TPPと安全
中立かつ客観原則
ここでは中立的な立場で事実関係を検証する。 賛成か反対かという結論は先に立てず、現実に起きた出来事、確実に起き得ること、一定程度の期待値を示す根拠のあることを中立かつ客観的に検証する。 可能性レベルの物事を論じるためにも、無視できない可能性があることを示す根拠を重視し、根拠のない当てずっぽうや思い込みや伝聞等の不確かな情報は、それが妄想に過ぎないことを示した上で門前払いとする。 賛成論でも間違いは間違いと指摘するし、それは反対論でも同じである。 ここでは賛成論にも反対論にも与しない。
TPP総論
長期的視野では話は別だが、短期的視野で見ればTPPに参加するかしないかは大きな問題ではない。 それよりも、TPPとは全く無関係な混合診療完全解禁がもたらす患者の治療機会喪失の危険性やイレッサ訴訟の行く末によるドラッグラグ・未承認薬問題の悪化の方が、遥かに大きな問題であろう。 だから、TPPよりも重要な争点において国民に不利益をもたらす政策を党員に強要する日本維新の会は落選運動の対象とせざるを得ない。 混合診療の完全解禁を公約とする日本維新の会およびみんなの党には一切の主導権を握らせてはならない。 そのためには、これらの党に対する落選運動が必要なだけでなく、与党とこれらの党との連携も絶対に阻止しなければならない。 具体的運動の詳細は自民党への抗議方法を見てもらいたい。
概要
ここは サルでもわかるTPP@ルナ・オーガニック・インスティテュート と サルでもわかるTPP@Project99% のデマを暴くページであるサルでもわかるTPPと新サルでもわかるTPPの一部である。
食の安全
例えば、牛肉の月齢制限。
BSE(牛海綿状脳症。いわゆる狂牛病)の牛肉が輸入されるのを防ぐために、日本政府は20カ月齢以下の牛しか輸入しないと決めている (※現在アメリカの要求によって30カ月齢への制限緩和が検討されている) 若い牛ほどBSEにかかっている可能性は低いからだ。
BSE問題においては、米国より2年も前に日本にて感染牛が見つかっている。 そして、国際機関から「管理されたBSEリスク」の国として認定されたのは、米国より2年遅い。 その間も、日本は、国際基準を無視したピッシング継続等の危険な対応を取り続けていた。 この事例は、日本の基準は国際基準よりも明らかに危険で、かつ、無駄に厳しいもの(「牛肉の月齢制限」等は、統計上、BSE感染リスクを下げない)であることを示している。
このような意味もなく形だけ厳しい規制を導入したのは、農林水産省の対応のまずさにある。
海外でBSEが問題になっている中、農林水産省は日本には上陸していないと繰り返すばかりで、その根拠も明らかにせず、上陸を阻止する政策も実行しなかった。
既にEUで行なわれた肉骨粉の飼料への使用禁止措置も取られていなかった。
EUでは、94年に牛など反すう家畜に対して肉骨粉の飼料向け使用を禁止していた
2001年1月トピックス - 畜産情報ネットワーク
が、2001年1月からは禁止範囲を全ての家畜に拡大した。
一方で、
農林水産省が肉骨粉の
EU諸国からの輸入を禁止
肉骨粉等を原料とする肥料の使用について - 農林水産省
したのは2001年1月からである。
この時点で輸入を禁止したのはEUからのみであるので、EU以外の国を経由して持ち込まれた製品には全く効力がない。
実際に日本にBSEが上陸した事実から見て、何処かに抜け道があったことは確かだろう。
そして、2001年9月10日、国内で1頭目のBSE感染が確認された。
デマを流す人達は日本におけるBSE感染を歴史年表から抹殺して存在しなかったことにしているようだが、実際は、米国(2003年12月感染確認)よりも2年も前に日本でBSE感染牛が確認されているのである。
農林水産省によって
牛などの肉骨粉等は、牛への給与が法的に禁止され
肉骨粉などの給与禁止について - 農林水産省
たのは、それより後の2001年9月17日である。
全ての国からの肉骨粉等の輸入を一時停止
肉骨粉等を原料とする肥料の使用について - 農林水産省
は、さらに後の2001年10月からである。
また、EUが既に禁止していた反すう動物以外への使用について農林水産省は2001年10月に
肉骨粉等を反すう動物(牛)以外の家畜(鶏、豚等)等に給与することは、科学的に問題がなく
肉骨粉等の当面の取り扱いについて - 農林水産省
と安全宣言までしている。
