CCS地震原因説
はじめに
動画で手っ取り早く見たい人は次をどうぞ。
鳩山由紀夫氏らは、CO₂地中貯留(CCS)が地震の原因だと主張する。 もちろん、そうした研究を真っ当な手続きで行うことは科学の条件を満たしている。 しかし、そうした科学的手続きを踏まずに、CCS地震原因説を一般人向けに流布することは、明らかな疑似科学であり、陰謀論でもある。 ましてや、「北海道地震は人災」と断定することは論外であろう。
CCS原因説を唱える人は、次のような手口で様々な情報を切り貼りして、CCS原因説があたかも科学的に認められたかのように偽装する。
- あとで紹介するような科学的手続きに基づいた報告等の重要事実について触れない
- 初めから全く採り上げない(例:次に挙げるような情報)
- 人工誘発地震の震央は圧入井を中心とした範囲に分布している
- これまで人工誘発地震で人命の損失や大きな財産の損害が発生したものは以下の例外以外にはない
- 耐震性の低い建築物の多い地域で数名の死者を出した例はある
- CCSは、人命や財産に被害をもたらす規模の破壊的な地震を引き起こす可能性は低い
- 枯渇した石油とガスの貯留層は地震が発生する可能性が低いためCO₂貯留に適している可能性がある
- 軽く流して注意を逸らす(例:次に挙げるような情報)
- 本物の人工誘発地震では、圧入開始後すぐに地震が頻発し、圧入終了後すぐに地震が激減する
- CCS原因説を主張するには、圧入と地震の因果関係を裏付ける証拠として紹介せざるを得ない
- しかし、時間的相関性を深く追求すると、本物の人工誘発地震との違いが明らかになり、CCS原因説が破綻するので軽く流して注意を逸らす
- 本物の人工誘発地震では、圧入開始後すぐに地震が頻発し、圧入終了後すぐに地震が激減する
- 大きさの基準を不明確にする
- 相対的な大小と絶対的な大小を混同させる
- 相対的比較として「比較的大きい」とした報告内容を、あたかも、絶対的に大きいかのように勘違いさせる
- 科学的報告書で中小規模として紹介された誘発地震を、主観論で「大きい」と表現する
- 科学的報告書では、人命の損失や大きな財産の損害が生じない規模の地震を中小規模としている
- 科学的報告書では、人命の損失や大きな財産の損害が生じる規模の地震を大規模としている
- 相対的な大小と絶対的な大小を混同させる
- 測定誤差等により信頼性が低いために論文執筆者も採用しなかったデータについて、そうした注釈なしに紹介する
- 初めから全く採り上げない(例:次に挙げるような情報)
- 因果関係を示す証拠もなく、かつ、科学的にも因果関係が検証されていない事実関係について、あたかも因果関係があるかのように主張する
- CCS実験と大規模地震の関連性等について、数10km「しか」離れていないと紹介して、因果関係があるかのように主張する
詳細な実例は後で示すが、科学的研究により人工誘発地震と推定される事例と比較すると、CCSが地震の原因と噂される事例は次のような点で明確な違いが見られる。 まず、注水点と震央分布の空間的位置の相関性が全く違う。
科学的研究により人工誘発地震と推定される事例では、震央分布範囲内に注水点がある。 一方で、CCSが地震の原因と噂される事例では、震央分布範囲内に注水点がない。 CCSが地震の原因と噂される事例では、震央は10数km以上の範囲に分布しているが、注水点は震央分布範囲外縁から10〜20km離れている。
注水期間と地震発生期間の時間的相関性も全く違う。
科学的研究により人工誘発地震と推定される事例では、明確に注水期間と地震発生期間の時間的相関性が見られる。 一方で、CCSが地震の原因と噂される事例では、注水期間と地震発生期間の時間的相関性がない。 注水期間中に地震が発生しているケースもあるが、その場合も、注水開始から数年経過してから地震が発生している。 注水終了後に地震が発生していることも多く、中には、注水終了から数年経過してから地震が発生しているケースもある。 また、科学的研究により人工誘発地震は本震と余震が区別できない群発地震であるのに対して、CCSが地震の原因と噂される事例では本震が明らかで改良大森公式に従った余震を伴う非群発地震となることも両者の大きな違いである。
注水量に対する地震の規模も全く違う。
CCSやシェールガス採掘は深刻な地震活動を誘発する可能性がある(資源・素材学会春季大会講演集2014) - 北海道大学
科学的研究により人工誘発地震と推定される事例では、推定関係式に近い地震の規模であり、M6級はまず起きないとされる。 一方で、CCSが地震の原因と噂される事例では、M6級〜M8級であり、注水量に対する地震の規模が推定関係式から大きく外れる。
CCS原因説を唱える人は、圧入地点と震源が「距離的にも時間的にも近い」と主張する。 しかし、後で紹介する科学的研究結果と比べても、メカニズムで考えても、実際の圧入地点と震源は、距離的にも時間的にも、因果関係の可能性が生じ得ないほどに遠い。 例えて言えば、CCS原因説を唱える人は、車道から数10mの距離の場所で、かつ、その車道に最後に自動車が通過してから数時間後に起きた事件(時間や距離が確定情報である場合に限る)について、自動車事故の可能性を検証しろと言っているに等しい。 確かに、因果関係が生じる可能性を全く考慮せず、感覚だけで判断すれば、数10mや数時間は近いように思える。 しかし、自動車から数10mかつ数時間離れていれば、事故との因果関係が生じるわけがないことは言うまでもない。 もちろん、時間や距離が確定情報でない場合には時間や距離を検証する必要があるが、CCS原因説においては時間や距離は確定情報である。 これとは逆に、感覚的にはものすごく遠いように思えるが、因果関係が生じるには十分に近いケースもあり得る。 科学的に検証するなら、感覚的に近いと思えるかどうかではなく、因果関係が生じる距離かどうかが重要である。 ようするに、CCS原因説を唱える人たちは、因果関係が生じる可能性があるかどうかを全く考慮することなく、直感的な何となく近いと思えることだけを理由に、言いがかり的な妄想論を唱えているのである。 因果関係が生じる距離かどうかを検証せずに、感覚的な近さだけを根拠にするのでは、「かもしれない」論法にすぎない。
