TPPと政府調達
中立かつ客観原則
ここでは中立的な立場で事実関係を検証する。 賛成か反対かという結論は先に立てず、現実に起きた出来事、確実に起き得ること、一定程度の期待値を示す根拠のあることを中立かつ客観的に検証する。 可能性レベルの物事を論じるためにも、無視できない可能性があることを示す根拠を重視し、根拠のない当てずっぽうや思い込みや伝聞等の不確かな情報は、それが妄想に過ぎないことを示した上で門前払いとする。 賛成論でも間違いは間違いと指摘するし、それは反対論でも同じである。 ここでは賛成論にも反対論にも与しない。
TPP総論
長期的視野では話は別だが、短期的視野で見ればTPPに参加するかしないかは大きな問題ではない。 それよりも、TPPとは全く無関係な混合診療完全解禁がもたらす患者の治療機会喪失の危険性やイレッサ訴訟の行く末によるドラッグラグ・未承認薬問題の悪化の方が、遥かに大きな問題であろう。 だから、TPPよりも重要な争点において国民に不利益をもたらす政策を党員に強要する日本維新の会は落選運動の対象とせざるを得ない。 混合診療の完全解禁を公約とする日本維新の会およびみんなの党には一切の主導権を握らせてはならない。 そのためには、これらの党に対する落選運動が必要なだけでなく、与党とこれらの党との連携も絶対に阻止しなければならない。 具体的運動の詳細は自民党への抗議方法を見てもらいたい。
概要
ここは サルでもわかるTPP@ルナ・オーガニック・インスティテュート と サルでもわかるTPP@Project99% のデマを暴くページであるサルでもわかるTPPと新サルでもわかるTPPの一部である。
原則
現在の日本には政府調達への外国企業の参入を規制する法律はない。 だから、TPPとは関係なく、かつ、金額に関わらず、日本の政府調達に外国企業が参入することは可能である。
しかし、外国企業が参入し難いような入札条件を設定することは可能である。 そこで、WTO政府調達協定では、予定価格が一定以上の政府調達については、外国企業を恣意的に排除するような入札条件を禁止し、外国企業が参入し易いよう次のような措置を取ることを求めている。
- 指名競争は
調達機関から指名を受けていない者についても入札の参加を希望する場合には、調達機関から指名を受けることを条件として入札に参加することができます
- 随意契約は
競争に付しても入札に応ずる者がない場合、特許権等によって競争を許さない場合等に限り行うことができる
調達機関は、入札を実施しようとする場合には、入札期日から少なくとも40日前までに官報、県報等で公告(公示)し、入札の行われることを周知
調達する産品又はサービスの名称及び数量、入札期日並びに契約担当者の氏名及びその所属する部局名はWTO公用語の一つである英語で記載
指名競争契約の公示については、以上の事項の他、指名されるために必要な要件が加えられます
外国企業の日本市場へのアクセス改善努力の一環として定めた自主的措置
政府調達協定に準じて対処することとされた調達案件について、応札期間を特別の事情がない限り50日に延長
随意契約により調達しようとするときは、極めて緊急を要する場合等を除いて契約の予定日の少なくとも20日前に官報に随意契約による旨を公示
スーパーコンピューター、電気通信、医療技術製品及びサービス並びに非研究開発衛星については、原則として40日前に官報公示
競争参加資格、納入場所、納入期限等についても日本語のほか英語により記載
大型の産品及びサービス調達案件の予定等について、年度の可能な限り早い時期に官報に公示
会計年度の当初又は年度の可能な限り早い時期にその詳細な内容を説明するために、関心のある内外の供給者を対象としたセミナーを開催
(1)仕様等を決定するための資料提供の招請、(2)仕様書案に関する意見の提供の招請、(3)指名競争入札が行われた場合の指名供給者の公示等
を官報に公示
政府調達協定及び政府調達苦情処理推進会議議長が別に指定した政府調達に関して適用されることとなる規程に違反して調達が行われたと判断する場合に、政府調達苦情検討委員会に対し、苦情を申し立てることができます
ただし、恣意的に参入を阻むことを禁止しているだけなので、外国企業の受注を約束するわけではない。
物品の製造・販売、役務の提供、物品の買受
TPPの24分野の中には「政府調達」という項目がある。 これはいわゆる公共事業だ。
政府や地方自治体は、たとえば学校を建てるとか、学校に入れるための机や椅子、あるいはパソコンを買う、などというときに、「入札」を行う。 いろんな業者に予算を出させて、一番安い業者にやらせるんだ。
こういう公共事業の入札に外国企業が参加できるのは、これまではかなり高い金額の場合だけだった。 それがTPPに加盟すると、この金額の制限が引き下げられる。
たとえば机やパソコンなど「物品」の場合なら、今まで2500万円以上だった制限が、630万円以上に引き下げられる。
