ISD条項

中立かつ客観原則 

ここでは中立的な立場で事実関係を検証する。 賛成か反対かという結論は先に立てず、現実に起きた出来事、確実に起き得ること、一定程度の期待値を示す根拠のあることを中立かつ客観的に検証する。 可能性レベルの物事を論じるためにも、無視できない可能性があることを示す根拠を重視し、根拠のない当てずっぽうや思い込みや伝聞等の不確かな情報は、それが妄想に過ぎないことを示した上で門前払いとする。 賛成論でも間違いは間違いと指摘するし、それは反対論でも同じである。 ここでは賛成論にも反対論にも与しない。

メディア・リテラシー 

最近は反民主党の方々の洗脳は殆ど解けているようである。 しかし、左翼系活動家、反政府系活動家によるアジテーションは酷くなる一方である。 そうした現状を考慮してページの構成を大きく見直してみた。

噂を鵜呑みにするな 

ISD危険論を真に受けて、その情報の中身の何ら検証もせず、そのまま拡散させてしまうことほど愚かなことはない。 それはDHMOの危険性を拡散させる行為と何ら変わらない。 まともな人なら、情報の中身をきちんと検証してから、拡散するかどうか決める。 真偽不明のまま拡散させる場合も、まともな人なら真偽が分からない情報であることを明記する。 それをせずにデマの拡散に手を貸している人は、自分がまともな人でないことを自覚すべきだろう。

貴方は、ISD危険論を初めて目や耳にしたとき、どう思っただろうか。 「まさかそんなことが」と疑問に思わなかっただろうか。 全く何も疑問を感じなかったのだとしたら救いようがない。 何も知らない子供ならともかく、良い歳した大人ならば終わっている。

疑問に思ったなら、何故、その疑問をそのままにするのか。 日本に住んでいれば、大抵の場合、裏を取ることはそれほど難しいことではない。 ネットでも小一時間検索すれば必要な情報は大抵見つかる。 どうしても見つからないならその場の判断は保留とし、新たな情報が見つかった時にまた考えれば良い。 十分に裏を取ってから拡散しなければ、いい加減な素人の感想で世間を騒がせるだけである。 何故、裏も取らずに、受け取った情報をそのまま垂れ流して拡散するのか。 自分のやっていることが、正義の味方気取りで世間を混乱に陥れているだけだと、早く自覚して欲しい。

ISD条項と適用条項を区別せよ 

「ISD条項の内国民待遇は〜」とか、「ISD条項の公正衡平待遇は〜」とか、「ISD条項の間接収用は〜」とか、無知を晒している人が良くいる。 しかし、以下のような条項はISD条項に基づく国際投資仲裁の適用条項とはなるが、ISD条項とは全く別の条項である。

TPP協定(訳文)第9章(投資) - 内閣官房TPP政府対策本部にも明確に書いてある通り、「投資家と国との間の紛争解決(いわゆるISD条項)」は第B節である。 それに対して、適用条項は第A節である。

これらの適用条項はISD条項とは別に規定される締約国の義務である。 ISD条項があろうとなかろうと、締約国の義務を守る約束を交わしたのだから、その義務を守らなければならないことには変わりない。 その義務内容が気に入らないなら、その義務内容を批判すべきであって、その義務のチェック機能を批判するのは筋違いである。

分かりやすい例を出そう。 例えば、お菓子の売買を禁じる法律が出来たとしよう。 その場合、「そんな法律はけしからん、さっさと廃止にすべきだ」と言うのは正論であろう。 しかし、「菓子売買禁止法違反を裁く刑事訴訟制度はけしからん、刑事訴訟法を廃止に追い込むべきだ」という主張が筋違いなことは言うまでもない。

ISD条項に基づく国際投資仲裁は、条約上の適用条項に従って、それぞれの義務の違反の有無を調べ、それに応じた判断を下すに過ぎない。 もちろん、仲裁定が、条約の規定を無視したり、条約にない規定を勝手に作ったりするのであれば、批判されて当然だろう。 しかし、仲裁定が、条約の規定に最大限沿うように努めているなら、ISD条項に基づく国際投資仲裁の何処にも問題はない。 そして、仲裁定による条約違反を示唆する根拠も何もない。 であれば、ISD条項に基づく国際投資仲裁批判するのは筋違いである。 適用法の妥当性と、裁判や仲裁制度の妥当性は全く別のものである。 適用法に対する批判をもって、裁判や仲裁制度を批判するのは筋違いである。 だから、適用条項をどれだけ批判しようとも、それはISD条項を批判する理由にはならない。 そして、物事の区別もまともに出来ないような者には、何かを批判する資格もなければ、説得力も持ち得ない。 批判するなら、適切に的を射た批判をすべきだろう。

