エレファントカーブのカラクリ
象だゾウw
まず、1枚目はエレファントカーブ(■図表1、先進国で特に中産階級の所得が伸び悩んだことを示したことで知られる曲線)。 ご存じの向きも多いだろうが、世界銀行のエコノミストの手になる分析で、グローバル化の進展で誰が豊かになったのか、を示したものだ。 世界中の人を豊かな順に並べ、1988年から2008年までの20年間に、どの層の実質所得が伸びたかをグラフ化している。
荒っぽくまとめてしまえば、世界の中での超高収入層、すなわち先進国の富裕層、そして新興国の(新)中間層が所得を伸ばした、というのが結論だ。 一方、日本を含む先進国の中間層の収入は伸びておらず、一部の層は20年の間に実質収入が減っている。
何の疑いもなくこの内容を信じる人は、メディア・リテラシーが全くない。 メディア・リテラシーが多少なりともある人なら、この話の明らかにおかしい部分がわかるであろう。
- 25〜65percentiles(伸びの大きい所)所には、先進国貧困層は居ないのか?
- 75〜85percentiles(伸びの小さい所)には、新興国(新)富裕層は居ないのか?
分析対象の生データにアクセスできない人が推測で物を語るのは仕方がない。 しかし、これは「世界銀行のエコノミスト」によるもので、当然、その「世界銀行のエコノミスト」は生データからこのグラフを作っているはずである。 それならば、次のようなデータを示さなければ分析を裏付ける証拠とならないことは分かっているはずだし、データを示すことも可能なはずである。
- 「新興国の(新)中間層が所得を伸ばした」と言うためには、新興国のみのデータを示さなければならない
- 「日本を含む先進国の中間層の収入は伸びておらず」と言うためには、「日本を含む先進国」のみのデータを示さなければならない
それらを示さないで、「新興国の(新)中間層が所得を伸ばした」「日本を含む先進国の中間層の収入は伸びておらず」と結論づけるなら、意図的なトリックであろう。 では、「世界銀行のエコノミスト」はどう言っているのか。 このグラフは Global Income Distribution: From the Fall of the Berlin Wall to the Great Recession - The World Bank Economic Review, Volume 30, Issue 2, 1 January 2016, Pages 203–232 で世界銀行のBranko MilanovicとChristoph Laknerが発表したとされている。 そのAbstract (要旨)には次のように書いてある。
90% of the fastest growing country-deciles are from Asia, while almost 90% of the worst performers are from mature economies. Another “winner” was the global top 1%.
最も急成長している十分位の国のほぼ90%はアジアからですが、最悪のパフォーマーのほぼ90%は経済成熟国からです。 もう1つの「勝者」は世界トップ1%でした。
日経ビジネスの説明とは次の点で差異があるが、概ね同じような内容と言えるだろう。
- 途上国ではなくアジア
- 先進国ではなく経済成熟国
- 途上国、先進国についても中間層とは明言してない
「Another “winner” (もう1つの「勝者」)」という言い方からも、「worst performers」が敗者であるという前提で書かれていることは明らかである。 しかし、このAbstract (要旨)のようなことを言うためには、やはり、アジアと経済成熟国を分離して示す必要がある。 何故なら、その十分位の90%がアジアであろうと経済成熟国であろうと、合算したグラフでは、残りの10%の影響がどの程度あるか分からないからである。 たとえば、その十分位の90%がプラス成長だったとしても、残りの10%が平均約9倍のマイナス成長であれば、合算すれば、両者の結果は相殺される。 それならば、「almost 90% of the worst performer (最悪のパフォーマーのほぼ90%)」の「mature economies (経済成熟国)」がプラス成長であったとしても、「the worst performer (最悪のパフォーマー)」全体では、ゼロかマイナスになることも起こり得る。 それなのに、合算したグラフに基づいて「almost 90% of the worst performers are from mature economies (最悪のパフォーマーのほぼ90%は経済成熟国からです)」と言うなら、それは恣意的なミスリードであろう。 アジアと経済成熟国を分離して分析するのに、どうして、わざわざ両者を合算したグラフを描かなければならないのか。 別々に分離したままそれぞれを参照すれば正確な分析ができるのに、わざわざ合算して制御できない誤差を混入させるなど、正気の沙汰ではない。 わざわざ合算グラフを用いなければならない理由があるとすれば、誤差を悪用して実在しない虚構を作り出すこと以外には考えられない。 そういう不自然さに気づける人であれば、エレファントグラフが学術的には何の意味もない不可解な魔術であることはすぐに理解できよう。 別々のグラフではアジアと経済成熟国の所得額が比較できないと反論する人がいるかもしれないが、それならば、この論文のFigure 3 (p.17)のような所得分布グラフを付加すれば事足りる。 1つのグラフにした方が見やすいとしても、アジアと経済成熟国をいくつかの階層に分けた棒グラフ等にすれば良いのだから、それは合算する理由にはならない。 経済学の範疇を逸脱した不可解な魔術に頼るべき理由など何処にもないのである。
尚、1988年と2008年では人口比が違うことが指摘されているので、almost 90% (ほぼ90%)などとは言えるはずがない。 Examining an elephant; Globalisation and the lower middle class of the rich world - Resolution Foundation REPORTのFigure 6 (p.18)によれば、エレファントグラフの「worst performers」である80 percentilesの1988年における経済成熟国の人口比率は約70%で、2008年における経済成熟国の人口比率は50%である。 「almost 90%」という数値はどこからも出てこない。
以上を踏まえると、Branko Milanovicたちが、「新興国の(新)中間層が所得を伸ばした」「日本を含む先進国の中間層の収入は伸びておらず」と見せかけるトリックを意図的に行使したことは疑う余地がない。
グラフの誤り
実は、グラフの分析が誤っているだけではなく、エレファントカーブは各階層の個人所得の変化とはかけ離れている。 日本語のWebサイトでは、日本と旧ソ連の経済停滞が主たる原因のように書かれている場合が多いが、それはAdam Corlett(Resolution Foundation)の指摘を正確に反映していない。 Examining an elephant; Globalisation and the lower middle class of the rich world - Resolution Foundation REPORTでAdam Corlettは、主に3つの要因により見かけ上の所得増加が低く抑えられたことが原因だと指摘している。
Overall income growth is understated because of changing country selection. As Milanovic and Lakner have themselves stressed, the chart is not about the income growth rates of particular people. For example, the globally poor in 1988 and those in 2008 are not necessarily the same groups of people – so growth doesn’t refer to individuals. But furthermore, different countries are included in the 1988 and 2008 datasets that underpin the elephant curve. The addition in the latter year of countries with below-av- erage incomes drags down the growth figures significantly. Using a consistent set of countries in both years shows a global average income growth of 32 per cent, rather than 24 per cent, and slow growth, rather than stagnation, for those around the 80th percentile.