鳩山由紀夫氏の主張は鳩山由紀夫氏のCCS地震原因説にまとめる。
一部の荒唐無稽な陰謀論
CCS原因説を唱える人の中には、地震を誘発することを政府が理解していながら計画を進めた、あるいは、地震を引き起こすために計画を進めたとする余りに荒唐無稽な陰謀論を唱える者もいる。 これらの人たちは、政府が公開している文書に、それを認めた記述があると主張する。 しかし、該当する部分の原資料を読むと、書いてあるのは次のようなことである。
- 政府見解ではない一般人から募集したコメントの紹介
- (地震を懸念する)周辺住民の感情に配慮すべきという注意書き
- (住民感情に配慮するために)万が一に備えてモニタリングすること
- 周辺で地震が自然発生する可能性と施設や貯留槽に与える影響を評価したもの
- 地震とは全く別の懸念(例:「遮蔽層の破壊」=環境上の懸念であって地震とは関係がない)
これらの人たちは、火のない所に煙を立てて騒いでいるだけである。 もちろん、政府の言うことは信用できない、と思うのは自由である。 しかし、政府が言っていないことを言ったことにするのは捏造である。 批判したいなら、批判対象の主張を正確に引用して批判すべきだろう。
地震理論を別にしても、CCS実験がなされた地域には必ず地震が発生しているという、恐怖と驚愕の事実は厳然と存在しています。 にもかかわらず、なぜ日本の全マスコミは、その事実そのものすら全く報道せずに、完全に隠蔽するのでしょうか。
翻って日本では、政府自らがCCSが地震を誘発する危険のあることを承知していながら、隠蔽しているという驚愕の報告書を発見! わたしが発見したのではなく、以下のブログに、この驚愕の事実を記した経産省の報告書の抜粋が掲載されていました。 この報告書が掲載されていた経産省のHPのリンク先に飛ぶと、「アクセスしていただいたページは、削除もしくは移動した可能性があります。」という記載があり、報告書は削除されています。 つまり隠蔽されているわけですので、
経産省の報告書の抜粋には、「2-2. 苫小牧実証試験における地震誘発の可能性についての検討」や「(4)石狩低地東縁断層帯南部は、地震発生の確率がやや高いと予想されているので、圧入試験と地震との因果関係を明らかにする上でも、石狩低地東縁断層帯南部周辺を対象とした観測を実施することが重要である。」と、苫小牧CCSによる今回の地震が十分に予想されており、にもかかわらず、CCS実験を加速しています。 また中越・中越沖地震もCCS実験の結果であり、世界で発生したCCSに起因する地震の中では、この報告書作成時点(2011年11月時点)では最大規模であることも、同報告書で明確に指摘されています。 ただ、地上の地震被害の大きさに比べて、地中への被害は小さいとも付け加えられています。 仮に地震が発生して、地上に甚大な被害が出ることがあっても、CCS続行は可能だとの含意による評価付記だと思われます。 のみならず、CCSと地震との関係を調べるために、意図的に地震を誘発させる実験を行ったことまで報告されています。
実は問題の報告書「CCS実証実験実施に向けた専門検討会ーとりまとめ」地震との関係は、国立国会図書館のWARPに保存されていました。
経産省の報告書の抜粋には、「石狩低地東縁断層帯南部は、地震発生の確率がやや高いと予想されている」とは書いてあるが、「今回の地震が」「苫小牧CCSによる」とは一言も書いていない。 「地震発生の確率がやや高いと予想されている」の記述には、その発生原因については記載しておらず、「苫小牧CCSによる」はブログ主による創作である。 同報告書には、萌別層ではすべり傾向係数(これが1を超えると微小地震が起きると記載されている)が最大で0.33であり20年経過するとほぼ圧入前の状態に戻る、滝ノ上層ではすべり傾向係数(これが1を超えると地震が起きると記載されている)が最大で0.5であり200年経過するとほぼ圧入前の状態に戻るとして、「本検討では、すべり傾向係数が1になるような場所はなかった。すなわちCO₂圧入により、すべりが生じる(微小地震が発生する)可能性はないと考えられる」と記載されている。 微小地震ですら誘発する可能性はないとしているのだから、当然、「発生の確率がやや高い」とする「石狩低地東縁断層帯南部」の地震はCCSとは無関係に起こることが想定されているのである。 よって、「因果関係を明らかにする」の記述は、因果関係がないことを明らかにする前提であることは言うまでもない。 以上まとめると、「日本では、政府自らがCCSが地震を誘発する危険のあることを承知していながら」はブログ主による創作である。 当然、存在しない事実を「日本の全マスコミ」が「報道」すれば捏造報道になるし、存在しない事実では「完全に隠蔽」しようもない。
同報告書には、「中越・中越沖地震もCCS実験の結果」とも「世界で発生したCCSに起因する地震の中では」とも記載していない。 記載されていることは「長岡のCCSサイトは、世界で唯一強震動に見舞われた例」であって、その「強震動」=「中越・中越沖地震」が「CCS実験の結果」との記載はなく、これはブログ主による創作である。 「長岡のCCSサイトは、世界で唯一強震動に見舞われた例」であるということは、世界中で行われているCCSでは「強震動に見舞われた例」がないことを示している。 つまり、世界のどこでも起きていないことが日本でだけ起きるという創作の矛盾を示唆しているのである。
