激甘の「特定高速電子計算機施設(スパコン京)中間検証報告」

文部科学省の激甘自己評価 

文部科学省による激甘の自己評価(案)は以下のリンク先に記されている。

評価委員会メンバー 

資料1 HPCI戦略プログラム事後評価結果(案)(その1) によれば、評価委員会のメンバーには、利害関係者を除くコンピュータの専門家は1名のみである。 名簿に明記された利害関係者とSPARCスパコン納入先の東京大学情報基盤センター教授を除けば、コンピュータの専門家は北海道大学情報基盤センターセンター長くらいしかいない。 事業に批判的だった人は一人も入っていない。 マイナス評価を一切出させないように、メンバーを擁護者で固めたことが丸わかりである。

調達の自己評価 

調達関連全般 

まず、調達についてであるが、研究成果発表ばかりでまともな評価が一つもない。 大金で高性能なスパコンを調達したのだから、その性能に見合った研究成果を出すのは当たり前であって、そんなことは何の評価にもならない。 評価すべきは別の方法を用いた場合と優劣比較であり、最も優れた方法であったこと、せめて、対案よりも良い方法であったことを示して、初めて、「必要性」や「有効性」が示されるのである。 他の方法でも実現可能な研究成果を列挙しても次のような評価の根拠とはならない。

【必要性】

「京」でなければ実現できない大規模シミュレーションにより、独創性・優位性の高い成果を上げており、国内外の大学・研究機関や産業界が結集・連携した研究開発体制が構築されていることから、引き続き必要性は高いと評価できる。

【有効性】

科学的・社会的なブレークスルーをもたらす成果が初めて得られつつあること、幅広い研究者や企業によって高いレベルの研究成果が活用されつつあること、計算科学技術の裾野が拡大しつつあることから、引き続き有効性は高いと評価できる。

資料1 HPCI戦略プログラム事後評価結果(案)(その1)P.3

このうち、「『京』でなければ実現できない」が妥当な評価かどうかは次に検証する。

研究成果・稼働性能 

全ての戦略分野で本プログラム無しには実現できなかった「京」の利活用を先導する多くの成果が報告された。 「京」によって実現した大規模シミュレーションの高い独創性と優位性を持つ科学的成果及び実用的成果は、本プログラムの必要性を示している。 また、一部の戦略分野では他のプロジェクト等(例えば元素戦略プログラム、AMED、ImPACT、CRESTなど)との連携が積極的に行われ、 先導的な研究開発を共同で実施するコンソーシアム(例えば製薬企業9社等が参加するFMO創薬コンソーシアム、企業19社が参加する電気化学界面SIMコンソーシアムなど)が形成されるなど、 体制構築において本プログラムが果たした役割は極めて高い。

※「京」でなければ成し得なかった独創的で優位性のある成果例

  • 分子レベルから心臓全体の働きを解析し、医療分野での応用に向けた医療機関等との共同研究が複数進められている。
  • 電池の中の化学反応を原子レベルで解析し、実験グループとの共同研究を経て、充放電の高速化が可能な電解液の開発につながった。
  • 地震の揺れ、津波による浸水だけでなく、都市の建物被害まで解析し、地震ハザードマップの構築に必要な物理過程などのシミュレーション基盤技術を開発した。
  • 走行時における自動車周りの空気の流れを忠実に再現し、車両運動と空力解析の連成により、従来の風洞実験では難しかった横風時の安全性や操縦安定性予測を可能とした。
  • 2つの中性子星の合体を計算で再現し、これまで不明であった鉄より重い元素が合成されることを確認

資料1 HPCI戦略プログラム事後評価結果(案)(その1)P.10

事例が複数例列挙されているが、これらが「本プログラム無しには実現できなかった」根拠が何も示されていない。 というより、京よりも性能の劣る専用機でも十分に実現できたことは言うまでもない。 何故なら、京は、汎用京速計算機と呼ばれていたように、特定の用途専用機ではなく、様々な用途に利用する汎用機だからである。 汎用機である以上、いずれの用途においても、その計算資源を100%フルには使用できないし、使用までの待ち時間やジョブ待ち時間も発生する。 それならば、待たずに使え、かつ、かつ計算資源を100%フルに使用できる専用機であれば、より低い性能で同じ結果を実現できることは言うまでもない。 よって、「『京』でなければ実現できない」「本プログラム無しには実現できなかった」という評価は明らかに事実と食い違っている。

以下の記述にも根拠がない。

一方で、「京」においても困難な課題(※)があり、今後、更なる研究開発が必要である。

※「京」においても困難な課題例

  • 薬剤の候補物質の探索のみならず副作用の原因等の分析・臨床データなど医療ビッグデータやゲノム情報などからの個人ごとの健康・疾患予測
  • 被害の相互作用をも考慮した都市全体の防災予測と現実的な避難状況等の予測・人工衛星や高機能レーダーの観測ビッグデータのリアルタイム同化による、高精度な気象予測
  • 数十万原子レベルの電子状態計算や電子の動的な状態・特性から生じる物理現象
  • 超臨界状態の高圧条件下における実機燃焼器内の燃焼解析
  • 航空機の実機・実スケールでの超高精度な非定常解析
  • 素粒子から宇宙まで極端にスケールが異なる現象の精密シミュレーション

など。

資料1 HPCI戦略プログラム事後評価結果(案)(その1)P.12

これは、「『京』においても困難」なのではなく、「汎用」京速計算機だからこそ困難なのではないか。 専用機であれば、より低い性能であっても、実現できたのではないか。 その辺りも具体的にどのように評価いたのか根拠が一切示されていない。

