスやタイムスタンプから発信者の特定につなげる余地があるのではないかということでございます
まとめると次のことを言いたいようだ。
- Google、Twitter、Facebook等から「接続時のIPアドレスとかタイムスタンプ」が得られない
- 現行法では「ログイン時のIPアドレスやタイムスタンプ」は開示対象にならない
- 「一般的には、アカウントを利用しているのは1人」なので「ログイン時のIPアドレスやタイムスタンプ」を開示対象にすべき
いずれにせよ、ISPの問題ではない。 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 解説 - 総務省p.36では、「アイ・ピー・アドレス及びタイムスタンプのみによって氏名及び住所が特定される場合も同様に秘匿の必要性が高いと考えられることから、極めて慎重かつ厳格に判断すべきである」とされているが、IPアドレスとタイムスタンプだけで氏名及び住所を特定できるケースは稀であろう。
【北澤構成員】ありがとうございます。
どうしてもログインの問題というのは、ログイン時のアクセス自体は何も法的には本来問題ない通信のはずなんですけれども、要はある通信で問題の発言をしているから、別の通信についても明らかにしていいというような形になってしまうので、そこがおそらく通信の秘密の関係でもどうバランスをとるのかという問題があるように思います。
開示すべき情報であるかは、個別の通信内容が「法的には本来問題ない」かどうかではなかろう。
- 発信の責任を負うべき者に関する情報であるかどうか
- 同一人物による通信であるかどうか
- 別人物だとしても、ログインした者が投稿の責任まで負うべきかどうか
- 発信者を特定するための必要最小限の情報かどうか
開示には事実上2回の裁判手続が必要になりまして、コンテンツプロバイダに対する仮処分、次にアクセスプロバイダに対する本案裁判という2回の裁判が必要になってくると。 いずれも裁判手続ですので、最終的に開催までは1年弱程度かかってしまうという状況があります。 ですので、これをなるべく権利救済を早くするという見地からは、任意開示が早く早期にされるようになれば期間を短くできるのではないかなと考えております。
11ページをお願いします。 発信者を特定するためには、繰り返しになりますが先ほど申し上げたように2回の裁判手続が必要になってきますが、実質的には同様ないし類似する主張を2回する必要があるとなっております。 これは基本的に時間も訴訟経済も無駄ではないかなと思っております。 ですので、開示請求というのは、そもそもその発信者への責任追及するための準備的な手続に過ぎないとも言えるので、本案裁判を経なければいけないほどのものと言えるのかというように個人的には考えております。
先ほども説明した通り、正当な開示請求であれば、損害賠償裁判の係争が長期化する。 そして、開示請求裁判においてプロバイダが控訴・上告しないなら、係争期間全体において開示請求裁判期間はそれほど長くない。 であれば、「権利救済を早くする」(先ほども説明した通り、損害賠償は権利救済ではない)ことは「2回の裁判手続」を忌避する合理的理由とはなり得ない。
確かに、正当な開示請求で、かつ、請求者が開示情報を悪用しないなら、単なる「発信者への責任追及するための準備的な手続に過ぎない」。 しかし、故意や重過失がなければ非開示に免責を与えているのは、開示する情報が単なる「発信者への責任追及するための準備的な手続」に止まらないからである。 そして、開示された情報は悪用される恐れがある。 だから「本案裁判を経なければいけないほどのもの」なのである。
「基本的に時間も訴訟経済も無駄」とは、請求者側の一方的な都合に過ぎない。 これらは発信者側の正当な権利を守るために必要なものである。 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 解説 - 総務省p.36においても、「訴訟において請求者が主張立証責任を果たせば、権利侵害の事実は明らかになるのであり、開示される場合が不当に狭くなるということはない」とされ、「本条の請求権が現に侵害行為が行われている場合に被害拡大を防止するために行使されることが予定されたものというよりは、過去に行われた権利侵害について、その被害回復のために行使されることが主に予定された権利であることを考えれば、相対的にみて客観的に緊急性が高いとまではいえず、かかる要件を設けることが不当に被害者の権利行使を制約することになるわけでもない」とされている。