「地上の地震被害の大きさに比べて、地中への被害は小さい」は自然地震によって貯留が破壊されて二酸化炭素が漏洩するリスクについて評価したものにすぎず、CCSが誘発した地震で「地上に甚大な被害が出ることがあっても、CCS続行は可能だとの含意による評価付記」との解釈はブログ主による創作である。
「意図的に発生させた地震」は「文献調査」の内容として紹介されているものであって、「CCSと地震との関係を調べるために、意図的に地震を誘発させる実験を行った」との記載はなく、それが「報告されています」とはブログ主による創作である。
「国立国会図書館のWARPに保存されて」いるのであれば「隠蔽されている」という事実は存在しない。 経産省のHPのリンク先では、国立国会図書館のWARPを利用するよう誘導されている。 本気で隠蔽する意図があるなら、そのような誘導すらしないだろう。 真相は、厚生労働省が2016年度以前の情報をゴッソリ削除し、過去の情報を見たい人はWARPに残っている情報を見てくれという乱暴なやり方をしただけに過ぎない。 もちろん、国の機関としてそんな乱暴なやり方は好ましくないが、サーバーのデータ整理として行われたことであって、隠蔽する意図で行われたことではない。
さらに言えば、「CCS実験がなされた地域には必ず地震が発生している」も事実関係の不正確さの点では創作である。 日本においては、僅か数例しかない「CCS実験がなされた地域」から数年時間がずれ、かつ、かなり離れた所で「必ず地震が発生している」というだけにすぎない。 日本は地震大国で、2010年から2018年の間はM6以上の地震が年4回程度、M7以上の地震が年2回程度起きている。 これほど地震が頻発する国で、かつ、CCS実施が僅か数例しかないのでは、「CCS実験がなされた地域」から数年時間がずれ、かつ、かなり離れた所で「必ず地震が発生している」ことは、単なる偶然で十分に説明のつくことである。 むしろ、偶然と考えないと、後で示す世界中の観測データと矛盾する。
まあ、このブログ主は、地震爆発論(笑)とか、地震の原因は水素核融合だとかのトンデモ理論を真に受けて陰謀論を唱える人なので、まともな言説は期待できない。
科学的研究成果と事実関係の比較照合
科学的研究成果
人工誘発地震と推定される事例
何と、真っ当な科学研究で人工地震が可能であることが判明している。 その事実だけ強調すると、あたかも、陰謀論が真実であったかのように聞こえるだろう。 しかし、研究内容を詳細に検証してみると、陰謀論のような人工地震とは全く違うことが分かる。 詳細は科学的人工地震研究を見てもらいたい。
- 圧入によって比較的規模の小さな群発地震(改良大森公式に従う減衰特性を示さず、本震と余震の区別ができない)が発生する
- 震源は注水地点から水平約10km以内、垂直約16km以内
- 圧入開始後すぐに地震が頻繁し、圧入中止後すぐに地震が激減する
- 地震のエネルギー源は地質的に蓄えられていた歪エネルギー
- 小さな地震で歪エネルギーを解放して大きな地震を防ぐ技術への応用が期待されている
科学的研究により人工誘発地震と推定される事例では、地層の水圧破砕は水圧が高まってすぐに発生し、それにより地殻的な歪エネルギーが地震として放出される。 そのため、圧入開始後、地下水圧が上がればすぐに中小規模の群発地震が頻繁する。 圧入開始から何年も経ってから、突然、(前震や改良大森公式に従う減衰特性を示す余震を伴う)非群発地震を誘発することはない。 何故なら、地震が起きるほどの地殻的な歪エネルギーが蓄積されているなら、地下水圧が上がってすぐに地震が発生するからである。 また、圧入中止後すぐに水圧が低下し、水圧が低下すると誘発地震が激減する。 よって、水圧が高い時に発生しなった地震が水圧が下がってから発生することもない。
藤井義明(北海道大学)氏の研究
詳細は科学的人工地震研究を見てもらいたい。
CCSやシェールガス採掘は深刻な地震活動を誘発する可能性がある(資源・素材学会春季大会講演集2014) - 北海道大学
藤井義明(北海道大学)氏が注入水量と誘発地震規模の推定に使ったデータはグラフの赤丸と緑四角と青三角である。 そして、赤い線は、この論文で推定された関係式である。 黄色い四角は、CCS地震原因説で挙げられた地震である。
スタンフォード大学の研究
CCS地震原因説を唱える人は「スタンフォード大学の研究チームは『CCSは大きな地震を誘発する可能性がある』と指摘している」と主張する。 その「スタンフォード大学の研究チーム」とは地球物理学のMark Zoback教授と環境地球科学のSteven Gorelick教授であろう。 しかし、科学的人工地震研究に詳細を記載する通り、彼らはそんなことは言っていない。 彼らの主張をまとめると次の通りとなる。
- 大規模CCSは人や財産を傷つけることはないと思われる中小規模の地震を引き起こす可能性がある
- CCSが大規模で破壊的な地震を引き起こす可能性は低い
- 中小規模の地震でも、CO₂貯蔵庫の封印の健全性を脅かす
- よって、大規模CCSは実効性に疑問がある部分がある
- 一方で、大規模CCSに適した場所もある
ようするに、「スタンフォード大学の研究チーム」は、2004年の新潟県中越地震(M7.2)や2018年の北海道胆振東部地震(M6.7)のような大地震による人的被害や物的被害を警告しているわけではない。 危険だから止めろと言っているのでもなく、効果に疑問があるから止めろと言っているのでもなく、メリットやデメリットをしっかりと検証して、何処に事業所を設けるかも含めて、様々な可能性を検討すべきだと言っているだけである。 これをCCS地震原因説の根拠とすることはインチキも甚だしい。
CCS実証実験の事実関係
詳細は後で紹介するが、いずれにも次のような特徴が認められる。
CCSやシェールガス採掘は深刻な地震活動を誘発する可能性がある(資源・素材学会春季大会講演集2014) - 北海道大学
