ネガティブリスト
中立かつ客観原則
ここでは中立的な立場で事実関係を検証する。 賛成か反対かという結論は先に立てず、現実に起きた出来事、確実に起き得ること、一定程度の期待値を示す根拠のあることを中立かつ客観的に検証する。 可能性レベルの物事を論じるためにも、無視できない可能性があることを示す根拠を重視し、根拠のない当てずっぽうや思い込みや伝聞等の不確かな情報は、それが妄想に過ぎないことを示した上で門前払いとする。 賛成論でも間違いは間違いと指摘するし、それは反対論でも同じである。 ここでは賛成論にも反対論にも与しない。
TPP総論
長期的視野では話は別だが、短期的視野で見ればTPPに参加するかしないかは大きな問題ではない。 それよりも、TPPとは全く無関係な混合診療完全解禁がもたらす患者の治療機会喪失の危険性やイレッサ訴訟の行く末によるドラッグラグ・未承認薬問題の悪化の方が、遥かに大きな問題であろう。 だから、TPPよりも重要な争点において国民に不利益をもたらす政策を党員に強要する日本維新の会は落選運動の対象とせざるを得ない。 混合診療の完全解禁を公約とする日本維新の会およびみんなの党には一切の主導権を握らせてはならない。 そのためには、これらの党に対する落選運動が必要なだけでなく、与党とこれらの党との連携も絶対に阻止しなければならない。 具体的運動の詳細は自民党への抗議方法を見てもらいたい。
お詫び他
私のブログからも勝手に引用して勝手に批判してくださっていました
サルでもわかるTPP - Scoop.it
と言われて何のことか分からなかったが、どうやら、TRANS-PACIFICSTRATEGICECONOMICPARTNERSHIPAGREEMENT - NZMinistryofForeignAffairsandTradeの日本語訳が廣宮孝信氏が訳した文章らしい。
これは農業界こそTPP推進で市場確保を - イザ!のコメント欄から拾ってきたものであるが、まさか無断転載であるとは思わなかった。
他人のブログに非実名で投げ捨てるくらいだから、投稿者も著作権について強く主張する意思があるように思われなかったので、黙って転載していた。
知らなかったこととは言え、結果的に廣宮孝信氏の著作物の無断転載となったことはお詫びする。
日本語訳は農林水産省の仮訳に差し替えた。
とはいえ、「勝手に批判」が何処にあるのかは未だに不明である。 以下、詳細はTPPリテラシーで記載する。
ネガティブリスト(例外リスト)
「TPPではネガティブリスト(例外リスト)に入ってないものは全て自由化される」も典型的なTPPお化けである。 TPPに限らず、そのような万能ネガティブリストは存在し得ない。
投資協定におけるネガティブリストとは、
条約が明示的に認めている留保
条約法に関するウィーン条約 - 東京大学東洋文化研究所田中明彦研究室第20条第1項
の一覧表である。
つまり、
最恵国待遇義務及び内国民待遇義務を一般的義務として規定
多国間投資協定(MAI)構想 - 外務省
等の協定内にある条文に対して例外項目を並べただけに過ぎない。
言い替えると、ネガティブリストとは、万能ネガティブリストのことではない。
つまり、ネガティブリストを採用することは、条文にないことまで例外なく自由化することを意味しない。
ネガティブリスト方式とは、条文に対する例外を少なくする方式であって、条文にないことについて規定するものではない。
条文があって、初めて、それに対応するネガティブリストが発生するのである。
事実、関税は原則撤廃としているから、ネガティブリストで例外項目を定義するのである。
ポジティブリスト形式とネガティブリスト形式の差は、想定外や漏れがある場合の扱いの差である。 例えば、パソコンが存在しなかった時代に協定を締結したとする。 関税撤廃の対象としてポジティブリスト形式を採用していた場合、その協定ではパソコンは自動的に適用除外になる。 一方で、ネガティブリスト形式の場合は、パソコンは自動的に適用対象になる。
ポジティブリスト形式では、例外をなるべく少なくしようとすれば、リストを際限なく増やさなければならない。 一方で、ネガティブリスト形式では、例外を減らしたければ、記載項目を削るだけで良い。 だから、例外の少ない条項を設けたいなら、ネガティブリスト形式の方が圧倒的に作業が楽になる。 逆に、特定の対象にのみ例外的に適用する条項では、ポジティブリスト形式の方が圧倒的に作業が楽になる。
繰り返すが、基本方針があっての例外であるから、具体的条文に対応しないネガティブリストは存在し得ない。 例えば、内国民待遇義務を採用する場合、内国民待遇義務の例外がネガティブリストに記載される。 しかし、その内国民待遇義務のネガティブリストは、内国民待遇義務以外には適用されない。 このように、ネガティブリストは、対応する条文にだけ適用されるものなのである。