国の選択の変化によって全体的な所得の伸びが抑制されます。 Milanovic氏とLakner氏自身が強調しているように、この図表は特定の人々の所得成長率に関するものではありません。 たとえば、1988年の世界的貧困層と2008年の貧困層は必ずしも同じ人々の集まりではありません-だから、この成長は個人に対応したものではありません。 さらに、elephant curveを支える1988年と2008年のデータセットにはさまざまな国が含まれています。 2008年に平均年収を下回る国を追加したことで、成長率が大幅に下がっています。 1988年と2008年で同じ一連の国を使用すると、世界全体の平均所得の伸びは24%ではなく32%となり、80パーセンタイル(最小値から数えて80%)前後の人口の成長は停滞ではなく緩やかな伸びを示しています。
Uneven population shifts suppress the recorded income growth of parts of the global distribution. Population changes, rather than just income changes, have driven the income growth distribution in the elephant curve. Because the population of poorer countries has grown disproportionately, and the population share of mature economies has shrunk, average incomes have been dragged down. For example, if the relative populations of countries had remained as they were in 1988 (again using a consistent set of countries) then global income growth would have been 41 per cent. Crucially this ‘demographic headwind’ has been particularly strong around the global 70th-85th percentiles. Once we account for this, it would be hard to argue that the incomes of the developed world’s lower middle class stagnated during this period, although the income growth of this part of the global income distribution still appears weak relative to other parts.
不均等な人口移動は、世界的な分布の一部の記録上の収入の伸びを抑制します。 所得の変化だけではなく、人口の変化が、elephant curveの所得成長率分布を左右しました。 より貧しい国々の人口が過度に増加し、経済成熟国の人口シェアが縮小したため、平均所得は引き下げられました。 例えば、相対的な国の人口が1988年のままであれば(これも同じ国のセットを使って)、世界の所得の伸びは41%になったでしょう。 重要なことに、この「人口統計的逆風」は世界の70〜85パーセンタイル(最小値から数えて70〜85%)周辺で特に強かった。 一見すると世界の中所得分布のこの部分の所得の伸びは依然として他の部分と比較して弱いように見えますが、これを説明すると、先進国の中流階級の所得がこの時期に停滞したとは言い難いでしょう。
The aggregate data hides big variation between developed economies. Further exploring the apparent losers of globalisation, we find that the weak figures for the mature economies as a whole are driven by Japan (reflecting in part its two ‘lost decades’ of growth post-bubble, but primarily due to likely flawed data) and by Eastern European states (with large falls in incomes following the collapse of the Soviet Union after 1988). Looking only at the remaining mature economies, far from stagnation we find average real income growth of 52 per cent with strong growth across the distribution, though slightly higher at the top. And there are great differences between these nations. US growth of 41 per cent was notably unequally shared, with low (but not zero) growth for poorer deciles meaning that the US comes closest to matching the stagnation and inequality narrative – despite international trade being much less important on a national level there than elsewhere. But most people in most other rich countries experienced stronger growth. UK growth if anything appears too strong in this data relative to other sources, particularly for the poorest.
