ISD仲裁想定事例

中立かつ客観原則 

ここでは中立的な立場で事実関係を検証する。 賛成か反対かという結論は先に立てず、現実に起きた出来事、確実に起き得ること、一定程度の期待値を示す根拠のあることを中立かつ客観的に検証する。 可能性レベルの物事を論じるためにも、無視できない可能性があることを示す根拠を重視し、根拠のない当てずっぽうや思い込みや伝聞等の不確かな情報は、それが妄想に過ぎないことを示した上で門前払いとする。 賛成論でも間違いは間違いと指摘するし、それは反対論でも同じである。 ここでは賛成論にも反対論にも与しない。

TPP総論 

長期的視野では話は別だが、短期的視野で見ればTPPに参加するかしないかは大きな問題ではない。 それよりも、TPPとは全く無関係な混合診療完全解禁がもたらす患者の治療機会喪失の危険性やイレッサ訴訟の行く末によるドラッグラグ・未承認薬問題の悪化の方が、遥かに大きな問題であろう。 だから、TPPよりも重要な争点において国民に不利益をもたらす政策を党員に強要する日本維新の会は落選運動の対象とせざるを得ない。 混合診療の完全解禁を公約とする日本維新の会およびみんなの党には一切の主導権を握らせてはならない。 そのためには、これらの党に対する落選運動が必要なだけでなく、与党とこれらの党との連携も絶対に阻止しなければならない。 具体的運動の詳細は自民党への抗議方法を見てもらいたい。

間接収用 

間接収用一般論については間接収用を参照のこと。

活断層による原発停止 

なお、日本国憲法によれば、致命的で取り返しのつかない事故を回避するための手段として合理性があるから、公共の福祉による財産権の規制として、当然、適法な措置である(憲法29条2項参照)。 電力会社に何らかの補償をするべきかどうかは、政府の政治的裁量・政策の問題にとどまる。 国民(この場合、在日・滞日外国人を含む)の生命・財産を守ることは国家の責務に他ならないから、財産補償が重大な問題に発展する余地はない。

ISD条項の実務 敦賀原発2号機直下の活断層と「間接収用」 - 街の弁護士日記

間接収用に記載した通り、大前提として、憲法の規定は直接収用で、例題は間接収用であるので、この規定を直接的に適用することはできない。 ただ、国内法において「公共の福祉による」規制に対して補償を免除する規定があるのかどうかという点での参考事項に過ぎない。

日本国憲法第29条第2項には 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める 日本国憲法第29条 と書いてあるだけで、「公共の福祉による財産権の規制」が「適法な措置」であれば補償の必要がないとは一言も書いていない。 補償に関する規定は第29条第3項であり、 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる 日本国憲法第29条 と書いてあるとおり、「適法な措置」による「公共の福祉による財産権の規制」であろうとも、「正当な補償」が要求される。 これに基づいて土地収用法では、第六章以降で詳細な補償の学等を定めている。 相当補償説に基づいた農地買収対価事件(昭和28年12月23日最高裁判所大法廷)判例と、完全補償説に基づいた土地収用補償事件(昭和48年10月18日最高裁判所第一小法廷)判例があるが、いずれにせよ、「適法な措置」であるかどうかに関わらず、合理的根拠に基づいた補償が求められる。

以上のとおり、「公共の福祉による財産権の規制」が「適法な措置」であれば補償の必要がない根拠として、日本国憲法第29条第2項を援用するのは間違いである。 「日本国憲法第29条第3項は直接収用の補償規定なので、間接収用の補償を要する法的根拠にならない」と言えば正しいが、日本国憲法第29条第2項を「公共の福祉による財産権の規制として、当然、適法な措置」の補償を必要としない根拠とすることは明らかな間違いである。 弁護士を名乗っておいて、国内法の基本的理解さえできていないようでは、他の主張も全く信用に値しない。 このレベルで弁護士になれるようでは司法試験の形骸化が疑われる。 ISD条項憲法違反論への反論某自称弁護士の痴態公正衡平待遇義務間接収用でも指摘したことだが、弁護士を名乗るなら、せめて、最低限の国内法の法理くらいは把握してから物を言ってもらいたい。