このように、農林水産省の対策は後手に回ってBSEの国内上陸を許し、日本の牛肉の信用は地に落ちてしまった。 報道では、最初の発症例とされる牛は肉骨粉の原料として売却されたとして、農林水産省の対応が批判された。 そこで、日本の牛肉は安全だとアピールするために、全頭検査、全月齢の特定部位の除去という世界に例を見ない極端な規制を導入することになった。 しかし、一方で、特定危険部位の除去が不十分だと欧米から非難される(参考)など、BSE対策は非常にチグハグなものであった。 とくに、特定危険部位から全身に異常プリオンが拡散する危険があるとされEUでは既に禁止されているピッシングは、規制対象とはならなかった。 それが、日本より後にBSE上陸を許した米国産牛肉の輸入再開の時に問題となった。 危険性が高いことが確実なピッシングを許可しておきながら、科学的根拠のない無駄な規制を強要するのは何事か、日本にとっては安全性よりも規制の方が重要なのかと。 日本の規制は、安全性の重大な抜け道がある以上、外国企業を排除するための口実にしかなっていないのだ。
欧州ではBSE対策として2000年から禁止されている
2005年11月専門調査レポート - 畜産情報ネットワーク
ことを受けて、2001年10月の食肉処理における特定危険部位管理要領でも
ワイヤーの挿入より、脳、脊髄組織が漏出し、汚染が発生する懸念等があることから中止することが望ましい
第3回牛海綿状脳症(BSE)対策本部会議の結果について - 厚生労働省
とされていた。
にもかかわらず、
作業員の給与は日給制であり、けがをすれば収入を得られなくなくなる可能性がある
2005年11月専門調査レポート - 畜産情報ネットワーク
ことを口実に、ピッシングは規制されずに放置されてきた。
それならば、けがをした作業員の収入を国等が補填すれば済むことであろう。
それは、BSEの人への感染リスクに比べれば遥かに小さな問題である。
牛海綿状脳症(BSE)対策の再評価について - 厚生労働省
によれば、日本がピッシングが禁止したのは2009年4月である。
ピッシングに関する実態調査結果について - 厚生労働省によれば、2008年10月末段階では国内施設の96%でピッシングが中止されていた。
つまり、日本政府は、実態として国内施設でピッシングが殆ど行なわれなくなるのを待ってからピッシング規制を掛けたのである。
牛海綿状脳症(BSE)対策の再評価について - 厚生労働省P.8のとおり、日本では2001年から2009年まで計36頭(うち、死亡牛検査は15頭)の感染が確認されているが、米国では2005年と2006年の各1頭の合計2頭のみである。 「日本では全頭検査を実施しているのだから、その分、確認件数が多くなるのは当然じゃないか」と主張する者がいるかも知れないが、それを考慮しても日本のBSE感染は圧倒的に多い。
- 食肉検査による発見頭数の差
- 月齢基準の違いによる発見頭数の差
- 高リスク牛の検査対象数の違いによる差
プリオン評価書 - 食品安全委員会P.37,40を見れば分かる通り、高リスク牛の検査頭数と感染頭数を日米で比較すれば、日本の感染比率の方が圧倒的に多い。 日本では、BSE感染が確認された2008年までの合計で、死亡牛等53万頭弱の検査をして15頭(0.00284%)の感染が確認されている。 米国では、BSE感染が確認された2005年と2006年の合計で、高リスク牛(死亡牛、緊急と畜牛、臨床的に 疑われる牛)71万頭弱の検査をして2頭(0.000282%)の感染が確認されている。 感染率では約10倍の開きがある。
ようするに、EUを除けば、日本は、世界でも有数のBSE大量発生国であり、米国よりも遥かにBSE感染リスクが高かったのである。 米国牛よりも国産牛の方が圧倒的に危険であったにも関わらず、日本の消費者は米国の方が危険と勘違いさせられて、輸入米国牛の買い控えが発生したのだ。
国際獣疫事務局(OIE)による加盟国のBSEステータス認定について - 農林水産省、国際獣疫事務局(OIE)による「無視できるBSEリスク」の国のステータス認定の申請について - 農林水産省によれば、衛生植物検疫措置/貿易の技術的障害(SPS/TBT)協定の国際基準の設定機関である国際獣疫事務局により「管理されたBSEリスク」の国として認定されたのは、米国・カナダ・スイス・台湾・チリ・ブラジルが2007年5月、日本が2009年5月である。 つまり、米国は、2003年12月から2007年5月までの3年5ヶ月でBSEを終息させ、その間、2頭の感染牛が確認された。 一方で、日本は、2001年9月から2009年5月まで終息に7年8ヶ月かかり、その間、36頭の感染牛が確認された(うち、月齢41以上の高リスク牛では13頭の確認)。 そして、BSE感染牛が次々と確認されている間も、極めて危険だと知りながらピッシングを野放しにしていたのである。
