搾取は貧困を産むか?
「搾取で貧しくなる」論と現実の明らかな乖離
左翼系活動家の方々や反政府系活動家の方々は「大企業が搾取するから労働者は貧しい」と主張する。 しかし、これは次のような非現実的な前提に基づいている
- 貧乏な労働者から金銭を「搾取」する=乾燥スポンジから水を「搾取」するようなもの
- 金銭を「搾取」されれば、当然、貧しくなる
少し考えれば、この「搾取」論の矛盾は容易に見抜ける。
- 現実に大企業が労働者から「搾取」するものは労働力であって金銭ではない
- 労働者は「搾取」の代償として賃金を受け取るので、全く搾取されない(=失業)よりは「搾取」された方が豊かになる(ただし、「搾取」率は労働単価に影響する)
- 大企業間にも人材獲得競争があるので、「搾取」率にも自ずと限界がある(ただし、景気の影響を受ける)
- 大企業は可能な限り儲けたいので商品需要がある限り雇用も増やしたがる(=「搾取」量も増える=失業は減る)
何故、大多数の人が大企業に就職したがるのか。 労働者の多くは、「搾取」されて貧しくなることを望んでいるのか。 と考えれば、そんなに難しい問題ではない。
大企業ほど「搾取」していることは事実
確かに、大企業ほど労働者から「搾取」している(労働分配率が低い)ことは紛れもない事実である(平成27年版労働経済の分析 - 厚生労働省P.70参照)。
- 資本金10億円以上の企業の労働分配率は55%前後(やや低下傾向)
- 資本金1億円以上10億円未満の企業の労働分配率は70%強(やや上昇傾向)
- 資本金1千万円以上1億円未満の企業の労働分配率は80%弱(上昇傾向)
大企業ほど労働分配率が低く、かつ、低下しやすいことがグラフから読み取れる。 では、何故、大多数の人は大企業に就職したがるのか。 それを読み解くには、労働分配率と賃金額は比例しないことに注意する必要がある。
- 大企業は労働分配率が低くても給料は高い
- 中小企業は労働分配率が高くても給料は安い
つまり、「搾取」されている人ほど貧しいわけではない。 むしろ、「搾取」率が低い人の方が貧しいのである。 極端な事を言えば、企業から「搾取」されない失業者が最も貧乏なのである。
ホームレスの実態
平成 24年「ホームレスの実態に関する 全国調査検討会」報告書 - 厚生労働省P.35によれば、日本にホームレスの最も多い仕事は断トツで廃品回収(アルミ缶・ダンボール・粗大ゴミ・本集め)である。 当然、廃品集めでは大したお金は稼げない。 これは、「搾取」されているからではなく、単に、生産効率が非常に悪いからである。 これら廃品の再生処理は、ホームレスや仕事がない人達のためのボランティアとして行なっているわけではない。 ホームレスや仕事がない人達がいようがいまいが廃品の再生処理は行なわれており、彼らと関係なく相場が確立している。 だから、ホームレスや仕事がない人達が、不当に安い金額で廃品を買い叩かれているということではない。 元々、廃品集めの生産効率が非常に悪いだけである。 廃品再生で利益を上げている企業はあっても、廃品集めで利益を上げる企業はない。 それは、廃品の再生処理が、収集にお金をかけない前提で成り立っているからである。 何もしなくても大量に集まってくる場合に限って商売が成り立つのであり、町中を駆けずり回って集めなければならないようでは商売としては成り立たない。 ホームレスや仕事がない人達は、その商売としては成り立たない部分に労力を払っているのだから、生産効率が悪いのも当然なのである。 逆に言えば、生産効率が極端に悪いからこそ、ホームレスや仕事がない人達以外によって荒らされずに済んでいる。 町内会などが集金手段として利用できるのは、各家庭に呼び掛ければ労せずに一定程度を集めることができるからである。 集金手段としての効率が悪すぎるから、町内会などは、ボランティアとしての清掃作業を除けば、町中を駆けずり回って集めたりはしない。 ようするに、廃品集めは、「搾取」の対象とされないほど生産効率が悪いから儲からないのである。 それに比べれば、企業に「搾取」された方がマシである。 では、何故、彼らは企業に「搾取」されないのか。 それは、企業に「搾取」されたくても求人がないからである。 だから、仕方なく、極端に生産効率が悪い廃品集めをするしかないのである。
途上国における貧困