あと、アメリカでは、匿名訴訟の中でディスカバリーという証拠開示手続を用いて発信者を特定できるという制度があります。 アメリカのように匿名訴訟を可能にして当該手続中で文書提出命令を出すなど、1つの手続の中で完結できるようにすることは検討できないかなということもひとつ検討いただけないかなと思っております。 ただ、1つの手続で全てできるとしても、手続が肥大化して時間がかかるのであれば意味がないですので、その点についての手当てもしていただければと思っております。
匿名訴訟では、発信者の訴訟を受ける権利が制限されかねない。 個人情報を伏せたままでは、発信者は事前の書面提出等で応じるしかないので、当日の弁論の展開に応じた臨機応変な対応が難しい。 とくに、SLAPP(訴訟恫喝)を目的としているような開示請求・損害賠償請求であれば、発信者側は悪用されかねない個人情報を晒したくなかろう。 書面提出等でも発信者の訴訟を受ける権利を制限しないようにするには弁論の開催数を増やす必要があり、それでは「1つの手続で全てできる」とするメリットは失われる。 しかも、3審全てで弁論の開催数を増やせば、返って訴訟期間が長引く可能性もある。
尚、開示のハードルを下げるならば、請求者に開示せずに第三者機関に開示する匿名訴訟は当然の大前提となる。 でなければ、SLAPP(訴訟恫喝)に開示請求が悪用されかねない。
2点目は、権利侵害が明白と思われる場合であっても、発信者情報が裁判外で任意に開示されないケースが多いという点です。
これは何ら根拠が示されていない。 根拠としては次の事例数を示すデータが必要であろうが、いずれも示されていない。
- 正当な開示理由が成立していないと推定されるケース
- 裁判所が不開示の判断
- 正当な開示理由が成立していない可能性が高いケース
- 任意開示されず、かつ、開示請求訴訟が為されない
- 正当な開示理由が成立しているかどうか疑義があるケース
- 任意開示されて、かつ、発信者側が損害賠償請求で完全勝訴
- 裁判所が開示の判断をし、かつ、発信者側が損害賠償請求で完全勝訴
- 正当な開示理由が成立していると推定されるケース
- 任意開示されて、かつ、請求者側が損害賠償請求で勝訴(一部勝訴含む)
- 裁判所が開示の判断をし、かつ、請求者側が損害賠償請求で勝訴(一部勝訴含む)
言うまでもなく、裁判所が不開示の判断した場合は、権利侵害の有無を裁判等で争う余地すらないことを意味するので、正当な開示理由が成立しているはずがない。
開示された発信者情報の正当な利用方法は、損害賠償請求等に用いることである。
- 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項第2号
- 損害賠償請求権の行使のために必要である場合
- その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき
- 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 解説 - 総務省p.37
- 謝罪広告等の名誉回復措置の請求
- 一般民事上、著作権法上の差止請求
- 発信者に対する削除要求等を行う場合(引用者注:プロバイダ責任制限法に基づく送信防止措置請求が認められない場合に限られると思われる)
尚、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 解説 - 総務省p.37には、「被告訴人・被告発人の氏名・住所等が不明であっても告訴、告発は可能」を理由として「刑事責任の追及は、本条第1項第2号の」条件には該当しないとされている。 であれば、正当な開示理由が成立している場合は、損害賠償請求等の訴訟を起こすつもりがあるはずである。 開示請求訴訟の期間や費用は言い訳にはならない。 何故なら、損害賠償請求等の訴訟にも期間や費用を要するからである。 そして、開示請求訴訟においてプロバイダが控訴・上告しないなら、係争全体において開示請求訴訟の期間や費用の比率は小さいはずである。 とすれば、期間や費用の問題は開示請求訴訟を起こさない理由にはなり得ない。 よって、任意開示されなかった場合に開示請求訴訟を起こさないなら、正当な開示理由が成立しているとは考えにくい。