これに対して「日本では他国がやらない食肉検査をしているから安全だ、食肉検査のお陰で感染牛が市場に出回ることが防がれた」との反論は完全に的外れである。 どんな検査であっても疑陰性率を0%にすることはできないので、食肉検査ではBSE感染牛を100%発見することはできない。 それゆえに、食肉検査以前に、事前に高リスク牛を確実に除外することが非常に重要となる。 しかし、食肉検査で感染が21頭も発見されたことは、高リスク牛の除外が不完全であったことを示している。 従って、日本では、BSE感染牛が何頭か市場に出回ってしまった可能性がある。 この間、ピッシングが行なわれていたので、特定危険部位を除去していても、食肉がBSEに汚染されていた可能性がある。
このように、BSEの事例では、無駄に厳しい一方で危険な行為を野放しにする日本の規制よりは、科学的根拠に基づいて危険な行為は漏れなく規制する欧米の基準の方が遥かに安全である。 この事例では、国内基準を国際基準に置き換えることで安全性の向上が期待できるのであって、「健康への悪影響」は事実と真逆である。
でも、牛肉の月齢制限は、日本国の政府が、日本国民の健康を守るためにわざわざつくった制度だ。
「牛肉の月齢制限」は、科学的には無意味であることが分かっているのだから、全く「日本国民の健康を守るため」にならない。 地に落ちた日本の畜産業を守るためだけに、世界一厳しい基準を設けたとアピールしつつ、他国産の牛肉を排除するナンチャッテ安全規制に過ぎない。 既に説明したとおり、「日本国の政府」は、ピッシングが危険だと認識していながら、何年も野放しにしてきたのだ。 つまり、「日本国の政府」は、「日本国民の健康を守るため」に必要な規制を取らないのだ。 それならば、欧米の基準に合わせた方が遥かに安全だろう。
尚、各国で基準を合わせるべきかどうかと、妥当な基準が何処にあるかは別問題である。 日本だけ基準が緩くなるわけではないから、不当に緩い規制が導入されるとは考え難い。 科学的な間違いにより基準を誤るリスクは、国際基準に合わせることによって高まるわけではない。
江田憲司衆議院議員は
これには、WTO(世界貿易機構)にSPS(衛生植物検疫措置)協定があり、原則として、その国の主権が認められている
TPPの前身たるP4(シンガポール、ブルネイ、ニュージーランド、チリ)の衛生植物検疫措置(SPS)では、「WTOのSPS協定の権利と義務は制限されない」と規定されており、TPPでもこの原則は基本的に踏襲されるだろう
現在、TPPでは、この安全基準の緩和より、その手続きの迅速化・透明化が議論されている
TPPへの疑問、懸念に答える・・・⑤食品の安全が脅かされる - 日々是好日
としてTPPで安全規制が不当に緩和される恐れはないとしている。
また、
どの国も安全性が確認された遺伝子組み換え食品しか流通を認めていないが、異なるのは表示の義務付け
米国は、表示は一切不要という立場
米国は膨大なコストがかかるとしてEUの表示規制に反対した経緯がある
日本と同様の表示制度を持つ豪州やニュージーランドと共闘して阻止した
TPPへの疑問、懸念に答える・・・⑤食品の安全が脅かされる - 日々是好日
として米国の規制緩和要求にも豪州やニュージーランドと共闘して対抗できるとしている。
さらに、
SPS協定には、「科学的根拠」があれば、上乗せの厳しい基準を各国が設けることができるという規定もある
この規定を盛り込んだのは、より厳しい安全を求める消費者団体の強い意向を汲んだ米国
BSEや残留農薬の国内規制も、それに「科学的根拠」があれば正当化される
TPPへの疑問、懸念に答える・・・⑤食品の安全が脅かされる - 日々是好日
として米国は科学的根拠に基づいた規制強化を求めているので、科学的根拠に基づいた規制は強化できるとしている。
最後に、不当な規制強化が日本に不利益を及ぼす事例として福島原発の事例を挙げ
福島をはじめ被災地の農産物が、必要以上の輸入規制を各国で受けている
日本政府は「科学的根拠」に基づき、その是正を求めていかなければならない
TPPへの疑問、懸念に答える・・・⑤食品の安全が脅かされる - 日々是好日
として、このような不当に厳しい規制の是正を求めることが日本の国益に繋がるとしている。
しかし、この月齢制限は、アメリカの肉牛業者にとっては、明らかに邪魔モノだ。 それがなければ、何歳の牛だって自由に売れるんだからね。
つまり、牛肉の月齢制限は典型的な「非関税障壁」だということになる。
全米肉牛生産者協会(NCBA)は、この月齢制限撤廃を日本のTPP参加の条件にするよう、アメリカ政府に要求しているよ。
それが、外国企業の都合によって勝手に変更されてしまうというのは、大問題だよね。
せっかく日本政府が日本国民を守るためにつくった制度や法律、規制などが、すべてなし崩しにされかねない、ということ。
それぞれの国の法や規制以上に、外国企業の利益の方が優先される、そんな社会がやってくる、ということ。
国民が選挙で選んだ代表によって法律がつくられ、実行されていくという「国民主権」が崩れてしまう、ということなんだ。
自分たちがつくった法律が、外国によって勝手に変えられてしまう。これで「国」って言えるのかな?
