CRUメール流出事件(Climategate事件)
- Climategate(クライメイトゲート)事件の概要
- Climategate(クライメイトゲート)事件の真相
- 石油産業の陰謀
- 文脈を無視した曲解
- Climategate(クライメイトゲート)事件の調査報告
- Climategate(クライメイトゲート)事件の政治利用(悪用)
- Climategate(クライメイトゲート)事件まとめ
Climategate(クライメイトゲート)事件の概要
このページは地球温暖化懐疑論の一部である。
CRUメール流出事件(クライメイトゲート事件)とは、偽装懐疑論者が次のような手口で地球温暖化研究の信用を不当に毀損しようと目論んだ事件である。
- 温暖化支持者の中の有力グループであったイースト・アングリア大学(University of East Anglia)の気候研究ユニット(Climatic Research Unit)にクラッキングを仕掛け
- メールや書類等の膨大な記録を盗み出し
- あたかも以下の事実があったかのように見えるように
- 地球温暖化論を捏造
- 懐疑論を不当に弾圧
- 文脈を無視して都合よく断片的な内容を抽出したうえで公開
その後の、第三者機関、科学機関による調査が複数行われ、イースト・アングリア大学(University of East Anglia)の気候研究ユニット(Climatic Research Unit)の潔白が証明された。 科学の世界では、結果として、地球温暖化研究の信用が向上したので、完全に逆効果であった。 しかし、素人の世界では、地球温暖化研究の毀損された信用が十分に回復しなかったので、事件の首謀者の目的は達成されたと言える。
Climategate(クライメイトゲート)事件の真相
第三者機関、科学機関による調査は後で紹介するとして、ここでは、簡単に事件の概要をまとめる。 この事件の背景として次の三つ巴の争いがあった。
- 温暖化支持者
- 科学的根拠に基づいて人為的温暖化を唱える人
- 偽装懐疑論者
- 人為的温暖化を否定する結論ありきなのに、正体を隠して懐疑論者の振りをしている人
- 真性懐疑論者
- 結論ありきではないが、人為的温暖化論の科学的根拠を疑っている人
地球温暖化懐疑論にて解説している通り、地球温暖化論が発表されると、米国石油産業は、二酸化炭素派出規制を阻止するため、偽装懐疑論者(その多くは気象学・気候学の専門ではない無名の科学者)のグループや個人に資金を提供し、査読がないに等しいほど緩いか全くない雑誌(predatory publishingやpredatory journalと呼ばれる)への論文投稿、気象学・気候学の専門ではない科学誌や科学以外の分野の雑誌への論文投稿を支援するようになった。 偽装懐疑論者たちは、明らかに科学的に誤った論評、チェリーピッキング(持論に都合の悪いデータを闇に葬り、都合の良いデータのみを取り出すこと)によるコジツケ、地球温暖化の証拠の粗探し等により、地球温暖化支持者たちを攻撃した。 温暖化支持者の中の有力グループであったイースト・アングリア大学(University of East Anglia、以下「UEA」)の気候研究ユニット(Climatic Research Unit、以下「CRU」)の研究者たちは、偽装懐疑論者のこうした態度に警戒感を持つあまり、真性懐疑論者による指摘も偽装懐疑論者の粗探しだと決め付け、粗探しに悪用されないよう研究データの公開を拒むようになった。
そんな中、CRUが何者かにクラッキングを受け、電子メールや文書の一部が公開された。 それらは、前後の文脈が分からないように意図的に分断され、恣意的に、不正があったかのように閲覧者の印象を誘導するものであった。 これを受け、CRU所長は一時休職となり、複数の団体がこの問題を調査した。 そして、いずれの調査でも、意図的な不正の証拠はないという結論であった。 また、CRUの研究結果は他のグループの研究結果とも矛盾はないとされている。 尚、結論に大きな影響を与えない程度の分析の不正確さ、データ分析の仕方、情報公開・共有のあり方等については問題があったと報告されている。
調査の過程で丁寧に諭されたCRUの研究者たちは態度を軟化し研究データの公開に応じるようになったようだ。 その結果、真性懐疑論者の科学者にもデータの検証が可能となった。 例えば、物理学者のRichard A. Mullerは、データの再分析の結果、 温暖化に疑いはないと議会で証言し、懐疑論を撤回している。
石油産業の陰謀
地球温暖化懐疑論にて、米国の科学者団体「Union of Concerned Scientists」の報告や米紙ニューヨーク・タイムズや英紙ガーディアンで報じられた内容を紹介する。
文脈を無視した曲解
情報流出時には文脈を無視した編集が行われたことが明らかになっている。
この大学から盗まれたEメールが気候研究ユニットの業績とそれで働く人々およびユニットに繋がりのある人々について深刻な言いがかりを付けるために選択的に悪用されました。
ある人々はこの誤った提示を疑問も抱かず額面通りに受け取り、それらを事実であるとして繰り返しました。
本日、3番目の、そして願わくは最後の徹底的な独立レビューが、我々の科学に対する言いがかりによるこの圧倒的な攻撃を、根拠のないものとして明らかにしました。
事実,公開されたメールは断片的で,CRUの活動に疑問を抱かせる内容が文脈を無視して抽出されていた。
とはいえ,人為的地球温暖化論に懐疑的な人々(温室効果ガスの排出規制で不利益を被る政治家や資本家を含む)にとっては,格好の攻撃の的となり,CRUの活動および姿勢に非難が向けられた。
研究データの公開と学問的誠実性―英国イースト・アングリア大学気候研究部門のメール流出事件を参考に:田中正弘(弘前大学) - 筑波大学学術情報メディアセンター
公表を前提としていない電子メールが不正アクセスによって世間にさらされ,その内容を都合よく曲解した温暖化懐疑論者などによって「でっちあげられた議論(manufactured controversy)」がセンセーショナルに勃発したことが,クライメート・ゲート事件の本質だったようだ。
クライメート・ゲート事件 地学雑誌119(3):鈴木力英 - J-STAGE
地球温暖化に関する懐疑派たちは、公開された電子メールの一部に飛びつき、地球温暖化の理論に合うように研究者が共謀してデータをゆがめた証拠だとしている。 これに対して研究者側は、問題の電子メールは文脈を無視して解釈されており、科学者が包み隠しなく議論していたものに過ぎないとしている。
Schmidt氏は、政治的な操作などが隠蔽されていることは読み取れないと語り、「科学者たちが科学に関して語っている会話にすぎず、彼らは率直に語っているだけだ。 私的な電子メールでは一般的に、公的なフォーラムの場より個人の考えが自由に出るが、それと同じことだ。 一部の引用は文脈から抜き出されている。 科学の世界で使われている言葉が、完全に別の角度から解釈されている」
Trenberth氏もこれに同意する。 「全ての電子メールを読めば、科学者たちの発言が一貫していることがわかるだろう。 不幸なことに、人は一部を抜き取って、文脈と関係なくそれを提示することができるのだ」
それ以前の問題も指摘されている。
千通以上のメールとその他の資料三千点が盗まれ、偽造の「証拠」として利用できたものは上記のわずかの分だけだということは逆に偽造の証拠が余りないということを示していると思われる。 偽造があったとすれば、特に組織的な偽造の取り組みがあったとすれば、この膨大の量のメールと資料にそれ以上の証拠があったはずであろう。
この問題が浮上した当初から、盗難にあったメールに関しては、同僚同士が全くプライベートに送り合ったメールであったこと、公表されるようなことを全く考えないで送り合っていたこと、外部の人に勘違いされるかもしれないという意識を持たない、内輪で通じ合うような話し方であること、外部の人の目に触れると誤解されやすい表現があってもおかしくないこと、こうしたことは誰でも分かるはずだった。 調査を呼びかけるのは妥当だったに違いないが、調査の結果が出ないうちは断定することはできないものであり、偽造があったと訴えるのは明らかに早計であった。
更に、上記の説明の通り、電子メールから生じた問題からIPCCに提出されたデータに疑いをかける内容は全くなかった。 また、IPCCはCRUのデータのみに頼っているわけではなく、CRUのデータを多数の他の機関からのデータと照らし合わせて使っている。 CRUのデータに対する疑いが生じたとしても、その疑いをIPCCに転用することもまた早計なのである
温暖化懐疑論と 疑惑に関する一考察:マイケル・シーゲル(社会と倫理2010年第24号) - 南山大学社会倫理研究所P.172
流出したメールは、外部の人に説明することを想定したものではないため、複数の解釈が生じないような配慮は全くされていない。 「外部の人に勘違いされるかもしれないという意識を持たない、内輪で通じ合うような話し方」「外部の人の目に触れると誤解されやすい表現があってもおかしくな」とは、そういうことである。 複数の意味に解釈する余地のある文章は、前後の文脈や背景事実によって全く意味が異なってくる。 情報の不足部分を都合の良い想像で補って特定の結論に都合の良い解釈を生み出しても、それがその特定の結論の証拠とならないことは子供にでもわかることであろう。 いずれのメールも、前後の文脈や背景事実が分からなければ、どうとでも解釈できるものであることは普通に読めば分かるだろう。 もちろん、流出部分だけを見れば、悪意を持って不正を行った可能性がないとは言えないが、非科学的陰謀への強い懸念に対して科学者の良心と責任に従って対応していたとも読める。 にも関わらず、偽装懐疑論者たちは、「調査の結果が出ないうち」に情報の不足部分を都合の良い想像で補って「偽造があったと訴え」たのであり、それは「早計であった」のである。
偽装懐疑論者たちが地球温暖温暖化の捏造の根拠とするメールは次の文面であった。
I've just completed Mike's Nature trick of adding in the real temps to each series for the last 20 years (i.e., from 1981 onwards) and from 1961 for Keith's to hide the decline.
研究データの公開と学問的誠実性―英国イースト・アングリア大学気候研究部門のメール流出事件を参考に:田中正弘(弘前大学) - 筑波大学学術情報メディアセンター 「温暖化は捏造」論争が過熱:メール流出で - WIRED
辞書を調べると「trick」には「企み、策略、誤魔化し、悪戯、冗談、卑劣な手段、手品」のほか、「こつ、秘訣、芸当、癖、特徴」などの意味がある。 また、この一文には何の「decline (低下、末期)」であるかの記載がない。 故に、その意図を解釈するには、「trick」が示す意味と「decline (低下、末期)」の対象を明らかにする必要がある。 そして、偽装懐疑論者は、「trick」が「企み、策略、誤魔化し、悪戯、冗談、卑劣な手段、手品」の意味で、かつ、「decline (低下、末期)」の対象が気温であるとして、気温の低下を誤魔化したとする解釈を披露した。 しかし、不足している情報について、そうした補填を行う根拠は何も示されていない。 補填した情報の根拠を明確にしないまま特定の補填を行った場合にのみ成り立つ解釈を提示しても、それが何の証拠にもならないことは火を見るよりも明らかである。 何故なら、補填や修正の仕方次第で、文意は全く異なったものとなるからである。
前後の文脈や背景事情に基づくと、正しくは次のようになる。
60. Critics of CRU have suggested that Professor Jones’s use of the word “trick” is evidence that he was part of a conspiracy to hide evidence that did not fit his view that recent global warming is predominately caused by human activity. The balance of evidence patently fails to support this view. It appears to be a colloquialism for a “neat” method of handling data.
60. Jones教授の“trick”という言葉の使用は、最近の地球温暖化が主に人間の活動によって引き起こされているという彼の見解に合わない証拠を隠すための陰謀の一部であった証拠だとCRUの批評家たちは仄めかす。 証拠のバランスは明らかにこの見解を支持していない。 それはデータを扱う「きちんとした」方法の口語表現であると思われる。
66. Critics of CRU have suggested that Professor Jones’s use of the words “hide the decline” is evidence that he was part of a conspiracy to hide evidence that did not fit his view that recent global warming is predominantly caused by human activity. That he has published papers—including a paper in Nature—dealing with this aspect of the science clearly refutes this allegation. In our view, it was shorthand for the practice of discarding data known to be erroneous. We expect that this is a matter the Scientific Appraisal Panel will address.
66. Jones教授の“hide the decline”という言葉の使用は、最近の地球温暖化が主に人間の活動によって引き起こされているという彼の見解に合わない証拠を隠す陰謀の一部であった証拠だとCRUの批評家たちは仄めかす。 彼が科学的側面を扱う論文(Natureの論文を含む)を発表したことは明らかにこの主張を否定する。 我々の見解では、それは間違っていることが知られているデータを破棄することの略称慣行であった。 これは科学的評価委員会が対処する問題であると期待する。
8. It is also clear from the submissions that it is possible to place different interpretations on the same phrase. In such circumstances, only the original author can really know what their intentions were.
提出物から、同じフレーズに異なる解釈をすることが可能であることも明らかである。 そのような状況では、最初の作者だけが彼らの意図が何であるかを本当に知ることができる。
McIntyre in his submission to the Review Team, states “The IPCC “trick” was not a “clever” mathematical method – it was merely the deletion of inconvenient data after 1960.” This compares with Jones's own commentary in the UEA submission to the Review Team. “The email was written in haste and for a limited and “informed” audience (the people that had provided data). The word “trick” was not intended to imply any deception, simply the “best way of doing or dealing with something”. The reconstruction from the tree-ring density network was not shown after 1960, and thus in this sense it is “hidden” – but justifiably so: excluding the anomalous tree-ring density data is justified if the purpose is to illustrate the most likely course of temperature based on a combination of proxy and measured temperatures. Again, no deception was intended or practised.”
McIntyreがレビューチームに提出した中で、次のように述べている。 「IPCCの “trick”は『賢い』数学的方法ではない - それは1960年以降の不都合なデータの削除に過ぎない。」 これは、レビューチームへのUEA提出におけるJones自身の解説と比較される。 「電子メールは急いで書いたものであり、限られた『情報に基づいた』聴衆(データを提供した人々)のために書いている。 “trick”という言葉は、詐欺を意味するものではなく、単に「最善の方法または何かを処理する方法」を意味するものである。 年輪密度ネットワークからの再構成は1960年以降には示されておらず、したがってこの意味では「隠されている」 - しかし、proxyと測定された温度の組み合わせに基づいて最も可能性の高い温度の経過を説明することが理由である場合、年輪密度の異常データを除外することが正当化される。 繰り返すが、詐欺は意図しておらず、実行もしていない。」
9. E-mails are rarely definitive evidence of what actually occurred. They are open to interpretation, but they are also indicative.