日本の国内裁判も同じ問題がある 

これは、ISD条項特有の問題ではない。 似たようなことは日本の裁判でも起きている。 イレッサ“薬害”訴訟などもその典型的な事例だろう。

左翼系活動家の方々や反政府系活動家の方々は、気に入らない判決があると、その結論だけを抜き出して、判決の過程は勝手に捏造する。 判決文に書かれた内容がどんなに正論であっても、その部分をゴッソリ削除して、不当にしか見えない論理を捏造して追加するのである。 たとえば、イレッサ“薬害”訴訟の判決では、イレッサの承認段階で分かっていたことは漠然とした危険性であること、国がどのような安全対策を行なったか、当時判明していた危険性と対策のバランス等を考慮して、政府の責任はないとしている。 これが、左翼系活動家の方々や反政府系活動家の方々に掛かると、何故か、「因果関係が明確でなければ何も対策を取らなくて良い」という判決になってしまう。 判決文(原告団も公開している)を読めばそれが嘘であることは一目瞭然である。 確かに、判決には、因果関係が明確でない場合にも対策を取らなければならないとは書いていない。 しかし、因果関係が明確でない場合に取られた対策は、判決文にもしっかり記載されており、その対策を取られたことを根拠に、政府の対応に落ち度はないとしているのである。

これはISD条項でも同じである。 左翼系活動家の方々や反政府系活動家の方々は、何処の国の政府が、何処の国の企業に訴えられて、損害賠償金がいくら認められたかだけ抜き出して、その判断の過程は勝手に捏造する。 仲裁定がどれだけ丁寧な事実認定や条約文に忠実な解釈や政府の規制権限の尊重をしていても、その部分をゴッソリ削除して、事実関係も都合良く捻曲げ、唐突な独自ルールを仲裁定が持ち出したかのように偽り、政府の規制権限が不当にないがしろにされたと嘯くのである。 信頼できる情報源に当たれば、本当の規制目的は別にあって名目上の規制理由は成立していなかったり、国と地方の対応に一貫性がなかったり、国内法にすら違反するような杜撰でいい加減な規制だったり、必要性に比べて規制措置が極端に過剰であったりと、政府側が負けた事例には何らかの政府側が落ち度が認められる。 そして、仲裁定では、「当事国は高い環境保護レベルを設定する権利を有している」「一般国際法上、公共目的のための無差別の規制は、適切な手続に従って制定され、投資家に対して、そうした規制を慎むであろうという特別の約束を与えていない場合には、収用にはあたらず、また補償の対象にもならない」「(違法性を説明せずに得た事業許可を違法性が判明した後に取り消したことについて)公正衡平待遇条項に違反しない」「投資協定はビジネス判断の誤りに対する保険ではない」のような判事もしている。 これが、左翼系活動家の方々や反政府系活動家の方々に掛かると、何故か、「『政府の政策が投資家にどれくらいの被害を与えたか』という点だけ」で判断されるとか、「『その政策が公共の利益のために必要なものかどうか』は考慮されない」ということになってしまう。 さらに、各国の主権を行使して締結した協定を遵守する義務を負っていることや締約国が必要に応じて補足合意を追加している事実を無視して、「国家主権が犯される事態がつぎつぎと引き起こされている」「各国が自国民の安全、健康、福祉、環境を、自分たちの国の基準で決められなくする『治外法権』規定」だと言い張る。

左翼系活動家の方々や反政府系活動家の方々が言っていることは、DHMOよりも酷い、事実に反した言い掛かりでしかない。 こんなデタラメな情報操作に惑わされないようにするためには、自ら信頼できる情報源を探して、しっかりと検証することが大事である。

ISD条項?ISDS条項? 