そう考えると、TPP加盟によって、日本という国が崩壊してしまう、といってもいい。
これは、黒船来航とか、敗戦とかと同じくらい、歴史的な重大事なんだよ。
TPPの一般原則で説明したとおり、日本の「肉牛業者」にとっても等しく「明らかに邪魔モノ」になる規制は「非関税障壁」ではない。 「非関税障壁」でないものは自由貿易協定の交渉対象外である。 よって、ここで言われるような「日本政府が日本国民を守るためにつくった制度や法律、規制などが、すべてなし崩しにされかねない」事態は全く起こり得ない。
遺伝子組換
(これが妥当な決まりかどうかは別の話だよ)
消費者は「表示」によって守られている、といっていいんだ。
「これが妥当な決まりかどうか」こそがこの問題の重要な鍵であろう。 それなのに、「別の話」と断言して議論から外しておいて、どうして「消費者は『表示』によって守られている」などと言えるのか。
遺伝子組換え作物を売りたいアメリカの企業にとっては、この日本の表示制度は紛れもなく「非関税障壁」だ。
既に何度も説明している通り、国内企業にとっても等しく「邪魔モノ」となるものは、非関税障壁にはならない。
1998年、イギリスのローウェット研究所のパズタイ博士は、ネズミに遺伝子組換えじゃがいもを食べさせる実験を行った。
その結果、ネズミには、免疫力の低下や内臓の障害(膵臓の重量低下、内臓細胞の増殖、肝臓の重量低下、胃の粘膜が厚くなる)がはっきりと認められた。
博士は早速テレビ会見でこのことを発表した。 「遺伝子組換え研究に携わる科学者として、イギリス国民をモルモット代わりに使うのはきわめて不当だといわざるを得ません」とまで言ったんだ。 なぜなら、その2年前から遺伝子組換え作物は既に市場に出回っていたからね。
サルでもわかるTPP@Project99% は物事の真偽を検証するために必要な情報を隠蔽している。 この真相は遺伝子組換え食品Q&A - 厚生労働省が詳しく解説している。
それによると、権威ある学術誌であるランセットがパズタイ博士の実験に関する報告を掲載しており、その報告ではパズタイ博士の実験が次の6種類の餌をラットに与えたときの影響を比較したものだとしている。
- 生の遺伝子組換えジャガイモ
- 茹でた遺伝子組換えジャガイモ
- 生の非組換えジャガイモ
- 茹でた非組換えジャガイモ
- 生の非組換えジャガイモにレクチン(挿入遺伝子が産生するもの)添加
- 茹でた非組換えジャガイモにレクチン(挿入遺伝子が産生するもの)添加
パズタイ博士の発表に対して、2日後のローウェット研究所のプレスリリースでは、
本研究発表は研究途中の段階で行われたものであり、データ全体の評価が終了していない
遺伝子組換え食品Q&A - 厚生労働省
と発表され、ローウェット研究所のAudit committee(監査委員会)は
ラットに発育不良が見られ、又免疫系の抑制がみられたとしているが、この結論は不正確な論拠に基づく
遺伝子組換え食品Q&A - 厚生労働省
と指摘している。
具体的には次のような問題である。
- 実験に用いられたジャガイモの組成が親種ジャガイモとかなり異なる。
- 臓器重量の変化については、ラットの体重あたりの臓器重量の変化を示していない(比較方法の問題点)。
- レクチン遺伝子組込ジャガイモとレクチン添加非組換ジャガイモでは有意差がない(「免疫力の低下や内臓の障害」の原因は遺伝子組換ではなくレクチンであると疑われる)。
- 免疫系の検査が十分でははい。
この結果からは、レクチン(タチナタマメやマツユキソウに含まれる天然成分)の摂取を控えた方が良いとは言えるかも知れない。 しかし、組換ジャガイモとレクチン添加非組換ジャガイモに有意差がないのだから、遺伝子組換の危険性を示唆するデータにはなっていない。 もしも、「免疫力の低下や内臓の障害」の原因が遺伝子組換であるならば、組換ジャガイモとレクチン添加非組換ジャガイモに有意差が生じるはずである。 しかし、両者に有意差がなく、レクチンを含む群と含まない群の間に有意差があるのだから、遺伝子組換を「免疫力の低下や内臓の障害」の原因と疑う根拠は何もない。 この結果から、「免疫力の低下や内臓の障害」の原因としてレクチンを疑うのは間違いではないが、遺伝子組換を疑うのは明らかな科学的間違いである。 さらに拡大解釈すると有害物質を産生する遺伝子の組込の危険性を示唆したとは言えなくはないが、有害物質を産生しない遺伝子組換については何ら危険性を示唆していない。 この結果が示唆することは、産生物質の危険性であって、遺伝子組換の危険性ではないのだ。 産生物質が同じ物質であるなら、天然植物でも遺伝子組換植物でも危険性は変わらない。 よって、産生物質の危険性は、遺伝子組換の是非とは全く関係がない。 産生物質の危険性を回避したいなら、危険物質を産生する遺伝子を使わず、危険物質を産生しない遺伝子だけを使えば良い。