長岡
特に、新潟県長岡市の岩野原基地で実施したCO2圧入実証試験においては、1万400トンのCO2を平成15年7月~平成17年1月に地下1,100mの帯水層に圧入し、地下における挙動を弾性波トモグラフィーや物理検層などで把握するとともに、観測結果をもとに挙動予測シミュレータを開発した。 なお、実証試験中に岩野原から約20km離れた場所で発生した新潟県中越地震においても、地下に圧入されたCO2や帯水層、坑井などに異常は一切認められず、安全性が確認されている。
岩野原実証試験・モニタリング - 公益財団法人地球環境産業研究機構
これらによれば、圧入場所から震源までは水平距離で約20km離れている。 2004年の新潟県中越地震(M7.2)の震源の深さは13kmであるので、垂直距離は約12km離れている。 圧入開始から1年3ヶ月経過してから地震が発生している。
苫小牧
今回の地震の震源は貯留地点より水平距離で約31km離れた胆振地方中東部の深度 37km で発生しております(深さを考慮した直線距離で約47km)。 実際の二酸化炭素が圧入された地層と地震の震源が位置する地層とは連続性がなく、二酸化炭素の圧入による影響が本地震の震源まで及んだとは考えられません。
これによれば、圧入場所から震源までは水平距離で約31km、直線距離で約47km離れている。
萌別層については、苫小牧西港の沖合3kmの海底下の約1,000mの地層に二酸化炭素を貯留しています。 7月25日に圧入を再開し、9月1日より、二酸化炭素含有ガス供給元の都合により地層への二酸化炭素の圧入を停止したことで、地層の圧力と温度は低下しました(第1図)。 累計圧入量は、207,209tです。
※地層への二酸化炭素の圧入については、9月1日より、供給元の都合により停止。
滝ノ上層については、苫小牧西港の沖合4kmの海底下の約2,400mの地層に二酸化炭素を貯留しています。 7月31日に圧入を再開したため、8月1日以降地層の圧力は上昇傾向にありましたが、温度については、圧入する二酸化炭素の温度が地層の温度より低く低下傾向にありました。 圧入停止で、地層の圧力は低下し、温度は僅かに上昇傾向となりました(第2図)。 累計圧入量は98.2tです。
※地層への二酸化炭素の圧入については、9月1日より、供給元の都合により停止。
萌別層、滝ノ上層ともに9月1日に圧入停止し、圧力が大きく下がってから地震が発生している。 2018年の北海道胆振東部地震(M6.7)の震源の深さは37kmであるので、萌別層、滝ノ上層ともに垂直距離は30km以上離れている。
苫小牧沖合約3km、海底からの深さ約 1.0~1.2km の貯留層(萌別層)へのCO2圧入を2016年4月に開始し、CO2累計圧入量が本年8月中旬に20万トンを超えた。
圧入開始から2年5ヶ月経過してから、 2018年の北海道胆振東部地震(M6.7)が発生している。
雄勝実験場
雄勝実験場でのCCS実験が2008年の岩手・宮城内陸地震の原因だとする主張もあるようだ。 電中研レビュー第49号第4章雄勝高温岩体発電実験 - 電力中央研究所と「平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震」について(第9報) - 気象庁を元にGoogle Mapで直線距離を測ると震源まで約29km離れている。
また、雄勝高温岩体への二酸化炭素注入による鉱物化固定に関する原位置実験 - 電力中央研究所によれば、2008年の岩手・宮城内陸地震までに行われた注水は5回である。
- 2003年7月3日〜7月15日(深さ1,100m、地表水のみ:総量19.6t)
- 2003年7月16日〜7月28日(深さ1,100m、CO₂1%溶解溶液+地表水:総量12.6t)
- 2003年7月29日〜8月5日(深さ1,100m、CO₂3%溶解溶液+地表水:総量8.6t)
- 2007年9月3日〜9月9日(深さ1,100m、CO₂1%溶解溶液+地表水:総量10t)
- 2007年9月12日〜9月15日(深さ1,100m、CO₂1%溶解溶液+地表水:総量18.6t)
注水開始から約5年、注水終了から9ヶ月経過してから、2008年6月14日の岩手・宮城内陸地震が発生している。 また、震源の深さは8kmであるので、垂直距離は約7km離れている。
いわき
②勿来・磐城沖地点
NEDO委託事業により、福島県いわき市にあるIGCC実証機をCO2排出源とし、磐城沖の生産終了ガス田へ貯留するCCSのトータルシステム(CO2分離・回収、輸送、貯留)のフィージビリティー・スタディ(F/S)を行った。 NEDO委託事業は本事業と事業期間が一部重なっている。
本事業としては、平成20年度委託事業においてIGCC実証機から磐城沖生産終了ガス田までの約80kmのCO2輸送の想定経路(パイプラインルート)について海底地形や海底土質の実地調査を行い、パイプラインに生じる応力の予測解析結果から、海底地形に応じてパイプラインルートの若干の修正を行うことで海底パイプラインが敷設可能であることを確認した。 パイプラインルート調査成果はNEDO委託事業のF/Sに織り込んだ。 また、NEDO委託事業のF/S成果に引き続き、CO2分離・回収、輸送、圧入、貯留のトータルシステムのF/Sから一段進めた詳細検討を行うとともに、必要な周辺技術の検討を行った。
なお、勿来・磐城沖地点では東日本大震災が発生したことを受け、当面、調査は中止することとした。 このため、当時計画していた調査井掘削による地質調査は事前の準備段階で中止としたほか、実地調査を必要とするその他の調査、検討についても当面、中止とした。
第1回 平成23年度CO2固定化・有効利用分野評価検討会資料6.A 二酸化炭素削減技術実証試験(プロジェクト)(中間評価) - 経済産業省P.13,14