電子メールが実際に起こったことの明確な証拠であることはめったにない。 それらは解釈は自由だが、それらは暗示的でもある。
14.Finding: The extreme modes of expression used in many e-mails are characteristic of the medium. Crucially, the e-mails cannot always be relied upon as evidence of what actually occurred, nor indicative of actual behaviour that is extreme, exceptional or unprofessional.
14.所見:多くの電子メールで使用されている極端な表現方法は媒体に特有のものである。 電子メールは、実際に起こったことの証拠として、あるいは極端な、例外的な、または専門外であるという実際の行動の証拠として必ずしも決定的に信頼できるものではない。
The Independent Climate Change E-mails Review
Natureの論説(Nature, 2009)では,“trick”とは賢い(合理的な)テクニックを意味する通言(slang)であると述べている。
クライメート・ゲート事件 地学雑誌119(3):鈴木力英 - J-STAGE
「マイクのネイチャートリック」はマイケル•マン(Michael Mann)のネイチャー誌で掲載されたテクニック(又はコツ、技)の事を指します(Mann 1998)。 この「トリック」は近年の機器データを復元データと一緒にグラフするテクニックです。 最近の温暖化を昔の気温変動の文脈に乗せるためです。
このメールに対して最も多い誤認は、「下落」という言葉です。 これは温度の「下落」ではなく、1960年以降の年輪データの信頼性の下落です。 これを「divergence problem」と呼び、樹木年輪の復元が計測機器の気温と1960年以降分岐してる事を指します。 この分岐問題(*他に呼び方が見つかりません(涙))は査読を受けた論文の中では少なくとも1995年から議論されてきました。 諸説はいろいろあるが、近年の加速的な温暖化が樹木の生長に変化を齎すという仮説が最有力です(Briffa 1998)。 最近ではWilmking (2008)が分岐問題を排除する研究を出しています。 つまり、フィル•ジョーンズのメールはデータを改竄する共謀でもなんでもなく、論文でオープンに出されているテクニックを使った専門的な議論がしていただけです。
「trick」は「こつ、秘訣」を意味し、かつ、「decline (低下、末期)」はデータの信頼性のことを指している。 本事件の第三者による調査は、いずれも、それが科学における慣例であると認めている。 つまり、このメールは、信頼性の低いデータを取り除く秘訣について論じているのである。 これについてラッセル・レビューチームの報告書では次のように評価している。
26. Finding: In relation to “hide the decline” we find that, given its subsequent iconic significance (not least the use of a similar figure in the TAR), the figure supplied for the WMO Report was misleading in not describing that one of the series was truncated post 1960 for the figure, and in not being clear on the fact that proxy and instrumental data were spliced together. We do not find that it is misleading to curtail reconstructions at some point per se, or to splice data, but we believe that both of these procedures should have been made plain – ideally in the figure but certainly clearly described in either the caption or the text.
26. 所見:“hide the decline”に関して、WMOレポートに提供された数字は、1960年以降の図からシリーズの1つが切り捨てられたことが説明されておらず、および、proxy dataと測定データが結合されたという事実については明らかではないという点で誤解を招くものであった。 ある時点での再構成の短縮やデータの継ぎ合わせが誤解を招くことはないが、これらの手順は両方とも明確にするべきであると考える - 図で説明するのが理想的だが、見出しか文章のどちらかで明確に記述されるべきである。
37. In relation to “hide the decline” we find that, given its subsequent iconic significance (not least the use of a similar figure in the IPCC TAR), the figure supplied for the WMO Report was misleading in two regards. It did not make clear that in one case the data post 1960 was excluded, and it was not explicit on the fact that proxy and instrumental data were spliced together. We do not find that it is misleading to curtail reconstructions at some point per se, but that the reason for doing so should have been described.
37. “hide the decline”に関連して、その後の象徴的な意義(特にIPCC TARでの類似の数字の使用)を考えると、WMO報告書に提供された数字は2つの点で誤解を招くものであった。 ひとつは1960年以降のデータが除外されたことは明らかにされていないことであり、もうひとつはproxy dataと測定データが一緒に継ぎ合わされたという事実については明白ではなかったことである。 ある時点で再構成を削減することが誤解を招くことはないが、その理由は説明されるべきである。
つまり、次の事実を明示しないと誤解を招くとしているが、処理の内容自体は問題ないとしている。
- 1960年以降の図からシリーズの1つを切り捨てたこと
- proxy data (preserved physical characteristics of the environment that can stand in for direct measurements 直接測定に代わることができる環境の保存された物理的特性)と実測データを組み合わせたこと
この点、IPCC第4次評価報告書第1作業部会報告書 技術要約 - 気象庁では、誤解の生じ得ないように、proxy data(MannらによるものはMBH1999)と実測データ(HadCRUT2v)が明確に区別されている。
IPCC第4次評価報告書第1作業部会報告書 技術要約 - 気象庁P.38
偽装懐疑論者たちは、次のメールも地球温暖温暖化の捏造の根拠とした。
“We can't account for the lack of warming at the moment and it is a travesty that we can't.” (「私たちは現時点で温暖化が起きていないことを説明することはできないし、できないということは大失敗である。」)
温暖化懐疑論と 疑惑に関する一考察:マイケル・シーゲル(社会と倫理2010年第24号) - 南山大学社会倫理研究所P.171,
この一文は、そのまま読むと全く意味不明である。 何故なら、「the lack of warming at the moment (現時点における温暖化の欠如)」の有無は、観測データが直接指し示す事実であり、「can account for (説明できる)」かどうかは全く関係がないからだ。 故に、その意図を解釈するには、不足する語句を補うか、あるいは、不正確な表現を修正する必要がある。 そして、偽装懐疑論者は、次のような恣意的補填に基づいた解釈を披露した。
この文章は、ここ数年間気温の上昇が見られないことに対して、気温の上昇がどうしてないか説明できない、そしてそれを説明することができないということは、私たちにとって大きな失敗であり、あるいは私たちにとって悲劇であるというようなことを言っている。 そうすると、「私たちは温暖化を予言したが、それが実際に起きていないから、私たちは困っている。私たちの論説が間違っていることがばれそうで困る」というような意味で取られてしまうだろう。
温暖化懐疑論と 疑惑に関する一考察:マイケル・シーゲル(社会と倫理2010年第24号) - 南山大学社会倫理研究所P.171,
しかし、補填や修正の根拠を明確にしないまま特定の補填や修正を行った場合にのみ成り立つ解釈を提示しても、それが何の証拠にもならないことは火を見るよりも明らかである。 何故なら、補填や修正の仕方次第で、文意は全く異なったものとなるからである。 前後の文脈や背景事情に基づいた解釈は以下のようになる。
しかし、この文章はその文脈から切り離されている。 これはケヴィン・トレンバース(Kevin Trenberth)という科学者の電子メールからの文章であり、そのメールの全文を読めば、言わんとすることは全く違うということが明白になる。 それは、トレンバースが自分の論文を一つ紹介するメールである。 その論文は Science Direct: Current Opinion in Environmental Sustainabilityという科学雑誌に掲載された“An Imperative for Climate Change Planning: Tracking Earth's Global Energy”と題されたものであり、インターネット上で公開されている。
トレンバースが論じているのは、以下のことである。 太陽から地球に入るエネルギーはどのぐらいあるか、どのぐらい反射されているか、どのぐらい大気、陸、海などに吸収されているか、これらのことは宇宙衛星の測定等により、かなりの正確さをもってつかめている。 しかし、二〇〇三年までは、それが地球のどこに吸収されていたかもつかんでいるが、二〇〇三年以降は、実際に地球システムに入るエネルギーの量に即して、気温自体は上昇していない。 だからそのエネルギーはどこか違うところに吸収されている。 それがどこかをつかむことができなければ、温暖化がどう発展するか把握できなくなると論じているのである。 トレンバースが「travesty」と言っていることは、予言していた温暖化が実現していないで困るというようなことではなく、エネルギーが現在どこに流れているか、どこに吸収されているかつかんでいないから、これからどういう問題が生じるかは予想できないでいることであり、それに対する危機感を表明しているのである。 トレンバースはそのために測定の改善をいろいろ勧めている。
温暖化懐疑論と 疑惑に関する一考察:マイケル・シーゲル(社会と倫理2010年第24号) - 南山大学社会倫理研究所P.171,172
二番目に広く煽られたメールが、IPCC筆頭著者のケビン•トレンバース(Kevin Trenberth)のメールです。 良く引用されるのが、「私たちが世界の気温の上昇が見られないのは滑稽だ」。 解釈によって、科学者達が温暖化の停止を認めたともとれます。 ケビン•トレンバースは実際、エネルギー収支の最新の研究をつづった発表論文の事を指していました -- 正味エネルギーがどれだけ気候に出入りするかの研究です(Trenberth 2009)。
トレンバースの論文では二酸化炭素の増加による地球温暖化の強い関係を表しています。 それにもかかわらず、表面温度は時に短期の寒冷期間を示します。 これは内部変動性によるものだが、トレンバースはこの変動を未だに包括的に全て把握できていない事に満足していないと強く明言したものです。
偽装懐疑論者たちは、「can't account for (説明することはできない)」ことは、「the lack of warming at the moment (現時点で温暖化が起きていないこと)」の理由だとする補填を行った。 しかし、その補填の根拠は何も示されていない。 前後の文脈や背景事情(話題の対象の論文)を考慮すると、説明できないこととは、測定上の限界により「温暖化がどう発展するか把握できな」いことである。
また、偽装懐疑論者たちは、このメールにおける「travesty (大失敗)」を、温暖化研究者にとってのtravesty (大失敗)と解釈した。 しかし、前後の文脈を考慮すれば、このメールにおける「travesty (大失敗)」は、「温暖化がどう発展するか把握できな」いせいで適切な温暖化対策を提示できないことが人類にとっての「travesty (大失敗)」であることを意味している。
偽装懐疑論者たちは、Jones教授のメールの中には査読妨害等をうかがわせるものがあると主張する。 これについてラッセル・レビューチームの報告書では次にように一連の出来事を紹介している。
In 2002 Esper published a paper which suggested that MBH had underestimated the strength of the MWP, but it was Soon & Baliunas's (S&B) papers published in Climate Research and with minor amendments in Energy & Environment (E&E) which first challenged MBH's results directly.
2002年にEsperは、MBHがMWPの強さを過小評価していたことを示唆する論文を発表したが、MBHの結果に最初に直接異議を唱えたのはSoon&BaliunasのS&B論文である。
Prior to the publication of S&B's papers in 2003 those critical of MBH had not had a paper published in a mainstream journal. The publications in Climate Research and Energy & Environment were significant not only because they challenged MBH but also because they had been peer reviewed. Not only were rebuttals published in 2003 by Mann, Jones, Briffa, Osborn et al, but also the process of peer review at Climate Research was questioned. The editor, de Freitas, sought initially to defend himself as the e-mail extract below shows but he ultimately resigned as did members of the editorial board of Climate Research. The matter is discussed in detail in Section 8.3 of Chapter 8.
2003年にS&Bの論文が発表される前は、MBHに批判的な人々は主流のジャーナルに論文を発表していなかった。 Climate ResearchとEnergy&Environmentの出版物は、MBHに異議を唱えるという理由だけでなく、査読を受けているという点でも重要だった。 Mann、Jones、Briffa、Osbornらによって2003年に反論が発表されただけでなく、Climate Researchでの査読のプロセスも疑問視された。 編集者、de Freitasは当初、下記のEメールの抜粋で示したように自分自身を防御しようとしたが、最終的にClimate Researchの編集委員会のメンバーと同様に辞任した。 この問題については、第8章のセクション8.3で詳細に説明されている。
6. The paper by Soon and Baliunas (2003) entitled Proxy climatic and environmental changes of the past 1000 years, published in the journal Climate Research, reviewed 240 previously published papers on temperature trends during the last millennium. It challenged the conclusion of Mann et al (1998, 1999) that the late 20th century was the warmest period of the last millennium on a hemispheric scale, and claimed that recent temperatures were by no means unprecedented over this period. It was greeted with enthusiasm by those sceptical of the hypothesis of anthropogenic global warming. However it received a negative reception from many other climate scientists on scientific grounds, viz. that it conflated qualitative data on temperature and precipitation from many sources that could not be combined into a consistent proxy record. That hostility is reflected in the released CRU e-mails (e.g. CRU 1051156418.txt, 1051202354.txt), and the following e-mail from Jones to Mann on 11.3.03 (1047388489.txt):
6. Climate Research誌に掲載された、SoonとBaliunas(2003年)による過去1000年間のproxy気候と環境の変化というタイトルの論文は、過去2000年の間に過去に発表された240件の気温動向に関する論文をレビューした。 それは、20世紀後半は半球規模での最後の2000年の最も暖かい時期だったとするMann et al(1998、1999)の結論に異議を唱え、最近の気温は決してこの時期にわたって前例のないことではないと主張した。 それは人為起源の地球温暖化の仮説に懐疑的な人々によって熱意をもって迎えられた。 しかし、それは、一貫性のあるproxy記録にまとめることができなかった多くの情報源からの気温と降水量に関する定性的データをまとめたことにより、科学的な理由で他の多くの気候科学者から否定的な受信を受けた。 その敵意は、リリースされたCRUの電子メール(例:CRU 1051156418.txt、1051202354.txt)、および11.3.03のJonesからMannへの次の電子メール(1047388489.txt)に反映されている。
“I think the skeptics will use this paper to their own ends and it will set paleo back a number of years if it goes unchallenged. I will be emailing the journal to tell them I'm having nothing more to do with it until they rid themselves of this troublesome editor (de Freitas), a well-known skeptic in NZ. A CRU person is on the board but papers get dealt with by the editor assigned by Hans von Storch."
「私は懐疑論者がこの論文を自分たちの目的のために使うであろうと思います。 それが挑戦されなければそれは古気候学を何年も後退させるでしょう。 彼らがNZでよく知られている懐疑論者であるこの厄介な編集者(de Freitas)を取り除くまで、私はジャーナルに電子メールを送って、彼らにはそれ以上協力しないと伝えます。 CRU担当者が参加していますが、論文はHans von Storchによって割り当てられた編集者が担当します。」
7. The S&B paper had been seen by four reviewers, none of whom had recommended rejection, and had been accepted by de Freitas (one of 10 Climate Research review editors; papers could be submitted to any one of them). A number of review editors resigned as a reaction against the publication of what they regarded as a seriously flawed paper. The journal's publisher admitted that the journal should have requested appropriate revisions of the manuscript prior to publication. The Editor in Chief resigned on being refused permission by the publisher to write an editorial about what he regarded as a failure of the peer review system. De Freitas was said to have described these events as “a mix of a witch-hunt and the Spanish Inquisition”.