約一年後、権威ある学術誌であるランセットは、
実験の設計や分析について不十分な点が多いという前提で掲載
遺伝子組換え食品Q&A - 厚生労働省
して、
組換えジャガイモの餌によりラットの一部の臓器や免疫系への影響が指摘されていますが、この影響が蛋白不足の餌によるストレスや、ジャガイモの品種や餌の低消化性によるとも考えられ、このような結論は出せない
遺伝子組換え食品Q&A - 厚生労働省
とコメントしている。
以上のとおり、パズタイ博士の発表はとても科学的とは言えないお粗末なものである。
これで「イギリス国民をモルモット代わりに使う」と言うのは言い掛かりに過ぎない。
世界中のテレビ局から研究所に問い合わせが殺到した。ところが、研究所では博士のコンピュータにロックをかけ、データを没収、2日後には博士はクビにされてしまった。
この「パズタイ事件」は遺伝子組換えの闇を象徴する有名な事件だ。
なんでそんなことになったんだろう?
誰が手を回したんだろう?
遺伝子組換え作物が安全でない、とされ、売れなくなったときに困るのは誰か?
そう考えればすぐにわかる。
それは遺伝子組換え種子のトップ企業、モンサント社だ。
「遺伝子組換え作物は安全性に疑問がある」と発表する学者がいると、モンサント社はかたっぱしから裏から手を回して失脚させる。 その手口によって、世界中で何人もの良心的な学者が失脚させられているよ
パズタイ博士が
停職を命ぜられました
遺伝子組換え食品Q&A - 厚生労働省
のは、「遺伝子組換え作物は安全性に疑問がある」と発表したからでも、「モンサント社はかたっぱしから裏から手を回して失脚させる」でもない。
本当の処分理由は、研究途中の不正確な情報を独断でテレビ番組上で公表したからである。
- 新しい学説等は査読のある学術誌の論文として寄稿するのが良識ある科学者の行動である。(参考:Wikipedia:常温核融合)
- 権威ある学術誌の査読を担当する専門家を欺くのは容易でないし、欺けたとしても嘘の研究では他の研究者の追試には耐えられない。
- 一方で、テレビ番組で新説を発表すれば、何も知らない素人は簡単に騙される。
- 研究途中であること、テレビ番組という異例の手段を用いていることから見て、パズタイ博士の発表は無許可である疑いがある。
- 研究途中の不正確な情報で社会を混乱させたパズタイ博士の一連の行動は研究所の信用を失墜させかねない。
以上を考慮すれば処分を受けるのは当然と言える。 パズタイ博士は「良心的な学者」どころか、とんでもない不良学者だったのだ。 「研究所では博士のコンピュータにロックをかけ、データを没収、2日後には博士はクビにされてしまった」も事実とは違う。 パズタイ博士がテレビ番組で発表したのは1998年8月10日であり、ローウェット研究所の要請を受けてパズタイ博士が報告書を提出したのは1998年10月22日である。 「博士のコンピュータにロックをかけ、データを没収」されたのでは報告書を書きようがないし、そもそも、クビになったのなら報告書を真面目に出しても意味がない。 よって、少なくとも報告書をまとめるまでは、クビにはなっていないだろうし、データへのアクセスは許可されていたのだろう(許可は限定的かも知れないが)。
常識で考えても、このような無限大の陰謀論は荒唐無稽である。 特定の会社や個人に圧力をかけることはできるだろう。 しかし、会員の総意で運営される学会に対しては、このような圧力は通用しない。 世界中の学会の構成員の大多数に圧力をかけることは物理的に不可能で、大企業に不利益な論文の発表を阻止することはできない。 事実、権威ある学術誌であるランセットも、事実を黙殺したりせずに、1年後にこの論文を掲載している。 よって、会社をクビになったとしても、それが不当解雇であれば、復権することが可能である。 復権できないとすれば、パズタイ博士のように何かマズイことをやらかしている可能性が高い。
そもそも、陰謀論を唱えるなら、科学者として誠意ある態度かつ正規の手続で論文を発表したにも関わらずに不遇な扱いを受けた人を挙げるべきである。 パズタイ博士のような不良学者が処分された事例を持ち出して陰謀論を唱えるのは言い掛かりである。
カナダのナタネ農家、シュマイザーさんの例を紹介しよう。
