「TPP断固反対」と自民党は言ったか?
中立かつ客観原則
ここでは中立的な立場で事実関係を検証する。 賛成か反対かという結論は先に立てず、現実に起きた出来事、確実に起き得ること、一定程度の期待値を示す根拠のあることを中立かつ客観的に検証する。 可能性レベルの物事を論じるためにも、無視できない可能性があることを示す根拠を重視し、根拠のない当てずっぽうや思い込みや伝聞等の不確かな情報は、それが妄想に過ぎないことを示した上で門前払いとする。 賛成論でも間違いは間違いと指摘するし、それは反対論でも同じである。 ここでは賛成論にも反対論にも与しない。
自民党の公約
結論から言えば、自民党本部はTPPに断固反対とは言っていないが、故意に、そう誤解させるようなことは言っている。 安倍首相も同様である。 だから、「断固反対とは言ったことがない」は嘘ではないが、非常に狡い。 野党時代、自民党本部は次のように説明していた。
- 政府が、「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対する。
- 自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない。
- 国民皆保険制度を守る。
- 食の安全安心の基準を守る。
- 国の主権を損なうようなISD条項(注)は合意しない。
- 政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる。
これは、実質的に、交渉参加に反対する理由は何もないと言っているに等しい。 しかし、人によっては、交渉参加の条件が全く整っていないと聞こえる人もいただろう。 というか、そう思わせるように仕組まれている。 とくに、1番目と5番目は非常に狡い。 結果、「断固反対」と解釈する人がいた。
政府が、「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対する
「聖域なき関税撤廃」の「聖域」には2通りの解釈が成り立つ。
- 交渉の対象にすらしない品目
- 交渉次第で現状維持を勝ち取る余地
そうすると「聖域なき関税撤廃」にも2通りの解釈が成り立つ。
- 全ての品目を交渉対象とする
- 現状維持の交渉の余地すら認めない
当時、前者の意味に解釈した人はかなりいたようだ。 しかし、自民党本部は明らかに後者の意味で使っていた。 しかも、前者の意味と誤読させる目的であることは明らかだろう。
後者の意味の「聖域なき関税撤廃」がないことは初めから分かっていた。 TPP交渉における「聖域なき関税撤廃」は前者の意味だと交渉国の首脳陣は一貫して言い続けてきた。 だから、これは「交渉参加に反対する」と言っていないに等しい。 そんなことは自民党本部も知っていたのである。 しかし、民主党政権のやることに賛成はしたくない。 かと言って、反対と断言してしまっては政権を取り戻した時に掌を返せなくなる。 そこで、自民党本部は一計を案じたのだ。
民主党政権の間は後者の意味の「聖域なき関税撤廃」があるかのように言っておく。 そして、政権を奪取したら、則、交渉国と会談を持つ。 そして、「交渉次第で現状維持を勝ち取る余地があると分かった」と公表すれば良い。 「交渉参加には条件的反対だったが、反対する条件が解消されたので交渉に参加します」と。 実のところ、後者の意味の「聖域なき関税撤廃」など初めから存在しないのだから、状況は何も変わっていない。 しかし、変わったことにしてしまえば良い。 「交渉の余地すら認められない思っていた、交渉国との会談で交渉の余地はあると分かった」と言えば嘘にはならない。
国の主権を損なうようなISD条項は合意しない
当時、「国の主権を損なうようなISD条項は合意しない」を「ISD条項は国の主権を損なうから合意しない」と誤読した人はかなりいたようだ。 というか、今でも「TPPにISD条項が入っているのは公約違反だ」と言っている人がいるので、未だに誤読し続ける人がいるのだろう。 しかし、よく考えてみて欲しい。 ISD条項には何が何でも合意しないつもりなら「ISD条項には合意しない」と書けば済むことである。 わざわざ「(注)」と入れているのだから、理由を書く必要があるとしても、下の注釈部分に書けば良かろう。 仮に、どうしても理由を注釈に逃がしたくないなら、「ISD条項は国の主権を損なうから合意しない」と書けば良い。 違う意味に読み取る余地のある「国の主権を損なうようなISD条項は合意しない」などという書き方は不自然である。 これは、どう読んでも「ISD条項は国の主権を損なわない内容とならない限り合意しない」という意味だろう。 つまり、「ISD条項」には「国の主権を損なう」ものとそうでないものがあり、前者には合意しないと言っているのである。 「いや、だったら、そう書けば良いじゃないか」と思うだろうか。 いや、自民党本部は、故意に「ISD条項は国の主権を損なうから合意しない」と誤読させたかったのだ。 だから、そう読めるような文面にしているのである。
例えば、「四角いような球は認めない」と言ったとしよう。 これが「球は四角いから認めない」という意味ではないことは明らかだろう。 これは「四角くくない球」であれば認めるという意味だ。 しかし、そもそも四角い球など存在するのか。 四角かったら球じゃないだろう。 だから、これは「認めない」とは言ってるが、実際には適用するつもりのないポーズである。