7. S&B論文は4人の査読者によって見られ、誰も却下を推奨しておらず、de Freitasによって承認された(10人のClimate Research査読編集者のうちの1人; 論文はそれらのいずれかに提出することができる)。 多くのレビュー編集者は、深刻な欠陥のある論文との公表に対する反発として辞任した。 ジャーナルの出版社は、ジャーナルが出版前に原稿の適切な改訂を要求しているべきであると認めた。 編集長は、査読システムの失敗と見なした社説を書くことを出版社に拒否されたことで辞任した。 De Freitasは、これらの出来事を「魔女狩りとスペインの異端審問の混合」と表現したと言われている。
8. These events, and the e-mail quote in paragraph 6, have led to the allegation that normal procedures of publications were being improperly undermined by a group that included Jones.
これらの出来事、および第6項の電子メールによる引用は、通常の出版物の手続きが、これらの出来事、および第6項の電子メールによる引用は、通常の出版物の手続きが、Jonesを含むグループによって不適切に損なわれているという主張をもたらした。
9. Jones has responded in evidence to us that the reaction to the S&B paper was not improper or disproportionate given what he saw as the self evident errors of the paper. The arguments presented in the Eos article, if correct, are strongly put, and suggest that the reaction was based on a belief, for which evidence was adduced, that the science was poor. In light of the reaction of the Journal's publisher, we do not believe that any criticism of Jones can be justified in this regard.
9.Jonesは、S&Bの論文への反応は、彼がその論文の自明の誤りであると考えたことを考えると、不適切でも不均衡でもないと我々に証言として答えた。 Eosの記事に提示されている議論は、正しいならば強く主張されるはずであり(簡単に撤回されない)、その反応(ジャーナルの出版社が誤りを認めたこと)は科学が貧弱であるという証拠に説得力があるという信念に基づいていたことを示唆している。 ジャーナルの出版社の反応に照らして、我々はジョーンズに対するいかなる批判もこの点に関して正当化できるとは考えない。
10. Finding: This was clearly a bruising experience for all concerned. But Richard Horton‘s paper (Appendix 5) and the comments on it in Chapter 5 suggest to the Team that this scale of reaction is not unusual in contested areas, and the peer review process does not provide insulation from it. The Review makes no judgement about the correctness or otherwise of the Soon and Baliunas paper, but we conclude that the strong reaction to it was understandable, and did not amount to undue pressure on Climate Research.
10. 所見:これは明らかに関係者全員にとって打撃を与える経験だった。 しかし、Richard Hortonの論文(付録5)と第5章のそれに対するコメントは、この規模の反応は争いのある分野では珍しいことではなく、ピアレビュープロセスはそれからの絶縁を提供しないことをチームに示唆している。 このレビューでは、Soon and Baliunasの論文の正しさやその他についての判断はなされていないが、それに対する強い反応は理解できるものであり、気候研究に対する過度の圧力にはならないと結論づけた。
気候(climate)分野にはJournal of Climate(IF:3.513〜4.850)、Climate Dynamics(IF:3.774〜4.673)、Climate of the Past(IF:2.821〜3.638)などの学術誌があるが、Climate Research(IF:1.690/2015)はそれらに比べるとはるかに格下の雑誌である。 そして、地球温暖化懐疑論に詳細に記載しているとおり、Soon(ウェイ=ホック・スーン)は石油産業から多額の資金提供を受けている。 調べてみると、Baliunas(サリー・バリウナス)も石油産業から多額の資金提供を受けているようである。 それよりも、「papers could be submitted to any one of them (論文はそれらのいずれかに提出することができる)」との記載には驚く。 submitが出版社から査読者に原稿を送信することを意味するなら、「S&B paper had been seen by four reviewers」なのだから、「any one」ではなく「any four」になるはずである。 査読人数が4人とは決まっていないなら「any few」であろうか。 いずれにせよ「any one」はあり得ない。 よって、これを普通に読めば、submitの主語は論文執筆者としか読めない。 論文執筆者が査読者を選んで原稿を提出できるなら、査読者の氏名が公表されていることになる。 真っ当な学術誌では、買収を防ぐために、現在の査読者を秘密にする。 そして、真っ当な学術誌なら、氏名を公表せざるを得ない編集委員と氏名を秘密にする査読者を兼任させない。 ところが、Climate Researchでは、「one of 10 Climate Research review editors (10人のClimate Research査読編集者のうちの1人)」のde Freitas「(had been accepted by ) によって承認された」となっている。 通常、論文の掲載可否を決定するのは編集委員会であり、その責任は編集委員長が持つ。 つまり、Climate Researchでは、査読者が氏名の明示された編集委員長を兼ねていたことになる。 以上を踏まえると、Climate Researchでは、査読者が誰か秘密にされていないのであり、それではまともな査読は期待できない。 Soonは、宇宙工学の博士号はあるが気象・気候学の専門家ではなく、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの非常勤無給会員に過ぎない。 Baliunasも、天文科学者であって気象・気候学の専門家ではない。 ようするに、これは、気象・気候学の専門家ではない無名の科学者が疑似科学的な論文を査読の緩そうな「科学」誌に投稿した事件である。 はるかに格下とはいえ査読付きを標榜している学術誌であるClimate Research誌に、「ジャーナルの出版社は、ジャーナルが出版前に原稿の適切な改訂を要求しているべきであると認め」るような科学的根拠の薄弱なSoonとBaliunasの論文(2003年)が、「4人の査読者によって見られ、誰も却下を推奨」されずにそのまま掲載されるのは異常事態である。 この異常事態が偽装懐疑論者に悪用され、古気候学が何年も後退することを懸念して、「I am having nothing more to do with it (これ以上何も協力しない)」と抗議することは、誰が見ても、正当な行動の範囲を逸脱しているとは言い難い。 むしろ、科学者としての良心に基づいた勇気ある行動として賞賛されるべきだろう。 「ジャーナルの出版社は、ジャーナルが出版前に原稿の適切な改訂を要求しているべきであると認め」たことこそがその証拠であり、ラッセル・レビューチームの報告書も「我々はジョーンズに対するいかなる批判もこの点に関して正当化できるとは考えない」としている。
その他の査読妨害疑惑は英国議会下院科学技術委員会の報告書にも記載されている。
CRUの科学者は論文査読プロセスを濫用し,気候変動に関して異なる意見をもつ論文が科学雑誌に掲載されないようにしている,という告発があった。 主として以下の3つからなる。
第1は,影響力の大きい気候学者のグループが共謀の上,IPCCや科学雑誌の査読プロセスを濫用し,結果そのグループの温暖化についての考えを否定するような研究成果の出版などが遅延,あるいは阻止されているという,David Holland からの告発である。 これについて,HCSTC-2010ではJonesからMannに宛てた“HIGHLY CONFIDENTIAL”と題された電子メール(2004年7月8日)を掲載している。 電子メールから,Jonesがある2つの論文3)をAR4から故意に締めだそうとしているように読みとれる,とHCSTC-2010は指摘している。
前述の論文査読プロセスの濫用に関わる3つの告発に対して,HCSTC-2010におけるJonesの釈明は,以下の通りである。 第1の2つの論文がIPCC報告書から締めだされた理由は,Jonesがその2つの論文がとても良い(very good)とは思わなかったからである。
「Jonesがその2つの論文がとても良い(very good)とは思わなかった」と評価しただけである。 Jones教授がIPCCでも見解を述べているが、IPCCにおけるJones教授は「were not in a position to determine individually the final wording and content (最終的な文言や内容を個別に決定する立場にはなかった)」と、後で紹介するラッセル・レビューチームの報告書に記載されている。 地球温暖化懐疑論にて紹介している通り、IPCC第1作業部会第4次評価報告書では懐疑論の論文も紹介されており、温暖化論に都合の悪い論文を排除していないことは明らかである。
第2は,研究上の不正行為に関する論文を気候学者は抑圧しようとしている,という告発である。 具体的には,Global Warming Policy FoundationのDirectorのBenny Peiserは,CRUだけに限らず気候学者が,研究不正に関する論文が出版されることを,学問的道義に反して懸命に阻止しようとしている様子が電子メールからみえる,と述べている。
第2の研究不正に関する論文の阻止に関し,JonesはE&Eを編集していたPeiserからE&Eのある論文に対する非公式な意見を求められた際,その論文がとても良い(very good)とは思わなかった旨をPeiserに伝えたことがある。
(E&E)Energy and Environment(IF:0.568/2017)は、大御所のEnergy & Environmental Science(IF:9.446〜30.067)とは全くの別物のようである。 先ほど論文の科学的根拠の不備を指摘されたSoonとBaliunasは、今度は、気象・気候の専門外で、かつ、かなり格の低いEnergy and Environmentに新しい論文を投稿した。 この辺りは、その顛末である。
第3は,IPCC評価報告書の査読者であり,かつ,Energy & Environment(E&E)の編集者のSonja Boehmer-Christiansen からの,E&EがCRUの科学者からの攻撃の的になった,との告発である。 流出した電子メールから,E&Eの査読プロセスに対して,E&Eが不利益を被るような操作が試みられ,またE&Eの編集チームを脅迫することも検討されたことがわかった。 さらにJonesは,Boehmer-Christiansenが所属する大学の部局に圧力をかけようとした,との告発である。
第3のBoehmer-Christiansenからの告発については,Jonesが圧力をかけたと訴えられた部局の長あてにJonesはその告発についての電子メールを送っており,その時対応していたと説明している。
この内容だと何をどう「その時対応していた」のかはわからないが、この一件はラッセル・レビューチームの報告書にも記載されている。
14. Finding: We see nothing in these exchanges or in Boehmer-Christiansen's evidence that supports any allegation that CRU has directly and improperly attempted to influence the journal that she edits. Jones' response to her accusation of scientific fraud was appropriate, measured and restrained.
14. 所見:これらのやりとりやBoehmer-Christiansenの証言に、CRUが編集したジャーナルに直接かつ不適切に影響を及ぼそうとしたという主張を裏付けるものは何もない。 科学的詐欺の彼女の非難に対するジョーンズの対応は適切で、考慮され、そして抑制されていた。
尚、以下のメールを読むと、Jones教授たちは、少しでも疑義を訴える人は全て偽装懐疑論者ではないかと疑心暗鬼に陥っている様子が読み取れる。
From: Phil Jones <p.jones@xxxxxxxxx.xxx>
To: "Michael E. Mann" <mann@xxxxxxxxx.xxx>
Subject: HIGHLY CONFIDENTIAL
Date: Thu Jul 8 16:30:16 2004
Mike,
Only have it in the pdf form. FYI ONLY - don't pass on. Relevant paras are the last
2 in section 4 on p13. As I said it is worded carefully due to Adrian knowing Eugenia for years. He knows the're wrong, but he succumbed to her almost pleading with him to tone it down as it might affect her proposals in the future !
I didn't say any of this, so be careful how you use it - if at all. Keep quiet also that you have the pdf. The attachment is a very good paper - I've been pushing Adrian over the last weeks to get it submitted to JGR or J. Climate. The main results are great for CRU and also for ERA-40. The basic message is clear - you have to put enough surface and sonde obs into a model to produce Reanalyses. The jumps when the data input change stand out so clearly. NCEP does many odd things also around sea ice and over snow and ice. The other paper by MM is just garbage - as you knew. De Freitas again. Pielke is also losing all credibility as well by replying to the mad Finn as well - frequently as I see it. I can't see either of these papers being in the next IPCC report. Kevin and I will keep Them out somehow - even if we have to redefine what the peer- review literature is !
その辺りの事情はジャーナリストFred PEARCEの書籍等で紹介されている。
著者はイギリスの新聞Guardianと雑誌New Scientistの常連解説者であり、本書の大部分はGuardianに出た記事を改訂したものらしい。
続いて、事件以前から、アメリカのMannおよびCRUのJonesたちの仕事に対して、カナダのMcIntyreをはじめとする温暖化懐疑論者がどんな批判をしていたかの話になる。 そして、暴露されたメールの内容も使って、JonesたちがMcIntyreたちに強い反感をもつに至っていたことが説明される。 McIntyreはまじめな懐疑論者であるらしいが、その議論を使って温暖化を否定しようとする宣伝屋との区別が、Jonesたちから見るとつかなかったようだ。
環境ジャーナリストが見たClimategate事件 - yuku kawa
暴露されたメールの、とくに学術雑誌の査読に関する議論などから、JONESやMANNが「懐疑派」を敵視していたらしいことが感じられる。 どうやら、MCINTYREたちは個人的正義感および好奇心で行動していて、化石燃料産業傘下の宣伝屋ではなかったらしいのだが、宣伝屋がさかんにMCINTYREたちの材料を使うので、JONESたちから見ると両者の区別がつかず、ひとつの悪意ある集団に見えたようなのだ。 ある科学者からのメールに添付されたパロディー漫画ではその混同が典型的に現われている。 漫画にとりあげられた人が怒るのも無理もないが、どちらが悪いというわけでもなく、不幸ななりゆきだったのだと思う。
クライメートゲート事件 / Climategate (Mosher & Fuller) - 増田耕一の個人ウェブサイト
「クライメートゲート事件」で流出したメールの中で,気候研究者たちが批判者に対して攻撃的であり排他的であるように見えるのも,もとはといえば彼らが常日頃からこのような妨害活動の影響を受けて辟易し,腹に据えかねるほど憤っていたことが背景にある。 日本国内ではこのような組織的な活動の存在を筆者は知らないが,影響は国内にも大きく波及している。 ネット等で出回る欧米発の温暖化懐疑論の多くはこのような組織的な活動に由来する可能性が高いが,これらをせっせと「勉強」して国内に紹介してくださる「解説者」が少なくないからだ。
そのように疑心暗鬼になった原因は、偽装懐疑論者による不当かつ執拗な嫌がらせのせいである。 CRUメール流出事件(クライメイトゲート事件)もそうした不当かつ執拗な嫌がらせの一環であった。
一連の調査によって、流出した電子メールに名前があった科学者たちの嫌疑は晴れ、気候科学の信憑性を損なう証拠は皆無であったことが確認された。 流出したメールを読めば分かることだが、UEAからハッキングされた電子メールで明らかになったのは、気候科学者が外部からの大きなプレッシャーの下で研究しているという状況だ。 すなわち、科学者たちは常にペテン師やいかさま師だと非難され、彼らの研究内容は曲解されたり誤って伝えられたりしてきた。 そして否定論者たちが画策した、嫌がらせめいた情報開示の要求攻めに遭ってきたのだ。
要するに科学者たちは、あまり理解もせず参加したくもなかったセンセーショナルな政治議論に巻き込まれてしまったのだ。 しかも、抜け目がなく秘密主義的で情け容赦ない団体が科学者たちをターゲットにし、科学者が言ったり書いたりすることに食ってかかろうと待ち構えている。 これがクライメイトゲート事件の真相である。 一方、当事者だった科学者たちは自身のプロとしての評価が世界中のメディアにおいて不当に傷つけられるのを目撃した。 メディアの猛攻撃と数々の死の脅迫の後、気候研究ユニット主任のフィル・ジョーンズ博士は自殺の瀬戸際にまで追い詰められた。
こうした背景があるため、温暖化に批判的な論文をIPCC報告書に掲載することを嫌がる科学者もいた。 もちろん、こうした行為は褒められるものではないが、背景事情を考えれば止むを得ない所もあろう。 そして、最も大事なことは、こうした掲載反対の声があるにも関わらず、温暖化に批判的な論文がIPCC報告書にしっかりと掲載されている事実である。
ただし、この話には続きがあります。 これらの批判的な論文は、結果的にはIPCC報告書に引用されたのです。 実は、IPCCの報告書の原稿自体も、世界中の専門家と政府担当者から、合計3回の査読を経て作成されます。 そして、少なくとも温暖化の科学に関する部分(第1作業部会)に関しては、すべての査読コメントとその1つ1つに対する執筆者の応答が、インターネット上に公開されています。 つまり、これまでもIPCCは相当程度に自覚的に、評価の過程を透明にすることに努力しているということです。 そのせいかどうかはわかりませんが、主流に対して批判的な論文も、必要なものは引用されています。 ここからもわかるように、一部の研究者が恣意的にIPCC報告書の内容を大きく変えることは不可能でしょう。
英国議会下院科学技術委員会の報告書やラッセル・レビューチームの報告書では、一連の査読妨害疑惑について、次のように結論づけている。
73. The evidence that we have seen does not suggest that Professor Jones was trying to subvert the peer review process. Academics should not be criticised for making informal comments on academic papers. The Independent Climate Change Email Review should look in detail at all of these claims.