集計データは先進国間の大きな変動を隠しています。 グローバリゼーションの見かけ上の敗者をさらに探求すると、経済成熟国全体の弱い数字は日本(バブル崩壊後の20年間の成長喪失の一部を反映しているが、それは主にデータの欠陥によるものと思われる)および東欧諸国(1988年以降のソビエト連邦崩壊後の所得の大幅な減少を伴う)によってもたらされていることがわかります。 残りの経済成熟国だけを見ると、停滞からかけ離れて、分布全体で力強い成長を見せ、平均実質所得の伸びは52%であることがわかります。 そしてこれらの国の間には大きな違いがあります。 米国の41%の成長は貧困層の成長率が低く(ゼロではない)著しく不平等であり、それは米国が停滞と不平等の物語に最も匹敵する意味します-国際貿易は国内レベルでは他の国よりも重要性が低いにもかかわらず。 しかし、他のほとんどの豊かな国々のほとんどの人々はより強い成長を経験しました。 特に最も貧しい人々にとって、他の情報源と比較してこのデータに強すぎると思われるものがあるとすれば、英国の成長率でしょう。
見かけ上の所得増加を抑える3つの要因をまとめると次の通りとなる。
- 1988年のデータにない国のデータが2008年に追加されている(とくに途上国が増えている)
- 途上国の人口増加により、途上国と経済成熟国の人口比が変化した
- 日本と東欧諸国の経済停滞が経済成熟国全体の足を引っ張った
エレファントカーブは1988年と2008年の比較であるが、このような比較をする場合は、1988年においてX percentilesの人は2008年においてもX percentilesであること、すなわち、1988と2008年で同じ階層であることが大前提となる。 ただし、個人的な成り上がりや成り下りによる階層の変化は問題がない。 しかし、成り上がりや成り下りがないにもかかわらず階層が変化してしまうのでは比較が意味を持たない。 たとえば、過去のより上位の階層と比較してしまうと、実際に所得が減っていなくても減ったような結果になってしまう。 逆に、過去のより下位の階層と比較してしまうと、実際に所得が増えていなくても増えたような結果になってしまう。 このように、比較する階層のズレで結果が大きく歪められかねないのである。 「Milanovic氏とLakner氏自身が強調しているように、この図表は特定の人々の所得成長率に関するものではありません」は、そうした比較階層のズレを意味している。 そうした比較階層のズレが生じた原因として、Adam Corlettは次の2つをあげている。
- 「2008年に平均年収を下回る国を追加した」
- 「より貧しい国々の人口が過度に増加し、経済成熟国の人口シェアが縮小した」
この結果、国別での同じpercentiles同士で比較すると同じ層同士の比較になるが、世界全体での同じpercentiles同士で比較すると過去のより裕福な層と比較することになる。 とくにグラフ右側の経済成熟国が多数を占める領域において、その傾向は顕著となる。 それにより、同じ層同士で比較すれば所得が増加しているにも関わらず、見かけ上の所得増加が低く抑えられる。 Adam CorlettのREPORTには1988年と2008年の各percentileにおける成熟経済国の人口比(p.18, Figure 6)とそれによる各percentilesにおける見かけ上の所得の押し下げ効果の度合い(p.19, Figure 7)が図示されていて、途上国の人口増加がエレファントカーブの80percentile前後の見かけ上の大きな落ち込みの主原因であることがよく分かる。
また、日本はバブル崩壊後の20年間の経済停滞が生じ、東欧諸国はソビエト連邦崩壊により経済損失が生じている。 これら3つの要因は、「グローバル化の進展」によって生じた変化ではない以上、「グローバル化の進展」の影響にカウントするのはおかしい。
国別のデータと比較すれば、エレファントカーブの75〜85percentilesの落ち込みは明らかに不自然であり、何らかの誤差要因によって見かけ上の変化が生じたことは直ぐに分かる。 下の図は、Branko MilanovicとChristoph Laknerが用いたデータセットに基づいて、各国別に10階層に分けて(each decile)、横軸を所得のPPP$(購買力平価ドル、各国の物価を補正したドル)相当額、縦軸を所得増加率、円の大きさを人口比で表したものである。 尚、「Non-mature exc. China」「W Europe / South Korea」「Former Soviet satellites / Baltics」は、複数の国を1つにまとめることなく同じ色で表示しているため、これらは複数の国がそれぞれ別系列として同じ色で表示されていることに注意する必要がある。
Examining an elephant; Globalisation and the lower middle class of the rich world - Resolution Foundation REPORTP.24 Global Income Distribution: From the Fall of the Berlin Wall to the Great Recession
中国を除く世界の残りの地域を次の3つのグループに分けて、地域別に20階層に分けて(each vingtile)所得成長グラフを示すと下の図の通りとなる。
- 日本と東欧諸国を除く経済成熟国
- 日本と東欧諸国
- その他の地域
言うまでもなく、「グローバル化の進展」が各階層の個人所得にどう影響するかを論じたいなら、当然、「グローバル化の進展」とは関係がない3つの要因の影響を補正する必要がある。 人口比によって比較対象者が変わる部分を補正すると次の図になる。
Consistent set of countriesでは、1988年と2008年に同じ国のデータを使用している。 Constant populationは、さらに、途上国と経済成熟国の人口比が一定となるよう補正している。 この段階で極貧層を除いた全ての階層の所得が増えていることが分かる。
実は、Branko Milanovicたちも「our original paper (私たちの最初の論文)」で人口変動の補正を行なっている(下の図)。
Global Income Distribution: From the Fall of the Berlin Wall to the Great Recessionp.14
「our original paper (私たちの最初の論文)」では、「the shape of the quasi-nonanonymous curves is very similar to the shape of the anonymous GIC (擬似非匿名カーブの形状は、匿名GICの形状と非常によく似ている)」として、Resolution FoundationのREPORTで指摘するような補正前後の明確な差は認めていない。 しかし、これはグラフの底が0になっていないからである。 「our original paper (私たちの最初の論文)」の擬似非匿名カーブ(いわゆるエレファントカーブ)と匿名GIC(人口変動補正後のグラフ)を、下図のように、スケールを補正しないでそのまま重ねると確かに形は似ている。
Global Income Distribution: From the Fall of the Berlin Wall to the Great Recessionp.14,20
しかし、下図のように、両者のスケールが一致するように重ねると、両者には明らかな違いが見られる。
Global Income Distribution: From the Fall of the Berlin Wall to the Great Recessionp.14,20