ISD条項だとかISDS条項だとか呼ばれているものは、英語では「Investor State Dispute Settlement」と表記し、元々は、「国際投資仲裁」「投資家対国家間の紛争解決」という日本語訳が充てられていた。 しかし、京都大学大学院工学研究科准教授だった当時の中野剛志氏が、世間ではあまり知られていないことを逆手に取り、「ISD条項」という呼称を広めてしまった。

彼が独自の用語を生み出した目的は、言うまでもなく、検索妨害である。 「国際投資仲裁」「投資家対国家間の紛争解決」等の用語で検索すれば、多数の情報が得られるため、彼の流布するデマが容易に暴かれてしまう。 それを阻止するために、「ISD条項」という独自の用語を作り出したのであろう。 そして、それはかなり功を奏した。 「ISD条項」で政府関連機関や専門家の見解が検索できるようになるまでの間、多くの人が検証することもなく彼の主張を鵜呑みにし、デマを拡散し続けた。 これだけ多数のデマが拡散すると、その一つ一つに反論しても焼け石の水である。 その事実を目の当たりにすれば、彼の仕掛けた検索妨害は非常に巧妙だったと言う他ない。

その後、「『Investor State Dispute Settlement』の略なら『ISD』じゃなくて『ISDS』じゃないのか」と言い出す人が出て来て、「ISDS条項」という呼称が生まれた。 それを受けて政府系サイトでは「ISDS条項」という呼称が使われるようになった。 一方で自民党はTPP批判の際に「ISD条項」という呼称を使っていたため、首相官邸や内閣官房では「ISD条項」という呼称が採用されている。

まとめると、「ISD条項」も「ISDS条項」も単なる流行語に過ぎない。 「国際投資仲裁」「投資家対国家間の紛争解決」が元からあった日本語訳である。

政府側の損失 

左翼系活動家の方々や反政府系活動家の方々は、ISD条項に基づく国際投資仲裁で政府に莫大な損失が発生するかのようなことを言っている。 これが事実に反することを以下に示す。

国際仲裁の利用の現状①

  • 世界の投資関連協定に基づく国際仲裁は,公開されている限りで,2014年末までの累計で約608件。

国際仲裁の利用の現状②


国別の被提訴件数 (2013年末までの累積)

順位 被提訴国 件数
1アルゼンチン53
2ベネズエラ36
3チェコ27
4エジプト23
5カナダ22
エクアドル
7メキシコ21
8ポーランド16
9米国15
10インド14
カザフスタン
ウクライナ
13ハンガリー12
14ボリビア11
スロバキア
16ルーマニア9
グルジア

国家と投資家の間の紛争解決(ISDS)手続の概要 - 外務省P.5,6

2013年末段階の累計仲裁件数は、全世界で568件であり、国別では最も件数の多いアルゼンチンでも53件である。 仲裁件数が急増した2000年以前のデータを無視すると、この値を2000年からの14年で割れば、1年毎の件数が計算できる。 計算すると、全世界で年間約40.6件、国別最大で約3.8件となる。

投資仲裁の事例 - 外務省に掲載された事例では、賠償額の最高額は3,351万ドル(和解も入れると1億3千万ドル)、平均額は1,022万ドル(和解も入れると2,554万ドル)である。

これらのデータから、最悪の想定(最も仲裁の多い国と同数の仲裁で全敗し、かつ、全て最高額の賠償が認められた場合)でも、一国の賠償額は年間約5億ドル(1ドル=100円換算で約500億円)である。 TPP協定の経済効果分析について - 内閣官房TPP政府対策本部P.5によればTPPによる経済効果は「13.6兆円」であり、仲裁による賠償額はその約0.37%に留まる。 想定に賠償平均額や実績勝率を採用すれば、国の損害はそれよりも少なくなる。 さらに、自国企業が他国政府の理不尽な行為による損害から守られる効果を相殺すれば、国の損害はもっと少なくなる。

一見すると、賠償金を支払うことは損することのように見える。 しかし、条約・協定違反を犯したにもかかわらず賠償金を免れたとすれば、その方が国に遥かに大きな損害をもたらす。 条約・協定違反による損害が適切に賠償されないとなれば、投資のリスクが極めて高くなる。 投資のリスクが高ければ、新規の投資は行なわれず、また、既存の投資も順次引き上げられるだろう。 投資の抑制・撤退による経済効果のマイナス分は、賠償金の額を遥かに上回る。 最悪でも数百億円で済む賠償金を惜しんで数兆円の経済効果を失うくらいなら、素直に賠償金を払った方が得である。