73. 我々が確認した証拠は、ジョーンズ教授が査読プロセスを覆そうとしていたことを示唆するものではない。 学術論文に対して非公式のコメントをすることに対して批判されるべきではない。 独立気候変動Eメールレビューは、これらすべての主張を詳細に見るべきである。
最後にJonesは,自身やCRUが査読プロセスの濫用を試みたことを裏づけるような電子メールはどんな点においてもなかった,とまとめている。 HCSTC-2010もJonesが査読プロセスを濫用しようとした証拠はなかったことを強調している。
クライメート・ゲート事件 地学雑誌119(3):鈴木力英 - J-STAGE
8.6 Conclusions (結論)
18. In our judgement none of the above instances represents subversion of the peer review process nor unreasonable attempts to influence the editorial policy of journals. It might be thought that this reflects a pattern of behaviour that is partial and aggressive, but we think it more plausible that it reflects the rough and tumble of interaction in an area of science that has become heavily contested and where strongly opposed and aggressively expressed positions have been taken up on both sides. The evidence from an editor of a journal in an often strongly contested area such as medicine (Appendix 5) suggests that such instances are common and that they do not in general threaten the integrity of peer review or publication.
18. 我々の判断では、上記の例のどれも査読プロセスの破壊や雑誌の編集方針に影響を与える不当な試みを表すものではない。 これは部分的かつ攻撃的な行動パターンを反映していると思われるかもしれないが、激しく争われてきた科学の分野における対話の激しい転回を反映していると考えられる。 医学のように強く争われている分野のジャーナルの編集者からの証拠(付録5)は、そのような事例は一般的であり、一般に査読や出版の完全性を脅かすものではないことを示唆している。
Climategate(クライメイトゲート)事件の調査報告
Ronald Oxburghを長とする科学評価パネル
Conclusions
結論
1. We saw no evidence of any deliberate scientific malpractice in any of the work of the Climatic Research Unit and had it been there we believe that it is likely that we would have detected it. Rather we found a small group of dedicated if slightly disorganised researchers who were ill-prepared for being the focus of public attention. As with many small research groups their internal procedures were rather informal.
Climatic Research Uniのいかなる作業においても意図的な不正の証拠は見当たらず、もしも、不正があったのであれば、我々がそれを見つけた可能性が高いと信じる。 誰もが世間の注目の焦点であることに備えた準備ができていない多少混乱している小規模な研究グループを見つけた。 多くの小規模な研究グループと同様に、それらの内部手続きはかなりinformalであった。
2. We cannot help remarking that it is very surprising that research in an area that depends so heavily on statistical methods has not been carried out in close collaboration with professional statisticians. Indeed there would be mutual benefit if there were closer collaboration and interaction between CRU and a much wider scientific group outside the relatively small international circle of temperature specialists.
統計的手法に大きく依存している分野の研究が、専門の統計家との密接な協力のもとに実施されていないことは非常に驚くべきことであると言われても仕方がない。 CRUと比較的小規模な国際的な温度専門家グループの枠を超えた遥かに広い科学グループとの間でより密接な協力関係および相互作用があれば、確かな相互利益があるだろう。
3. It was not the immediate concern of the Panel, but we observed that there were important and unresolved questions that related to the availability of environmental data sets. It was pointed out that since UK government adopted a policy that resulted in charging for access to data sets collected by government agencies, other countries have followed suit impeding the flow of processed and raw data to and between researchers. This is unfortunate and seems inconsistent with policies of open access to data promoted elsewhere in government.
それはパネルの当面の関心事ではないが、我々は、環境データセットの入手可能性に関して重要で未解決の問題があることを見出した。 英国政府が政府機関によって収集されたデータセットへのアクセスに課金するポリシーを採用して以来、他の国々も同様、研究者間および研究者間の処理済みデータおよび生データの流れを妨げていると指摘されている。 これは残念なことであり、政府の他の場所で推進されているデータへのオープンアクセスの方針と矛盾しているように見える。
4. A host of important unresolved questions also arises from the application of Freedom of Information legislation in an academic context. We agree with the CRU view that the authority for releasing unpublished raw data to third parties should stay with those who collected it.
学問的な文脈での情報自由法の適用からも多くの未解決の問題がある。 未公開の生データを第三者に公開するかどうかはそれを収集した人に委ねるべきとするCRUの見解に我々は同意する。
APPENDIX A PANEL MEMBERSHIP
付録A パネル構成員
Chair: Prof Ron Oxburgh FRS (Lord Oxburgh of Liverpool)
Prof Huw Davies, ETH Zürich
Prof Kerry Emanuel, Massachusetts Institute of Technology
Prof Lisa Graumlich, University of Arizona.
Prof David Hand FBA, Imperial College, London.
Prof Herbert Huppert FRS, University of Cambridge
Prof Michael Kelly FRS, University of Cambridge
議長:Ron Oxburgh 教授・王立協会フェロー (リバプールのOxburgh卿)
Huw Daviesチューリッヒ工科大学教授
Kerry Emanuelマサチューセッツ工科教授
Lisa Graumlichアリゾナ大学教授
David Handインペリアル・カレッジ・ロンドン教授・英国学士院会員
Herbert Huppert ケンブリッジ大学教授・王立協会フェロー
Michael Kellyケンブリッジ大学教授・王立協会フェロー
この報告書では不正はなかったと結論づけられている。 途中には細かい問題点も指摘しているが、それは、他のもっと辛辣な調査報告の紹介で十分だろう。
英国議会下院科学技術委員会の報告書
Current membership
Mr Phil Willis (Liberal Democrat, Harrogate and Knaresborough)(Chair)
Dr Roberta Blackman-Woods (Labour, City of Durham)
Mr Tim Boswell (Conservative, Daventry)
Mr Ian Cawsey (Labour, Brigg & Goole)
Mrs Nadine Dorries (Conservative, Mid Bedfordshire)
Dr Evan Harris (Liberal Democrat, Oxford West & Abingdon)
Dr Brian Iddon (Labour, Bolton South East)
Mr Gordon Marsden (Labour, Blackpool South)
Dr Doug Naysmith (Labour, Bristol North West)
Dr Bob Spink (Independent, Castle Point)
Ian Stewart (Labour, Eccles)
Graham Stringer (Labour, Manchester, Blackley)
Dr Desmond Turner (Labour, Brighton Kemptown)
Mr Rob Wilson (Conservative, Reading East)
135. Consideration of the complaints and accusations made against CRU has led us to three broad conclusions.
135. CRUに対する苦情や告発を検討した結果、3つの大きな結論が導いた。
136. Conclusion 1 The focus on Professor Jones and CRU has been largely misplaced. On the accusations relating to Professor Jones’s refusal to share raw data and computer codes, we consider that his actions were in line with common practice in the climate science community. We have suggested that the community consider becoming more transparent by publishing raw data and detailed methodologies. On accusations relating to Freedom of Information, we consider that much of the responsibility should lie with UEA, not CRU.
136.結論1 Jones教授とCRUへの注目は、大部分が見当違いである。 Jones教授の生データとコンピュータコードの共有の拒否に関する非難については、彼の行動は気候科学界での一般的な慣行と一致していたと我々は考える。 我々は、生データと詳細な方法論を公表することによってコミュニティがより透明になることを検討することを提案した。 情報の自由に関する告発に関して、我々は責任の多くがCRUではなくUEAにあるべきであると考える。
137. Conclusion 2 In addition, insofar as we have been able to consider accusations of dishonesty—for example, Professor Jones’s alleged attempt to “hide the decline”— we consider that there is no case to answer. Within our limited inquiry and the evidence we took, the scientific reputation of Professor Jones and CRU remains intact. We have found no reason in this unfortunate episode to challenge the scientific consensus as expressed by Professor Beddington, that “global warming is happening [and] that it is induced by human activity”. It was not our purpose to examine, nor did we seek evidence on, the science produced by CRU. It will be for the Scientific Appraisal Panel to look in detail into all the evidence to determine whether or not the consensus view remains valid.
137.結論2 さらに、不正行為の疑惑を考慮することができた限りにおいては、(たとえば、ジョーンズ教授の“hide the decline”とされている)、答えることはできないと考える。 限られた調査と取得した証拠の中では、Jones教授とCRUの科学的評判は変わらない。 この不幸なエピソードでは、「地球温暖化が起こっていること、そしてそれが人間の活動によって引き起こされていること」というBeddington教授によって表された科学的コンセンサスに異議を唱える理由は見いだせなかった。 CRUによって生み出された科学を調べること、または、それについての証拠を探すことは我々の目的ではなかった。 科学的鑑定委員会がすべての証拠を詳細に調べて、コンセンサス見解が有効であるかどうかを判断する。
138. Conclusion 3 A great responsibility rests on the shoulders of climate science: to provide the planet’s decision makers with the knowledge they need to secure our future. The challenge that this poses is extensive and some of these decisions risk our standard of living. When the prices to pay are so large, the knowledge on which these kinds of decisions are taken had better be right. The science must be irreproachable.
