ラチェット規定

中立かつ客観原則 

ここでは中立的な立場で事実関係を検証する。 賛成か反対かという結論は先に立てず、現実に起きた出来事、確実に起き得ること、一定程度の期待値を示す根拠のあることを中立かつ客観的に検証する。 可能性レベルの物事を論じるためにも、無視できない可能性があることを示す根拠を重視し、根拠のない当てずっぽうや思い込みや伝聞等の不確かな情報は、それが妄想に過ぎないことを示した上で門前払いとする。 賛成論でも間違いは間違いと指摘するし、それは反対論でも同じである。 ここでは賛成論にも反対論にも与しない。

TPP総論 

長期的視野では話は別だが、短期的視野で見ればTPPに参加するかしないかは大きな問題ではない。 それよりも、TPPとは全く無関係な混合診療完全解禁がもたらす患者の治療機会喪失の危険性やイレッサ訴訟の行く末によるドラッグラグ・未承認薬問題の悪化の方が、遥かに大きな問題であろう。 だから、TPPよりも重要な争点において国民に不利益をもたらす政策を党員に強要する日本維新の会は落選運動の対象とせざるを得ない。 混合診療の完全解禁を公約とする日本維新の会およびみんなの党には一切の主導権を握らせてはならない。 そのためには、これらの党に対する落選運動が必要なだけでなく、与党とこれらの党との連携も絶対に阻止しなければならない。 具体的運動の詳細は自民党への抗議方法を見てもらいたい。

ラチェット条項 

条約法に関するウィーン条約では、条約締結時にその一部の法的効果を排除を表明又は変更する声明を表明できる。 それを留保と言うが、そのうち条約が明示的に認めている留保は、他の締約国による受諾がなくても効力を発する。

第二条 用語

1 この条約の適用上、


(d)「留保」とは、国が、条約の特定の規定の自国への適用上その法的効果を排除し又は変更することを意図してへ条約への署名、条約の批准、受諾若しくは承認又は条約への加入の際に単独に行う声明(用いられる文言及び名称のいかんを問わない。)をいう。


第二十条 留保の受諾及び留保に対する異議

1 条約が明示的に認めている留保については、条約に別段の定めがない限り、他の締約国による受諾を要しない。

条約法に関するウィーン条約 - 東京大学東洋文化研究所田中明彦研究室

条約が明示的に認めている留保は、さらに、現在留保と将来留保がある。

留保表には、

(i)現在留保(既存の規制措置を留保。留保した措置については現状維持義務がかかる。)

(ii)将来留保(現状維持義務が無く、締約国は、将来、規制を強化することができる。)

の2つに分けて、留保する分野、留保する協定の義務、根拠法令等が掲載されている。

なお、締約国が留保できる義務は、内国民待遇、最恵国待遇、パフォーマンス要求のみ。 つまり、協定の他の義務(公正衡平待遇、収用の制限と適切な補償、等)は留保できない。

投資協定の概要と日本の取組み - 経済産業省P.3

現在留保には協定発効時よりも規制を強化しない現状維持義務(スタンドスティル)が課せられるが、これを更に一歩進めて協定発効以降の自由化についても逆戻りを禁じたものがラチェットである。

ネガティブリストの場合、一般に、NT、MFN及びPR禁止義務に適合しない措置を「維持」又は「採用」できる、「現状維持義務(スタンドスティル)なし」のリストと、協定発効時に存在するNT、MFN及びPR禁止義務に非整合的な措置を「維持」できるが、 これを協定非整合的な方向に改訂することや、新たな協定非整合措置を採用することはできず、また一度措置を協定に整合的な方向に緩和した場合、再度措置の強化ができない(ラチェット義務。一方向にしか回転しない歯車Ratchetに由来)という「現状維持義務・ラチェットあり」のリストの2種類を作成することが一般的である。

「2011年版不公正貿易報告書」及び「経済産業省の取組方針」第III部 経済連携協定・投資協定 第5章 投資 - 経済産業省P.590,591

一般に、GATT第20条 (人命や健康等を理由とするセーフガード規定)GATS第14条等の例外条項が設けられるため、こうした例外適用時には、当然、現状維持義務もラチェットも適用されない。 政府の説明においても、衛生植物検疫措置/貿易の技術的障害が規定される分野には、ラチェットは適用されないとしている。

5 なお、いわゆる「ラチェット条項(※)」は、一般的に、投資、サービス分野において規定されているものであり、衛生植物検疫が規定される分野とは直接には関係ありません。 したがって、食品安全の基準を一度緩和すると、ラチェット条項により、再び厳しくすることはできなくなるということはありません。

TPP協定交渉について - 内閣官房P.66

項目 自由化方向 逆行可能性
受け入れ協定本文で自由化を約束済各種セーフガード適用可
現在留保ラチェットあり
将来留保義務なし自由に逆行可
対象外

ラチェットは、投資のリスクを下げて、投資をしやすくするためにある。 一方で、国の安全保障にかかわるようセンシティブな分野は、現状維持義務のない将来留保とすることで、必要な規制を行う余地が残される。

可能な限り多くの分野に現状維持義務をかけることにより、投資家が直面しうる法制度面でのリスク(国内制度が変更されるリスク)を軽減することができる。 その一方で締約国は、武器産業や原子力産業など、国の安全保障にかかわるような特にセンシティブな分野を「現状維持義務なし」のリストに登録し、そうでないものは「現状維持義務・ラチェットあり」のリストに登録することによって、必要な規制を行う余地を残しつつ、自国の外資政策に法的安定性を持たせている。

「2011年版不公正貿易報告書」及び「経済産業省の取組方針」第III部 経済連携協定・投資協定 第5章 投資 - 経済産業省P.591

ラチェット規定がなければ、極端な場合、一旦、自由化しておいて、海外からの新規投資があれば、その直後に規制を強化することも可能になる。 こうした行為を許せば、海外からの参入のない分野だけを選択的に自由化しておいて、海外からの参入があれば即座に規制を強化することで、事実上の海外参入の全面規制も可能となる。 つまり、表面的には自由化しているかのように偽装しながら、実質的には、規制でがんじがらめすることも可能なのだ。 当然のことながら、こうした行為は自由貿易を推進する協定の趣旨に反する。 だから、ラチェット規定でこうした自由貿易の趣旨に反する行為を禁止するのは当然と言える。 一方で、現状維持義務もないラチェットもない将来留保もあり、どうしても規制が必要な分野についても対応が可能である。

米韓FTAでは米国だけに認められる片務的条項であるかのようなデマが流布されているが、公的機関の情報では双務的条項であると明記されている。 その詳細はTPPと米韓FTAに記載した。 これはTPPにおいても同じである。

参考 

総合案内

情報発信

法律

政策

政府財政

軍事

経済

外交

中立的TPP論

外部リンク