「our original paper (私たちの最初の論文)」は、擬似非匿名カーブに比べて匿名GICの上位1%の所得成長率が下がっていることに言及している。 しかし、50 percentails以下や80 percentails周辺の所得成長率が上がっていることには言及していない。 上位1%の所得成長率の変化は10%以内に止まっている。 それに対して、50 percentails以下は20%以上(5 percentailsでは60%以上)、80 percentailsでは30%以上も増加している。 それなのに、上位1%の変化にのみ言及して、50 percentails以下や80 percentails周辺について言及しないのは明らかに不自然である。 これは、偽装のせいで誇張されて目立つようになった上位1%の変化に言及せざるを得なかったからだろう。 一方で、形状が似ているかのように偽装していることが発覚しないよう、50 percentails以下や80 percentails周辺の変化について具体的な言及を避けたものと思われる。 このような小細工をせずに、グラフの底を0にして描きなおすと次のようになる。
Global Income Distribution: From the Fall of the Berlin Wall to the Great Recessionp.14
小細工のないグラフの底を0にしたグラフは、小細工をしたBranko Milanovicたちのグラフと比べて全く印象が変わる。 「our original paper (私たちの最初の論文)」の「the quasi-nonanonymous curves (擬似非匿名成長率曲線)」が示された章のタイトルには「WHO ARE THE WINNERS AND LOSERS? (勝者と敗者は誰か?)」と書かれている。 確かに、人口変動の影響を補正しない「the anonymous GIC (匿名GIC)」で見れば、見かけ上、勝者と敗者に明確に分けられる。 しかし、人口変動の影響を補正した「the quasi-nonanonymous curves (擬似非匿名成長率曲線)」では、全階層で所得が20%以上向上しており、グラフのどこにも敗者など存在しない。 にも関わらず、勝者と敗者に分けて論じるのは、あたかも人口変動による誤差が「the anonymous GIC (匿名GIC)」に大きな影響を与えないかのように偽装しているからであろう。 「our original paper (私たちの最初の論文)」の最後で購買力平価(PPP)ドルの換算レートが不適切である可能性に言及してグラフの補正をしているが、この時は「the quasi-nonanonymous curves (擬似非匿名成長率曲線)」ではなく「the anonymous GIC (匿名GIC)」を用いている。 その理由も、あたかも人口変動による誤差が「the anonymous GIC (匿名GIC)」に大きな影響を与えないかのように偽装しているからであろう。
以上まとめると、Adam Corlettは、補正前後のグラフを同じスケールで重ねて表示しており、それにより両者の差異が一目瞭然となっている。 そればかりか、Adam Corlettは、人口変動の概要をFigure 6 (p.18)に、それによる見かけ上の所得の押し下げ効果の度合いを階層別にFigure 7 (p.19)に、それぞれ表すなど、補正前後の違いを細かく分析している。 それに対して、Branko Milanovicたちは、故意にスケールを変えて差異が目立たなくなるような偽装工作を行ない、かつ、Adam Corlettが指摘したような具体的な差異への言及を避けて、「the shape of the quasi-nonanonymous curves is very similar to the shape of the anonymous GIC (擬似非匿名カーブの形状は、匿名GICの形状と非常によく似ている)」と断定している。 分析過程と結果を第三者にハッキリと明示しているAdam Corlettと、偽装工作と隠蔽を行っているBranko Milanovicたち、どちらが信用に足るかは言うまでもない。
Constant populationからさらに、日本と旧ソ連のデータを除外すると次の図になる。
これにより極貧層を除く全ての階層の所得が概ね40%以上増えていることが分かる。 また、中国も除外すると極貧層を除く全ての階層の所得の増加率はほぼ一定となる。 Adam Corlettは、日本や東欧諸国に極めて例外的な経済停滞があったことを指摘している。 また、中国は世界でも極めて珍しい極端な急成長をしたことが知られている。 であれば、「グローバル化の進展」の影響を論じるにあたって、これら別の原因で生じたと考えられる特殊事例を除外して考えるべきことは言うまでもない。 以上踏まえると、エレファントカーブとなった主たる原因は次のとおりである。
- 全体的に増加率がやや低めになっているのは1988年と2008年でデータを採用している国が違うため(明らかな虚構)
- 75〜85percentilesの激しい落ち込みは途上国の人口増加による(明らかな虚構)
- 60percentiles以上の全体的な低下は日本経済等の低迷による(一部の国の特殊事例)
- 40〜60percentilesの山は中国経済の急成長による(一部の国の特殊事例)
エレファントカーブとなった原因を詳細に図で表すと下のようになる。
まとめると、このデータが示していることは次のとおりである。
- ごく一部の特殊な例外を除くと、「グローバル化の進展」で世界の各所得階層はほぼ均等に所得を増やした
- 日本と東欧諸国に極めて例外的な経済停滞があった
- 中国は飛躍的に経済発展した
再反論を装った偽装工作
Interested readers should take a look at our detailed response – we have also written a letter to the FT’s editor. Furthermore, there have been a number of accurate and excellent discussions in the media – for example, the Economist, another article in the Financial Times, Tages-Anzeiger [in German].
興味のある読者は私たちの詳細な回答を見てください - 私たちはまたFTの編集者に手紙を書きました。 さらに、メディアでは正確で優れた議論が数多く行われています。 たとえば、Economist、Financial Timesの別の記事、Tages-Anzeiger(ドイツ語)。
It is important to be clear on two points in this blog: First, many of Corlett’s substantive points are already addressed in our original paper Most importantly, the non-anonymous growth incidence curve, which addresses Corlett’s compositional and demographic points, was already included in our paper (Fig. 5) and discussed in our VoxEU.org blog. Or as the Economist writes “the Resolution Foundation’s critique added little to the original academic papers (except a reason to go back and read them)”.