138.結論3 我々の将来を守るために必要な知識をこの星の意思決定者に提供する大きな責任が気候科学の肩にかかっている。 これがもたらす課題は広範囲であり、これらの決定のいくつかは我々の生活水準を危険にさらす。 支払うべき価格がそれほど大きいときは、これらの種類の決定が下される知識は正しいほうが良い。 科学は申し分のないものでなければならない。
報告の科学的根拠はThe disclosure of climate data from the Climatic Research Unit at the University of East Anglia (Eighth Report of Session 2009–10) Volume II - 英国議会にまとめられている。
この報告書でも不正はなかったと結論づけられている。 Jones教授がデータの共有を拒否したことは「気候科学界での一般的な慣行と一致していた」とした一方で、UEAの責任で透明性を改善すべきことを指摘している。
日本では本事件についてマスコミで大きくとりあげられることがあまりなかったようだが,本国イギリスでは大手メディアが論説を組むなど,騒ぎは大きかった。 イギリス政府も本事件について本格的な調査,分析を試みている。 イギリス議会下院のScience and Technology Committeeが2010年3月31日に出版した2巻(それぞれ全59ページと全198ページ)からなる報告書(House of Commons Science and Technology Committee, 2010; 以下,HCSTC-2010と略す)は,本事件について極めて詳細に報告している。 以下,本章ではHCSTC-2010をもとに,事件の概要を解説する。
不正はなかったと結論づけられたことはすでに説明した通りである。
HCSTC-2010は1999年11月16日にJonesからRay Bradley)に宛てた電子メールの抜粋を掲載している。 それによると「私は最近数十年間の温度時系列に対して,その低下を隠す(“hide the decline”)ために,MikeのNatureの“trick”を加えることを今完了した」,というようなことが書かれている。 Mikeとはペンシルバニア州立大学で年輪など気候のプロキシ(代替)指標を使い,過去の気候変動などの研究を行っているMichael Mann のことである。 “trick”と“hide the decline”という言葉はJones側がデータを変造し温暖化を誇張していたことを示すものとして一部の人々に受けとられた。
IPCC第3次評価報告書には,過去1,000年間の北半球平均気温の図が掲載されている(例えば, IPCC, 2001 の Fig. 1)。 図中,データの不確実性を除外して平均値だけでみると,1000年から1900年頃まで気温の変動はあまり大きくなく,その後劇的に昇温に転じ,その傾向のまま2000年に至っている。 そのグラフの形状から,“ホッケースティック曲線”と呼ばれている(Montford, 2010)。 Chill(Taylor, 2009)の著者であるPeter Taylorは“trick”について,年輪データによって復元された気温がホッケースティック曲線と整合しなかったため,Jonesのグループは「年輪データの代わりに測器によるデータを使う“trick”を検討した」,と述べている。 また,評論家からは,“trick”や“hide the decline”という言葉は,「近年の温暖化は人間活動のせいである」というJonesの持論にそぐわない事実を隠すため,彼が陰謀を企てた証拠かもしれないと指摘された。
前章で述べた問題に対するHCSTC-2010やメディアによる解釈や,Jones自身の釈明を紹介する。 まず,HCSTC-2010は電子メール中の“trick”という言葉について,データの巧妙(neat)な処理法についての独特の言い回し(colloquialism)のようであり,陰謀を意味するものではないことは明らかである,と結論している。 さらに,“hide the decline”は信頼性の低いデータを捨てる習慣についての省略表現(shorthand)だったと記している。 Natureの論説(Nature, 2009)では,“trick”とは賢い(合理的な)テクニックを意味する通言(slang)であると述べている。 筆者は,そもそも年輪データよりも測器による観測データの方が信頼性は高いはずなので,年輪データの代わりに測器データを使ったことは,表現の怪しさ以前の正当な処理だったのではないかとも考える。
ホッケースティック曲線に捏造がないことも認められている。
前章では網羅しきれなかったが,このほかHCSTC-2010ではデータやその解析手法の透明性に関する問題にも言及している。 流出したいくつかの電子メールからは,たとえそれが提供元から再配布の制限を受けていないデータであっても,Jonesがデータの共有要求をそっけなく断っている様子がうかがえるらしい。 Jonesはデータ提供要求が単に彼の研究のあらさがしの目的をもっていたと認識しており,その理由から要求を断わったことは理解できるが,Jonesのとった行動は前向きだったとはいえない,とHCSTC-2010は書いている。 また,気候学の分野では生データや計算を行ったソースプログラムを公開することはこれまで一般的ではなかったが,今後は研究の透明性を確保するために,米国NASAが行っているように公開することを検討するべき,とHCSTC-2010は指摘している。
偽装懐疑論者を警戒することは当然であろうが、真性懐疑論者にまでデータ開示を拒否したのは行き過ぎだったのだろう。
HCSTC-2010はCRUの研究結果の検証につても意見を述べている。 地上観測地点における観測データをもとにした世界の主要気温データセットとして,現在CRUのCRUTEM3と呼ばれるデータセットのほかに,米国海洋大気庁の気候データセンター(National Climatic Data Center: NCDC)のデータセット,それから,NASAのゴダード宇宙科学研究所(Goddard Institute of Space Studies: GISS)のデータセットが国際的に認められている。 これらの気温データは,もとをたどれば世界各地で行われた気温観測のデータに基づいているが,データの処理はそれぞれまったく独立して行われている。 CRUTEM3とともに,NCDCやGISSデータセットでも同様に1850~2005年にかけて地上気温に上昇傾向が表れていることはAR4にも示されている(Trenberth et al.(2007)の Fig. 3.1)。 このように,独立した複数のデータセットが酷似した気温変化を示していることこそ,CRUTEM3の結果や結論が検証されたことを示している,としている。
「独立した複数のデータセットが酷似した気温変化を示している」という点は、CRUの研究に不正がないばかりか、大きな誤りがないことも示している。
事件と関連して,国内では日本学術会議が主催する公開シンポジウム「IPCC問題の検証と今後の科学の課題」が,2010年4月30日に日本学術会議講堂で開催された。 クライメート・ゲート事件も含む,IPCCに関する問題について,筆者は日本を代表する8名の専門家からの意見を聞く機会を得た。 気候変動についての科学界での議論が,政治的な土俵で再吟味されるようになったことが,事件につながったとの考え方が示された。
シンポジウムでは,電子メールが発端となった件とは別に,AR4におけるヒマラヤの氷河が2035年までに消失するという記述(Cruz et al., 2007)が誤りであった件がとりあげられた。 これは,立証が不十分な推定を参照したために起こったIPCCの不手際であった,とされる(http://www.env.go.jp/earth/ipcc/ipcc_statement/20100120.pdf 【Cited 2010/5/31】)。 AR4の膨大な知見から比べれば瑣末な間違いであり,主要な結論を損ねるものではないが,評価報告書の無謬性に関わる問題である。 国際科学会議(Interna-tional Council for Science)は,IPCC評価報告書は無謬ではなく,間違いや変更を迫られる古い仮説があれば,それを素直に認め,訂正することが大切であることを指摘している(http://www.icsu.org/Gestion/img/ICSU_DOC_DOWNLOAD/3031_DD_FILE_IPCCstatementICSUfin.pdf 【Cited 2010/5/31】)。
科学的研究にはこうした間違いはつきものであり、これはIPCC評価報告書全体の評価を低下させるものではない。
本事件に関するさまざまな資料を追ってみて,もう1つ感じたことがある。 IPCC評価報告書の肯定派に対して,一部の温暖化懐疑論者がセンセーショナルな表現で非難する一方で,肯定派が自らの正統性を主張する言葉にも感情的な側面が感じられたことである。 Nature(2009)では,地球温暖化人為起源説に反する証拠を主流科学者が隠蔽していたことが電子メールから証明された,として鬼の首をとったかのような否定論者に対し,「この偏執的な解釈(paranoid interpretation)はばかばかしい(laughable)」とかなり刺激的な表現を使って語っている。 確かに,懐疑論のなかには「偏執的な解釈」に基づいた「でっちあげられた議論」が含まれているだろう。 しかし,懐疑論のなかには科学者の良心に基づき,科学的に検討されているものもある。 今回の事件によって,懐疑論全体が十把一絡げにとるに足りない「偏執的な解釈」とみなされるようにならないことを祈りたい。
この点は、CRUもデータ開示に応じるようになって改善された模様である。
ラッセル・レビューチームの報告書
以下について和訳する。
- EXECUTIVE SUMMARY(要約)のFindings(調査結果)
- Conclusions(結論)
- Recommendations(勧告)
1.3 Findings (調査結果)
13. Climate science is a matter of such global importance, that the highest standards of honesty, rigour and openness are needed in its conduct. On the specific allegations made against the behaviour of CRU scientists, we find that their rigour and honesty as scientists are not in doubt.
13. 気候科学はとても世界的に重要な問題であり、その行動には最高水準の誠実さ、厳格さおよび開放性が必要とされる。 CRUの科学者の行動に反する具体的な主張については、科学者としての彼らの厳格さと誠実さは疑いの余地がないことを見出した。
14. In addition, we do not find that their behaviour has prejudiced the balance of advice given to policy makers. In particular, we did not find any evidence of behaviour that might undermine the conclusions of the IPCC assessments.
14. さらに、彼らの行動が政策立案者に与えられた助言のバランスを害していることは見出せなかった。 特に、IPCC評価の結論を損なう可能性のある行動の証拠は見当たらなかった。
15. But we do find that there has been a consistent pattern of failing to display the proper degree of openness, both on the part of the CRU scientists and on the part of the UEA, who failed to recognise not only the significance of statutory requirements but also the risk to the reputation of the University and, indeed, to the credibility of UK climate science.
15. しかし、CRUの科学者とUEAの双方は、法定要件の重要性だけでなく、大学の評判や英国の気候科学の信頼性に対するリスクも認識しておらず、適切な程度の開放性を示すことができないという一貫したパターンがあることがわかった。
1.4 Recommendations (勧告)
29. Our main recommendations for UEA are as follows:
29. UEAに関する我々の主な勧告は以下の通りである。
Risk management processes should be directed to ensuring top management engagement in areas which have the potential to impact the reputation of the university.
リスク管理プロセスは大学の評判に影響を与える可能性がある分野でのトップマネジメントの関与を確実にすることに向けられるべきである。
Compliance with FoIA/EIR is the responsibility of UEA faculty leadership and ultimately the Vice-Chancellor. Where there is an organisation and documented system in place to handle information requests, this needs to be owned, supported and reinforced by University leadership.
FoIA / EIRへの準拠は、UEAの教職員リーダーシップ、そして最終的には副学長の責任である。 情報要求を処理するための組織と文書化されたシステムが整っている場合、これは大学の指導部によって所有され、支持され、強化される必要がある。
CRU should make available sufficient information, concurrent with any publications, to enable others to replicate their results. CRUは、他人がその結果を複製できるようにするために、あらゆる出版物と同時に十分な情報を提供する必要がある。
1.5 Broader Issues
30. Our work in conducting the Review has led us to identify a number of issues relevant not only to the climate science debate but also possibly more widely, on which we wish to comment briefly.
31. The nature of scientific challenge. We note that much of the challenge to CRU‘s work has not always followed the conventional scientific method of checking and seeking to falsify conclusions or offering alternative hypotheses for peer review and publication. We believe this is necessary if science is to move on, and we hope that all those involved on all sides of the climate science debate will adopt this approach.
32. Handling Uncertainty – where policy meets science. Climate science is an area that exemplifies the importance of ensuring that policy makers –particularly Governments and their advisers, Non-Governmental Organisations and other lobbyists – understand the limits on what scientists can say and with what degree of confidence. Statistical and other techniques for explaining uncertainty have developed greatly in recent years, and it is essential that they are properly deployed. But equally important is the need for alternative viewpoints to be recognized in policy presentations, with a robust assessment of their validity, and for the challenges to be rooted in science rather than rhetoric.
33. Peer review - what it can/cannot deliver. We believe that peer review is an essential part of the process of judging scientific work, but it should not be over- rated as a guarantee of the validity of individual pieces of research, and the significance of challenge to individual publication decisions should be not exaggerated.
34. Openness and FoIA. We support the spirit of openness enshrined in the FoIA and the EIR. It is unfortunate that this was not embraced by UEA, and we make recommendations about that. A well thought through publication scheme would remove much potential for disruption by the submission of multiple requests for information. But at the level of public policy there is need for further thinking about the competing arguments for the timing of full disclosure of research data and associated computer codes etc, as against considerations of confidentiality during the conduct of research. There is much scope for unintended consequences that could hamper research: US experience is instructive. We recommend that the ICO should initiate a debate on these wider issues.
35. Handling the blogosphere and non traditional scientific dialogue. One of the most obvious features of the climate change debate is the influence of the blogosphere. This provides an opportunity for unmoderated comment to stand alongside peer reviewed publications; for presentations or lectures at learned conferences to be challenged without inhibition; and for highly personalized critiques of individuals and their work to be promulgated without hindrance. This is a fact of life, and it would be foolish to challenge its existence. The Review team would simply urge all scientists to learn to communicate their work in ways that the public can access and understand. That said, a key issue is how scientists should be supported to explain their position, and how a public space can be created where these debates can be conducted on appropriate terms, where what is and is not uncertain can be recognised.
36. Openness and Reputation. An important feature of the blogosphere is the extent to which it demands openness and access to data. A failure to recognise this and to act appropriately, can lead to immense reputational damage by feeding allegations of cover up. Being part of a like minded group may provide no defence. Like it or not, this indicates a transformation in the way science has to be conducted in this century.
37. Role of Research Sponsors. One of the issues facing the Review was the release of data. At various points in the report we have commented on the formal requirements for this. We consider that it would make for clarity for researchers if funders were to be completely clear upfront in their requirements for the release of data (as well as its archiving, curation etc).
38. The IPCC. We welcome the IPCC‘s decision to review its processes, and can only stress the importance of capturing the range of viewpoints and reflecting appropriately the statistical uncertainties surrounding the data it assesses. Our conclusions do not make a judgement on the work of IPCC, though we acknowledge the importance of its advice to policy makers.
6.7 Conclusions and Recommendations (結論と勧告)
39. In summary, with regard to the allegations concerning the temperature data, the conclusions of the Review Team are as follows:
39.要約すると、気温データに関する申し立てに関して、レビューチームの結論は以下の通り。
Regarding data availability, there is no basis for the allegations that CRU prevented access to raw data. It was impossible for them to have done so.
データの入手可能性に関して、CRUが生データへのアクセスを妨げたという主張の根拠はない。 彼らがそうすることは不可能だった。
Regarding data adjustments, there is no basis for the allegation that CRU made adjustments to the data which had any significant effect upon global averages and through this fabricated evidence for recent warming.
データ調整に関しては、CRUがデータに調整を行ったことが世界平均に重大な影響を及ぼしたという主張の根拠はない。
We find that CRU was unhelpful in dealing with requests for information to enable detailed replication of the CRUTEM analysis.
CRUがCRUTEM分析の詳細な複製を可能にするための情報要求に対処するのには役に立たなかったことに我々は気づいた。
Crucially, we find nothing in the behaviour on the part of CRU scientists that is the subject of the allegations dealt with in this Chapter to undermine the validity of their work.
重大なことに、この章で取り上げられている主張の主題であるCRU科学者の側の行動には、彼らの研究の妥当性を損なうものは何もない。
40.Reflecting the analysis in Appendix 7, the Review has the following recommendations:
40.付録7の分析を反映して、レビューは以下を勧告する。
It would benefit the global climate research community if a standardised way of defining station metadata and station data could be agreed, preferably through a standards body, or perhaps the WMO. We understand that this is not straightforward and could be a lengthy process, but the process should start now. As example an xml based format would make the interpretation use, comparison, and exchange of data much more straightforward.
観測所のメタデータと観測所のデータを定義する標準化された方法が、できれば標準化団体、あるいはおそらくWMOを通じて合意されることができれば、それは世界の気候研究コミュニティに利益をもたらすだろう。 これは簡単ではなく、長いプロセスになる可能性があることを理解するが、プロセスは今開始する必要がある。 例として、xmlベースのフォーマットは解釈の使用、比較、そしてデータの交換をずっと簡単にするだろう。
Without such standardisation there will always be problems in issuing unambiguous lists, and assembling primary data from them. It would be in the public interest if CRU and other such groups developed a standard process to capture and publish a snapshot of the data used for each important publication.
そのような標準化がなければ、あいまいさのないリストを発行し、それらから一次データを集めることに常に問題がある。 CRUおよび他のそのようなグループが、重要な出版物それぞれに使用されるデータのスナップショットを取り込んで公開するための標準プロセスを開発した場合、それは公衆の利益になる。
7.4 Conclusions and recommendations (結論と勧告)
33. We do not find that the data described in AR4 and shown in Figure 6.10 is misleading, and in particular we do not find that the question marks placed over the CRU scientists’ input cast doubt on the conclusions.
33. AR4に記載され、図6.10に示されたデータが誤解を招くことは見出せないし、特にCRUの科学者に対する疑義が結論に疑問を投げかけることは見出せない。
34. The variation within and between lines, as well as the depiction of uncertainty is quite apparent to any reader. All relevant published reconstructions of which we are aware are presented, and we find no evidence of exclusion of other published temperature reconstructions which would show a very different picture. The general discussion of sources of uncertainty in the text is extensive, including reference to divergence and it therefore cannot be said that that anything has been suppressed. Presenting uncertainty in this way is a significant advance on the TAR.