これによれば、いわき市沖は海底地形や海底土質の実地調査と応力予測解析結果から海底パイプラインの敷設可否を確認したに過ぎない。 調査井掘削による地質調査は事前の準備段階で中止としているので、勿来・磐城沖地点での圧入は一切行われていない。
北九州地点、または、シグマパワー有明
日本CCS調査株式会社は、貯留層タイプにより勿来・磐城沖地点(生産終了油・ガス層)、日本海沿岸地域(構造性帯水層)、苫小牧地点(非構造性帯水層)、北九州地点(非構造性帯水層)の4地点から、調査進展がもっとも早い苫小牧沖を実証試験地点として選定し、2012~2015年度で設計・建設・試運転を行い、2016年以降実証試験を行う計画としている。
研究開発の俯瞰報告書 環境・エネルギー分野(2015年) 3.1エネルギー供給区分 - 国立研究開発法人 科学技術振興機構p.81
「調査進展がもっとも早い苫小牧沖」では2016年4月に圧入が開始されているので、「苫小牧沖を実証試験地点として選定」した時点で「実証試験地点として選定」されていなかった「北九州地点(非構造性帯水層)」でそれより早く圧入が開始されているはずがない。 つまり、2016年4月14日および4月16日の熊本地震より前には北九州地点での圧入は一切行われていない。
当社は、火力発電所から排出されるCO₂を分離・回収する大規模な実証設備の起工式を本日開催しました。 建設工事は2018年2月に開始します。CO₂分離・回収設備の機器の納入、据付、試運転を経て2020年の夏に実証運転を開始し、技術、性能、コスト、環境影響等の評価を行うとともに、クリーンなエネルギーの創出への取り組みを強化していきます。
本設備は、グループ会社である株式会社シグマパワー有明の三川発電所(福岡県大牟田市・出力5万kW)から1日に排出されるCO₂の50%にあたる500トン以上のCO₂を分離・回収することができます。 これは、日本で初めて火力発電所から排出されるCO₂の50%以上を回収可能な設備となります。 また、三川発電所は現在パーム椰子殻(Palm Kernel Shell)を主燃料としたバイオマス発電を行っており、バイオマス発電所の排出するCO₂を分離・回収する世界初の大規模設備となる予定です。
シグマパワー有明に作られた実証設備はCO₂を分離・回収する実証設備であって、貯留する実証設備ではない。
比較照合
科学的人工地震研究と比べると次のような相違点があることは最初に説明した通りである。
CCSやシェールガス採掘は深刻な地震活動を誘発する可能性がある(資源・素材学会春季大会講演集2014) - 北海道大学
比べると両者が全く異質であることがわかる。 科学的研究により人工誘発地震と推定される事例における原理説明や実際の観察結果では、空間的にも時間的にも極めて局地的な現象となる。 一方で、CCS原因説では空間や時間の乖離が大きすぎて全く説明がつかない。 また、科学的研究により人工誘発地震と推定される事例では、規模の小さな群発地震が発生する。 一方で、CCS原因説では全く逆に規模の大きな(前震や改良大森公式に従う減衰特性を示す余震を伴う)非群発地震が突然発生する。 このようにCCS原因説は科学的研究により人工誘発地震と推定される事例と致命的に矛盾する。 科学的研究により人工誘発地震と推定される事例はネット上ではCCS地震原因説を裏付ける根拠として紹介されているのだが、ここで説明した通り、これはCCS地震原因説とは致命的に矛盾するのである。
注水量と地震規模の推定関係式
科学的人工地震研究に紹介した通り、藤井義明(北海道大学)氏は注入水量と誘発地震規模の関係をまとめた。
CCSやシェールガス採掘は深刻な地震活動を誘発する可能性がある(資源・素材学会春季大会講演集2014) - 北海道大学
藤井義明(北海道大学)氏が注入水量と誘発地震規模の推定に使ったデータはグラフの赤丸と緑四角と青三角である。 そして、赤い線は、この論文で推定された関係式である。 黄色い四角は、CCS地震原因説で挙げられた地震である。 CCS地震原因説を唱える人は、この研究がCCS地震原因説を裏付けていると主張する。 しかし、CCS地震原因説で挙げられた地震は、いずれも、明らかに、この論文の対象となったデータとは傾向が違う。 よって、この論文は、CCS地震原因説を裏付けるものではなく、むしろ、CCS地震原因説に疑問を投げかける根拠となっている。
圧入地点と震央分布の関係
また、デンバーの人工地震等では、震央は圧入地点を中心に分布している。
ハイドロフラクチュアリングとマグマフラクチュアリング(地質ニュース 1978年10月号 No.290) - 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
第187回地震予知連絡会 12-13 注水誘発地震の統計的な特徴 - 地震予知連絡会
2004年の新潟県中越地震、2007年の新潟県中越沖地震、2008年年の岩手・宮城内陸地震、2018年の北海道胆振東部地震では下の図のような分布となっている。
平成16年(2004年)新潟県中越地震について(第31報) - 気象庁 岩野原実証試験・モニタリング - 公益財団法人地球環境産業研究機構
平成19年(2007年)新潟県中越沖地震について(第6報) - 気象庁 岩野原実証試験・モニタリング - 公益財団法人地球環境産業研究機構
「平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震」について(第9報) - 気象庁 電中研レビュー第49号第4章雄勝高温岩体発電実験 - 電力中央研究所
2019年2月21日北海道胆振地方中東部の地震の評価(平成31年2月22日公表) - 気象庁 配置計画 - 日本CCS調査株式会社