このブログでは、次の2点を明確にしておくことが重要です。 第一に、Corlettの本質的な点の多くは、私たちの最初の論文ですでに取り上げられています。 最も重要なのは、Corlettの構成上および人口統計上の問題点に対応する非匿名成長率曲線です。 これはすでに私たちの論文(図5)に含まれており、VoxEU.orgブログで説明されています。 あるいは、経済学者が書いているように「Resolution Foundationの批評は、元の学術論文にほとんど何も追加しなかった(それらを振り返って読む理由を除いて)」。
A rebuttal to the “elephant graph” discussion - THE WORLD BANK
「the non-anonymous growth incidence curve (非匿名成長率曲線)」とはAdam Corlettの反論のFigure 11のことであろうが、これは「Corlett’s substantive points (Corlettの本質的な点)」を導き出すための基礎データであって、「Corlett’s substantive points (Corlettの本質的な点)」ではない。 「Corlett’s substantive points (Corlettの本質的な点)」は、虚構に満ちたエレファントカーブを作り出した3つの要因であって、それらは「our original paper (私たちの最初の論文)」には含まれていない。 正確に言うと、「our original paper (私たちの最初の論文)」でも、「Corlett’s substantive points (Corlettの本質的な点)」のうちの人口変動の影響については形の上では言及している。 しかし、前述のとおり、Branko Milanovicたちは、明らかにデータ上に現れている差異を偽装工作で隠蔽してしまっている。 つまり、Branko Milanovicたちは、言及している振りをして、その実、都合の悪いことを無かったことにしてしまっている。 Branko Milanovicたちは、単に、差異を見逃したのではなく、差異がないことを確認したように偽装しているのである。
「as the Economist writes (経済学者が書いているように)」も意味不明である。 具体的な反論を示すなら他人を出汁に使う必要はない。
ようするに、これははぐらかしているだけである。 反論の具体的内容を取り上げると言い返すことが困難なのである。 だから、反論の具体的内容への言及を避けるため、「ほとんど何も追加しなかった」として取り上げるべき価値のある内容がなかったかのように断じているのである。 それによって再反論を為したかのような体を偽装しているだけである。
Second, some commentators have suggested that we have singled out globalization as the only explanation for the observed difference in income growth rates of the middle classes in the emerging Asian countries (high) and in mature economies (low). In fact, our paper does not provide any causal interpretation.
第二に、アジアの新興国(高)と経済成熟国(低)の中産階級の所得成長率の差についての唯一の説明として我々がグローバリゼーションを選び出したことを何人かのコメンテーターが示唆しています。 実際、私たちの論文は如何なる因果的解釈も提示していません。
A rebuttal to the “elephant graph” discussion - THE WORLD BANK
後に紹介する「our detailed response (私たちの詳細な回答)」によれば、「our paper (Branko Milanovicたちの論文)」で提示していない「causal interpretation (因果的解釈)」とは「the low growth rate of Western middle classes is due to globalization alone (西洋の中産階級の低成長率がグローバリゼーションのみによるものである)」という原因の解釈に関する部分である。 ようするに、Branko Milanovicは原因の解釈に関する部分にだけ言及し、それが「some commentators」によるものだとしている。 しかし、その原因に対応する事実の有無については一切言及していない。 「It is important to be clear on two points (次の2点を明確にしておくことが重要)」だと自ら言っておきながら、最も重要である事実関係の有無については「two points」の中で一切言及していないのである。
以下に、「our detailed response (私たちの詳細な回答)」の概要を示す。
It is important to be clear about what are the key disagreements between us and Adam Corlett: they are not about the data and the facts, nor that we argue that globalization alone is to blame for low income growth of rich countries’ middle classes (as Corlett, and commentators discussing his work, sometimes seems to imply).
私たちとAdam Corlettとの間の主な意見の相違は何かについて明確にすることは重要です: それらはデータや事実、または、富裕国の中産階級の所得の低成長の原因がグローバリゼーションのみにあると我々が主張していること(Corlettと彼の作業を議論しているコメンテーターは時々示唆するように思われる)でもありません。
Branko MilanovicたちとAdam Corlettの意見の相違は、データや事実の分析方法の違いであり、その結果として、「low income growth of rich countries’ middle classes (富裕国の中産階級の所得の低成長)」なる事実が存在するかどうかである。 このように、最初から論点をはぐらかしてくるあたり、真面目に議論する意志が全く見られない。
A. The facts
It is empirically incontrovertible that during the past 20-25 years, the middle classes in Asian countries have had a high rate of income growth. That is true even if China is excluded. It is also incontrovertible that the middle and lower middle classes in rich countries have had a relatively low rate of income growth.
A. 事実
それは過去20-25年の間アジア諸国の中流階級は高い所得の伸び率を持っていたことは経験的に議論の余地がありません。 中国が除外されていてもそうです。 富裕国の中層階級と中下層階級の所得の伸び率が比較的低いということもまた、議論の余地がありません。
エレファントカーブは「富裕国の中層階級と中下層階級の所得の伸び率」が「比較的低い」どころか全くないかマイナスであることを示唆しようとしている。 それに対する反論に対して再反論するなら、自らが示した「富裕国の中層階級と中下層階級の所得の伸び率」が全くないかマイナスであるようなグラフの正当性について言及すべきことは言うまでもない。 にもかかわわず「比較的低いということは〜」では誤魔化しも良いところだろう。 また、Adam Corlettは「中国が除外」された場合には全階層でほぼ一定の所得増加率となっていることをグラフで示している。 それに対して具体的な証拠を示さずに「empirically (経験的に)」という直感論だけで違う結論だけを示して「incontrovertible (議論の余地がない)」と断ずるのは誤魔化し以外の何物でもない。
この後、Branko Milanovicは、「selected Asian and Western country」という恣意的な選択をした国だけのデータのみを見せて、それに基づいてエレファントカーブに似せた抽象的な図を描いて、独自の主張を展開している。 しかし、Adam Corlettは反論としてBranko Milanovicの利用した全ての国のデータを分析したグラフを示しているのに、どうしてBranko Milanovicは恣意的な選択をした国だけに基づいた抽象図で再反論をしようとするのか。 これでは、恣意的な選択なしにはBranko Milanovicの主張内容が導けないと自白しているようなものである。
This intuitively explains why in the “elephant graph” there is a sharp decline in the global growth incidence curve when one moves from the position around the global median and moves toward the higher global percentiles where the Western middle classes are located.