シュマイザーさんは広大な農場で何十年もナタネを栽培してきた。 丈夫でたくさん収穫できる品種を自分で長年かけて育ててきたんだ。 遺伝子組換えナタネなんて、栽培しようと思ったこともない。
そんなある日突然、シュマイザーさんは手紙を受け取った。 手紙には「あなたは我がモンサント社の遺伝子組換えナタネを無断で栽培している。特許使用料を払うように。もし払わなければ裁判所に訴えるぞ」と書かれていた。 まるで脅迫状だね。
モンサント社は自分が開発した組換え遺伝子を「知的財産」だとして「特許権」を主張している。 でも、生命を構成する遺伝子というものに特許権を主張するなんて、自然に対する冒涜じゃないかい? が、その話はひとまず置いておこう。
シュマイザーさんは自分の畑に遺伝子組換えナタネのタネなんか撒いてない。 よその畑から飛んできた花粉で交雑が起こったということだ。
しかしなんでモンサント社にはそのことがわかったのか? それはモンサント社の私設警察モンサント・ポリスが勝手にシュマイザーさんの畑に入って、ナタネを盗み出して分析したからだ。 泥棒しておいて、人を訴えるんだから、まさに盗っ人猛々しいとはこのことだ。
シュマイザーさんはその手紙を読んで頭に来た。 誰が特許使用料なんか払うものか。 断固闘うぞ! と裁判に打って出たんだ。 でも、裁判の行方はえてして弁護士費用をどれだけ用意できるかで決まってしまうもの。 巨大多国籍企業に一介の農家は勝ち目がなかった。 シュマイザーさんは裁判に負けてしまったんだ。 「モンサント社の品種が一定程度畑にあれば、特許権侵害に当たる」 「シュマイザー氏の畑の収穫物も、種子も、すべてモンサント社のものである」という判決が下った……。
事実関係を調べてみると、実は、かなりの大岡裁きであるし、「シュマイザーさんは裁判に負けてしまった」も正しくない。
- モンサント社は、意図せず混入したモンサント社の特許作物を無料で除去している。
- シュマイザー氏は、収穫した種の中にモンサント社の特許作物が混入した可能性を疑い、テストして確認した事実を認めている。
- シュマイザー氏はモンサント社に特許作物の除去を求めなかった。
- 最高裁は5対4の僅差で、「シュマイザー氏がモンサント社の種を盗用した」という主張を支持した。
- しかし、シュマイザー氏は特許作物から利益を得ていないと認定されたので、損害賠償は1円も認められなかった。
生物に特許は認められるか - WIRED.jp Archive
これらの事実にも基づいて判断すれば、最高裁の判決は極めて妥当な落とし所と言える。 以下、常識的な判断を示してみよう。
モンサント社は顧客に対して、
種子を種蒔き用にとっておかないよう定めた契約書に署名
生物に特許は認められるか/3 - WIRED.jp Archive
させているというから、この契約が有効であるなら、モンサント社が販売した種子から収穫された種子はモンサント社の財産と考えられる。
他人の財産が自分の手元に勝手に紛れ込んだのだとしても、その事実を知りながらその財産を本来の所有者に無断で使用すれば、拾得物横領が成立する。 例えば、他人の現金が風で飛んで来て、自分の手元に落ちたとしても、本来の所有者に無断で使用すれば、拾得物横領が成立する。 ただし、自己の財産を正当に利用する上で、他者の財産を取り除くことが不可能である場合には、拾得物横領の罪は免責されよう。 二者の財産が混ざって区別できなくなった過失は、通常、後から紛れ込んだ側の財産を適切に管理していなかった者にある。 だから、後から紛れ込んだ財産は、後から紛れ込んだ側の財産の持ち主の責任で除去しなければならない。
シュマイザー氏は、モンサント社の特許作物が混入したことを知りながら、それを本来の所有者に無断で使用したのだから、拾得物横領が成立する。 二者の財産が混ざって区別できなくなった過失は、自己の財産を適切に管理していなかったモンサント社側にある。 だから、モンサント社の財産は、モンサント社の責任で除去しなければならない。 それが出来ないなら、シュマイザー氏の拾得物横領は免責される。 ただし、モンサント社が自己の財産を除去する過程でシュマイザー氏の財産に損害を与えれば、当然、その損害は賠償しなければならない。
モンサント社は、モンサント社の特許作物を無料で除去するとしていた。 しかし、シュマイザー氏はモンサント社に除去させなかった。 だとすれば、シュマイザー氏の拾得物横領は免責されないから、「モンサント社の種を盗用した」とする最高裁の判断は正しい。