尚、2005年8月21日11時29分頃の新潟県中越地方の地震について(平成17年8月21日発表) - 気象庁によれば、新潟で2005年8月21日に発生したM5.0の地震だけは圧入点の数km圏内にあるように見える。
しかし、長岡では
2005年1月11日に圧入を完了した
「二酸化炭素地中貯留」事業の実現に向けて~石油・天然ガス上流技術への期待~ 石油・天然ガスレビュー2006年07月号 - 独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構
CO2地中貯留プロジェクト:圧入状況 - 公益財団法人地球環境産業技術研究機構
のである。
2005年6月20日13時03分頃の新潟県中越地方の地震について(平成17年6月20日発表)- 気象庁によれば、2004年12月28 日に発生したM5.0の地震を契機に新潟県中越地方の余震は終息していたが、2005年6月20日にM5.0の地震(圧入点から約20km)とその余震が発生している。
2005年8月21日の地震は、それ以来の地震である。
圧入終了から7ヶ月以上も経過した時点で1回だけ発生した単発的な地震がCCSと関係あるとは到底考えにくい。
以上踏まえると、CCS原因説における圧入地点は震央の分布範囲から遠く離れており、科学的研究により人工誘発地震と推定される事例とは全く傾向が違っている。
事象の地平面の外側にある特異点(物理法則が破綻する点)を「裸の特異点」と言うが、震央分布の外側にある注水点を「裸の注水点」とでも呼ぶことにしよう。 この裸の注水点は、CCS地震原因説に特有のものであり、科学的研究により人工誘発地震と推定される事例には見られない大きな特徴である。
時間的相関性
科学的人工地震研究やデンバーの人工地震に紹介したとおり、科学的研究により人工誘発地震と推定される事例では、明確な時間的相関性が見られる。
ハイドロフラクチュアリングとマグマフラクチュアリング(地質ニュース 1978年10月号 No.290) - 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
第187回地震予知連絡会 12-13 注水誘発地震の統計的な特徴 - 地震予知連絡会
- 圧入開始直後に地震が急増
- 圧入停止直後に地震が激減
一方で、CCS地震原因説には、いずれも、時間的相関性が見られない。
- 2004年の新潟県中越地震(M7.2)は、圧入開始から1年3ヶ月後に発生
- 2007年の新潟県中越沖地震(M6.8)は、圧入終了から2年6ヶ月後に発生
- 2008年の岩手・宮城内陸地震(M6.8)は、圧入開始から5年、圧入終了から9ヶ月後に発生
- 2011年の東北地方太平洋沖地震(M8.4)は、圧入未実施で発生
- 2016年の熊本地震(M7.3)は、圧入未実施で発生
- 2018年の北海道胆振東部地震(M6.7)は、圧入開始から2年5ヶ月、圧入停止から5日後に発生
北海道胆振中東部の地震の詳細は次のようになっている。
平成23年度第2回CO2固定化・有効利用分野評価検討会 技術に関する施策・事業評価報告書 第3章 A 二酸化炭素削減技術実証試験(プロジェクト)の概要(中間評価) - 経済産業省 お知らせ - 日本CCS調査株式会社 震度データベース検索 - 気象庁
平成23年度第2回CO2固定化・有効利用分野評価検討会 技術に関する施策・事業評価報告書 第3章 A 二酸化炭素削減技術実証試験(プロジェクト)の概要(中間評価) - 経済産業省 お知らせ - 日本CCS調査株式会社 震度データベース検索 - 気象庁
平成23年度第2回CO2固定化・有効利用分野評価検討会 技術に関する施策・事業評価報告書 第3章 A 二酸化炭素削減技術実証試験(プロジェクト)の概要(中間評価) - 経済産業省 お知らせ - 日本CCS調査株式会社 震度データベース検索 - 気象庁
平成23年度第2回CO2固定化・有効利用分野評価検討会 技術に関する施策・事業評価報告書 第3章 A 二酸化炭素削減技術実証試験(プロジェクト)の概要(中間評価) - 経済産業省 お知らせ - 日本CCS調査株式会社 震度データベース検索 - 気象庁
全体図では2017年後半の地震と圧入期間に相関性が不明確だが、拡大図では全く相関性がないことが見て取れる。 また、圧入期間の地震発生傾向は2014年の地震と比べて大差ないので、自然地震で十分に説明できる。 また、2018年9月6日以降は大地震の余震と考えられるので、地震が多くて当然である。 2006年頃から地震が増加傾向にあるが、この頃は注水は全く行われていない。 2010年度に行われた圧入テストの前後においても、2016年4月6日の実証実験の開始前後においても、地震の増加は認められない。 ここで、もう少し広い範囲(胆振地方中東部、日高地方西部〜中部、石狩地方中部〜南部、空知地方南部、上川地方南部、苫小牧沖、浦賀沖)の震央を地図上にプロットしてみる。
この図においても、本震以降にその周辺で余震が頻発していること以外、圧入開始前後で明確な地震発生傾向の変化は見られない。 以上の通り、このグラフによれば、圧入期間との地震発生の相関性は全く見て取れない。
一致する件数
鳩山由紀夫氏は次の2件の実証実験が大地震の震源に近い位置で行われていたことを根拠だと主張する。
- 長岡:2003年7月から18カ月間に1万トン(震源から直線距離約20km)
- 苫小牧:2016年4月から2018年度末まで30万トン(震源から直線距離約30km)
日本各地で大規模地震が頻発しているが、そのうちのたった2件の震源地の数10km圏内に共通する何かあったというだけで、地震の原因と疑うのか。 平成 30年北海道胆振東部地震の評価- 気象庁で比較対象に挙げられた地震は次の通りであるが、これらの近くでCCSの実証実験は行われていたのか。
- 1995年:兵庫県南部地震(M7.3)
