非違反提訴(NVC条項)
中立かつ客観原則
ここでは中立的な立場で事実関係を検証する。 賛成か反対かという結論は先に立てず、現実に起きた出来事、確実に起き得ること、一定程度の期待値を示す根拠のあることを中立かつ客観的に検証する。 可能性レベルの物事を論じるためにも、無視できない可能性があることを示す根拠を重視し、根拠のない当てずっぽうや思い込みや伝聞等の不確かな情報は、それが妄想に過ぎないことを示した上で門前払いとする。 賛成論でも間違いは間違いと指摘するし、それは反対論でも同じである。 ここでは賛成論にも反対論にも与しない。
TPP総論
長期的視野では話は別だが、短期的視野で見ればTPPに参加するかしないかは大きな問題ではない。 それよりも、TPPとは全く無関係な混合診療完全解禁がもたらす患者の治療機会喪失の危険性やイレッサ訴訟の行く末によるドラッグラグ・未承認薬問題の悪化の方が、遥かに大きな問題であろう。 だから、TPPよりも重要な争点において国民に不利益をもたらす政策を党員に強要する日本維新の会は落選運動の対象とせざるを得ない。 混合診療の完全解禁を公約とする日本維新の会およびみんなの党には一切の主導権を握らせてはならない。 そのためには、これらの党に対する落選運動が必要なだけでなく、与党とこれらの党との連携も絶対に阻止しなければならない。 具体的運動の詳細は自民党への抗議方法を見てもらいたい。
非違反提訴(Non-Violation Complaint、NVC条項)
GATT23条では次のように規定される。
第二十三条無効化又は侵害
- 締約国は、(a)他の締約国がこの協定に基く義務の履行を怠つた結果として、(b)他の締約国が、この協定の規定に抵触するかどうかを問わず、なんらかの措置を適用した結果として、又は(c)その他のなんらかの状態が存在する結果として、この協定に基き直接若しくは間接に自国に与えられた利益が無効にされ、若しくは侵害され、又はこの協定の目的の達成が妨げられていると認めるときは、その問題について満足しうる調整を行うため、関係があると認める他の締約国に対して書面により申立又は提案をすることができる。 この申立又は提案を受けた締約国は、その申立又は提案に対して好意的な考慮を払わなければならない
- 妥当な期間内に関係締約国間に満足しうる調整が行われなかつたとき、又は困難が前項(c)に掲げるものに該当するときは、その問題を締約国団に付託することができる。 締約国団は、このようにして付託された問題を直ちに調査し、かつ、関係があると認める締約国に対して適当な勧告を行い、又はその問題について適当に決定を行わなければならない。 締約国団は、必要と認めるときは、締約国、国際連合経済社会理事会及び適当な政府間機関と協議することができる。 締約国団は、事態が重大であるためそのような措置が正当とされると認めるときは、締約国に対し、この協定に基く譲許その他の義務でその事態にかんがみて適当であると決定するものの他の締約国に対する適用の停止を許可することができる。 当該他の締約国に対するいずれかの譲許その他の義務の適用が実際に停止されたときは、その締約国は、停止の措置が執られた後六十日以内に、この協定から脱退する意思を書面により締約国団の書記局長に通告することができ、この脱退は、同書記局長がその脱退通告書を受領した日の後六十日目に効力を生ずる。
「(b)他の締約国が、この協定の規定に抵触するかどうかを問わず、なんらかの措置を適用した結果」として、次の場合に、「関係があると認める他の締約国に対して書面により申立又は提案」をして「その問題について満足しうる調整を行う」ことを非違反申立と言う。
- この協定に基き直接若しくは間接に自国に与えられた利益が無効にされていると認めるとき
- この協定に基き直接若しくは間接に自国に与えられた利益が侵害されていると認めるとき
- この協定の目的の達成が妨げられていると認めるとき
尚、「協定に基き直接若しくは間接に自国に与えられた利益」とは、協定の効果として合理的に予想される利益であって、投資家の希望的観測のことではないし、合理的に予想されない利益も含まれない。 例えば、関税を削減または撤廃すれば、当然、輸入は増えるはずなので、それにより増えるはずの利益は「協定に基き直接若しくは間接に自国に与えられた利益」に含まれる。 一方で、公正な競争に負けて失った利益は「協定に基き直接若しくは間接に自国に与えられた利益」に含まれない。
これは、関係国と調整を行なう申立手続であって、仲裁のための提訴とは違う。 ただし、調整が困難な場合は「その問題を締約国団に付託することができる」。
非違反申立の淵源は、第2次大戦前に米国が他国と結んでいた通商協定にあるといわれる。 そして、1947年のGATTの起草の際、関税譲許時に締約国が相互に期待する貿易自由化の効果が、GATTの規律の及ばない措置(例えば、非差別的な税制や補助金等)によって損なわれることへの懸念から、非違反申立の制度を1947年GATTにも導入したとされる。 その背景には、1947年GATTが関税譲許を中核とする協定であること、すなわち、締約国が相互に関税引き下げを約束することにより、お互いに市場の開放に向けた期待感を持つという効果が生じるという仕組みを中心としているとともに、他方、貿易関連措置の一部のみを規律していたにすぎず、その規律の及ばない分野の措置の導入によって、GATTの規律の効果が損なわれるおそれが大きかったということがあった。
「関税譲許」とは
個別の品目に適用される撤廃・削減ルール
EPA/FTAの譲許表等の読み方について - 経済産業省
を示したものであり、すなわち、関税削減や撤廃の約束を交わしたことを意味する。