また、裁判所が開示の判断をしたことは、裁判等で争う余地があると判断したことを意味する。 それは、請求者に対する不当な権利侵害を認定したことまでは意味しない。 よって、開示の判断だけでは正当な開示理由が成立しているとまでは言えない。
権利侵害が明白と考えられる場合、例えばこれは誰が見ても権利侵害であろうと思われるような、いわば9割方権利侵害が明白と考えられるような場合ということかと思いますが、そのような場合に、ある程度裁判外での任意開示がなされてもよいのではないかと、そのような任意開示を促進する方策を検討するのはどうかと、またその場合課題や留意すべき点等は何かといったことについて検討を深めていきたいということでございます。
「9割方権利侵害が明白」なら権利侵害がない可能性が1割もある。 権利侵害がなければ、開示することで発信者のプライバシーが不当に侵害される恐れがある。 であれば、権利侵害がない可能性が1割もあるのに裁判所の判断を経ずに特定電気通信役務提供者の判断で開示して良いわけがない。
3点目は、裁判外で開示がなされない場合、発信者の特定のための裁判手続に時間・コストがかかる。 特に海外プロバイダを相手として訴えを提起する場合は、訴状の送達手続に多くの時間を要しており、救済を求める被害者にとって負担という点でございます。
「海外プロバイダを相手として訴えを提起する場合」の問題であれば、その場合の例外規定を設ければ良い。
【小原部長】NTTコミュニケーションズ、小原でございます。垣内先生、ご質問ありがとうございます。
1点目のところですけれども、同意・不同意の実態のところですが、同意・不同意、またフローにございませんけれども返ってこないというケースもございます。 そういったことを考えると、同意で返ってくるケース自体は決してそんなに多くはございません。 定量的に幾つということはないですけれども、個人の方でも同意ということで返ってくるケースも多くはないですがございますし、また、私どものサービスの卸、サービス提供形態にもよりますが、先に卸先のプロバイダ、法人のお客様ですとかそういった方がいる場合には同意ということで返ってくるケースもあるというのが状況です。 もしそこの数値の詳細な状況が必要でございましたら、また別途ということでお願いできればと思います。
また、2点目にご質問いただきました、意見照会の結果は不同意であるけれども開示に至るケースということですが、基本的に先生がおっしゃいましたとおり同意のケースでは開示ということですが、不同意であっても著作権の侵害の場合ですとかプライバシー侵害の場合は、ガイドラインに沿って、これはどう見てもガイドラインに該当すると、任意に開示すべきだというケースが多くはございませんけれどもありますので、例外的にと言えるかもしれませんが、そういったケースにおいては不同意であっても開示します。
以下が間違い無いなら、任意開示は非常に少ないことになる。
- 同意で返ってくるケース自体は決してそんなに多くはございません
- 任意に開示すべきだというケースが多くはございません
年によってバラツキはあるが、訴訟外の開示請求のうち、開示請求訴訟が起こされないケースが2〜3割程度ある。 既に説明した通り、本当に正当な開示理由があるなら、開示請求訴訟を断念するとは考えにくい。 であれば、正当な開示理由がない訴訟外の開示請求が多数あることになる。
それから2点目ですけれども、本日の議題というのは主として発信者情報開示の段階のお話なんですが、 実務の現状として発信者について情報開示を受けて特定ができたという場合に、これは任意の開示もあれば、裁判でということもあるかと思いますけれども、 発信者自身に対する責任追及というのがその後のステップとして想定されるかと思うんですが、 情報開示を受けた上で発信者に対する責任追及、賠償請求等が認められるかどうかということについてどの程度認められる例があるのか、 情報開示がされれば大体権利侵害が明白だという判断が一旦はされているということで責任追及が認められることが多いということなのか、それとも必ずしもそうでないといった実態があるのか、そのあたりについて、もしご知見があればお教えいただければと思いました。
2点目の発信者を特定した後の責任追及はどうかということですが、自分の認識している限りでは責任追及は、損害賠償請求をすればおおむねのところで認められる例は多いのかなというようには思います。 ただ、真実性の立証などがより詳しく出てきたことによって、責任が認められないという例もごく僅かながら存在しているのかなとは認識しています。