それと同じで「国の主権を損なうようなISD条項」など初めから存在しない。 だから、これは「ISD条項」に「合意しない」と言っていないに等しい。 そんなことは自民党本部も知っていたのである。 しかし、民主党政権のやることに賛成はしたくない。 かと言って、反対と断言してしまっては政権を取り戻した時に掌を返せなくなる。 そこで、自民党本部は一計を案じたのだ。
民主党政権の間は「国の主権を損なう」恐れがあると言って「ISD条項」危険論を唱えておく。 そして、政権を奪取したら、則、交渉国と会談を持つ。 そして、「国の主権を損なう内容にならないことが分かった」と公表すれば良い。 「交渉参加には条件的反対だったが、反対する条件が解消されたので交渉に参加します」と。 実のところ、「国の主権を損なうようなISD条項」など初めから存在しないのだから、状況は何も変わっていない。 しかし、変わったことにしてしまえば良い。 「国の主権を損なう恐れがあると思っていた、交渉国との会談でその恐れがないと分かった」と言えば嘘にはならない。
公約まとめ
3番目も4番目も流布されているデマに乗っかったものである。 自民党本部は、これらも含めて、民主党政権下では交渉参加の条件が整っていないように見せ掛けた。 そして、政権を取り返した途端、自分たちの活躍によって交渉参加の条件が整ったように見せ掛けた。 事実上何も変わっていないにも関わらず、である。 実際には0mのハードルをあたかも高さがあるかのよう見せ掛けていただけである。
確かに、自民党本部は、何一つ嘘を言っていない。 しかし、故意に誤解させるように国民を誘導したことは誠に不誠実である。 まあ、民進党には、こういう知恵すらないけどね。
ポスター他
「自民党の選挙ポスターに断固反対と書いてあるじゃないか」と言う人もいる。 しかし、良く見て欲しい。 「日本を耕す」と書いていないか。 ネットでも指摘されているように、それは鈴木憲和議員のキャッチフレーズである。 つまり、このポスターは鈴木憲和議員のポスターである。 名前も写真もないが議員個人のポスターであって政党のポスターではない。
その他、地方の県連でも「断固反対」という表現は使われていた。 しかし、自民党本部は、決して、「(無条件で)断固反対」という表現は使わなかった。 自民党本部は、条件付き反対という態度を押し通していた。 当時、「自民党本部は本音では賛成なのが透けて見えるのに、ミエミエの反対しているフリが酷いなあ」と反デマ派の間では噂になっていた(TPPを巡る攻防は、反対派と賛成派の闘いと言うよりも、デマ派と反デマ派の闘い)。 だから、当時からの反デマ派としては自信を持って証言できる。 自民党本部は、「断固反対」であるかのような偽装工作は行なったが、「(無条件で)断固反対」とは決して言わず、一貫して「条件付き反対」と言い続けていたと。
もちろん、自民党本部の偽装行為が酷いことは言うまでもない。 議員個人や県連が大々的に喧伝していることを、自民党本部が知らないわけがない。 それにより、自民党本部の方針が「断固反対」だと誤解されることも当然分かっていたはずである。 にもかかわらず、それを黙認したのである。 それは、誤解を拡散させたかったからに他ならない。 そして、政権をとってから種明かしをするのだ。 「条件付き反対と言っただけで断固反対なんて言ってませんよ」と。
まあ、できもしないことを安易に約束した挙げ句、まともな対応を一つも取らずに掌を返す旧民主党より遥かにマシだと思うべきなのか。
TPPの是非
自民党本部の偽装行為を政争の具にするのは愚かしい。 これは、旧民主党政権時代、反対のための反対論という旧民主党の猿真似を自民党がより高度なテクニックで行なった…というだけのことである。 ようするに自民党の政党としての品位の問題であって、TPPの是非とは全く関係がない。 TPPに反対するなら、TPPの中身の問題点を指摘すれば良いだけである。 そのために特定の政党の品位の話をする必要は全くない。 どうしても自民党の政党としての品位を問いたいなら、TPPの中身の議論と並行してやればよい。 TPPの中身の議論を拒否するのは、まともな議論もできない政党が、反対のための時間稼ぎを狙って、下らないことをやり玉に挙げているだけである。
「国会」決議「違反」?
「国会決議違反だ」と騒いでいる人がいる。 まず、本会議で議決したTPP交渉に関する「国会」決議なるものはない。 あるのは、委員会決議だけである。
本会議ですら、両院別々になされた決議には法的拘束力はない。 単なる委員会レベルで「実現を図るよう重ねて強く求める」という内容の決議に「違反」とは何を言っているのだろうか。 しかも、「米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物などの農林水産物の重要品目」には事実上の影響が出ない(TPP試算参照)のだから、文句を言うのは筋違いである。
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