TPPにおいては、非関税障壁以外の経済障壁も含めて全て原則撤廃する方針は採用されていない。 基本方針がないものに対応する例外などあり得ないのだから、ネガティブリスト方式も採用できるはずがない。 TPPのネガティブリストとして効力が発生するのは、TPPに具体的に条文があるものに対してだけである。
万能ネガティブリストの限界
もしも、外国企業より国内企業を少しでも有利に扱う政策を原則撤廃するのであれば、ネガティブリストに掲載されない限り、補助金も大学も撤廃しなければならない。
開放圧力を掛けるとする側の米国でさえ、国内産業向けの補助金は多々ある。
たとえば、米国の高性能コンピューティング通信(HPC)法(1991年成立)に基づいたスーパーコンピュータ予算(2008年度スパコン予算13億ドル)も、大学と共同研究の形を取れば企業にも公金が支出される(
この研究開発は、大学または大学と企業の共同研究レベルにおいてなされるものでなければならない
HPCCにおけるNational Challengesの現況 - 一般財団法人日本情報経済社会推進協会
)のだから、国内企業を少しでも有利に扱う補助金の一種である。
これら補助金を原則撤廃するとなれば、米国も黙ってはいまい。
大学は、教育機関であるとともに研究機関としての側面も持っている。 研究機関としての大学の研究成果は、主に国内産業で利用される。 よって、各国の大学の存在は、外国企業より国内企業を有利にする。 つまり、万能ネガティブリスト方式を採用するならば、リストに掲載されない限り、加盟各国は大学も解体しなければならない。 そんなことをどの国が認めるのだろうか。
もしも、非関税障壁以外の経済障壁を原則撤廃するのであれば、消費税もネガティブリストに掲載されない限り撤廃しなければならない。 内国民待遇に違反しない経済障壁である点は、国民皆保険制度も消費税も同じである。 だから、ネガティブリストの掲載に差が生じない限り、国民皆保険制度だけが廃止されて消費税がそのままになることはあり得ない。
そもそも、万能ネガティブリスト方式を採用するなら、ISD条項の存在意義がなくなる。 何故なら、協定の抜け道への対抗手段としてISD条項があるのだから。 万能ネガティブリスト方式を採用するなら、そうした協定の抜け道は利用不可能であり、ISD条項は不用の長物となる。 何故なら、協定が明確に禁止していることはISD条項を持ち出さずとも協定違反は明らかであるし、例外として認められているならISD条項では対抗できないからである。 グレーゾーンがあるからISD条項が意味を持つのであって、白黒がハッキリする万能ネガティブリスト方式では、ISD条項は意味を為さなくなる。 逆に言えば、ISD条項が意味を為すなら、それは、万能ネガティブリスト方式を採用しない項目があるからである。
仮に、万能ネガティブリスト方式を採用するとしても、開放圧力を掛けるとする側の米国にもリストに載せたい項目が多数存在する。 米国は自国の都合でリスト掲載を求める代償として、他国のリスト掲載にも一定の譲歩を迫られる。 そうなると、TPPは例外だらけとなるはずであり、例外は原則認められないとするデマを流布する一派の主張と矛盾する。
補助金
「TPPは補助金を原則禁止している」と主張する者もいるが、これも典型的なTPPお化けである。
Article 3.1: Definitions
For the purposes of this Chapter:
export subsidies shall have the meaning assigned to that term in Article 1(e) of the Agreement on Agriculture, which is part of the WTO Agreement, including any amendment of that article;
Article 3.11: Agricultural Export Subsidies
1.The Parties share the objective of the multilateral elimination of all forms of export subsidies for agricultural goods and shall cooperate in an effort to achieve such an agreement and prevent their reintroduction in any form.