このことはNAFTAで食い物にされたとするカナダの大臣政務官も認めている。

エリン・オートゥール国際貿易大臣政務官はISDS条項は自由貿易に必要であり、2国間の貿易額に比べれば、これまでの訴訟はとるに足らないという。

ニュースウオッチ9 (2014年1月15日放送回)の番組概要ページ - gooテレビ番組(関東版)

先進国から見れば僅かな損害を恐れる理由は何もない。

適用条項と仲裁定事例 

一般に国際投資仲裁で参照される条項のうち、TPPにも組み込まれている条項を以下に示す。

内国民待遇
外国投資家を内国投資家と対等に扱う義務を定めている。「in like circumstances(同様の状況)」下(一般に競合関係にあるかどうかが重視される)にあって、かつ、外国投資家と内国投資家を差別的に扱った場合に違反とされる。「in like circumstances(同様の状況)」下にない場合は違反に当たらない。
最恵国待遇
外国投資家を第三国の投資家と対等に扱う義務を定めている。内国民待遇と同様に「in like circumstances(同様の状況)」下にあったかどうかが問われる。
待遇に対する最低基準
「公正衡平待遇」や「十分な保護と保障」を含む国際慣習法上の最低限の待遇を保証する。TPPでは、政府の行為が投資家の期待通りでなかったり、補助金の拒否・打切・減額等の事実だけでは違反にならないと明記している。
公正衡平待遇
投資家を公正及び衡平に扱う義務を定めている。一貫性の欠ける措置や朝令暮改により、予測不能な損害を与えた場合には違反が認定されやすい。
十分な保護と保障
物理的な暴力等から投資財産を保護する義務を定めている。国際慣習法上の求められる程度の警察の保護を行なわなければ違反とされる。
武力紛争又は内乱の際の待遇
武力紛争や内乱による投資家の損失について非差別的に扱うように定めている。または自国の軍隊や当局による徴発や不要な行為による損害についての賠償義務をさだめている。
収用及び補償
正当な理由なく投資財産を没収することを禁じ、正当な理由がある場合も適切な補償を行なうことを定めている。投資財産を事実上無価値にするような措置も収用と同等の行為(間接収用)としている。政府の行為の必要性が乏しく、かつ、投資財産がほぼ無価値になるほどの損害を受けた場合に違反とされる。
特定措置の履行要求
投資家に輸出数量規制、現地調達率規制、国内品購入強要、技術等の譲渡強要、国内技術の調達強要等の履行を要求することを禁じている。
経営幹部及び取締役会
特定の人物の経営幹部の任命を要求することを禁じている。ただし、投資家の投資財産への支配を弱めない範囲に限って、取締役会の過半数を特定国籍とするよう要求することはできる。

ちなみに、投資家保護を制限する条項も設けられているので一部を紹介する。

適合しない措置
協定発行前からの措置(中央政府の措置は表に記載されたもののみ)とその更新、改正等を投資家保護の例外と定めている。
利益の否認
ペーパーカンパニーを通じた投資において投資財産の実質的支配者が自国または非締約国の投資家である場合に投資家保護の例外とすることを認めると定めている。
投資及び環境、健康その他の規制上の目的
投資家保護の規定が、環境、健康その他の必要な措置を妨げるものではないことを定めている。

個別の仲裁定判断事例はISD仲裁事例に記載した通りだが、いずれも適用条項の常識的解釈の範囲から逸脱したものは見あたらない。 そして、内容の不明確さを除き、それぞれの適用条項の内容にも不合理な所は見当たらない。 一部に適用条項の内容が不明確であるが故の混乱がないわけではないが、その辺りは、京都大学法学部2012年度前期演習(国際機構法)の論文ISDS 条項批判の検討―ISDS 条項は TPP 交渉参加を拒否する根拠となるか―(濵本正太郎教授監修)は非常に良くまとまっているので、そちらを読むことをお勧めする。

いずれにせよ、ISD条項詳細解説に書いたとおり、ISD条項に基づく国際投資仲裁は、各条約を忠実に解釈して仲裁定を下す手続に過ぎない。 大騒ぎするような所は何もない。 火のない所に煙を立てているだけである。 まあ、政治がノイジー・マイノリティーの言いなりになり、かつ、正規の手続を無視した横暴に走る…ということは難しくなるので、左翼系活動家の方々や反政府系活動家の方々が活動し難くなるとは言えよう。 だから、彼らは目くじらを立てるのかも知れない。

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