ちなみに、現在、電力会社については、外為法によって、外国株主の投資に制限を加えることが認められている。 いわゆる投資分野における内国民待遇の例外規定に該当することになるが、この例外が許容されるためには、全加盟国の合意が必要である。

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TPPにおいては「サービス貿易の一般的規制」について、現在留保に設けられる いわゆる「ラチェット(つめ歯車)」条項【注】等に関する規定が議論」 TPP協定交渉の分野別状況(平成24年3月) - 内閣官房P.14 されている。 ラチェット規定を設けるならば、当然、それは現在留保を認める前提である。 各国が 武器産業や原子力産業など、国の安全保障にかかわるような特にセンシティブな分野を「現状維持義務なし」のリストに登録 「2011年版不公正貿易報告書」及び「経済産業省の取組方針」第III部 経済連携協定・投資協定 第5章 投資 - 経済産業省P.591 することを求めるなら、当然、原子力開発技術を持つ国は、原子力産業を留保項目に入れようとするだろう。

米国とカナダは、原子力発電を自前で開発しており、原子力産業の海外参入には反対する立場であろう。 とくに、米国は、自国の安全保障に関わる原子力産業の海外参入を受け入れるはずがない。 オーストリア、ニュージーランドは反核政策を推進し、原子力発電所を持たないので、原子力産業の海外参入には反対する立場であろう。 直ちにオーストラリア国内に原子力発電所を建設するのは困難 オーストラリアにおけるエネルギー政策 - 経済産業委員会調査室 という状況である。 途上国にしても、自国に原子力発電所を建設するためには海外参入を受け入れざるを得ないとしても、海外企業による支配が長期化することは、自国のエネルギー政策においても安全保障においても好ましくない。 だから、ゆくゆくは、技術を吸収して自立したいと考えるに違いない。 原子力産業を留保することに強く反対する動機を持つ国はない。 とすれば、各国とも、原子力産業を留保項目に入れたい思惑は一致していると考えられる。 であれば、現在留保(ラチェットなし)になるか将来留保(ラチェットなし)になるかはともかく、当然、原子力産業が留保項目として認められるであろうことはほぼ間違いないだろう。

本件は、「裁量的な許認可の剥奪」に著しく近いから、改めて検討するまでもないかもしれないが、念のために間接収用に該当するか否かについてTPPで採用されるアメリカ判例法理による判断基準を掲げておこう。

①政府措置の経済的影響の程度

②政府措置が明白で合理的な投資期待利益を侵害した程度

③政府措置の性格等

敦賀原発2号機のケースは、①経済的影響は甚大であり、②明白で合理的な投資期待利益を著しく侵害していることも明らかである。 したがって、政府措置の性格を問題にするまでもなく、「間接収用」に該当することが明らかである。 (収用は、もともと公共目的でなされることが大前提であるから、政府措置が重大な危険性を避けるためにやむなくなされるものであることは間接収用を否定する理由にはならない)

ISD条項の実務 敦賀原発2号機直下の活断層と「間接収用」 - 街の弁護士日記

ツッコミ所が多すぎるので一つ一つ片付ける。

まず、「アメリカ判例法理」が「TPPで採用される」は全く事実に反している。 間接収用は 各国が結ぶ二カ国ないし多数国間の投資協定においては、収用及び「収用と同等の措置」を禁止するという規程が盛り込まれ、それにより間接収用が規律が試みられている 2006年度提出リサーチペーパー「国際法上の間接収用の概念-仲裁判例の分析を中心に-」 - 東京大学公共政策大学院P.5 のであり、仲裁定もこれらの投資協定と一般国際法を根拠に判断を下している。 以上のとおり、適用法は、投資協定と一般国際法であって「アメリカ判例法理」ではない。 ISD条項に基づく国際投資仲裁における初期の間接収用の判断に対しては、 米国憲法上の財産権保障を上回る財産権の保障を投資家に与えるもの 規制と間接収用 - 経済産業研究所P.4 と米国議会によって批判されており、米国が締結した投資協定において 米国国内判例とも整合的なものとするような注釈をつける 規制と間接収用 - 経済産業研究所P.4 ようになったのは後からのことである。 つまり、「アメリカ判例法理」に合わせて間接収用の認定範囲を広げた事実はなく、むしろ、米国は「アメリカ判例法理」よりも認定範囲が広くならないように間接収用の認定に制限を加えようとしているのだ。