「損害賠償請求をすればおおむねのところで認められる例は多い」のであれば、情報開示されるかどうかで開示請求の正当性が概ね判断できることとなる。
あと、責任追及といって責任がどれぐらい認められるかという、例えば1万円認められても責任が認められたということになりますし、100万円認められても責任があるという判断になったということになるかと思うんですけども、実際上認められる賠償額という点でいうと30万円から5、60万円程度になっていることが非常に多くて、手続にかかった費用に比して賠償額は非常に低くとどまっているというのがこの類型の問題、この発信者情報開示請求の一連の問題として一つあるのかなと認識しています。
名誉毀損における被害者の「権利救済」とは、名誉毀損となる情報の送信防止措置と名誉の回復であって、名誉毀損分を金銭で補填することではない。 だから、請求者にとって重要なことは、不当な名誉毀損であることが認められることと、名誉回復措置を発信者に命じることである。 であれば、「手続にかかった費用に比して賠償額は非常に低くとどまっている」ことの何が問題なのだろうか。
名誉毀損の結果として二次的に莫大な金銭的被害が生じていて、かつ、その責任が発信者にあるなら、当然、その損害賠償は認められよう。 逆に言えば、「実際上認められる賠償額という点でいうと30万円から5、60万円程度になっている」事例は莫大な金銭的被害が発生していないか、その責任が発信者にあると認められていないケースである。 であれば、「手続にかかった費用に比して賠償額は非常に低くとどまっている」ことの何が問題なのだろうか。
そもそも、「手続にかかった費用に比して賠償額は非常に低くとどまっている」ことは、訴訟手続き全般の問題であって開示請求の問題ではなかろう。
2点目なんですけども、ここ数年でちょっと目につくなと思うのが、発信者情報開示を悪用しているのではないかというケースです(例えば、消費者被害が関連するケースなど)。 時間の関係で詳細はまた別の機会にご説明申したいとと思うのですけれども、実際に表現が萎縮する場面というのを私も見ておりまして、匿名を悪用している誹謗中傷と、この制度を悪用しているケースというのをどうバランスをとって制度設計をすべきなのかいう点を検討する必要があると思っております。
ただ一方で任意開示の促進のほうなんですけれども、任意開示の促進のことを検討するところで水を差すようで、何かちょっと恐縮な感じもするんですが、発信者情報の開示というのは明白な権利侵害と軽過失免責というダブルのハードルを高くすることによって削除よりも敷居を高くしているわけですけれども、これはやはり匿名の表現者にとって身元が明かされるということは致命的で、判断を誤って開示してしまったら取り返しがつかないということなので、開示よりもよりハードルを高くするべきだというメッセージだと思うんですけれども、それは維持するべきなんじゃないかなと思っています。
ただ、慎重な判断を要することと、判断を回避することは別だと思いますので、悲惨なプライバシー侵害とかに苦しむような人の救済が難しくなっているのを考えれば、任意開示の請求に真摯に向き合うことを求める必要はあるとは思いますが、明白な権利侵害や軽過失免責の部分に手を入れるということについては慎重に検討してもらいたいなと思います。
開示のハードルを下げることの問題点も論じられていることは評価できる。 しかし、この点を論じるなら、開示請求のうち不当なものの比率・件数を明らかにすべきだろうが、この会議では提示されていない。
研究会(第2回)
【若江構成員】ありがとうございます。 若江です。 任意開示の促進の話では、主にこれまで開示されないというケースが大きな問題として取り上げられていると思うんですけれども、一方で、逆のパターンとして、不真面目なプロバイダが権利侵害の明白性をあまり深く検討しないまま任意開示してしまっているケースというのは、あまり注目されていませんけれども、ないとは言えないんじゃないかなと思っていまして、 確かにISPの段階では任意開示が非常に少ない状態かもしれませんけれども、コンテンツプロバイダの中では、結構任意開示に応じているケースもあるんじゃないかというようなことも聞いていますので、そうしたケースがどのような体制でどう判断されているかというような現状をまず確認する必要はないのかなというふうに思っています。