34 行内および行間の偏差、ならびに不確実性の描写は、どの読者にも明らかである。 我々が知っているすべての関連する公開された再構成が提示されており、我々は他の公表された温度再構成の除外の証拠を全く見いだせない。 文中の不確実性の原因についての一般的な議論は、発散への言及を含めて広範囲に及ぶため、何かが抑制されたとは言えない。
35. We have seen no evidence to sustain a charge of impropriety on the part of CRU staff (or the many other authors) in respect of selecting the reconstructions in AR4 Chapter 6. This would require that all the conditions in paragraph 13 were met in respect of tree chronologies either used by, or created by, CRU. No evidence of this has either been presented to the Review, nor has it been assembled as a scientific study published elsewhere and subjected to scrutiny. For the same reasons we found no evidence that there is anything wrong with the CRU publications using the Yamal or other tree series.
35. AR4第6章の再構成の選択に関して、CRU職員(または他の多くの作者)の一部に不正の罪を問う証拠は見出せない。 これは、CRUによって使用されるか、またはCRUによって作成された第13項のツリー年代学に関して、すべての条件が満たされていることを要求する。 この証拠はレビューに提示されていないし、他の場所で発表されて精査の対象となっている科学的研究としてまとめられてもいない。 同じ理由で、Yamalやその他のツリーシリーズを使用したCRUの出版物に問題があるという証拠は見あたらない。
36. We find that divergence is well acknowledged in the literature, including CRU papers.
36.発散はCRU論文を含む文献でよく知られていることがわかる。
37. In relation to “hide the decline” we find that, given its subsequent iconic significance (not least the use of a similar figure in the IPCC TAR), the figure supplied for the WMO Report was misleading in two regards. It did not make clear that in one case the data post 1960 was excluded, and it was not explicit on the fact that proxy and instrumental data were spliced together. We do not find that it is misleading to curtail reconstructions at some point per se, but that the reason for doing so should have been described.
37. “hide the decline”に関連して、その後の象徴的な意義(特にIPCC TARでの類似の数字の使用)を考えると、WMO報告書に提供された数字は2つの点で誤解を招くものであった。 ひとつは1960年以降のデータが除外されたことは明らかにされていないことであり、もうひとつはproxy dataと測定データが一緒に継ぎ合わされたという事実については明白ではなかったことである。 ある時点で再構成を削減することが誤解を招くことはないが、その理由は説明されるべきである。
38. We find that CRU has not withheld the underlying raw Yamal data (having correctly directed the single request to the owners). But it is evidently true that access to the raw data was not simple until it was archived in 2009 and this can rightly be criticised on general principles. In the interests of transparency, we believe CRU should have ensured that the data they did not own, but had relied upon in publications, was archived in a more timely way.
38.我々は、CRUが基礎となる生のYamalデータ(単一の要求を所有者に正しく指示したこと)を差し控えていないことを見いだした。 しかし、生データへのアクセスは、2009年にアーカイブされるまでは容易ではなかったことは明らかであり、これは当然のことながら一般原則について批判される可能性がある。 透明性の観点から、CRUは所有していないが出版物に依存していたデータがよりタイムリーな方法でアーカイブされていることを確認しておくべだったと確信する。
39. It is a matter for the IPCC Review to determine whether the conclusions were in line with IPCC processes and guidelines for levels of likelihood. In respect of that Review we offer the suggestion that putting the combination of different reconstructions upon a more rigorous statistical footing would help in the future to make confidence levels more objective.
IPCCのレビューでは、結論がIPCCのプロセスおよび可能性のレベルに関するガイドラインに沿っているかどうかを判断することが重要である。 そのレビューに関して、我々は異なる再構成の組み合わせをより厳密な統計的基礎の上に置くことが将来的に信頼水準をより客観的にするのに役立つであろうという提案を提供する。
8.6 Conclusions (結論)
18. In our judgement none of the above instances represents subversion of the peer review process nor unreasonable attempts to influence the editorial policy of journals. It might be thought that this reflects a pattern of behaviour that is partial and aggressive, but we think it more plausible that it reflects the rough and tumble of interaction in an area of science that has become heavily contested and where strongly opposed and aggressively expressed positions have been taken up on both sides. The evidence from an editor of a journal in an often strongly contested area such as medicine (Appendix 5) suggests that such instances are common and that they do not in general threaten the integrity of peer review or publication.
18. 我々の判断では、上記の例のどれも査読プロセスの破壊や雑誌の編集方針に影響を与える不当な試みを表すものではない。 これは部分的かつ攻撃的な行動パターンを反映していると思われるかもしれないが、激しく争われてきた科学の分野における対話の激しい転回を反映していると考えられる。 医学のように強く争われている分野のジャーナルの編集者からの証拠(付録5)は、そのような事例は一般的であり、一般に査読や出版の完全性を脅かすものではないことを示唆している。
9.5 Conclusions (結論)
40. In summary, we have not found any direct evidence to support the allegation that members of CRU misused their position on IPPC to seek to prevent the publication of opposing ideas.
40. 要約すると、CRUのメンバーが反対意見の公表を防ぐためにIPPC上での立場を悪用したという主張を裏付ける直接的な証拠は見当たらない。
41. In addition to taking evidence from them and checking the relevant minutes of the IPCC process, we have consulted the relevant IPCC Review Editors. Both Jones and Briffa were part of large groups of scientists taking joint responsibility for the relevant IPCC Working Group texts and were not in a position to determine individually the final wording and content. We find that neither Jones nor Briffa behaved improperly by preventing or seeking to prevent proper consideration of views which conflicted with their own through their roles in the IPCC.
41. それらから証拠を得ることIPCCプロセスの関連議事録をチェックすることに加えて、我々は関連するIPCCレビュー編集者に相談した。 JonesもBriffaも、関連するIPCCワーキンググループの文章について共同責任を負う大規模な科学者グループの一員であり、最終的な文言や内容を個別に決定する立場にはなかった。 我々は、JonesもBriffaもIPCCでの彼らの役割を通して彼ら自身と衝突した見解の適切な検討を妨げたり、それを試みる手口で不適切に振る舞っていないことを見いだした。
10.6 Recommendations (勧告)
33. The Review offers the following recommendations for action within the UEA:
33.レビューでは、UEA内での行動について以下の勧告を提示している。
Change fundamentally the perception that responsibility for FoIA/EIR compliance lies with administrative staff. University senior staff need to make clear their commitment to a culture of honesty, rigour and transparency, plus the supporting processes and resources.
FoIA / EIRの遵守に対する責任は管理職員にあるとの認識を根本的に変える。 大学の上級職員は、誠実さ、厳格さ、透明性の文化、そしてそれを支えるプロセスとリソースへのコミットメントを明確にする必要がある。
Review the resourcing and standing of the FoIA/EIR/DPA compliance and request handling processes. Our findings have highlighted significant problems in the areas of: imbalance of authority; lack of effective challenge at appeal; over dependence on single individuals; inadequate escalation processes and limited strategic oversight.
FoIA / EIR / DPAコンプライアンスのリソースと立場を確認し、処理プロセスを要求する。 我々の調査結果は、以下の分野における重大な問題を浮き彫りにした。 権限の不均衡、上訴時に有効な異議申し立てがない、個人への過度の依存、不適切な報告プロセスと限られた戦略的監視。
A concerted and sustained campaign to win hearts and minds. This should include: promotion of the University‘s formal publication policy; incorporating more information on FoIA/EIR/DPA responsibilities in the induction processes for new staff members; developing a rolling awareness campaign to focus the attention of established staff, particularly in the context of the changing landscape e.g. Queens University judgment (see paragraph 34); and issuing annual reminders of the importance of transparency and of key FoIA/EIR/DPA responsibilities;
想いと精神を勝ち取るための協調的で持続的なキャンペーン。 これには以下が含まれる。 大学の正式な出版方針の推進、 新スタッフの入会プロセスにおいてFoIA/EIR/DPAの責務に関するより多くの情報を取り入れること、 特に変化する景観の状況において確立されたスタッフの注意を集中させるためのローリングアウェアネスキャンペーンの開発(例:クイーンズ大学の判決。第34項参照)、 透明性と重要なFoIA / EIR/DPAの責務の重要性について年次リマインダーの発行。
Once the improved awareness measures and processes are in place, to run a programme of independent, external, tests with requests for information to verify the continuing effectiveness of these operations. This is a special case of the more general recommendation on ̳Audit processes‘ given in the Governance Chapter.
改善された啓発措置とプロセスが整備されたら、これらの業務の継続的な有効性を検証するために、情報を求めて独立した外部のテストプログラムを実行する。 これは、ガバナンスの章に記載されている「監査プロセス」に関するより一般的な推奨事項の特別な場合である。
34. The Review offers the following more general recommendations:
このレビューでは、以下のより一般的な推奨事項を提示する。
Definition of research data. There is extensive confusion and unease within the academic community as to exactly how FoIA/EIR should be applied in terms of the materials developed during a research process. The Review believes that all data, metadata and codes necessary to allow independent replication of results should be provident concurrent with peer-reviewed publication. However the situation regarding supporting materials such as early drafts, correspondence with research colleagues and working documents is widely regarded as unclear. The American experience is instructive here. The so called ―Shelby Amendment‖ in 1998 directed the US ―Office of Management & Budget (OMB)‖ to produce new standards requiring all data produced under Federally funded research to be made available under the US Freedom of Information Act. This resulted in great concern within the US Scientific community, expressed through Congressional testimony, that a very broad interpretation of this requirement could seriously impair scientific research and collaboration. In the final OMB guidelines10, recognising these concerns, ―research data‖ is defined as: ―the recorded factual material commonly accepted in the scientific community as necessary to validate research findings, but not any of the following: preliminary analyses, drafts of scientific papers, plans for future research, peer reviews, or communications with colleagues‖. The Review recommends that the ICO should hold consultations on a similar distinction for the UK FoIA/EIR.
Orchestrated campaigns. As detailed in paragraph 23, CRU was the subject of an orchestrated campaign of FoIA/EIR requests in late July and early August 2009. The Review believes that CRU helped create the conditions for this campaign by being unhelpful in its earlier responses to individual requests for station identifiers and the locations from which specific, detailed station raw data could be downloaded. Similarly a clearer publication policy, reflecting the wishes of both the University and the research funders might have avoided these challenges. The Review team can however conceive of situations where such orchestrated campaigns might recur, with literally overwhelming impacts on small research units. We urge the ICO to give guidance on how best to respond to such organised campaigns, consistent with the underlying principles of openness.
Greater clarity in an evolving landscape. Particularly in the light of the recent Queens University Belfast determination by the ICO in respect of the release of Irish Tree Ring data11, it would be helpful if the ICO could re-engage more generally with the Higher Education sector about their understanding of FoIA and EIR obligations and also consider what further guidance could be provided for that sector. It would be particularly useful if guidance were available as to how long it is reasonable to retain data without release, pending full publication as part of a peer reviewed paper. It is however recognised that often such determinations have to be made on a case-by-case basis against a ―public interest‖ test.
35. As a final comment we find that a fundamental lack of engagement by the CRU team with their obligations under FoIA/EIR, both prior to 2005 and subsequently, led to an overly defensive approach that set the stage for the subsequent mass of FoIA/EIR requests in July and August 2009. We recognise that there was deep suspicion within CRU, as to the motives of those making detailed requests. Nonetheless, the requirements of the legislation for release of information are clear and early action would likely have prevented much subsequent grief.
35.最後のコメントとして、我々は、2005年以前もその後も、CRUチームによるFoIA/EIRの下での義務への関与が根本的に欠如していたため、2009年7月および8月に行われる大量のFoIA/EIR要求の段階を設定する過度に防御的なアプローチにつながったと見ている。 詳細な要求をする人々の動機に関して、CRU内に深い疑いがあったことを我々は認識している。 それにもかかわらず、情報の公開に関する法律の要件は明確であり、早期の行動がその後の多くの悲しみを妨げていた可能性がある。
11.4 Recommendations (勧告)
33. Risk management. UEA should be alert to the implications for their reputation of the sort of challenges we have seen in this case to the work of CRU and any other key groups. The risk register should reflect the range of external attitudes towards its key units and growing criticism or the attentions of pressure groups should be noted. Mitigation measures should be put in place, including increased security and a bias for openness and properly resourced policy on data management and availability. Reporting arrangements should ensure that key senior management are in touch with the issues and are informed quickly of problems; and response plans should be in place and rehearsed. These points are no doubt relevant to many other universities.
33.危機管理。 UEAは、この場合にCRUおよびその他の主要グループの作業に見られたような、ある種の課題に対する彼らの評判への影響に警戒する必要がある。 リスク登録簿は、その主要な単位に対する増大する外部の態度を反映しているべきであり、批判の高まりまたは圧力団体の注意が注目されるべきである。 セキュリティの強化、開放性の偏り、データ管理と可用性に関する適切なリソースポリシーなど、緩和策を講じる必要がある。 報告の取り決めは、主要な上級管理職が問題と連絡を取り合い、問題について迅速に知らされるようにするべきある。 そして対応計画を整えてリハーサルする必要がある。 これらの点は間違いなく他の多くの大学に関連している。
34. Training for researchers. We believe that Universities should develop formal approaches to the training of researchers in basic software development methodologies and best practice, as well as best practice in the handling and sharing of research data.
34. 研究者のためのトレーニング。 大学は、ソフトウェア開発の基本的な方法論およびベストプラクティス、ならびに研究データの取り扱いおよび共有におけるベストプラクティスについて、研究者を訓練するための正式なアプローチを開発すべきであると考える。
35. Provision of a formal metadata repository. Whilst we recognize and accept that CRU relies on other bodies both nationally and internationally to provide and to archive basic weather station data, we believe that a formal approach to the storage and archiving of metadata is required. Such a repository would, for example, have made it far easier to respond quickly to requests for the list of station identifiers associated with particular CRUTEM datasets. Where a University is hosting a unit of such international significance, we believe that it should ensure funding is available for such a repository either through the research grant process or from central resources.
35.正式なメタデータリポジトリの提供。 我々は、CRUが基本的な気象観測所データを提供しアーカイブするために国内的にも国際的にも他の機関に頼っていることを認識し受け入れているが、メタデータの保存とアーカイブへの正式なアプローチが必要であると信じる。 そのようなリポジトリは、例えば、特定のCRUTEMデータセットに関連したステーション識別子のリストに対する要求に迅速に応答することをはるかに容易にした。 大学がそのような国際的な重要性の単位をホストしているところで、我々は研究助成金プロセスを通してまたは中央の資源からのいずれかでそのようなリポジトリのための資金が利用可能であることを確実にするべきである。
36. Role of research sponsors. We note the recent statement by the US National Science Foundation (NSF) that, from October 2010, NSF plan to make inclusion of a “Data Management Plan” a requirement for all research proposals. It will be important for such plans to recognize that in some areas of science huge volumes of data are created and a degree of processing and compression is inevitable before data suitable for storage is created. We agree that the way in which important research data (and the associated meta data to make that data useful) should be preserved, should be specified by those funding such research. Explicit budgetary and resource provision must be made. Sponsorship arrangements should include a clear statement of requirements on the extent to which such data should be placed in the public domain and any constraints on the timing of such release. The guidance from the UK Research Integrity Office (UKRIO) is helpful in this respect.