①②③が何を根拠にしているのかは知らないが、仲裁判例は、 大別すれば二つの説に分類できる 2006年度提出リサーチペーパー「国際法上の間接収用の概念-仲裁判例の分析を中心に-」 - 東京大学公共政策大学院P.6 とされている。

法律家として致命的なことは、「判例法理」の具体的基準に照らし合わせずに、主観的判断で「甚大」「著しく侵害」と結論付けていることである。 民事裁判の弁護でコレをやってしまったら、実質的に何も弁護していないに等しい。 「判例法理」に単に「程度」としか記載していない場合は、各自が勝手な基準で判断して良いということではない。 法律に書いていないなら、政令、省令、告示、規則、逐条解説、判例、その他の法的根拠となるものから、基準を探し出し、その基準と実態を照らし合わせて判断することが求められる。 基準が無い場合に新たな基準を作ることは裁判所の仕事であって弁護士ではないし、そうした新しい基準を作ることは非常に難しい仕事である。 立法趣旨、国際商事の実態、その他様々な実情を考慮して、初めて新たな基準が作成できるのであって、この弁護士のように法的根拠から基準を探そうともしない人間に作成できるものではない。

効果基準のうち、ISD条項に基づく国際投資仲裁の多くの仲裁判断で支持されている判例は、Pope and Talbot事件で示された 投資家が現地企業の所有および支配を継続している場合には、収用の主張が認められにくい 相当程度の剥奪」基準 規制と間接収用 - 経済産業研究所P.25 である。 この基準に敦賀原発2号機の事例を当てはめると、非常に微妙である。 以下に日本原子力発電株式会社の原発の一覧を示す。

発電所 号機 定格電気出力 稼働状況 備考
東海第二発電所1号機110万kW定期点検後、再稼働していない地元の反対運動
敦賀発電所1号機35.7万kW定期点検後、再稼働していない断層調査中
敦賀発電所2号機116万kW定期点検後、再稼働していない活断層認定
敦賀発電所3号機153.8万kW建設準備中2017年7月稼働予定
敦賀発電所4号機153.8万kW建設準備中2017年8月稼働予定

停止中の2機と敦賀の建設準備中の2機をどう評価するかで、「投資家が現地企業の所有および支配を継続している」かどうかが左右される。 よって、効果基準においても、間接収用に該当するかどうかの判断は困難であり、「該当することが明らか」などとは言えない。

最後に、自ら「アメリカ判例法理」なるものを持ち出しておいて、これまた、根拠も示さずに主観的判断で「問題にするまでもなく」で断定していることも、法律家として致命的である。 米国政府が作成した2004年米国モデル投資協定では、 環境や公衆衛生等の公共福祉目的の措置を無差別にとることは、原則、間接収用を構成しない旨明記 主要国モデル投資協定の比較 - 外務省 されている。 つまり、米国自身が、公共福祉目的の措置を「間接収用を否定する理由」として挙げているのだ。

間接収用に記載したとおり、ISD条項に基づく国際投資仲裁において、主として効果基準を採用した仲裁判断の典型とされている事例も、政府の行為の明らかな不当性に言及したものが多く、規制目的を判断基準から排除すべきとした事例は見当たらない。 間接収用を否定した事例では、効果基準に照らして収用に当たらないので、規制目的に言及する必要がなかったと考えられる。 以上のとおり、「政府措置が重大な危険性を避けるためにやむなくなされるものであることは間接収用を否定する理由にはならない」は仲裁判断例とも一致しない。

そもそも、「収用は、もともと公共目的でなされることが大前提」が大間違いである。 収用の適法化のための条件 2006年度提出リサーチペーパー「国際法上の間接収用の概念-仲裁判例の分析を中心に-」 - 東京大学公共政策大学院P.3 として公共目的が挙げられていることから、収用が必ずしも公共目的とは限らないとされていることが明らかだろう。

間接収用に当たっては、収用時の投資財産の公正な市場価格(fair market value)によって補償する原則が確立している。 キャッシュフロー方式(中間利息控除方式)によって算定する逸失利益=将来利益を求めるべきである。