- 2000年:鳥取県西部地震(M7.3)
- 2005年:福岡県西方沖地震(M7.0)
- 2016年:熊本地震(M7.3)
- 2016年:鳥取県中部地震(M6.6)
- 2018年:大阪府北部地震(M6.1)
このうち、2004年の新潟県中越地震(M7.2)以上の地震だけでも3件、2018年の北海道胆振東部地震(M6.7)以上のだけでも4件ある。 これらの近くでCCSの実証実験は行われていたのか。 なお、比較にはないが、2011年の東北地方太平洋沖地震はM8.4であり、日本国内では2010年から2018年の間はM6以上の地震が年4回程度、M7以上の地震が年2回程度起きている。
私も、これら大地震のうちの3件は発生時に数10km圏内に居住していた。 その事実をもって、私が地震の原因だと疑うのだろうか。 あるいは、私がどこかの工作員で、これらの地震を発生させるために何かを仕掛けたと疑うのだろうか。 普通の常識があれば、「そんな偶然もあるんですね」で片付ける話であり、陰謀論に持ち込むことが馬鹿馬鹿しいことくらいわかるだろう。
尚、鳩山由紀夫氏はいわき市についても根拠として主張する。 しかし、既に紹介した通り、いわき市では一滴たりとも圧入は行われていない。 また、既に紹介した通り、北九州地点でも一滴たりとも圧入は行われていない。
原理的考察
百歩譲って、CO₂地中貯留(CCS)が地震の原因だと仮定すると、どのような可能性があるか。
- 地下のCO₂(を含む水)から地震のエネルギーの大部分が発生している(地震爆発論(笑)など)
- CO₂(を含む水)が断層を刺激して、地殻変動で蓄えられたエネルギーが一気に放出された
- CO₂(を含む水)が周囲の岩盤を脆くして、地殻変動で蓄えられたエネルギーが一気に放出された(紹介済みの科学的研究により人工誘発地震と推定される事例)
- 未知のメカニズム
地下のCO₂(を含む水)から地震のエネルギーの大部分が発生する可能性
地下のCO₂(を含む水)から地震のエネルギーの大部分が発生する可能性については言うまでもなく荒唐無稽である。 大規模地震のエネルギーはとてつもない。 北朝鮮の核実験の地震はM4.0とされる。 広島型原爆がM5.5相当とされる。 原爆の理論的限界がM6.5相当とされる。 米国の水爆W71による人工地震がM7.0とされる。 ソ連の水爆ツァーリ・ボンバでM8.0相当とされる。 水爆に匹敵するエネルギーを地下のCO₂(を含む水)が発生させるとは到底考えられない。 以上を考慮すると全くあり得ないことだが、もしも、地下のCO₂(を含む水)がそれだけのエネルギーを発生させるなら、それを地下に埋めるのは勿体無い。
そもそも、地下のCO₂(を含む水)から地震のエネルギーの大部分が発生しているのであれば、震源から直線距離で数10km離れていることは全く説明がつかない。
- エネルギーが数10km先に伝搬した
- CO₂(を含む水)が数10km先に流れ着いた
まず、数10kmも離れればエネルギーは極端に減衰するため、大規模地震を起こすことは不可能である。 減衰を考慮しても大規模地震となるのであれば、さらに巨大なエネルギーが必要となる。 そもそも、それだけの巨大なエネルギーが発生しているのに、何故、圧入点では地震が起きないのか、説明が不可能である。
圧入点から注入されたCO₂(を含む水)は四方八方に拡散されるので、数10km先の震源に到達する量は極僅かとなる。 極僅かな量で大規模地震を起こすほどの莫大なエネルギーが得られるなら、圧入量全てを集めれば限りないエネルギーが得られよう。 それを地下に埋めるのは勿体無い。 圧入したCO₂(を含む水)が決まった場所に集積されるなら、余震も毎回同じ場所で起きるはずであり、余震範囲が数10kmの範囲に広がっていることは説明がつかない。
CO₂(を含む水)が断層を刺激する可能性
理論
CO₂(を含む水)が断層を刺激する可能性についても、震源から直線距離で数10km離れた場所にあるものが地震の引き金を引くためには相当なエネルギーが必要なはずである。 まず、以下の条件を仮定する。
- M6級の歪みエネルギーが蓄積している
- 即座に地震が起きる状況ではない
後者の条件を置いた理由は、そうでなければ地震を誘発したとは言えないからである。 極端なことを言えば、地震を1秒早めても、地震を誘発したとは言えまい。 被害者の構成が変わるほどの時間差が生じ得ないとしたら、それは実質的には自然地震と何ら変わらないはずである。 それでは人工的に誘発した地震と言い難い。 言い換えると、人工的に誘発した地震と言うためには、被害者の構成が変わるほどの時間差が必要であろう。 だから、後者の条件を置いた。
多少の衝撃で地震が起きるなら、後者の条件が成立しない。 後者の条件が成立するなら、非常に安定した状態と言える。 そして、地震の規模が大きいほどマージン、すなわち、地盤が耐える限界と歪みエネルギーの差も大きいと推測できる。 ここで以下の条件を仮定する。
- 数km圏内のM5級以下の地震を引き起こすことが可能
- 必要な衝撃のエネルギーは発生する地震のエネルギーに比例する
- 衝撃のエネルギーは距離の2乗に反比例する
当然の前提として、以下が成立する。
- マグニチュード1つでエネルギーが約32倍
- 距離が10倍ならエネルギーは100分の1に減衰
数10kmもの遠方のM6級以上を引き起こすには、単純計算で従来の人工誘発地震の約3200倍ものエネルギーが必要となる。 そんな莫大なエネルギーをどこから生み出すと言うのだろうか。
実情
先ほども説明した通り、距離が離れればエネルギーは極端に減衰するため、震源を直接刺激する場合でも大きな刺激が必要なら、遠くから刺激を加える場合はとてつもなく大きな刺激が必要になるはずである。 北海道胆振東部地震(M6.7)は2018年9月6日に発生しているが、同日にM5.5、M5.4、10月5にM5.2の余震が発生している。