これは、「象グラフ」において、西部の中産階級が位置する方へ、世界の中央値を中心とする位置から移動し、より高い世界的百分位数に向かって移動すると、世界の成長率曲線が急減する理由を直感的に説明します。
これが「A. The facts (事実)」の項目の結びの言葉である。 「A. The facts (事実)」の項目では、「empirically (経験的に)」直感論を述べた後、「selected Asian and Western country」という恣意的な選択をした国だけのデータに基づいて、「intuitively (直感的に)」エレファントカーブの形になった理由が合理的に説明できると言っているに過ぎず、それ以外の言及がない。 これでは、「The facts (事実)」などとは到底言えない、直感に基づいたコジツケでしかない。 Adam Corlettが明確な根拠を示して反論したことに対して、「empirically (経験的に)」「intuitively (直感的に)」でコジツケた結論で返答しただけでは、「the key disagreements between us and Adam Corlett (Branko MilanovicたちとAdam Corlettとの間の主な意見の相違)」について何ら再反論できていない。
B. Explanation
So, if the argument is not about the facts, is it about their explanation? Not really because a monocausal explanation for the discrepancy between the two middle classes’ growth rates that Corlett at times seems to ascribe to us is inaccurate. Nowhere do we claim that the low growth rate of Western middle classes is due to globalization alone. In fact, in our paper the issue is not even mentioned and in Milanovic’s Global inequality it is discussed in conjunction with other factors which might have been responsible for the upward sloping GICs in rich countries and thus low growth rates of the middle: technological progress and economic policies. The evidence, mentioned by Milanovic, about the possible link between globalization and slow growth of middle class incomes in the West comes from other authors: Ebenstein, Harrison, McMillan and Phillips (2014), Ebenstein, Harrison, McMillan (2015), Feenstra and Hanson (1999).
B.説明
それで、議論が事実に関するものでなければ、それは彼らの説明に関するものでしょうか。 Corlettが時々私たちのせいにしているように思われる2つの中流階級の成長率の間の食い違いの因果的な説明が不正確とするのは正しくない。 西洋の中産階級の低成長率がグローバリゼーションのみによるものであると主張する人は誰もいません。 実際、私たちの論文ではこの問題は言及されていませんし、そしてMilanovicのグローバルな不平等においてそれは富裕国におけるGICの上昇傾向、ひいては中期的な成長率の低さの原因となっていた可能性がある他の要因(技術の進歩と経済政策)と併せて議論されています。 Milanovicが述べたように、グローバル化と西部における中流階級所得の低成長との関連性についてのエビデンスは他の著者によるものである。 Ebenstein, Harrison, McMillan and Phillips (2014), Ebenstein, Harrison, McMillan (2015), Feenstra and Hanson (1999).
「A. The facts (事実)」の項目は既に説明した通りであり、その内容では「the argument is not about the facts (議論が事実に関するものでない)」とは到底言えないことは言うまでもない。 Adam Corlettが指摘していることは、Branko Milanovicたちのデータからは「discrepancy between the two middle classes’ growth rate (2つの中流階級の成長率の間の食い違い)」なる事実が導けないことである。 論点は、存在しない事実に関する原因説明が正確かどうかではなく、その原因に対応する事実が存在するかどうかである。 もちろん、その原因に対応する事実が存在しなければ、存在しない事実に関する原因説明が誤っていることは言うまでもない。
C. Difference in focus
The argument is thus neither about the facts nor (really) about the explanation of the facts. It is about the focus.
C.焦点の違い
したがって、議論は事実や(実際には)事実の説明に関するものではありません。 それは焦点についてです。
「A. The facts (事実)」「 B. Explanation (説明)」の項目は既に説明した通りであり、その内容では「is thus neither about the facts nor about the explanation of the facts (議論は事実や事実の説明に関するものでない)」とは到底言えないことは言うまでもない。 Adam Corlettが指摘していることは、Branko Milanovicたちのデータからは「discrepancy between the two middle classes’ growth rate (2つの中流階級の成長率の間の食い違い)」なる事実が導けないことである。 論点は、存在しない事実に関する原因や焦点の説明が正確かどうかではなく、その原因や焦点に対応する事実が存在するかどうかである。 もちろん、その原因や焦点に対応する事実が存在しなければ、存在しない事実に関する原因や焦点の説明が誤っていることは言うまでもない。
It is finally also present if we keep the 1988 country/deciles fixed, at their 1988 positions, and look at what growth rates they have experienced. This is what we call in our paper “quasi non- anonymous GIC”. It would be fully non-anonymous if we could keep the same people at their 1988 positions. Obviously, we cannot do that because our data come from national surveys that are random samples which include every year different people. But we can keep the same country/deciles at their 1988 positions and then chart their growth rates. In other words, we keep say, the Chinese urban 3rd decile at its 1988 position (40th global percentile), American 5th decile at its own 1988 position (92nd percentile) and so forth.
1988年の国/10分位数を同じ位置に固定し、彼らが経験したことを見れば、それは姿を表します。 これは私達が私達の論文で「疑似非匿名GIC(growth incidence curve:成長率曲線)」と呼んでいるものです。 同じ人々を1988年の地位に維持できれば、それは完全に匿名ではないでしょう。 明らかに、私達のデータは毎年異なった人々を含む無作為サンプルである全国調査から来るので私達はそうすることができません。 しかし、同じ国/10分位を1988年のポジションに維持してから、成長率を図にすることができます。 言い換えれば、1988年の中国の都市の3 decile(世界の40パーセンタイル)、1988年のアメリカの5 decile(92パーセンタイル)などのように。
Such a chart takes care of two “problems”: (i) it does mot allow for churning of the country/deciles (i.e., does not allow for the movement of country/deciles up or down the global income distribution) and (ii) it does not allow for changes in national population sizes. So, to repeat, both the churning and the demographic effects are adjusted for.