したがって、日本原電が外国投資家であれば、稼働可能年数までの間に挙げられたであろう利益に相当する金額を、間接収用と同時に支払うことを求めることができる。

ISD条項の実務 敦賀原発2号機直下の活断層と「間接収用」 - 街の弁護士日記

ISD条項に基づく国際投資仲裁であるAmoco事件の判例において 収用時点から判決時点までの逸失利益 2006年度提出リサーチペーパー「国際法上の間接収用の概念-仲裁判例の分析を中心に-」 - 東京大学公共政策大学院P.4 は認められているが、将来利益の賠償が保証されているわけではない。 近年のISD条項に基づく国際投資仲裁では、収用事例には一定の条件においてDCF(割引現在価額)が賠償額算定法として認められるが、そのことについても多々誤りがある。

収用の効果基準に当てはまるかどうかが微妙なことは既に指摘した。 その他、DCFが用いられるかどうかは、規制の適法性、活断層上の原発の継続価値、活断層上の原発の将来利益の確実性等を考慮する必要がある。 「政府措置が重大な危険性を避けるためにやむなくなされるものである」ならば、当然、活断層上の原発の将来利益は不確実なものであるから、当然、DCFを用いることは仲裁判断例に照らして不適切となる。 その場合は、当然、活断層上の原発の継続価値も無に帰している。 さらに、その場合は、規制の適法性も認められるであろう。 以上のとおり、「政府措置が重大な危険性を避けるためにやむなくなされるものである」限り、DCFが用いられる可能性は極めて低い。 それらを全く考慮せずに「稼働可能年数までの間に挙げられたであろう利益に相当する金額」を求めることができるとする主張には根拠がない。

尚、「政府措置が重大な危険性を避けるためにやむなくなされるもの」でないならば、根拠なき規制で企業に不当な損害を与えたことになるのだから、当然、政府に賠償すべき責任がある事例となる。 その責任逃れができないと文句を言うのはお門違いであろう。

外国投資家は、他社の原発事故で引き起こされたようなリスクも負わなくてよい。 投資家の期待はノーリスクで保護されなければならないのである。

ISD条項の実務 敦賀原発2号機直下の活断層と「間接収用」 - 街の弁護士日記

これは根本的な誤りである。 事実、投資家のリスクは 契約相手(私企業)の契約違反や資金調達コストの上昇など、純粋なビジネスリスクに属するものも多い 規制と間接収用 - 経済産業研究所P.26 が、 仲裁判断のいくつかは、このことを明確に指摘し、「投資協定はビジネス判断の誤りに対する保険ではない」等と述べ 規制と間接収用 - 経済産業研究所P.26 ている。 つまり、投資協定が投資家保護のための規定を設ける理由は、政府の理不尽な規制によるリスクを回避するためであって、これには経営判断や自然災害のリスクは含まれない。

例えば、ISD条項に基づく国際投資仲裁であるSaluka事件で、政府の正統な行為は収用にならないとする判例を採用した理由として、 サルカの経営悪化には、チェコの事業環境や共産主義時代から続く不良債権処理問題等も影響しており、本件に直接関係する政府の作為・不作為の寄与度は大きくないと判断したため 規制と間接収用 - 経済産業研究所P.32 と考えられているように、公的管理に至った最も大きな原因は経営にあり、それは投資家が背負うべきリスクであるからである。 また、Feldman事件、MTD事件およびThunderbird事件では、 投資時点において国内法と整合的でないまたは非合法な事業活動に関するもの 規制と間接収用 - 経済産業研究所P.35 について収用と認めなかった。

原子力事業者は、原子力災害対策特別措置法にて この法律又は関係法律の規定に基づき、原子力災害の発生の防止に関し万全の措置を講ずるとともに、原子力災害(原子力災害が生ずる蓋然性を含む。)の拡大の防止及び原子力災害の復旧に関し、誠意をもって必要な措置を講ずる責務 原子力災害対策特別措置法 が課せられている。 「政府措置が重大な危険性を避けるためにやむなくなされるものである」ならば、東北地方太平洋沖地震やそれにより顕在化した原発の危険性、および、調査によって判明した活断層の存在により法律上の責務が果たせなくなったために原発の再稼働ができなくなったのであり、それは、当然、原子力事業者が背負うべき責任である。 もちろん、「政府措置が重大な危険性を避けるためにやむなくなされるもの」でないならば、それは、原子力事業者が背負うべき責任ではない。 以上のとおり、科学的根拠において争う余地はあるが、「投資家の期待はノーリスクで保護されなければならない」は国際法上も根拠がない。