【北條弁護士】ありがとうございます。 北條です。 任意開示の点につきまして発言します。 任意開示に関しましては、先ほど若江構成員からも少しお話がありました、コンテンツプロバイダが任意に開示している場合もあるというふうにおっしゃっておりましたが、一概にそう言えるかどうかは私も把握しておりません。
発信者情報開示の在り方に関する研究会(第2回)議事概要P.23,29,31-32
「不真面目なプロバイダが権利侵害の明白性をあまり深く検討しないまま任意開示してしまっているケース」が実在するかどうかは明らかにされていない。
【北澤構成員】北澤でございます。 先ほど栗田先生から応訴負担になるということが萎縮効果につながるのではないかという点、御指摘いただいたんですけども、確かに非常に重要な点だと思っておりまして、実は開示請求をプロバイダが受けると、プロバイダとしては4条2項で意見照会をしないといけないんですね。 この意見照会が、表現をした方にとって萎縮効果になるというケースが意外と多くて、私の肌感覚なんですけども、何も法的に問題ないよねというような書込みをした方ほど萎縮する傾向があったりするんですよね。 発信者情報開示の事件は、最終的に裁判で勝てればよいという話ではなくて、おっしゃるとおり、裁判に巻き込まれること自体が一般の方にとってはかなり負担というか問題となる。 例えば自分の体験やそれに基づく感想を口コミに書こうとする方が一々裁判のことも頭に置きながら書いているかというと、もちろん誹謗中傷とか名誉毀損に当たるような表現をするというときは別ですが、一般の方の、要は善意の口コミを書く方が一々訴訟を考えて口コミしているという状況ではないと思うんですね。
ですので、今回、権利侵害の明白性の要件の緩和の御提案をいただいているんですけれども、これが緩和されてしまうと、要は、今まで法的に許されていた匿名表現が、今後許されなくなる可能性があるという形で、表現の萎縮を引き起こす恐れがあり、かなり慎重に判断しないといけないと思っています。
これはSLAPP(訴訟恫喝)の問題である。 「何も法的に問題ないよねというような書込みをした方ほど萎縮する傾向」を悪用すれば、言論弾圧を試みたい者にとっては都合が良い。
【北澤構成員】北澤です。 濫用に関して幾つかお話が出ているんですけども、先ほど上沼先生から濫用に関しては裁判の判断を経ているはずというお話があったんですけども、ひょっとすると、想定されている事例と、私が経験している事例と若干違っている可能性があるかなと思うのは、大体仮処分では、最初、債権者(開示請求者)が「書き込まれている内容は事実無根だ」というような陳述書を出してきます。 ないことの証明というのは難しいので、基本的に陳述書で疎明せざるを得ないというところはあるんですけれども、こちらで調べてみると、書込みの内容の真実性が肯定できるのではないかというような事例もよくあります。 例えば、消費者が会社に対して不満を述べている書込みについて、実際に、消費者被害めいたことが起きていたり、販売方法に問題があるのではないかということで実際に騒ぎになっている会社だったりすることがあります。 そういった反論をすることになった場合、今の仮処分(保全)の実務ですと、開示の申し立てが認められない場合に却下決定が出て終わることはかなり少ないんですね。 どうやって終わるかというと、裁判所のほうからこれはもう認められませんよという心証開示がされて、申立てを取り下げてもらう形で終わるのが通常です。 保全の場合、取下げに債務者(相手方)の同意が必要ありませんので、そういった形で、まず申立てをしてみて、だめだったら取り下げてみたいなことがあったりして、そういうケースで濫用しているのではないか、そういったケースで開示が簡単に認められてしまうようになってしまったら、それは非常に問題ではないかというような感覚を持っています。
あとはもう1点、裁判を2回やる必要があるのかという問題。 例えば仮処分の段階で開示を認めるという保全部の裁判所の判断があるわけです。 その後、本案訴訟でこれを争う必要があるのかというご意見かと思うのですけれども、確かにおっしゃるとおりだなという部分がある一方で、私の経験的に、例えば社員と思われる方が「この会社は違法なことをしている」という書き込みをしたようなケースで、会社から、その書込みが名誉毀損だとして開示請求がされた事件で、経由プロバイダ(アクセスプロバイダ)の代理人をしたことがあるんです。 その事案については、仮処分については、これは名誉毀損だという形で権利侵害の明白性が認められて開示の発令が出ているんですけれども、こちらで調べてみると、本当に違法なことをしていたという事案がありました。 この問題でなかなか難しいのは、仮処分の手続というのはかなり時間がないんですね。 大体私も、仮処分の依頼を受けると、依頼があって3日後ぐらいに審尋期日の指定されることも珍しくなくて、期日をちょっと調整していただいてという形で、時間的な制限が厳しいというか、十分な準備が必ずしもできなかったりします。