2.Notwithstanding any other provisions of this Agreement, the Parties agree to eliminate, as of the date of entry into force of this Agreement, all forms of export subsidy for agricultural goods destined for the other Parties, and to prevent the reintroduction of such subsidies in any form.
第3.1条:定義
この章の目的において:
輸出補助金とは、WTO協定の一部を構成している農業協定第1条(e)で定められた意味を持つ。 なお、当該条項に修正が加えられた場合はこれを準用する。
第3.11条:農業輸出補助金
1.締約国は農産品について多国間ですべての態様の輸出補助金を撤廃するという目的を共有し、そのような合意を達成するための努力において協力し、いかなる形の輸出補助金であれその再導入を防止する。
2.この協定の他の規定にかかわらず、締約国はこの協定の発効日の時点において、他の締約国に向けた農産物についてすべての態様の輸出補助金を撤廃することに合意し、いかなる形の輸出補助金であれ、その再導入を防止することに合意した。
この最初の4カ国TPPの条文は輸出補助金に限定された内容に過ぎない。
この条文では「輸出補助金とは、WTO協定の一部を構成している農業協定第1条(e)で定められた意味を持つ」として、WTOと同じ定義を採用すると明記されている。
WTOでは
「輸出補助金」とは、第九条に規定する輸出補助金その他輸出が行われることに基づいて交付される補助金をいう
世界貿易機関を設立するマラケシュ協定附属書一A物品の貿易に関する多角的協定(農業に関する協定第一条(e))
法令上又は事実上、輸出が行われることに基づいて(唯一の条件としてであるか二以上の条件のうち一の条件としてであるかを問わない。)交付される補助金(附属書1に掲げるものを含む(注2)。)
世界貿易機関を設立するマラケシュ協定附属書一A物品の貿易に関する多角的協定(補助金及び相殺措置に関する協定第三条3.1)
輸出を行う企業に補助金を交付するという単なる事実のみを理由として、この3.1に規定する輸出補助金とみなされることはない
世界貿易機関を設立するマラケシュ協定附属書一A物品の貿易に関する多角的協定(補助金及び相殺措置に関する協定第三条3.1注1)
と定義されているように、
輸出に限定した支払いとして制度上仕組まれているもののみが輸出補助金だというのがWTO規定上の定義
農畜産業振興協会情報誌2006年11月号 - 独立行政法人農畜産業振興機構
である。
つまり、4カ国TPPの定義では「輸出に限定した支払い」でないものは輸出補助金に該当しない。
輸出補助金は、WTO(世界貿易機関)協定においてもレッド補助金として原則禁止されたものである。
- 国の政策を実現する手段の一つである「補助金」は、WTO上の協定の1つである「補助金及び相殺措置に関する協定(略:補助金協定)」によりルールが定められています。
- 同協定が定める「補助金」に含まれるものは、贈与(通常の補助金に当たるもの)、税の減免措置、低利融資、出資など様々な形態がありますが、場合によっては自国の産業を必要以上に保護し、自由な貿易競争をゆがめてしまうことにもなりかねないことから、広く「補助金」として規律の対象とされています。
- 補助金協定では、輸出を条件に交付される補助金と国内産品の優先使用に基づく補助金が、禁止補助金(レッド補助金)として、交付が原則禁止されています。