尚、言うまでもなく、外国投資家であろうと、国内投資家であろうと、政府の理不尽な規制によるリスクを回避する権利がある。 当然、外国投資家が受けられる保護と同じ保護を国内投資家も受ける権利がある。 しかし、国内投資家の保護は内政問題であって投資協定の問題ではない。 だから、外国投資家が受けられる保護と同じ保護を国内投資家が受けられないとして、投資協定に文句を言うのはお門違いである。 文句があるなら、国内投資家を適正に保護しない国内法を批判すべきである。 そして、国内投資家が適正に保護されないことは、外国投資家の保護に反対する理由にはならない。 「外国投資家が適正に保護されているように、国内投資家も適正に保護すべき」と主張することが正当な主張である。

したがって、外国投資家は、このケースについて、ISD提訴が可能であるし、勝訴も確実と言える。

ISD条項の実務 敦賀原発2号機直下の活断層と「間接収用」 - 街の弁護士日記

以上のとおり、ISD条項に基づく国際投資仲裁において「勝訴も確実」とする主張には何ら根拠がない。 尚、訴えるだけなら言い掛かりでも何でも可能である。 これは、国内裁判でも変わらない。

さて、補償額であるが、浜田社長は「震災以降、国の指示に従って行った安全対策の費用」と語っている。 控えめすぎる。 何もそんなに遠慮する必要はないのだ。

ISD条項の実務 敦賀原発2号機直下の活断層と「間接収用」 - 街の弁護士日記

運転再開の確約を与えた上での「国の指示」ならば、それは、公正衡平待遇義務違反となるから、請求して当然である。 一方で、既に説明したとおり、この弁護士の「そんなに遠慮する必要はない」には何ら国際法上の根拠がない。

公正衡平待遇義務 

薬事法違反広告 

コカコーラ社は、消費者庁から問題ないと確認を取っているとの主張だ。 したがって、行政指導にしたがう謂われはないはず。 しかし、NHKニュースでは、「結果として誤解したお客様がいたことは真摯に受け止めたい」としおらしい。

「トクホゥ」禁止もできなくなるTPP - 街の弁護士日記

まず、「消費者庁から問題ないと確認」をどのように取ったかの記載がない。 資料を添付した文書で質問し回答を得たり、資料を持参して説明を行なったのであれば、その確認はお墨付きとして申し分がないものとなろう。 しかし、ただ単に電話で漠然とした質問をしただけであれば、薬事法違反となる広告内容が伝わっていない可能性がある。 問題の広告内容Web魚拓版 ) 漢字で小さく「特報」と書いた上で、何故か、カタカナで大きく「トクホウ」と書いてある。 また、既にトクホ(特定保健用食品)として認定されているライバル商品とも商品デザインを似せている。 「毎日のウェイトサポートにぴったり」は、あたかも、体重を減らす効果があるかのように標榜するものであり、これは無承認無許可医薬品の指導取締りについて(別紙)医薬品の範囲に関する基準 I 1(二)の「身体の組織機能の一般的増強、増進を主たる目的とする効能効果」であるから、未承認医薬品の広告を禁じた薬事法に違反する。 また、「難消化性デキストリン」を8000mg含有することと「毎日のウェイトサポートにぴったり」を結びつけていることから、医薬品の範囲に関する基準 I 1(三)(b)「含有成分の表示及び説明よりみて暗示するもの」にも該当し、未承認医薬品の広告を禁じた薬事法に違反する。 これを見ればトクホと誤認させ、効能効果を標榜する意図が明確であるが、電話でこれらの問題点が正しく伝えられたとは考え難い。 以上のとおり、「消費者庁から問題ないと確認」をどのように取ったかが記載されていない以上、お墨付きとして十分とは断定できない。