一方で、損害賠償は、損害額を元に算出する。 最高裁は、シュマイザー氏が1円の利益も得ていないと認定した。 この事件の性質上、シュマイザー氏の利益が0円であれば、モンサント社の逸失利益も0円である。 よって、損害賠償を認めなかった最高裁の判断も正しい。
結果として、モンサント社は、自社の製品で不当に利益を得た者から賠償を得られる判例を得た。 そして、モンサント社の製品から何の利益も得られなかったシュマイザー氏に対する賠償を認めなかった。 この判決では、誰1人損をしないし、不当に利益を得てもいない。 これが大岡裁きでないと言うなら、何が大岡裁きと言えるのか。
尚、オンタリオ州グエルフ大学植物・農学部のクラーク准教授らが、特許作物の除去が事実上不可能だと主張していることも紹介しておく。
しかし、これは、モンサント社の主張を確認していない机上の空論である。
クラーク准教授らは、唯一の方法を使えば、
自社が特許を保有する遺伝子を持った植物を無料で除去したとしても、農家に残されるのは何も生えていない畑だけ
生物に特許は認められるか/3 - WIRED.jp Archive
と主張している。
しかし、本当にそうであれば、農家の作物を全滅させることになるのだから、モンサント社にはその損害の賠償の責任が発生する。
モンサント社がそうした賠償責任を逃れたという事実がないのであれば、クラーク准教授らの主張は空論に基づいた言い掛かりであろう。
でも、それでもシュマイザーさんはめげなかった。 新たに別の裁判を起こして、逆にモンサント社を訴えた。 「わたしの土地はわたしの財産だ。わたしがこの土地の税金も払ってるんだ。そこにおまえらの財産を放置するとは何事だ。おまえらの責任で片付けろ」とね。 もっともだよね! さすがシュマイザーさん。 そして、最終的には裁判で和解に持ち込めた。
とはいえ、シュマイザーさんほど頭が切れ、裁判にかける費用も時間もあり、ヤクザ並みの脅しやありとあらゆる嫌がらせに負けない根性もある、というスーパーマンのような農家は少ない。
これは、もちろん、大嘘である。 シュマイザー氏は「別の裁判」を起こしたのではない。 最高裁で損害賠償なしの判決を受けただけである。 また、無料で特許作物を除去を申し出ているのはモンサント社であって、シュマイザー氏ではない。
それ以前に、この話はダブルスタンダードであり、次の2つは矛盾している。
- 「裁判の行方はえてして弁護士費用をどれだけ用意できるかで決まってしまう」から「一介の農家は勝ち目がなかった」
- 「裁判にかける費用も時間もあり」
一体、シュマイザー氏には「裁判にかける費用」があったのかなかったのか。 結論に都合の良いように話を組み立てるからこのような矛盾が生じるのである。
一方、インドでは大勢の農家が自殺している。 モンサント社の遺伝子組換えワタのせいだ。
遺伝子組換えワタのタネは在来のワタのタネの何倍もする。 農民は高価なタネを買うために、借金をせざるを得ない。 収穫できたワタを売ってやっと借金を返すという生活だ。 ところが「楽に高い収穫量が得られる」という触れ込みに反して、思い通りの収穫が得られなかったり、とんでもない不作になることすらある。 そして借金が返せず、自殺する農民が急増しているんだ。
これまで検証してきた事実がそうであったように、これも、インチキな都市伝説である可能性が高い。 これが真実であると主張するなら、ソースを示す責任は、そう主張する側にある。
シュマイザーさんは裁判ではモンサント社の鼻をあかしてやったけれども、結局ナタネの栽培はあきらめてしまった。 なぜなら、在来のナタネを栽培しようとしても、どうしてもモンサント社の遺伝子と交雑してしまうからだ。
これまで検証してきた事実がそうであったように、これも、インチキな都市伝説である可能性が高い。 モンサント社の責任で除去すべきなら、「どうしてもモンサント社の遺伝子と交雑してしまう」ことは栽培を諦める理由にならない。 最高裁で勝訴した時のシュマイザー氏は73歳であり、単に、年齢的な理由で引退したと考えた方が自然だろう。
不屈の闘志を持つシュマイザーさんでさえ、認めざるを得なかった。 在来のナタネはカナダからもう永久に失われてしまった、とね。
ここで言う「不屈の闘志」が、都合の良いダブルスタンダードであることは既に指摘した。
化学薬品
この会社は、名前に「化学」とついているように、化学薬品、農薬、殺虫剤などをつくっている。 そして、アフリカの貧しい地域のマラリヤ予防に最適、などと称して、殺虫剤を繊維に練りこんだ蚊帳を開発し、日本政府のODA(政府開発援助)予算を獲得して、それを大量生産し、配布している。
しかし、よく考えほしい。
なんで蚊帳に殺虫剤が必要なんだ???