36. 研究スポンサーの役割。 米国国立科学財団(NSF)による最近の声明によると、2010年10月から、NSFは「データ管理計画」をすべての研究提案に含めることを計画している。 このような計画では、科学のいくつかの分野で膨大な量のデータが作成され、ストレージに適したデータが作成される前にある程度の処理と圧縮が避けられないことを認識することが重要になる。 重要な研究データ(およびそのデータを有用にするための関連するメタデータ)の保存方法は、そのような研究に資金を提供する人々によって指定されるべきであることに同意する。 明示的な予算と資金の提供がなされなければならない。 スポンサーシップの取り決めには、そのようなデータがパブリックドメインに配置される範囲およびそのようなリリースのタイミングに関する制約に関する明確な要件の記述を含める必要がある。 この点で、英国リサーチインテグリティオフィス(UKRIO)からのガイダンスが役立つ。
37. Making source code publicly available. We believe that, at the point of publication, enough information should be available to reconstruct the process of analysis. This may be a full description of algorithms and/or software programs where appropriate. We note the action of NASA‘s Goddard Institute for Space Science in making the source code used to generate the GISTEMP gridded dataset publically available. We also note the recommendation of the US National Academy of Sciences in its report “Ensuring the Integrity, Accessibility and Stewardship of Research Data in the Digital Age” that: “...the default assumption should be that research data, methods (including the techniques, procedures and tools that have been used to collect, generate or analyze data, such as models, computer code and input data) and other information integral to a publically reported result will be publically accessible when results are reported...”. We commend this approach to CRU.
37. ソースコードを公開する。 公表時点で、分析プロセスを再構築するために十分な情報が利用可能であるべきであると我々は考える。 必要に応じて、これはアルゴリズムやソフトウェアプログラム、あるいはその両方の完全な説明である。 GISTEMPグリッドデータセットの生成に使用されたソースコードを公に利用可能にすることにおけるNASAのゴダード宇宙科学研究所の行動に注目する。 また、米国科学アカデミーの報告書「デジタル時代における研究データの整合性、アクセシビリティ、およびスチュワードシップの確保」では、次のように述べている。 「モデル、コンピュータコード、入力データなどのデータの収集、生成、または分析に使用されてきた手法、手順、およびツール、および公開された結果に不可欠なその他の情報は、結果の報告時に公開される。」 我々はこのアプローチをCRUに称賛する。
38. Audit processes. It is entirely acceptable that the central functions of a University should set, document and disseminate the standards expected across all governance areas, but without necessarily mandating the precise means by which these will be achieved. These standards will reflect the University‘s interpretation of applicable law (Data Protection, Computer Misuse, Health & Safety, Environmental Information Regulations) and best practice. In areas such as Information Systems, it may well be appropriate to allow a degree of local autonomy. However it is then essential that robust audit procedures are in place to ensure that, where local solutions are implemented, these do meet fully the standards specified.
監査プロセス。 大学の中心的機能が、すべてのガバナンス分野にわたって期待される基準を設定し、文書化し、広めるべきであることは完全に受け入れられるが、必ずしもこれらが達成される正確な手段を強制するものではない。 これらの基準は、適用法(データ保護、コンピュータの悪用、健康と安全、環境情報規制)に関する本学の解釈とベストプラクティスを反映したものになる。 情報システムのような分野では、ある程度の地方自治を認めるのが適切かもしれない。 ただし、ローカルソリューションが実装されている場合、これらが指定された基準を完全に満たしていることを確認するために、堅牢な監査手順を実施することが不可欠である。
この報告書では不正はなかったと結論づけられている。 一方で、データの透明性等についてはかなり辛辣な指摘がされている。
イギリス気象庁の調査
さらに,イギリス議会下院の科学技術委員会や,イギリス気象庁が,独自調査を始めるなど,検証に関わる機関は広範囲に及んだ。
ただし,これらの検証結果は全て,CRUは研究データの不正操作を行っていないと結論づけられた。
研究データの公開と学問的誠実性―英国イースト・アングリア大学気候研究部門のメール流出事件を参考に:田中正弘(弘前大学) - 筑波大学学術情報メディアセンター
ペンシルバニア州立大学の審議委員会
ペンシルバニア州立大学のマイケル・マン教授はこれまでCRUと連携して活動し、密に電子メールを交換しており、trickとhide the declineという言葉が使われたメールの受信者の一人である。 それゆえ、電子メールの問題が浮上したときに当大学がマンに関する訴えを多く受けたため、大学の規定に基づいて審議することにした。 報告書は二〇一〇年二月三日に完成した。 結論は次の通りである。
「データの偽造およびデータの隠蔽を目的とする行為に、マン氏が直接もしくは間接的に関与したことの信じるに足る証拠は一切存在しない」。
IPCCの第四回評価報告に提供されたデータの削除や隠蔽をしたという訴えもあったが、これを信じるに足る証拠もない。
第三の訴えは未公開の情報の悪用に関するものであるが、それはマン氏らが査読制度を利用して、未出版の学術論文にアクセスすることができて、自分たちの主張に合わないものを排除したという訴えである。 しかし、その訴えの根拠は明確にされておらず、学術論文の出版が拒否されても、それは意見が違うからだと安易に結論することはできない。
第四の訴えは研究倫理に関するものである。 説明はかなり込み入ったものになっているが、誠実に研究を進める姿勢、他者の研究に対する尊重の姿勢、他者との学問的交流に開いた姿勢などのことを意味する。 最初の三つの訴えは「○○を目的とする行為に関与したか」という表現になっていて、意識的、意図的な行為に限定されているのに対して、むしろ無意識な側面も含む根本的姿勢のことを意味する。 これに対しては結論を出す代わりに、他の専門家も含める新たな審議を勧告する。
温暖化懐疑論と 疑惑に関する一考察:マイケル・シーゲル(社会と倫理2010年第24号) - 南山大学社会倫理研究所P.167,168
以上の通り、ペンシルバニア州立大学の審議委員会はMannには不正が認められないとした。
国際科学アカデミー(InterAcademy Council)によるレビュー
18団体で構成されるインターアカデミーカウンシル理事会は、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、日本、南アフリカ、トルコ、英国、米国を代表する15の科学アカデミー及びそれと同等の組織の長からなる。
IACには、アフリカ科学アカデミー、第三世界科学アカデミー(TWAS)、及び科学アカデミーのインターアカデミーパネル(IAP)、工学・科学技術アカデミー・国際カウンシル(CAETS)、医学アカデミーのインターアカデミーメディカルパネル(IAMP)の代表者も含まれる。
IAC事務局は、アムステルダムのオランダ王立科学アカデミーが務めている。
国連及び気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の要請に応じた、IPCCのプロセスと手続についての、科学アカデミーによる独立レビューの実施 - 環境省)
ところが、2009年にIPCCの報告書に関連した一部の研究者の私的なメールが盗み出され、メールの文面を根拠に地球温暖化に対し疑惑が投げかけられる事件が発生した(「クライメートゲート」事件と呼ばれた)。 また、同時期に第4次評価報告書の内容に誤りが見つかるなど、IPCCの信憑性に疑問を投げかける事象がいくつか起こった。 このため、国際連合事務総長とIPCCは2010年3月に国際科学組織であるインターアカデミーカウンシル(IAC: Inter Academy Council)に、IPCCの手続きや手順に関する独立した機関によるレビューを行うことを要請し、2010年8月にIACからレビュー結果が公表された。 IPCCの評価手続きは全体的に成功を収めてきたと判断される一方、組織の統制と管理、報告書の作成プロセス、評価の信頼性や見解の一致の度合いに関する取り扱い、広報における透明性や適時性などについて改善が必要との勧告がなされた。 なお、IPCC評価報告書の信頼性については、オランダ環境庁や米国国立研究評議会等により検証がなされ、内容の一部に誤りはあったがその主要な結論は影響を受けていないことが確認されている。
IPCC報告書は厳密な手順を踏んで作成されていますが、2007年に発行された第4次評価報告書(AR4)の内容に誤りが見つかり、IPCCは訂正しました。 これまでの反省等を踏まえ、国連事務総長とIPCC議長は国際的な学術団体であるIAC(InterAcademy Council)にIPCC報告書の作成手順の評価を依頼しました。 IACは2010年8月にレビュー結果を公表し、統制および管理、査読プロセス、不確実性の特徴付けと伝達などについて、主要な勧告がなされました。 IACのレビュー結果はIPCC総会で合意され、第5次評価報告書(AR5)の作成やIPCCの運営に反映されています。 また、オランダ環境評価庁はAR4第2作業部会報告書の地域ごとの影響を評価する章に関してレビューし、「IPCC報告書の主要な結論に影響を及ぼす誤りはなかった」という結果を2010年7月に公表しました。
地球環境研究センター ニュース 2014年1月号 [Vol.24 No.10]地球環境豆知識 - 国立環境研究所地球環境研究センター
以上の通り、地球温暖化と人為的原因説は、国際科学アカデミーであるInterAcademy Councilによって科学的に正しいことが認められている。
その他
研究データの収集には,多大な労力と金銭が必要となる。そして,データの収集がより困難であれば,それらのデータにアクセスできる学者に研究面でのアドバンテージが付与される。
このアクセスの不平等さは,学者間に妬みや疑念を生じさせる原因となりかねない。
その良い例が,英国「イースト・アングリア大学」 (University of East Anglia: UEA)に設置された,「気候研究部門」(Climatic Research Unit: CRU)が管理して いる,世界気温変動データへのアクセス問題である。
研究データの公開と学問的誠実性―英国イースト・アングリア大学気候研究部門のメール流出事件を参考に:田中正弘(弘前大学) - 筑波大学学術情報メディアセンター
この書き方では、あたかも、「学者間に妬みや疑念を生じさせ」たことがCRUメール流出事件を引き起こしたかのような書きぶりである。 しかし、それならば、内部情報を手に入れた時点で「妬みや疑念」は解消するはずであり、「断片的で,CRUの活動に疑問を抱かせる内容が文脈を無視して抽出」して公開する動機が全く説明できない。 恣意的に特定の結論を誘導する作為から見て、これは「学者間に妬みや疑念」によるものではなく、人為的地球温暖化論の信用を毀損しようとした人物による犯行であることには疑いの余地がないl。
懐疑論者の論文の採択や引用を阻害しようとする行為には,人為的温室効果ガスの削減を唱える政治家を惑わすようなメッセージは盛り込むな,という政治的な側面よりも,自らの研究成果に異を唱える論文の存在自体を許せないという,度量の小さい研究者根性が垣間見られる。
これらの行為に対するラッセル・レビューチームの判断は,メールで話題とされた懐疑論者の論文が雑誌に採択されていたり,IPCCの報告書に引用されていることから,研究者として望ましいものではないが,罰せられるほどのことでもない,というものであった。
研究データの公開と学問的誠実性―英国イースト・アングリア大学気候研究部門のメール流出事件を参考に:田中正弘(弘前大学) - 筑波大学学術情報メディアセンター
ラッセル・レビューチームの報告書には、「懐疑論者の論文の採択や引用を阻害しようとする行為には,人為的温室効果ガスの削減を唱える政治家を惑わすようなメッセージは盛り込むな,という政治的な側面よりも,自らの研究成果に異を唱える論文の存在自体を許せないという,度量の小さい研究者根性が垣間見られる」などとは記載されておらず、これはこの資料を書いた人の個人的感想に過ぎない。 経緯の詳細を見ると、「自らの研究成果に異を唱える論文の存在自体を許せないという,度量の小さい研究者根性」ではなく、疑似科学による「政治家を惑わすようなメッセージ」に対する強い警戒感であることが良くわかる。
ラッセル・レビューチームの報告書には、「研究者として望ましいものではない」とも記載されていない。 同報告書は、「Richard Horton‘s paper (Appendix 5) and the comments on it in Chapter 5 suggest to the Team that this scale of reaction is not unusual in contested areas, and the peer review process does not provide insulation from it. The Review makes no judgement about the correctness or otherwise of the Soon and Baliunas paper, but we conclude that the strong reaction to it was understandable, and did not amount to undue pressure on Climate Research. (Richard Hortonの論文(付録5)と第5章のそれに対するコメントは、この規模の反応は争いのある分野では珍しいことではなく、ピアレビュープロセスはそれからの絶縁を提供しないことをチームに示唆している。このレビューでは、Soon and Baliunasの論文の正しさやその他についての判断はなされていないが、それに対する強い反応は理解できるものであり、気候研究に対する過度の圧力にはならないと結論づけた。)」という事実を紹介した上で、 「In our judgement none of the above instances represents subversion of the peer review process nor unreasonable attempts to influence the editorial policy of journals. It might be thought that this reflects a pattern of behaviour that is partial and aggressive, but we think it more plausible that it reflects the rough and tumble of interaction in an area of science that has become heavily contested and where strongly opposed and aggressively expressed positions have been taken up on both sides. The evidence from an editor of a journal in an often strongly contested area such as medicine (Appendix 5) suggests that such instances are common and that they do not in general threaten the integrity of peer review or publication. (我々の判断では、上記の例のどれも査読プロセスの破壊や雑誌の編集方針に影響を与える不当な試みを表すものではない。これは部分的かつ攻撃的な行動パターンを反映していると思われるかもしれないが、激しく争われてきた科学の分野における対話の激しい転回を反映していると考えられる。医学のように強く争われている分野のジャーナルの編集者からの証拠(付録5)は、そのような事例は一般的であり、一般に査読や出版の完全性を脅かすものではないことを示唆している。)」 と結論づけている。 つまり、ラッセル・レビューチームの報告書は、「研究者として望ましいものではない」とする言動は存在しないと明言しているのである。 「研究者として望ましいものではない」とする言動は存在しないのだから、当然、同報告書は「罰せられるほどのことでもない」とも結論づけていない。 尚、同報告書は「メールで話題とされた懐疑論者の論文」がIPCCのFinal Draft (最終草案)で紹介されているとはしてるが、「IPCCの報告書に引用されている」とまでは言っていない(実際にIPCCの報告書に引用されているが…)。