この参考となる例としてNAFTAのThunderbird事件がある。 この事件では、企業側(申立人)が規制当局から 規制対象ではないとの回答(oficio)を得ていた 規制と間接収用 - 経済産業研究所P.34 ことについて、仲裁定は、 申立人がメキシコに機器について説明した文書は不正確で不完全である 規制と間接収用 - 経済産業研究所P.34 として 規制当局の回答は、「正統な期待」を構成しない 規制と間接収用 - 経済産業研究所P.35 と判断した。 これと同様に、「不正確で不完全」な問い合わせに基づいて「消費者庁から問題ないと確認を取っている」のであれば、それは「正統な期待」を構成しないと判断されるだろう。

また、お墨付きとして十分であったとしても、それは、それまでの行為の責任を問われないだけに過ぎない。 しかし、最初の「確認」が誤りとして訂正されたのであれば、訂正後の方が有効である。 そして、それに従うことによる損失は、最初の1回分の広告差し替え費用だけである。 よって、最初の1回分の広告差し替え費用が適正に賠償される限り、「行政指導にしたがう謂われはない」という主張には理由がない。 もちろん、メーカーが自発的に広告を刷新する場合は、その刷新後の広告の行政指導に従うことによる損失は発生しない。 よって、刷新後の広告においては、「行政指導にしたがう謂われはない」と主張する口実さえ存在しない。 以上、弁護士を名乗っておいて、訂正後の行政指導は無効だとする主張は極めて御粗末としか言いようがない。

コカコーラ社がおとなしいのも今の内である。 TPP後はこうはいかない。 事前に言質を採っていれば、いくら紛らわしくとも、堂々と「トクホウ」とCMを続ける権利を外資は持つことができる。 一貫性のない行政対応は、TPP投資章の「公正・衡平待遇義務」違反に該当するからだ。

「トクホゥ」禁止もできなくなるTPP - 街の弁護士日記

本件で「一貫性のない行政対応」があるとしても、せいぜい、「確認を取って」から最初の行政指導が為されるまでである。 以降は、最初の行政指導と矛盾しないなら、行政対応には一貫性が認められる。 一度でも行政職員が「問題ない」と答えれば、以後、行政機関の判断はそれに縛られるとする規定は、国際法にも、投資協定にもない。 もちろん、ISD条項に基づく国際投資仲裁の判断事例にも存在しない。 よって、コカコーラ社に生じた損害のうち「一貫性のない行政対応」によって発生した可能性があるものは1回分の広告差し替え費用に過ぎない。

仮に、不当コマーシャルを止めさせれば、紛らわしいコマーシャルを続ければ得られたはずの売上収益を含む一切の損害の賠償を求めて国際投資家法廷に持ち込むことができる。

「トクホゥ」禁止もできなくなるTPP - 街の弁護士日記

Feldman事件、MTD事件およびThunderbird事件では、 投資時点において国内法と整合的でないまたは非合法な事業活動に関するもの 規制と間接収用 - 経済産業研究所P.35 について収用と認めていないことから、薬事法違反によって得た不当な利益は、国際法上も保護されないと考えられる。 また、Amoco事件の判例において 収用時点から判決時点までの逸失利益 2006年度提出リサーチペーパー「国際法上の間接収用の概念-仲裁判例の分析を中心に-」 - 東京大学公共政策大学院P.4 は認められているが、仲裁判断以降の将来の逸失利益が認められたとする判例はない。 よって、この弁護士の主張には根拠がない。

尚、訴えるだけなら言い掛かりでも何でも可能である。 これは、国内裁判でも変わらない。

このケースではまず負けることはないので、ハイエナ弁護士は、国際裁判にかけることを材料とするビバレッジの利いた交渉をして、日本政府から多額の損害賠償を巻き上げることが可能だ。

「トクホゥ」禁止もできなくなるTPP - 街の弁護士日記

以上のとおり、ISD条項に基づく国際投資仲裁において「このケースではまず負けることはない」「多額の損害賠償を巻き上げることが可能」とする主張には何ら根拠がない。 国際投資仲裁の判例から見て、損害賠償請求が通る可能性があるのは1回分の広告差し替え費用に過ぎない。 尚、訴えるだけなら言い掛かりでも何でも可能である。 これは、国内裁判でも変わらない。

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