TPPと医療
中立かつ客観原則
ここでは中立的な立場で事実関係を検証する。 賛成か反対かという結論は先に立てず、現実に起きた出来事、確実に起き得ること、一定程度の期待値を示す根拠のあることを中立かつ客観的に検証する。 可能性レベルの物事を論じるためにも、無視できない可能性があることを示す根拠を重視し、根拠のない当てずっぽうや思い込みや伝聞等の不確かな情報は、それが妄想に過ぎないことを示した上で門前払いとする。 賛成論でも間違いは間違いと指摘するし、それは反対論でも同じである。 ここでは賛成論にも反対論にも与しない。
TPP総論
長期的視野では話は別だが、短期的視野で見ればTPPに参加するかしないかは大きな問題ではない。 それよりも、TPPとは全く無関係な混合診療完全解禁がもたらす患者の治療機会喪失の危険性やイレッサ訴訟の行く末によるドラッグラグ・未承認薬問題の悪化の方が、遥かに大きな問題であろう。 だから、TPPよりも重要な争点において国民に不利益をもたらす政策を党員に強要する日本維新の会は落選運動の対象とせざるを得ない。 混合診療の完全解禁を公約とする日本維新の会およびみんなの党には一切の主導権を握らせてはならない。 そのためには、これらの党に対する落選運動が必要なだけでなく、与党とこれらの党との連携も絶対に阻止しなければならない。 具体的運動の詳細は自民党への抗議方法を見てもらいたい。
概要
ここは サルでもわかるTPP@ルナ・オーガニック・インスティテュート と サルでもわかるTPP@Project99% のデマを暴くページであるサルでもわかるTPPと新サルでもわかるTPPの一部である。
医療
つまり、この「混合診療の禁止」は、最先端の医療を売り込みたい製薬会社などにとっては、まちがいなく「非関税障壁」だ。
TPPの一般原則で説明したとおり、「混合診療の禁止」は、内国民待遇原則に反しないから、非関税障壁とはならない。 もちろん、未だ損失が発生していない投資前段階では、収用の制限と適切な補償、公正衡平待遇義務等のいずれにも反しない。 また、生命や健康の保護も認められている。
日本の健康保険はただでさえ費用が膨らみすぎて問題になっているから、混合診療が解禁されれば、じゃあ保険の効く範囲を狭くしよう、というふうに話が進むのは目に見えている。
すると、保険の効く医療では最低限のことしかできない、高度な医療を受けたい人はお金はかかりますが、自由診療を受けてください、という話になる。 貧乏人と金持ちとで、受けられる医療の格差がどんどん広がっていくだろう。
そしてアメリカの医療保険会社は、自由診療のための保険を真っ先に売り込みにやって来るだろうね。
アメリカの医療事情は本当にひどい。公的な保険がなく、民間の医療保険が高いので貧乏な人は保険に入れない。 国民全体の15%が無保険だ。
入院患者に支払い能力がないとわかると、路上に捨てていく病院すらある。
ある無保険の大工さんは事故で指を切り落として病院に行くと「薬指をつなげるのには1万2千ドル。中指をつなげるのには6万ドル。どっちにしますか?」と聞かれたという。 そんな法外な額のお金が用意できなければ、つながるはずの指もあきらめざるを得ない。
そして年間4万4000人もの人が、保険に入っていないがために、医者にかかれずに死んでいく……。
これは事実であるがTPPとは無関係である。
アメリカは日本に対し「株式会社にも病院を経営させろ」とか「薬の値段を決める審議会の委員にアメリカの業界団体の代表を入れろ」などと要求してきている。
確かに、最新の年次改革要望書に
II-A-2.米国製薬業界の代表を中医協の薬価専門部会の委員に選任する
日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書2008年10月15日(仮訳) - 在日米国大使館詳論10
という要望はある。