そのような図表は2つの「問題」を扱います: (i)それは国/10分位数をかき回すことを可能にする(すなわち、国/10分位数の変動による世界の所得分配の上下は認められない) (ii)国民の人口規模の変化を認めない。 繰り返しになりますが、かき回し効果と人口学的効果の両方が調整されます。
Figure 3 displays such a quasi non-anonymous GIC. It is taken from our 2016 World Bank Economic Review paper (Figure 5, p. 222). We show there such a chart also with 1993 as the base year, and in the presentations we have also used it with an extra adjustment for the top income underreporting (which makes the “trunk” around the global 1% higher).
図3は、そのような疑似非匿名GICを示しています。 それは私たちの2016年世界銀行経済レビュー論文から取られています(図5、p.7)。 1993年を基準年としたこのようなチャートも示しています。 プレゼンテーションでは、過少申告をしている最高位所得の追加調整を加えて使用しています(これにより、世界全体の「象の鼻」が1%高くなります)
Branko Milanovicの言っていることは、途上国と先進国の人口比の変動による影響は、Adam Corlettの採用したやり方以外にも、「keep the same country/deciles at their 1988 positions (同じ国/10分位を1988年のポジションに維持)」でも補正できるということである。 どちらも適切な補正方法であるなら、両者の結果に若干の違いが生じることがあっても、全く違う結果になることはありえない。 一見すると両者の結果が全く違うように見える。 しかし、Branko Milanovicの示したFigure 3をよく見ると次のことがわかる。
- グラフの底が0になっていない。
- 1988年と2008年の比較ではなく、Annual growth rate (年間成長率)になっている
- 「“trunk” (象の鼻)」が1%高くなるような「extra adjustment for the top income underreporting (過少申告をしている最高位所得の追加調整)」がある
ただし、これは、「our original paper (私たちの最初の論文)」のグラフを違う形で再掲しているだけのようである。 それならば、そのトリックは既に説明した通りである。 ここで、「our original paper (私たちの最初の論文)」の「疑似非匿名GIC(growth incidence curve:成長率曲線)」とAdam CorlettのConstant populationを「the quasi-nonanonymous curves (擬似非匿名成長率曲線)」をスケールが一致するように重ねると下図のようになる。
Examining an elephant; Globalisation and the lower middle class of the rich world - Resolution Foundation REPORTP.20 Global Income Distribution: From the Fall of the Berlin Wall to the Great Recessionp.20
Branko Milanovicの示した「the quasi-nonanonymous curves (擬似非匿名成長率曲線)」は、「Solid line shows predicted value from kernel-weighted local polynominal regression (実線はカーネル加重局所多項式回帰からの予測値を示している)」ことから、細かい変動が滑らかになるように補正されている。 Adam CorlettのConstant populationのグラフと比べると、細かい変動を除けば、Branko Milanovicの図は60 percentails付近の山が小さくなっている以外、両者はソックリである。 Branko Milanovicが補正方法の詳細を明らかにしていないため、両者の差異の原因については定かではない。 そして、両者の違いがBranko Milanovicたちの主張に有利に働かないことは言うまでもない。
Adam Corlettへの再反論としてBranko Milanovicが「the quasi-nonanonymous curves (擬似非匿名成長率曲線)」を再掲したなら、当然、これはAdam Corlettの示したConstant populationのグラフとは形が全く違うと言いたいことは明らかだろう。 何故なら、基本的な部分で形が同じであるなら、Adam Corlettの主張を追認することになってしまい、再反論にはならないからである。 しかし、基本的な部分で形が違うのであれば、その違いは誤差等で説明がつかないから、どちらかが明確な間違いとなる。 そして、その間違いが生じた原因があるはずであるし、間違いが生じた原因が明確でなければ、どちらかの図が間違いであるかは断定しようがない。 だから、Adam Corlettのグラフの間違いがどのようにして生じたのか説明しないことには、Branko Milanovicの示した図のグラフが正しいと示したことにはならない。 しかし、Branko Milanovicは、Adam Corlettのグラフがどのように間違っているのかを一切説明していない。
ようするに、Branko Milanovicの言っていることは「our original paper (私たちの最初の論文)のthe quasi-nonanonymous curves (擬似非匿名成長率曲線)でも間違いとは言い切れないじゃないか。the quasi-nonanonymous curves (擬似非匿名成長率曲線)だとAdam Corlettのグラフと違う結果が出る(実際にはAdam Corlettと似たような結果だが偽装して全然違っているかのように見せかけている)」と言っているだけなのだ。 Branko Milanovicは正解を明らかにしようとしているのではなく、何が正解なのかわからないようにしてはぐらかしているだけなのである。 「our original paper (私たちの最初の論文)」で新説を発表したのは、Adam Corlettではなく、Branko Milanovic達である。 その自分たちが発表した新説の間違いが指摘され、かつ、その正しさを反証できないなら、潔く、自らの主張を撤回すべきであろう。 真偽不明に持ち込んで有耶無耶に済まそうとする態度は、学術的に必要な姿勢を欠いているとしか言いようがない。 しかも、意図的な偽装で事実を歪曲しているのだから、これは学術的に許される範囲を逸脱している。
以上の通り、Branko Milanovicが、間違っていることを自覚しながらも持論を押し通したことには疑いの余地はない。 そして、それなら、このような偽装工作をするべきではなかった。 最初から「the quasi-nonanonymous curves (擬似非匿名成長率曲線)」を闇に葬り去るべきだったのだ。 そして、Adam Corlettの反論に対しては、何があっても沈黙を貫き、エレファントカーブを鸚鵡返しに唱えるべきだった。 「the quasi-nonanonymous curves (擬似非匿名成長率曲線)」のような偽装工作をするから、故意に捏造をしていることがバレるのである。
So Corlett’s showing of GICs for mature economies excluding “Japan, ex-Soviet satellites/Baltics” and then “the world excluding China” and finally “Japan and (the incongruously named) ex-Soviet satellites/Baltics” is absolutely fine, but obviously such new sub-global classifications are not going to reproduce an elephant shaped curve (since that curve crucially depends on having the whole world included).