発信者情報開示の在り方に関する研究会(第2回)議事概要P.31-32
「こちらで調べてみると、本当に違法なことをしていた」にも関わらず、仮処分申請にて「これは名誉毀損だという形で権利侵害の明白性が認められて開示の発令が出ている」とすれば、SLAPP(訴訟恫喝)が成功してしまう。 「仮処分の手続というのはかなり時間がない」ためにそのような決定になるなら、仮処分で個人が特定できる情報が開示されることは問題がある。
【北條弁護士】ありがとうございます。 北條です。 任意開示の点につきまして発言します。 任意開示に関しましては、先ほど若江構成員からも少しお話がありました、コンテンツプロバイダが任意に開示している場合もあるというふうにおっしゃっておりましたが、一概にそう言えるかどうかは私も把握しておりません。
大きな問題の1つとしては、コンテンツプロバイダが開示をした場合に免責されるかどうかというのが分からないという部分だと思います。 現時点では、開示しない場合に、故意又は重過失がなければ損害賠償の責任を負わないということになっていますが、開示した場合に免責されるという点がないので、コンテンツプロバイダが任意に開示するインセンティブが働かないということになると思われます。 そうしますと、リスクをとってまで開示する必要がないのであれば、やはりリスクをとらないという方向に働くのではないかと考えられるところです。
発信者情報開示の在り方に関する研究会(第2回)議事概要p.29
【若江構成員】若江です。 ありがとうございます。 任意開示の促進の話に戻ってしまって恐縮なんですけれども、前回の検討会で権利侵害が明白であると検討した証拠を残せば、開示してもプロバイダ側の責任を免責するという御提案もあったようなんですが、私はそれには反対だということを改めてお伝えしたいと思っています。
任意開示が十分なされていないのではないかという問題は、1つには真摯なプロバイダが権利侵害の明白性について判断する上で慎重になりすぎているという側面と、もう一方では、不真面目なプロバイダが真面目に考えないで、軽過失免責のあるほうの非開示に動いているという両方のパターンがあると思うんです。 それをどう促進するかについては、前者のようなケースについては、わかりやすい事例集を作成したり、相談機関の充実、違法有害情報相談センターとかの相談機能を充実させたりすることで、ある程度、促進できるのではないかと思います。 かたや、後者の不真面目なプロバイダが現状の軽過失免責のせいで非開示に動いているという問題の方は、新たに開示する側に免責をつければ、いまよく考えずに非開示にするのと同様に、今度はよく考えずに過剰に開示してしまうという弊害があるんじゃないかなと思いますので、改めて申し上げたいと思いました。
「開示した場合に免責される」規定を設けた場合の問題点として、若江構成員の主張の通り、「よく考えずに過剰に開示してしまうという弊害」を考慮しなければならない。
【栗田構成員】やはり権利侵害の明白性のところですが、配付の資料(【資料2-2】主な検討課題スライド1)で書かれております「『権利侵害の明白性』について、より緩やかな要件とすべきとの考え方」ですが、これは立法論と考えてよろしいのでしょうか。 仮にそうだとしますと、従来の裁判所の判断も変わることになりかねませんから、これまで開示すべきだと判断されていた情報が円滑に開示されるだけではなく、これまでは開示すべきではないと判断されていた情報まで開示されるようになることもあり得るかと思います。 立法論だとすれば、それを前提として議論をする必要があるのではないでしょうか。 いかがでしょうか。
本検討会で議論されていることは「開示すべきだと判断されていた情報が円滑に開示」されないことの問題である。 「これまでは開示すべきではないと判断されていた情報まで開示されるようになる」とすれば、議論の前提が大きく変わってしまう。
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