ただし、これは全く問題とならないことは次項以降で説明する。
年次改革要望書にも医薬品へのアクセスの拡大のためのTPP貿易目標(仮訳)にも、米国の要求に「株式会社に病院を経営させろ」はない。 もちろん、国民皆保険制度には一言たりとも言及していない。 米国は、薬価や医薬品の承認制度に対して要望を上げてはいるが、日本の医療制度の根幹には一言も口を挟んでいない。
でも、アメリカの要求どおりに薬の値段を決めたら、とんでもなく高い値段になることは目に見えているよ。
日本の国民皆保険制度では、高額療養費制度がある限り、「薬の値段」が高くなっても患者の負担は殆ど増えない。
さらに、薬価の欧米化はドラッグラグ・未承認薬問題を少しは解消することが期待できるので、患者の利益の方が大きい。 とは言え、「アメリカの業界団体の代表」を「薬の値段を決める審議会の委員」に入れる必要は全くない。 米国が要求していることは閉鎖的な日本独自の薬価決定方法の改善であって、そのための手段として「アメリカの業界団体の代表」を「薬の値段を決める審議会の委員」ことを求めているに過ぎない。 それならば、米国政府にとっても、日本国民にとっても、百害あって一利なしの日本独自の薬価決定方法の改善すればよい。
薬価が高くなることによって医療財政が一定程度厳しくなる恐れはあるが、それはドラッグラグ・未承認薬問題を解消しようとすれば、当然、発生する問題である。 外圧に屈するのか、ドラッグラグ・未承認薬問題を解消するためか、何れの目的にしろ、やることが同じである以上、全く同じ問題が発生する。 本来やるべきだった改革に伴って発生する問題ならば、これを外圧に屈する問題と捉えるのは間違いである。
「持ち合わせがないから」と、屈辱と怒りに震えながらその場を去った男性は、その後インターネットで同じ薬をカナダから取り寄せることにした。
その値段は70ドル(約5千円)で、しかもサイズは2倍、送料込み、というものだった。 さらに、アメリカの国会では、外国から薬剤を購入することを違法とする法律が制定されようとしているという。
医薬品の個人輸入に伴う問題点には全く触れずに、あたかも、安い薬が手に入って良いことずくめであるかのように喧伝するのはフェアではない。 とはいえ、この一連の話の説明には重要なことではないため、具体的な指摘は省略する。
アメリカでは保険に入っている人でさえ、大金の治療費や薬代を払わせられるし、保険に入っていない人も多い。 というのも、アメリカには公的な保険がなく、民間の医療保険は高いので貧乏な人は保険に入れないんだ。 国民全体の15%が無保険だ。
入院患者に支払い能力がないとわかると、路上に捨てていく病院すらある。
ある無保険の大工さんは事故で指を切り落として病院に行くと「薬指をつなげるのには1万2千ドル。中指をつなげるのには6万ドル。どっちにしますか?」と聞かれたという。 そんな法外な額のお金が用意できなければ、つながるはずの指もあきらめざるを得ない。
そして保険に入っていないがために、医者にかかれずに死んでいく人の数は、年間4万4000人もにのぼるといわれている。
これがアメリカの医療の実態だ。
「公的な保険」のなかった「アメリカの医療の実態」と国民皆保険制度のある日本の医療の実態は違う。 後で説明する通り「健康保険制度そのものが崩れていく」が根拠なき捏造である以上、「アメリカの医療の実態」は日本とは全く関係がない。
株式会社というのは営利を追求するための団体だから、株式会社に病院を経営させろ、というアメリカの要求は、医療にアメリカのような利益至上主義を持ちこめ、ということだ。
既に説明した通り、最新の年次改革要望書にも医薬品へのアクセスの拡大のためのTPP貿易目標(仮訳)にも、米国の要求に「株式会社に病院を経営させろ」はない。