全省庁統一資格では、物品の製造・販売および役務の種類別等級区分では、D等級(小企業に割り当てられる等級)は予定価格400万円未満である。 このクラスの企業にとっては、「金額の制限」が「2500万円」だろうが「630万円」だろうが全く関係がない。 また、予算決算及び会計令第五十一条により、資金前渡の限度額は庁中常用の雑費は300万まで、工事は500万円までと決まっているので、田舎の地方出先機関の発注には全く影響しない。 つまり、「地方経済」の中心を担う中小企業はほとんど悪影響を受けない。
平成20年(度)実績 | 政府契約全体 | 政府調達協定対象 | 外国企業の調達 |
---|---|---|---|
件数 | 175,895件 | 12,741件 | 249件 |
総額 | 8兆1,076億円 | 1兆3,648億円 | 415.2億円 |
平成20年度 契約に関する統計 - 財務省 平成20年(暦年)における政府調達実績 - 政府官邸
平成20年のWTO政府調達協定対象の調達のうち
外国企業からの調達割合は、件数ベースで2.0%、金額ベースで3.0%
平成20年(暦年)における政府調達実績 - 政府官邸
に過ぎない。
体力のある大企業でさえ「金額ベースで3.0%」しか落とせないのだから、中小企業には海外進出は難しい。
また、海を越えるコストを考慮すれば、1件当りの金額が小さい契約では、海外企業には割に合わない。
だから、「金額の制限」が下がったとしても、「外国企業からの調達割合」が今以上に増えるとは考え難い。
以上から推測すると、仮に、金額の制限が0円になったとしても、海外企業の受注額は政府契約全体の3%程度が関の山であろう。
よって、「金額の制限」が多少下がったくらいでは、海外企業の受注割合は殆ど増えない。
また、日本政府の調達に外国企業が入ってくるように、外国政府の調達にも日本企業が入ることができる。 これで不利になるのは、海外進出できるほどの大企業が少ない発展途上国だけだろう。 各国の「金額の制限」が同額である限り、先進国である日本が不利になることはない。
公共工事
公共事業は、地方経済の中で結構大きな部分を占めている。
その仕事を外国企業に持っていかれてしまうと、ただでさえ停滞している地方経済がますます弱っていってしまう。
あるいは、「建設」の場合なら今までは19億円以上だった制限が、TPPに加盟すれば、6億3千万以上になる。 普通の家ではなく、公共の建物なんだから、6億以上かかる場合も多いだろう。
例えば、関東地方整備局の資格基準の一般土木工事、建築工事では、A等級(超大企業に割り当てられる等級)が予定価格7億2,000万円以上、最低のD等級は予定価格6,000万円未満となっている。
その他の工事は、全て、これよりも予定価格が安い。
造園工事は、A等級でも、予定価格2,500万円以上となっている。
つまり、「6億以上かかる」公共工事に参加できるのは、ほとんどがA等級の超大企業である。
枝野国務大臣(当時)は、
二十三億円が七億円に仮に下がるということが将来何かのことであった場合でありますが、平成二十二年度の調達実績について、都道府県の約半分について公開情報で入手可能な範囲で調べましたが、それは全体の工事件数の〇・一%程度
第179回国会衆議院予算委員会第6号 - 衆議院
としている。
ただし、正しくは、件数ベースでなく金額ベースで検証すべきである(仮に、残りの工事の平均が1千万円とすると、金額ベースでは数%以上となる)。
中小企業にとっての問題は、これら大企業の下請けに入れるかどうかである。
公共工事は、常時継続して一定量の仕事を発注するわけではない。
日本の国や地方自治体は、単年度会計を採用しているため、年度末に予算が不足しないよう、年度当初は不要不急な工事発注を行なわない。
そうすることで、不測の事態への出費に備えるのである。
そして、年度末近くなって、予算の不足の心配がなくなると、今度は、余分な予算を残さないように、急に、大量の公共工事を発注するのである。
また、受注企業も入札で決まるので、安定した受注が約束されているわけではない。
そのため、公共工事では、仕事がある時とない時の差が激しい。
仕事がある時に雇用した労働者を、仕事がない時も継続雇用しては、無駄な経費が掛かりすぎる。
だから、国内企業か海外企業かを問わず、工事会社は、自社で囲い込む必要のある指揮部門の管理技術者のみを常時雇用する。
そして、単純労働者を日雇い形態で雇用したり、中小企業と下請契約して、実動部門の人数を調整するのである。
ちなみに、公共工事のない間、中小企業は、公共工事より規模の小さい民間からの受注で食い繋いでいる。
大企業は、こうした小規模工事の受注で食いつなぐのは難しい。
また、工事1件毎に本国から全労働者を呼び寄せることは、人員の輸送コスト的に無駄が多い。
海外企業が受注する場合にも、海外の下請け企業を呼び寄せるよりも、現地企業と契約した方が安い。
単純労働者を雇用するにしても、海外の労働者を呼び寄せるよりも、現地労働者を雇った方が安い。