平成30年北海道胆振東部地震の評価(平成30年10月12日公表) - 気象庁
これらはいずれも北朝鮮の原爆よりも威力がある。 2月21日にはM5.8の最大の余震が発生した。
2019年2月21日北海道胆振地方中東部の地震の評価(平成31年2月22日公表) - 気象庁 配置計画 - 日本CCS調査株式会社
最大の余震から9月や10月の余震までの震源は約10〜30km離れている。 では、何故、9月や10月の余震から4ヶ月以上経過してから最大の余震が起きたのか。 M5.8クラスの歪が僅か数ヶ月で蓄積したとは考えにくい。 また、それより小さな余震がM5.8クラスの歪の原因とも考えられない。 であれば、9月や10月の余震の段階でM5.8クラスに準ずる歪があったと考えられる。 それなのに、何故、9月や10月の余震は最大の余震の引き金とならなかったのか。 それは、9月や10月の余震では、引き金としての威力が足りていないからではないのか。 それと対照的に、熊本地震ではM7.3の本震の32秒後に約80km離れた大分県中部でM5.7の地震が発生している。
2016年4月16日01時26分頃の熊本県熊本地方の地震推計震度分布図 - 気象庁
これは、偶然にしてはあまりにタイミングが良すぎるので、M7.3の本震がM5.7の大分県中部地震の引き金を引いたと考えられる。 以上を踏まえると、震源を直接刺激するのでもなければ、とてつもなく大きなエネルギーがないと地震の引き金にはなり得ないと推測できる。 実際の事例を考慮すると、10km程度でも原爆クラスの威力が必要で、数10kmも離れれば水爆クラスでないと地震を誘発できないのではないか。 先ほども説明したとおり、地下に埋めただけのCO₂(を含む水)にそれほど大きなエネルギーが生み出せるとは考えにくい。 尚、人工的に地震を誘発した場合は、歪が元に戻ろうとする力が反発力の限界に達する前に地震を誘発しているので、当然、放置して自然に地震が発生するよりも規模や震度は小さくなる。
CO₂(を含む水)が周囲の岩盤を脆くする可能性
CO₂(を含む水)が周囲の岩盤を脆くする可能性も震源からの距離が遠すぎてあり得ない。 CO₂(を含む水)が数ヶ月や数年で数10kmもの岩盤を侵食するとは考えにくい。 科学的研究により人工誘発地震と推定される事例とも適合しないことは既に説明した通りである。
圧力伝搬距離に関する考察
圧入井に水を圧入すると、地下水脈を通じて水圧が周囲に伝搬される。 しかし、下方向以外の全ての方向に力の逃げ場があるため、距離に応じて水圧が減衰する。 一般に、地下水脈は、不透水層の上に水が溜まったものであり、水平方向にも上下方向にも一定程度の空間的な広がりがある。 CCSでは、貯留層の上側に遮蔽層のある地層が利用されるが、それでも貯留層は一定程度の上下幅を持つ。 たとえば、全体図 - 日本CCS調査株式会社によれば、苫小牧の萌別層は上下150〜350m程度の幅があり、滝ノ上層の上下幅はもっと大きい。 また、特定二酸化炭素ガスの海底下廃棄の許可(平成30年3月28日付)の変更の許可の申請(平成30年7月19日付)に係る公告及び縦覧について 添付書類-1 特定二酸化炭素ガスの海底下廃棄に関する実施計画に係る事項 1/5 - 環境省p.19によれば、萌別層と滝ノ上層は少なくとも水平方向に10km×8km以上の広がりがある。 そのため、距離が遠ざかるにつれて、当然、伝搬される水圧は低下する。 よって、地震を誘発する距離には自ずと限界が生じる。 尚、地下河川であれば、理論的にはもっと遠くまで水圧を伝達することが可能である。 しかし、そのためには、次の全ての条件を満足する必要がある。
- 地下河川が圧入井から震源まで届いている
- 一本道の主洞のみで支洞がない
- 圧入井がこの地下河川を貫いていて、ちょうど圧入深が地下河川の深さと一致する
- 震源近くで地下河川に穴が空いている
言うまでもなく、この条件に満足する人工地下河川を意図的に設けることはあり得ない。 天然地下河川は鍾乳洞や溶岩洞のような特殊なものに限られ、距離も非常に短い。 日本最長の鍾乳洞の安家洞(日本最長洞窟でもある)は総延長で23.7kmであり、主洞は2.3kmしかない。 溶岩洞はもっと短く、世界最長の萬丈窟でも総延長で13.4km、主洞は8.9kmしかない。 また、一般に、鍾乳洞には主洞以外にも支洞が多数あるので、長大で、かつ、主洞のみの未発見の鍾乳洞が存在するとは考えにくい。 さらに、その他の条件も都合よく満足することは困難であるから、天然地下河川で遠くまで水圧を伝達できる可能性は天文学的に低い。
圧入開始前後の傾向
2018年の北海道胆振東部地震については次の通りである。
平成30年北海道胆振東部地震の評価(平成30年9月6日公表) - 気象庁
先ほども説明した通り、苫小牧CCSの圧入開始時期は2016年4月であるが、震源周辺では圧入開始の10年以上前から地震が頻発している。 そして、圧入開始から1年間は回数積算図の傾きは全く変化していない。 圧入開始から1年以上経過してから傾きが大きく変化している。 さらに、もう1年経過して北海道胆振東部地震の本震が発生している。 以上は、デンバーの人工地震等とは全く傾向が違っている。 この図は、本震の約1年前から前震活動が始まり、その後に本震が起きたことを示している。 しかし、地震とCCSと間の相関性は全く見られない。
未知のメカニズム
未知のメカニズムまで考慮すれば可能性を完全に否定することはできない。 しかし、本当に未知のメカニズムであるなら、提唱者に科学的な証明責任がある。 提唱者が「かもしれない」論法に頼り科学的な証明責任を果たさないなら、荒唐無稽な妄想でしかない。
冷静な方々
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