日本の健康保険制度は診療報酬と呼ばれるしくみに基づいて運営されているけれど、薬価は診療報酬の一環として定められているものだから、それが崩れるということは、健康保険制度そのものが崩れていくことにもなりかねないんだ。
「診療報酬の一環として定められている」薬価が「崩れる」とする根拠は一切説明されていない。 自由診療では、独占できる薬の薬価は売る側の一方的な都合で、競合のある薬の薬価は市場価格で決まる。 何処にも、「薬の値段を決める審議会」なんて入り込む余地はない。 つまり、「審議会」で「薬の値段を決める」のは、公的保険制度を前提としているからである。 だとすれば、「健康保険制度そのものが崩れていく」なんてことはあり得ないのだ。
実は「患者のための混合診療」も悪質なデマ
TPPと混合診療を関連づけた説明はデマであるが、混合診療解禁によって国民皆保険制度が崩壊することはデマではない。 それは、患者本位の混合診療を考える会(仮)のとおり、子供でも理解できる簡単な原理で説明できる。 しかし、解禁派は、次のようなインチキな計算をして、あたかも患者負担の軽減と保険財政の改善が両立するかのように嘯く。
- 給付(支出)が増加する時は、給付の増加だけを計上し、それに伴う、支出の増加は計上しない。
- 給付(支出)が減少する時は、支出の減少だけを計上し、それに伴う、給付の減少は計上しない。
確かに、このような計算をすれば、患者負担の軽減と保険財政の改善が両立する結果が得られるだろう。 しかし、給付と支出は表裏一体であり、両者の増減は常に連動するのだから、片方が増えて片方が減ることは現実にはあり得ない。 こんな計算が現実に成り立つなら、金のなる木がいくらでも作れてしまうが、そんな馬鹿なことはあり得ない。 しかし、解禁派は、こうした金のなる木がなければ説明のつかないインチキな計算を平気でする。 その手口をさらに詳細に示そう。
- 混合診療分の給付が支出の増加になる事実を隠蔽して、解禁しても財政が悪化しないと嘯く。
- 保険適用範囲の縮小による財政の改善分が、あたかも混合診療の功績であるかのように嘯く。
- 保険適用範囲の縮小による給付の削減を誤摩化して、患者負担は増えないと嘯く。
- 解禁による承認インセンティブの激減を隠蔽して、ドラッグラグ・未承認薬問題は悪化しないと嘯く。
- 解禁がドラッグラグ・未承認薬問題を悪化させる事実を隠蔽して、ドラッグラグ・未承認薬問題と混合診療は関係ないと嘯く。
- ドラッグラグ・未承認薬問題については改善策を実行すれば良いだけだと嘯きながら、その改善策は絶対に示さない。
- ドラッグラグ・未承認薬問題の改善策が本当に存在するなら、患者のための解禁という口実がなくなる事実を隠蔽する。
では、何のために、解禁派は、このような非現実的な嘘をつくのか。 それは、混合診療によって、保険適用範囲の縮小=自由診療の拡大がやりやすくなるからである。 混合診療を口実にすれば、「混合診療で対応できるのだから保険適用にする必要はない」と、保険適用範囲縮小論を振りかざしやすくなる。 解禁によって承認インセンティブが激減すれば、保険適用されないまま据え置かれる治療法が増える。 また、混合診療で満足した一部の患者は、保険給付範囲の拡大を求めなくなる。 これらは、自由診療で利益を上げたい企業と国の支出を減らしたい財務省にとっては都合が良い。 一部の患者には、彼らに唆されて同調する者もいるが、大局的に見れば患者の損になることが分かっていない。
解禁派のようなインチキ理論を用いない限り、患者にとって利益をもたらすという結論は、どうやっても出て来ない。 現実的に考えれば、解禁がもたらすことは、患者負担の増大と貧乏人の治療機会の喪失以外にあり得ない。 その結果として、保険財政の改善はあり得るだろうが、その代償として国民皆保険制度が形骸化するのでは、患者にとっては不利益しかもたらさない。 保険財政の改善が目的であるなら、貧乏人の治療機会を奪うことない現実的医療財政改革を実行すべきだろう。