そのため、Corlettが「日本を除く旧ソビエト衛星/バルト諸国」、次に「中国を除く世界」、そして最後に「日本と(曖昧な名前の)旧ソビエト衛星/バルト諸国」を除くGICの展示は絶対に素晴らしいが、明らかにそのような新しいサブグローバル分類は、象の形をした曲線を再現することはできません(その曲線は全世界を含むことに決定的に依存するので)。
象の形が全世界を含むことに依存し、「日本と旧ソビエト衛星/バルト諸国」等を除外するとエレファントカーブが再現できない事実はAdam Corlettの説明の追認でしかない。 Adam Corlettは、「日本と旧ソビエト衛星/バルト諸国」に極めて例外的な経済停滞があったことを指摘している。 また、中国は世界でも極めて珍しい極端な急成長をしたことで知られている。 であれば、「グローバル化の進展」の影響を論じるにあたって、これら別の原因で生じた特殊事例を除外して考えるべきことは言うまでもない。 それに対して、Branko Milanovicは、次のような理由を一切説明していない。
- 「グローバル化の進展」を分析するにあたって、極めて特殊な事例の国のデータも含めなければならない正当な理由
- 極めて特殊な事例に見える特定の国のデータが、実は「グローバル化の進展」の影響による現象と考えられる理由
よって、Branko Milanovicのこの主張は再反論として全く何の意味も為していない。
He emphasizes that the mature economies (excluding Japan and “ex-Soviet”) display more or less flat GIC with only an upward kink toward the top of the distribution. This reflects the well-known increase in inequality in mature economies and lower growth rates (than around the top) for most of the Western countries’ distributions.
彼は、成熟経済圏(日本と「旧ソビエト」を除く)は、物価の最高点に向けての上昇傾向のみを伴い、ほぼ横ばいのGICを示していると強調しています。 これは、成熟経済圏における不平等の著しい増加と、西側諸国のほとんどの流通の成長率の低下(最高水準付近)を反映しています。
どうして、「ほぼ横ばいのGICを示している」ことが「不平等の著しい増加」「流通の成長率の低下」を「反映」しているのか意味不明である。 所得増加率が全ての階層でほぼ一定であれば、貧困層と中間層と富裕層の所得の比は全く変化せず、「不平等の著しい増加」とは無関係である。 また、全ての層で所得が増加していることは、「流通の成長率の低下」とも無関係である。
まとめると、「added little to the original academic papers (元の学術論文にほとんど何も追加しなかった)」のは、Adam Corlettではなく、Branko Milanovicであることは明らかであろう。 Branko Milanovicは、Adam Corlettとの争点を完全に無かったことにして、議論をはぐらかしたり、根拠も示さずに断定的な結論を述べているだけである。
大嘘の例
ミラノヴィッチ氏とラクナー氏のデータに対する英国のシンクタンクであるResolution Foundationの最近の分析では、人口増加の差を考慮すると、先進国の労働者層及び中所得者層の所得もグローバリゼーション時代に増加したことが示されました。 しかし、象のような形状は変わらず、グローバリゼーションによりグローバルな不均衡は和らいだものの、西洋諸国で所得格差は深刻なものになっています。
上の方で紹介したResolution FoundationのREPORTの図を見てもらえれば分かる通り、「象のような形状」が完全に崩れており、グラフは「西洋諸国で所得格差は深刻」であることを全く示していない。 どうして原典を見ればすぐに分かるような嘘をつくのか全く理解できない。
情報ソース:Examining an elephant: globalisation and the lower middle class of the rich world
自称経済評論家の三橋貴明大先生がまたやってくれている。 何と、Branko Milanovicのエレファントカーブの「情報ソース」をエレファントカーブ の間違いを指摘したResolution FoundationのREPORTにしているのである。 つまり、三橋貴明大先生は、Resolution Foundationの反論を綺麗サッパリ無視したと公言するも同然のことを平然とやっているのである。 さすが、隠れK産主義者は言うことが違うね。
補足
世界銀行のような国連の機関にも次のような人たちがいる。
- 「国営はけしからん、民営化すれば全て上手く行く」という極端な市場原理至上主義者
- 「格差はけしからん、格差こそが貧困の原因である」とし、自分達の考えに与しない人に「新自由主義者(極端な市場原理至上主義者という意味で用いている)」いうレッテルを貼りたがる共産主義者
- 以上のいずれにも与しない客観主義者(極端な市場原理至上主義者からは「共産主義者」と言われ、共産主義者からは「新自由主義者」と言われる)
このうち、市場原理至上主義者と共産主義者は、その主張が全く逆方向であることを除けば、いずれも現実を無視もしくは歪曲して持論を正当化しようとする点で共通している。 両者は、いずれも、現実を客観的に分析しようとする姿勢に欠けており、持論に都合の良い結論を導くことのみに執着している。 このような人たちの言うことには騙されないよう注意することが必要である。
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