ところが,真実の追究者である科学者が,この研究の質保証システムをないがしろにしたことが,CRUメール流出事件で露出しまったのである。
メール流出事件が示唆することは,ある学問分野において,少数の研究者に強力な権力が集中してしまうと,質保証システムが形骸化する恐れがあるということである。
ラッセル・レビューチームは,このことを重視して,CRUの隠蔽体質とUEAの管理体制の甘さを,強く非難したのである。
研究データの公開と学問的誠実性―英国イースト・アングリア大学気候研究部門のメール流出事件を参考に:田中正弘(弘前大学) - 筑波大学学術情報メディアセンター
ラッセル・レビューチームの報告書には、「真実の追究者である科学者が,この研究の質保証システムをないがしろにした」とも「少数の研究者に強力な権力が集中してしまうと,質保証システムが形骸化する恐れがある」とも記載されていない。 同報告書は、 「Regarding data availability, there is no basis for the allegations that CRU prevented access to raw data. It was impossible for them to have done so. (データの入手可能性に関して、CRUが生データへのアクセスを妨げたという主張の根拠はない。彼らがそうすることは不可能だった。)」 「Regarding data adjustments, there is no basis for the allegation that CRU made adjustments to the data which had any significant effect upon global averages and through this fabricated evidence for recent warming. (データ調整に関しては、CRUがデータに調整を行ったことが世界平均に重大な影響を及ぼしたという主張の根拠はない。)」 「Crucially, we find nothing in the behaviour on the part of CRU scientists that is the subject of the allegations dealt with in this Chapter to undermine the validity of their work. (重大なことに、この章で取り上げられている主張の主題であるCRU科学者の側の行動には、彼らの研究の妥当性を損なうものは何もない。)」 と結論づけている。 また、同報告書は、 「We find that CRU has not withheld the underlying raw Yamal data. (我々は、CRUが基礎となる生のYamalデータを差し控えていないことを見いだした。)」 として解析前の一次データの公開が阻止されていないことを明言している。 もう少しわかりやすい噛み砕いた説明は以下を参照してもらいたい。
まずNCDCのピーターソン(Peterson)氏のメールです。 世界の気候データの一部は公開されていますが、全部がそうではないのです。 アメリカ合衆国以外の多くの国は、データを提供する際に再配布制限をつけることが多いのです。 公開されたデータだけでわかることよりももう一段精密に調べようと思う研究者は、制限つきでもデータを出してもらうように各国に交渉します。 ピーターソン氏が扱っているデータには、NCDCのサービス業務として扱っている公開のもののほかに、研究者として使っている制限つきのものがあるのです。
もとのデータの公開は望ましいのですが、それを研究者に義務づけても逆効果(研究が止まって、もとデータも成果も出てこない)で、制限をつけている諸国の政府に対して要請するべきことです。
最近、イーストアングリア大学が依頼したCRUの研究活動に関する調査のうちひとつ(あとで始まったほう)の報告が出たそうですが (大学の報道発表,ガーディアン紙の報道)、 その委員たちはこの事情を理解した議論をしており、イギリス政府にもデータを有料とする政策とデータを公開する政策との間の矛盾があることも指摘しています。
それから、CRUの「ハリー」ことHarris氏のメールです。 世界のデータをそろえるには、いろいろな経路で集められたものをいっしょにする必要があります。 気温などの観測値に付属していてほしい補助情報が不備なことはよくあります。 人間社会のつごうで観測所が移転することがときどきありますが、その情報が観測データといっしょに伝えられなかったり、遅れて伝わったりします。 一見同じと思われる地点が同じか違うかは、人が時間をかけて、観測値そのものをよく見たり、さらに地点履歴情報を集めたりして、検討する必要があります。 こういう職人仕事ができる人を確保していることこそ、CRUの仕事が高く評価されてきた理由なのです。
いわゆるClimategate (クライメートゲート)とIPCCへの批判、渡辺正氏の「時評」続編について - 気候変動・千夜一話
しかし科学者側から言うと、公開性や追跡可能性の総論には賛成できるが、各論はそう簡単ではない。 大学であっても、税金で行なわれた研究が情報公開法の対象になることは確からしい。 しかし情報公開法は研究用のデータの公開を求めるには適した制度でない。 また実際問題としてJONESには提供は困難だったのだ。 まず、データの一部は、第三者に再配布しないという条件で提供されたものだ。 (ただし、その条件を示す文書が残っていないものもあったらしい。 これはなさけないことではあるが、ちょっと昔は、そんな形式を踏む必要を感じなかったのだ。) MCINTYREはまちがって第三者が取れるところに置かれたものはもはや秘密ではないという理屈を述べているらしい。 企業秘密情報の場合はそれでよいのかもしれないが、この場合提供もとの多くは外国政府機関なので、主権侵害をとがめられるおそれもある。 データ公開を要請する努力は、制限をつけている諸国政府機関に向けていただきたい。 残りの部分は、公開されたデータなので、データ提供を業務としていないCRUではなく、業務とするアメリカのNOAA National Climatic Data Centerから取得してほしいと答えたのだ。 それに対して、(わたしは本書で知ったのだが)NCDCのデータセットのうちどの地点が使われたかのリストがほしいと言われたそうだ。 これは再現したい人の要求としてはもっともだ。 しかし答えるのはたいへんだ。 CRUで使われたデータには、NCDCからもらったものもあるが、別ルートで得たものもある。 同じ地点の同じ年月のデータが多重に含まれていることもある。 たぶん同じ地点だろうというものの対照表でよければすぐ作れるが、MCINTYREたちの要求するように論文の数値が再現されるような入力データを確認しようと思うと、論文に至ったデータ解析を全部やりなおすほどの手間になるだろう。 次の総合データ作成の際には確認可能にするから、過去にさかのぼって確認するのはかんべんしてくれと言いたくなる。
実際、事件のあと、イギリス気象庁が呼びかけて、世界の気温の総合データを作ることになった。 http://www.surfacetemperatures.orgという ウェブサイトができている。 構想の文書が作られているので、[別のウェブページ]で紹介する。 (ただしその後の進展を紹介できていない。)そこでは追跡可能性にも注意がはらわれることになっている
解析前の一次データの権利は、そのデータを提供した機関にあるのであって、CRUにはない。 だから、「第三者に再配布しないという条件で提供された」データをCRUが勝手に公開することはできない。 一般公開されていない一次データが必要だったとしても、CRUが「制限つきでもデータを出してもらうように各国に交渉」して入手できている以上、他の研究者・機関も同様にすれば良いだけである。 また、一般公開されているかどうかに関わらず、「データ提供を業務としていないCRU」に他の機関から入手した一次データを要求するのは筋違いである。 だから、「業務とするアメリカのNOAA National Climatic Data Centerから取得してほしい」と返事するのは当然のことだろう。 他の機関から入手した一次データの公開を拒否したことをもって「データ提供を業務としていないCRU」を批判するのは見当違いも甚だしい。 手続きが面倒とは言え、解析前の一次データが入手可能である以上、別の研究者が同様の研究をすることが可能であるのだから、「質保証システムが形骸化する恐れ」はない。 だから、ラッセル・レビューチームの報告書は 「Regarding data availability, there is no basis for the allegations that CRU prevented access to raw data. It was impossible for them to have done so. (データの入手可能性に関して、CRUが生データへのアクセスを妨げたという主張の根拠はない。彼らがそうすることは不可能だった。)」 と結論づけているのである。
もちろん、あらぬ疑いを持たれないようにするためには、後から作るには「論文に至ったデータ解析を全部やりなおすほどの手間になる」であろう「NCDCのデータセットのうちどの地点が使われたかのリスト」や「人が時間をかけて、観測値そのものをよく見たり、さらに地点履歴情報を集めたりして、検討」した結果の一覧等は解析時に初めから作成しておくべきだった。 科学者として、自分だけが潔白だと知っていれば良いのではなく、第三者に証明できるようにあらかじめ準備しておくことが重要である。 こうした懐疑論に対する備えを全くしていない迂闊さをラッセル・レビューチームの報告書は 「failed to recognise not only the significance of statutory requirements but also the risk to the reputation of the University and, indeed, to the credibility of UK climate science (法定要件の重要性だけでなく、大学の評判や英国の気候科学の信頼性に対するリスクも認識していない)」 と批判しているのであって、「真実の追究者である科学者が,この研究の質保証システムをないがしろにした」などとは言っていない。
Climategate(クライメイトゲート)事件の政治利用(悪用)
トップレベルの気候科学者たちに犯罪の疑いを掛けるというやり方は、嫌がらせや脅迫による否定論者たちのキャンペーンをさらに激化し、マッカーシズムのイメージを即座に抱かせるものだ。 2009年11月、インホフ氏と同じく共和党でウィスコンシン州選出のジェームズ・センセンブレナー下院議員は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)に対し、CRUから流出した電子メールに名前がある科学者たちをブラックリストに載せ、今後IPCC関連のすべての仕事から追放するようにと文書で要求した。
『サイエンティフィック・アメリカン』誌によれば、否定論者である議員たちは自身の立場を利用して、気候変動の研究を行う科学者たちに悲惨な結末をちらつかせた「威圧的な手紙」を送っているという。 そのような手紙を受け取った航空宇宙局(NASA)の科学者、ギャビン・シュミット氏は次のように語った。 「各機関での科学的な研究は冷え込んできています。 科学者が自身の研究について公の場で話したくても政治的な影響を被るのが怖いから、つい二の足を踏んでしまう状況です。 議員を敵に回したい人などいませんからね」
『ネイチャー』誌は昨年3月、ネットいじめに関する論説でインホフ上院議員が気候科学者たちを犯罪者扱いしようとした件を取り上げ、次のように記している。 「少数党派の一員であるインホフ氏には今のところ力はない。 しかしそれも変わる日が来るかもしれない」その日が昨年11月にやって来た。 共和党はティーパーティー運動に強力なサポートを得た結果、中間選挙において下院議席数の過半数を勝ち取ったのだ。 選挙の前、Climate Progress(クライメート・プログレスという名前の気候変動に関するブログ)は「共和党(GOP)上院候補は今や1人残らず、気候科学を否定するか、温暖化ガス排出の削減を目指した最も穏健で、ビジネスへの影響が少なく、共和党が考案したアプローチにさえ反対するかのどちらかである」と記している。
「CRUから流出した電子メールに名前がある科学者たち」については、複数の第三者機関、科学機関による調査により既に潔白が証明されているにも関わらず、偽装懐疑論者たちは、その事実には一切触れずに政治に悪用している。
さて,ではそんなに自信があるなら,なぜ研究者たちはデータの改ざんや公開拒否などを行ったのだろうか,と思うかもしれない。 いわゆる「クライメートゲート事件」(イーストアングリア大学メール流出事件)の件である。 実は,筆者の認識では,彼らはデータの改ざんなど行っていない。 この事件の後,英国政府および大学の委託による3つの独立調査委員会が調査を行ったが,どの委員会の報告書も,科学的な不正は無かったと結論している(クライメートゲート事件を「データねつ造」として紹介する論者が、この重要な事実にほとんど触れない傾向があるのは興味深い)。
温暖化論争をフォローするうえでぜひ知っておいて頂かなければいけないことは,欧米の産業界の一部の意を汲むといわれる組織的な温暖化懐疑論・否定論活動の存在である(たとえば、『世界を騙しつづける科学者たち』(楽工社)を参照)。 身も蓋もなくいえば,気候変動政策を妨害するために,その基礎となる科学に対する不信感を人々に植え付ける効果を狙って意図的に展開されている言論活動があるということだ。 たとえば,映画『不都合な真実』でも紹介された「クーニー事件」では,石油業界のロビイスト出身者がブッシュ政権に雇われて温暖化の科学に関する政府の文書を書き換えていたとされる。 「クライメートゲート事件」をスキャンダルとして騒ぐのであれば,「クーニー事件」についてももっと騒がないのはおかしい(しかも「クライメートゲート事件」の方は実際には不正は無かったのだから)。
地球温暖化懐疑論にての米新聞記事等を紹介しているが、「クーニー事件」とは、アメリカ石油協会の元ロビイストでブッシュ政権の環境諮問委員会の長だったPhilip A. Cooney氏が地球温暖化を過小評価させるように報告書を不当に検閲した事件である。 Philip A. Cooney氏は、不当な検閲が発覚したら即辞任して直後に大手石油会社に再就職している。 これは疑う余地がない真っ黒である。
Climategate(クライメイトゲート)事件まとめ
本事件は、学術的側面で見れば、温暖化支持者と真性懐疑論者のデータ共有と相互理解が進み、良い結果をもたらしたと言える。 しかし、素人向けの啓蒙としては、偽装懐疑論者たちの思惑通りの結果になっている。 偽装懐疑論者たちは、今だに、第三者の報告書を一切紹介せず、流出した断片的な情報に基づいて、陰謀論を流布している。 しかし、本当に隠謀を企んだのは石油産業と資金提供を受けている偽装懐疑論者たちである。 この事実についても偽装懐疑論者たちは一切触れない。
偽装懐疑論者は、第三者の報告書を紹介している場合でも、「主要な結論に影響を及ぼす誤りはなかった」という結論のみを紹介し、その他の詳しい検証はされていないと虚偽の説明をして、データが消されているので科学的に正しいという結論を導いた根拠がないと嘯いている。 しかし、既に紹介した通り、複数の第三者の報告書は、抜粋だけでもかなり踏み込んだ内容について指摘している。 引用を省略した部分もリンク先で確認してもらえば細かい事実関係を検証していることがわかるだろう。 第三者の報告書には、CRU以外の複数の研究者が同様の結果を導いているという、「主要な結論に影響を及ぼす誤りはなかった」という結論を導いた根拠がしっかり示されている。 つまり、CRUが消したのは、大元の一次データではなく、その一次データを元にCRUが加工した二次データである。 ラッセル・レビューチームの報告書には、「CRUの出版物」が「Yamalやその他のツリーシリーズを使用した」ものであり、「CRUが基礎となる生のYamalデータを差し控えていない」と明記している。 勧告は、一次データにアクセスできても、どのような手法で解析して、どのような結果が出たのかを明らかにしないと、手法の適切さや無改竄であることを証明できないから透明性に問題があると指摘しているにすぎない。 一次データにすらアクセスできないとしているのは偽装懐疑論者が作り出した大嘘である。
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