「1947年のGATTの起草の際」は、関税以外の貿易関連措置については「一部のみを規律していた」ために、その「規律の及ばない措置(例えば、非差別的な税制や補助金等)」によって、関税削減や撤廃の効果を無効にすることが可能であった。
それにより貿易自由化の効果が損なわれることを懸念して、「非違反申立の制度を1947年GATTにも導入した」とされている。
ようするに、この規定は、超反則級の裏技(協定の精神に反するが協定の文言には違反しない行為)で協定を骨抜きにしてしまうことへの対抗手段である。
こういう万能規定を設けておかなければ何らかの超反則級の裏技に対しては対抗できなくなる恐れがある。
非違反申立の具体的な手続としてWTOでは次のように定めている。
第二十六条
1.1994年のガット第二十三条1(b)に規定する類型の非違反措置に関する申立て
1994のガット第二十三条1(b)の規定がいずれかの対象協定について適用され又は準用される場合において、小委員会又は上級委員会は、紛争当事国が、いずれかの加盟国が何らかの措置(当該対象協定に抵触するかしないかを問わない。)を適用した結果として、当該対象協定に基づき直接若しくは間接に自国に与えられた利益が無効にされ若しくは侵害されており又は当該対象協定の目的の達成が妨げられていると認めるときに限り、裁定及び勧告を行うことができる。 問題が同条1(b)の規定の適用又は準用に係る対象協定に抵触しない措置に関するものである旨を当該紛争当事国が認め、かつ、小委員会又は上級委員会がその旨を決定する場合には、その限度において、この了解に定める手続は、次の規定に従って適用される。
(a)申立国は、当該対象協定に抵触しない措置に関する申立てを正当化するための詳細な根拠を提示する。
(b)ある措置が当該対象協定に違反することなく、当該対象協定に基づく利益を無効にし若しくは侵害し又は当該対象協定の目的の達成を妨げていることが認定された場合には、関係加盟国は、当該措置を撤回する義務を負わない。 この場合において、小委員会又は上級委員会は、当該関係加盟国に対し相互に満足すべき調整を行うよう勧告する。
(c)第二十一条3に規定する仲裁は、同条の規定にかかわらず、いずれかの当事国の要請に基づき、無効にされ又は侵害された利益の程度についての決定を含むことができるものとし、かつ、相互に満足すべき調整を行う方法及び手段を提案することができる。 これらの提案は、紛争当事国を拘束するものであってはならない。
(d)代償は、第二十二条1の規定にかかわらず、紛争の最終的解決としての相互に満足すべき調整の一部とすることができる。
これによれば、申立が認められても、WTO小委員会又は上級委員会が「相互に満足すべき調整を行うよう勧告」するだけであって、「関係加盟国は、当該措置を撤回する義務を負わない」とされている。 「第二十一条3に規定する仲裁」も、「無効にされ又は侵害された利益の程度についての決定」と「相互に満足すべき調整を行う方法及び手段」を提案するだけであって、「これらの提案は、紛争当事国を拘束するものであってはならない」とされている。
さらに、申立には「申立てを正当化するための詳細な根拠」を求められるのだが、このハードルが非常に高い。
(注2)「非違反申立」が認められるためには、従来からパネルの判例においては、一般に、①他国の措置によって競争条件が歪められた(upset)こと、②申立国がその措置を合理的に予見不可能であったこと、③関税譲許が合意されたこと、の3要件が必要とされてきている。
過去において非違反申立条項違反を認定した事例は、わずか8件しか存在しておらず、しかもこのいずれも特定産品への補助金、あるいは関税に関するものであり、パネルは当該条項の適用範囲をできるだけ限定的に捉えようとしていると思われる。
ただし、WTOの紛争解決手続の下でこれまでに非違反申立・状態申立が認容されたケースはない。 また、利益の無効化侵害に代えて協定の目的達成の妨害を理由に申し立てることもできるが、WTO期・GATT期を通じて認容されたことはない。
そして、1995年にWTO体制がスタートしてから、「非違反提訴」がなされた事案は3件に過ぎません。 上記3件のなかで、2件は米国が、1件はカナダが提訴したのですが、すべて提訴国が敗訴しています。
具体例として、米国政府が日本政府相手に提訴した日米フィルム紛争があるが、これも米国政府が敗訴している。 このように、非違反申立は、万能規定である一方で、立証責任のハードルを非常に高くすることで、悪用を防いでいる。 だから、本当に超反則級の裏技が実行された場合以外、非違反申立による訴えが認められる余地はない。 単に訴えるだけなら言い掛かりでも何でも可能だが、訴えるためには正当な理由と証拠を提示しなければならない。 そして、WTOパネルが「適用範囲をできるだけ限定的に捉えよう」としているために、正当な理由と証拠があっても、余程のことがない限り、訴えが通ることはない。 また、締約国間の国家間紛争解決手続であるので、投資家が訴えることはできない。
米韓FTAでは米国だけに認められる片務的条項であるかのようなデマが流布されているが、公的機関の情報では双務的条項であると明記されている。 その詳細はTPPと米韓FTAに記載した。 これはTPPにおいても同じである。
参考
- 環太平洋戦略的経済連携協定
- ISD条項詳細解説
- ISD仲裁事例
- ISD条項
- TPPは米国の陰謀?TPPお化け
- サルでもわかるTPP
- 新サルでもわかるTPP
総合案内
情報発信
- 偏向報道等
- プロバイダ責任制限法
法律
政策
- 維新八策
- 国策スパコン
- 妄想的陰謀論者の赤松健を擁立するリスク
政府財政
軍事
経済
外交
- 国際条約・協定の常識
- 衛生植物検疫措置/貿易の技術的障害
中立的TPP論
- 環太平洋戦略的経済連携協定