殺虫剤なしで快適に過ごすための知恵が蚊帳だろうが。
無駄っ!
おまけに、健康にも悪影響がある。
蚊帳に練りこんだ殺虫剤、ペルメトリンは子どもの脳の発達を妨げたり、発がん性があることも指摘されている。
それなのになんで殺虫剤入りの蚊帳なんだ?
殺虫剤が入ってなくちゃいけないのは、もしそうじゃないと、殺虫剤メーカーである住友化学が受注する必然性がなくなってしまうから。
他の理由なんか考えられないじゃないか。
持続性殺虫剤処理済み蚊帳の導入は国連ミレニアム開発目標報告2010目標6に具体的に掲げられたマラリア対策である。 つまり、マラリアを確実に予防するために、殺虫剤も蚊帳もどちらも必要だとすることは、国連の公式見解なのである。 自分で「マラリヤ予防に最適、などと称して」と書いておいて、「快適に過ごすため」とは、一体、何を寝とぼけているのだろうか。 マクロビオティック などの非科学的なものを信奉する連中は「化学薬品」の危険性を過大に評価する一方で、世界中で多数の人が死亡しているマラリアやそれを媒介するハマダラカなどの危険性は過小評価する傾向がある。
マラリアは現在の日本国内ではほぼ撲滅されている。
それゆえ、海外事情を知らない人には危険性の認識が乏しいかもしれない。
しかし、マラリアは、世界的には
年間3~5億人の罹患者と150~270万人の死亡者
マラリア - 国立感染症研究所感染症情報センター
(WHOの推計)がある感染症である。
一方で、一般的な「化学薬品」は、「発がん性」の科学的根拠があるものであっても、多くは、大量に吸入したり、常時接触していたりしない限り、罹患率を僅かに上げる程度である。 2012年に、印刷企業従業員の胆管癌が多発が判明した事例では、換気装置のない部屋でジクロロメタンや1,2-ジクロロプロパンを大量使用する劣悪な環境に長時間晒されたことが原因とされている。 また、アスベストは、肺に大量に吸引すると、その化学的性質から体外への排出され難く、鉱物であるために分解もされないため、肺内部に長期に留まる。 そうした長期間の大量暴露の事例では、罹患率の上昇は比較的大きい。 しかし、「殺虫剤を繊維に練りこんだ蚊帳」程度では、毎日身体に巻き付けて寝たりでもしない限り、がん罹患率が上がってもほんの僅かである。 アフリカのマラリア流行地域の平均寿命は短いため、殆どの人にとっては「発がん性」がほんの僅か上がった所で大した影響はない。 日本赤十字社がマラリアの流行地域としたアフリカの国(国名に色がついているものに限る)についての平均寿命は次のグラフの通りである。
マラリア流行地域 - 日本赤十字社 The 2008 Revision Highlights - 国際連合 World Population Prospects, the 2010 Revision - 国際連合
年齢階級別がん死亡率推移 - 独立行政法人国立がん研究センターによれば、治療法が少ない1965年当時でも男性の死亡率が1%を超えるのは65歳あたりからである(女性の死亡率は男性より低い)。 これら地域の人口を考慮した平均寿命は約52歳であり、殆どの人はがんになる前に亡くなっているのである。 国連ミレニアム開発目標報告2010目標6にも掲げられている通り、アフリカの主な死因はHIV、結核、マラリア等である。 HIV、結核、マラリアで死ぬ危険に晒されているのに、「発がん性」がほんの僅か上がることを恐れて、それら感染症対策を否定するのは馬鹿げている。
参考
- 環太平洋戦略的経済連携協定
- ISD条項詳細解説
- ISD仲裁事例
- ISD条項
- TPPは米国の陰謀?TPPお化け
- サルでもわかるTPP
- 新サルでもわかるTPP
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- 環太平洋戦略的経済連携協定