TPP賛成論には、混合診療を解禁した方が患者の得になるという主張もある。 しかし、既に説明したとおり、これも紛れもないデマである。 患者の利益を守るためには、TPP賛成論によるデマに対しても、ちゃんと反論する必要がある。
デマに惑わさせると背中から撃たれる
以上のとおり、混合診療を解禁すれば、間違いなく、貧乏な患者の負担は増大して治療機会が奪われる。 混合診療は、貧乏な患者にとっては、百害あって一利無しである。 だからこそ、混合診療解禁の口実に利用されないよう、国民皆保険制度とTPPが無関係であることを明確にする必要がある。 TPPで混合診療が解禁されると言っているのは、TPP反対派を増やす手段としてデマを流布している人と、それを真に受けてしまった人だけである。
TPPで混合診療が解禁されるというデマに加担することは、混合診療を解禁したい者達に塩を送る行為である。 混合診療を解禁したい者達は、デマに乗じて「TPPに参加したから混合診療も解禁しなくてはいけない」として解禁論を唱えて来るだろう。 それで、TPPに参加したら、混合診療が解禁されても、全て止むなしと諦めるのか。 それとも、TPPの枠組みの中で国民皆保険制度を守ろうとするのか。
本気で国民皆保険制度を守りたいなら、前者の選択はあり得ない。 後者を選択するなら、明らかなダブルスタンダードである。 TPPの枠組みの中で国民皆保険制度を守れるなら、参加すれば制度が崩壊するとしていた主張と完全に矛盾する。 つまり、TPPの枠組みの中で国民皆保険制度を守るように方針転換することは、以前の主張がTPPお化けに過ぎなかったと認めるに等しい。 当然、抵抗勢力は、そのような二枚舌を厳しく追及してくるだろう。 「この前はTPPオバケで今度は公的医療保険オバケですか?その次は何オバケですか?」と。
TPP反対派を増やす手段としてデマを流布している人は、それでも何も困らない。 彼らの目的は、TPP反対派を増やすことであって、混合診療などは眼中にはない。 彼らは、混合診療反対派を取り込むためだけに、混合診療をネタにしているのだ。
国民皆保険制度を潰そうとしている本当の敵の正体
いや、本当に国民皆保険制度を潰したがっているのは マクロビオティックなどを信仰し病院の治療を拒否する彼ら である。 それは、サルでもわかるTPPの正体で説明している通り、 サルでもわかるTPP@ルナ・オーガニック・インスティテュート と サルでもわかるTPP@Project99% の作者のことである。 マクロビオティックなどの偽医療の信奉者は、国民皆保険制度で受けられる医療を目の敵にしている。 だから、いよいよTPP参加が避けられなくなれば、彼らは、手の平を返したように、国民皆保険制度を生け贄に捧げるだろう。 「国民皆保険制度を自由にして良いから、関税撤廃は勘弁してください」というように。 共闘をあてにして彼らを味方に引き入れれば、そのうち、背中から撃たれるだろう。 それが嫌ならば騙されてはいけない。
混合診療解禁派にやり込められて困るのは、そのデマに踊らされた患者達である。 そうならないようにするためには、安易にデマに踊らされないよう慎重に行動しなければならない。 真剣に混合診療問題を考えている人達は、日本がTPPに参加してもしなくても、どちらに転んでも対応できるように行動している。 だから、真剣な患者団体は、混合診療原則解禁を阻止できなくなるような、TPPと混合診療を結びつけた物言いはしない。
参考
- 環太平洋戦略的経済連携協定
- ISD条項詳細解説
- ISD仲裁事例
- ISD条項
- TPPは米国の陰謀?TPPお化け
- サルでもわかるTPP
- 新サルでもわかるTPP
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- 環太平洋戦略的経済連携協定