一般市民には何の得にもならないけれど、大企業だけは得をする、という構図は、アメリカでも日本でも同じ
サルでもわかるTPP第4章なぜ日本は加盟したい?@Project99%
であるなら、余計に、海外企業が本国労働者のために無駄なお金を出すはずがないのだ。
よって、海外企業が受注する場合であっても、当然、実動部門は現地企業との下請契約か現地労働者の臨時雇用で賄うしかない。
つまり、海外企業に取られるのは、大企業の管理部門の仕事だけなのである。
中小企業の受注機会が減少する恐れはないし、多くの日本人労働者にとっても悪影響はない。
と言うと、「海外企業が本国労働者ではなく東南アジアの安い労働力を使ったらどうなるんだ?」と言い出す者がいるかもしれない。
しかし、東南アジアの安い労働力を使うことでコストダウンが可能なら、日本企業にも同じことができるはずである。
一般市民には何の得にもならないけれど、大企業だけは得をする、という構図は、アメリカでも日本でも同じ
サルでもわかるTPP第4章なぜ日本は加盟したい?@Project99%
であるなら、日本の大企業が日本人労働者のために無駄なお金を出すはずがない。
つまり、受注企業が、日本企業だろうが、海外企業だろうが、日本人労働者にとってはどちらも同じことなのだ。
ようするに、これは、政府調達の「金額の制限」とは全く無関係な、純粋な日本人労働者の雇用の問題となる。
純粋な日本人労働者の雇用の問題については、TPPと国内産業・雇用・賃金で説明している通りである。
ようするに、
大企業の利益を伸ばす反面、庶民の搾取につながっていく。
サルでもわかるTPP第3章TPPに入るとどうなる?@Project99%
一般市民には何の得にもならないけれど、大企業だけは得をする
サルでもわかるTPP第4章なぜ日本は加盟したい?@Project99%
利益を得るのは大企業のトップだけ。一般庶民は豊かになるどころか、逆に失業や賃金の低下で苦しめられることになる。
サルでもわかるTPP第5章TPPでは幸せになれない@Project99%
が問題であるなら、中小企業の受注機会が減らず、かつ、庶民の生活にも悪影響を与えない政府調達の「金額の制限が引き下げられる」ことを目の敵にする必要が全くない。
そして、大企業にとっても、海外の仕事を受注する機会が増えるから、損にはならないのである。
復興事業
大震災の後の復興がなかなか進んでいかないけれど、TPPに加盟すると、この復興事業のほとんどを、外国企業に持っていかれてしまう可能性が高いんだ。
本来なら復興事業は震災で打撃を受けた被災地の経済を復興させる原動力になるはずなのに、それがただ単に外国企業を肥え太らせるだけで終わってしまうよ。
「大震災」などの災害が起きる可能性は何処の国にもある。 いくら日本が地震大国とは言え、世界の震災の約半数が日本で起きているというわけでもあるまい。 であるならば、日本にとっても他国の「復興事業」に参加するチャンスが増えるのである。 そして、既に説明した通り、「地方経済」の中心を担う中小企業は「復興事業のほとんどを、外国企業に持っていかれてしまう」ことはない。
米国の狙い
既に説明した通り、政府調達に関しては、米国から日本への参入も、日本から米国への参入も殆ど増えない。 それでは、米国は何を狙っているのか。
1 日本は、WTO政府調達協定(GPA)(※)に加盟しており、既に、国や都道府県・政令指定都市による一定額以上の公共事業等については、外国企業も日本企業と同じ条件で参入できるようになっています。
※WTO政府調達協定(GPA):公共事業を含む政府調達(国・地方など)を外国企業にも開放することを目的とする協定、加盟国は2013年1月で42か国(TPP交渉参加国では米国、カナダ、シンガポールのみ。)
2 しかしながら、これまで日本の公共事業への外国企業の参入実績はわずかです。 また、GPAで求められる英語等による事務対応としては、調達物件の名称・数量・入札期日等を公示することのみです。
3 なお、各国の政府調達のルールを整備することで、日本企業がアジアの公共事業等を受注しやすくなり、今後予想されるアジアの膨大なインフラ市場への参入が促進されることが期待されます。
政府調達に関しては、米国も日本も既にWTO政府調達協定(GPA)に加入している国に対しては眼中にない。 既に加入している国(日本、米国、カナダ、シンガポール)に対して、上限金額を下げたところでほとんど参入実績は増えない。 しかし、GPA未加盟国については、従来の参入実績は0%であるが、政府調達を開放させることでこれを一定程度拡大する余地がある。 米国も日本も、それを狙っているのである。
参考
- 環太平洋戦略的経済連携協定
- ISD条項詳細解説
- ISD仲裁事例
- ISD条項
- TPPは米国の陰謀?TPPお化け
- サルでもわかるTPP
- 新サルでもわかるTPP
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中立的TPP論
- 環太平洋戦略的経済連携協定