さらに、ジョブ待ち時間の存在を明記しながら、それを考慮した評価は一切示されていない。

<現状の検証>

  • 「京」の運転については、運用当初と比べて運転ノウハウの蓄積や実施課題(ジョブ)の効率化等により、極めて安定的に稼働して(計算資源提供時間は93%以上)おり、ジョブ充填率は平均75%以上、大規模実行期間を除くと80%前後となっている。
  • 運用の改善として、大規模実行期間の設定、ジョブスケジューリングの改善、ジョブ待ち時間の情報提供(アプリケーション「Kを待ちわびて」の開発)、計算資源の隙間を埋める小規模ジョブの実行改善、ジョブ優先度の調整、ジョブの消費電力推定による省電力化などを実施している。

資料1-3 「京」の総合的な中間検証(案)P.19

使用までの待ち時間やジョブ待ち時間の平均等には一切触れていないし、実質実効効率=演算処理量÷(実行時間+使用までの待ち時間+ジョブ待ち時間)も示していない。 専用機であればどの程度の性能で事足りたかを示すデータは一切示していない。 これでよくも「『京』でなければ実現できない」「本プログラム無しには実現できなかった」などと言えたものである。

コストパフォーマンス 

「国費総額:約1,111億円」についての評価は全くされていない。

「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」(実機期間:平成18年度から平成24年度、国費総額:約1,111億円、実施研究機関:独立行政法人理化学研究所)が行われた。

資料1-3 「京」の総合的な中間検証(案)P.7

文部科学省も理研も スーパーコンピュータ「京」の開発・整備追加質問への回答 のように、次のように自分たちに都合の良い比較は積極的にしたがる。

  • LINPACK実行効率
  • 演算性能あたりの通信性能
  • 演算性能あたりのメモリアクセス性能
  • 演算性能あたりのメモリ容量
  • 演算性能あたりのインターコネクト帯域

しかし、コストパフォーマンス等の都合の悪いことには触れたがらない。

調達関連まとめ 

専用機を開発した場合との性能の比較も費用対効果の比較もない。 独自プロセッサを採用しなかった場合の定量的比較もなく、後で説明する通り、言い掛かりで「開発・運用が2年程度」差がついたと断言しているだけである。 以上の通り、全く何の評価にもならないことを並べて、あらかじめ決まっていた「必要性は高い」「有効性は高い」「効率性は高い」という結論を断定的に示しているだけに過ぎない。

開発の自己評価 

文部科学省の自己評価は、ほぼ全てが調達についてのものであり、開発に関わるものは極めて少ない。

「京」への政府投資は、2000年代に世界的な潮流となりつつあった超並列のスカラー型計算機への対応が遅れていた日本のスーパーコンピュータ開発において、その遅れを挽回する役割を果たした。 (民間のスーパーコンピュータ開発が世界の趨勢に追いつく契機を作った。)

資料1-3 「京」の総合的な中間検証(案)P.12

「民間のスーパーコンピュータ開発が世界の趨勢に追いつく契機を作った」とする根拠は何も示していない。 「民間のスーパーコンピュータ開発」が性能的にも商業的にも失敗に終わった事実を以下のリンク先に示した。

独自プロセッサ開発が商業的に成功しなかったことは富士通も認める事実である。 各種ランキングも、こすい手を使って1位になっただけで、性能の高さを示したものとは言い難い。

しかしながら、海外ベンダー製スーパーコンピュータは、最先端CPUの仕様が秘匿されているため、納品されるまでそれに対応したアプリケーションのチューニングができない。 自主開発で導入する場合と比べてアプリケーションの開発・運用が2年程度遅れることが想定されている。

資料1-3 「京」の総合的な中間検証(案)P.12

この言い掛かりはあまりに酷い。 どこのプロセッサベンダーが「アプリケーションのチューニング」に必要な「最先端CPUの仕様」を秘匿するのか!? 当然、自社技術をコピーされては困るから、チップ内のハードウェアの「最先端CPUの仕様」は秘匿するだろう。 しかし、「アプリケーションのチューニング」に必要なソフトウェアの仕様を秘匿する必要など何処にもない。 そんなことをして自社のプロセッサの実効性能を下げても誰も得をしない。

百歩譲って秘匿したとしても、「2年程度」で発覚するのでは、何の意味があるのだろうか。 プロセッサベンダーの立場に立てば、自社のプロセッサの性能を最大限にアピールしつつも、自社のハードを真似されないことが最善である。 自社のプロセッサの性能をアピールできない期間よりも、自社のハードを真似されない期間が長くなるのであれば、「最先端CPUの仕様」を秘匿する意味はある。 しかし、秘匿しても後者の期間だけを選択的に長くすることは不可能である。 むしろ、秘匿して解析された方がプロセッサベンダーにとっては損である。 ソフトウェアの「最先端CPUの仕様」を公開して、ハードウェアの「最先端CPUの仕様」を解析されたとしても、解析されるまでは後者の期間の方が長い。 しかし、秘匿して解析されては、解析までの間のプロセッサの性能をアピールできる期間がなくなるために、後者の期間が相対的に短くなって、プロセッサベンダーが損をするだけである。 そんな馬鹿な真似を「海外ベンダー」の何処がするのか? 以上の通り、あり得ない言い掛かりにも程があろう。

誰が見ても明らかに無駄でしかない独自プロセッサ開発を擁護するために、このような言い掛かりを持ち出すのは言語道断である。

まとめ 

結局、全く何の評価にもならないことを並べただけの自画自賛と、擁護を目的とした言い掛かりしかなかった。


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