- 交付が禁止されない補助金でも、補助金を交付された産品の輸出が他国の産業に対し損害を与えている場合には、損害を受けた国は一定の手続に従って相殺関税を課税できる等の対抗措置が認められています。
ただし、
農業に関する協定に定める場合を除くほか、第一条に規定する補助金のうち次のものについては、禁止する
世界貿易機関を設立するマラケシュ協定附属書一A物品の貿易に関する多角的協定(補助金及び相殺措置に関する協定第三条)
農産品に対する補助金(国内助成措置及び輸出補助金)については、農業協定に定めるところによるとされている(農業協定第21条参照)
2007年版不公正貿易報告書第II部ルールの概要第6章補助金・相殺措置- 経済産業省P.244ように、農業分野では例外がある。
各加盟国は、この協定及び自国の譲許表に明記されている約束に従って行う場合を除くほか、輸出補助金を交付しないことを約束する
世界貿易機関を設立するマラケシュ協定附属書一A物品の貿易に関する多角的協定(農業に関する協定第九条)
となっていて、農業の輸出補助金は譲許表で例外が規定されている。
しかし、
WTOにおいて2013年までにすべての輸出補助金を廃止することが決定された
TPP と日本の国益 - JAグループ福岡
ので最終的には全ての輸出補助金が禁止される。
各国の意見として、敵視されているのはレッド補助金とダークアンダーバー補助金とイエロー補助金だけである。
- レッド補助金
- 輸出補助金(輸出を条件に交付される補助金)
- 国内産品優先使用補助金(輸入品よりも国内品を優先して使用することに基づいて交付される補助金)
- ダークアンダーバー補助金(1999年末で失効)
- 巨額(補助金総額が産品総額の5%を超える)の補助金
- 企業の経営損失を補てんする補助金
- 債務の直接免除
- イエロー補助金
- 他の加盟国の国内産業に悪影響を及ぼす補助金
- 他の加盟国の協定上の利益を無効化・侵害する補助金
- 他の加盟国の利益に対し著しい害を及ぼす補助金
国内産品優先使用補助金は実質的な関税であり、輸出補助金は輸出対象国においてマイナスの関税として作用するものであるのだから、WTO協定において禁止されるのは当然と言える。
ダークアンダーバー補助金やイエロー補助金も、WTO協定を骨抜きにする恐れがあるのだから、敵視されて当然であろう。
しかし、これらに該当しない研究開発補助金、地域開発補助金、環境保全補助金等はグリーン補助金(1999年末で失効)とされ、例外とすることが定められている。
また、
1.1に規定する補助金は、次条の規定に基づいて特定性を有する場合に限り、第二部(禁止補助金)の規定又は第三部(相殺対象補助金)若しくは第五部(相殺措置)の規定の適用を受ける
世界貿易機関を設立するマラケシュ協定附属書一A物品の貿易に関する多角的協定(補助金及び相殺措置に関する協定第一条1.2)
として、特定性を有しない補助金は禁止対象外とされている。
特定性を有しない補助金とは
この協定の適用上、権限を有するすべての段階の政府が行う一般的に適用される税率の決定又は変更は、特定性を有する補助金とはみなさないと了解する
世界貿易機関を設立するマラケシュ協定附属書一A物品の貿易に関する多角的協定(補助金及び相殺措置に関する協定第二条2.2)
ということである。
たとえば、米国も、農業補助金の廃止には反対している。
米州自由貿易地域という構想が実現しなかったのは、ブラジルがアメリカの農業補助金の廃止を要求し、アメリカがこれを拒否したことが大きな原因だった。 アメリカもEUも多数のFTAを締結しているが、農業補助金は一切変更していない。
TPP参加国間で補助金全廃の合意が形成されていないのだから、一定の制限はあり得ても全廃はあり得ない。
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