TV番組などで途上国の最底辺の人達として紹介される人たちも、企業に「搾取」されていない人達である。 途上国の最底辺の子供たちは、大量のゴミの中からまだ使える物を拾い集めて売っていたりする。 これも、当然、大した金にはならない。 そして、その理由は「搾取」されているからではなく、単に、生産効率が非常に悪いからである。 使える物が殆どないからゴミとして捨てるのである。 わずかに使える物が含まれていたとしても、それを選り分けて得られる利益より手間の方が大きいと考えるから捨てるのである。 だから、そのようなゴミの山を漁っても、価値のある物は僅かしか得られない。 極端に生産効率が悪いのも当然である。 それに比べれば、企業に「搾取」された方がマシである。 では、何故、彼らは企業に「搾取」されないのか。 それは、企業に「搾取」されたくても求人がないからである。 だから、仕方なく、極端に生産効率が悪いゴミ漁りをするしかないのである。
先進国による「搾取」が進んでいる新興国は、他の途上国に比べて比較的に裕福である。 一方で、先進国による「搾取」が進まない国ほど貧しい。 「搾取」されない人達ほど貧しいことは歴然とした事実なのである。
まとめ
以上のことはゼロ・サム(和)的世界観に捕われている人には理解し難いことだろう。 しかし、ゼロ・サム的世界観が正しいなら、共産主義で人々は豊かになっているはずである。 現実はどうか。 共産主義が経済的に失敗していることは歴史的事実である。 いくら分け方を平等にしても、全体の利益が減れば、取り分も減る。 誰からも「搾取」されない世界では、誰も豊かにはなれない。
失業は、失業者にとっても、企業にとっても損失である。 失業者は生産効率の良い仕事を得る機会を失い、企業は「搾取」する機会を失う。 逆に、失業を減らすことは、「搾取」される人を豊かにすると同時に、企業による「搾取」も増やす。 雇用と経済においては、「搾取」する側とされる側は、お互いに利害は完全に一致する。 両者の対立構造は共産主義者の作り上げた幻に過ぎない。 一時期脱サラが流行ったが、それで成功しているのは一部の商才のある人達だけである。 商才のない勘違いした人達は、企業に「搾取」されるよりは自分で稼いだ方が儲かると思ったのだろう。 しかし、自分で生産効率の良い仕事を生み出せない人が脱サラすれば、「搾取」よりも生産効率の低下による損失の方が大きくなる。 「搾取」が罪だとする誤った考えは、そうした悲劇を産む。
もちろん、最底辺に比べればマシではあるが、働いていても貧しい人はいる。 それは、継続的に雇用されないことに原因がある。 継続的に雇用されないから、仕事のない時の収入がないし、給料も上がらない。 継続的に雇用されれば、給料も上がるし、定期的に収入も得られ、貧しさから開放される。 では、何故、企業は継続的に雇用しないか。 企業が雇用調整のしやすいパートやアルバイトなどの非正規雇用を選ぶ理由は、労働者を働かすための仕事が継続的に持続しないからである。 一時的にはあっても、経済停滞により、仕事のある状態が継続的に続く保証がない状態である。 正社員として雇うと仕事がなくなったときに、社員が余ってしまう。 働かせることができない社員に給料を払うのは無駄である。 だから、一時的な仕事には非正規雇用で対応するしかないのである。 しかし、「搾取」を目的とするなら、短期間で首を切るより、ずっと扱き使い続けた方が得である。 だから、「搾取」を目的としておいて、非正規雇用を選択することはあり得ない。 しかし、「搾取」したくても働かせる仕事がないのでは「搾取」することができない。 つまり、「搾取」したいから非正規で雇っているのではなく、「搾取」できないから仕方なく非正規で雇うしかないのである。
大企業の立場で見れば、「搾取」対象者を増やした方が利益を上がるのだから、雇用を増やして失業を減らした方が圧倒的に儲かるはずである。 にもかかわらず、大企業が雇用を増やさないのは、決して、「搾取」対象者を減らしたいからではない。 本音としては「搾取」対象者を増やしたいのに、景気低迷により需要が伸びないから「搾取」対象者=雇用を増やしたくても増やせないだけである。 ようするに、景気が悪いから「搾取」したくても思うように「搾取」できず、その結果として貧困が発生するのである。 景気が良くなって大企業が最大限「搾取」するようになれば、その結果として、雇用が増えて多くの人達が豊かになれるのである。
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