量子力学の用語
基本
「量子力学(量子論)と隠れた変数理論は違う」という言い方をする人がいる。
ここで問うが、仮に、現在の標準理論と合わない実験結果が確認され、それによって標準理論が修正された場合には、量子力学(量子論)という呼び方を変えるのだろうか。 例えば、ベルの不等式の破れが確認された時は標準理論が修正されなかったが、もしも、歴史的事実が逆であった場合は量子力学(量子論)という呼び方を変えていたのか。 理論の修正に伴って量子力学(量子論)という呼び方を変えるなら、その呼称は特定の理論のみを指す言葉であるから、標準理論のみを指して量子力学(量子論)と呼ぶことは正しい。
しかし、量子力学(量子論)が分野名であるなら、すなわち、量子を扱う力学(論)という意味であるなら、量子という呼称に適合した現象を扱っていて、かつ、実験結果と整合する理論であれば、全て量子力学(量子論)でなければおかしい。 それならば、「量子力学(量子論)と隠れた変数理論は違う」という言い方は、「自動車と大型自動車は違う」と言うのと大差ない明らかに間違った言い方である。 自動車の例では、「小型自動車と大型自動車は違う」というような言い方をしなければならない。
常識で考えれば、量子という呼称に適合しなくなるほどの変化でなければ、例え、標準理論が修正されても量子力学(量子論)という呼び方が変わるはずがない。 ニュートン力学のように「ハイゼンベルク力学」とか「ノイマン力学」といった分野内の特定の理論を指す名称ではない以上、量子力学(量子論)とは、量子を扱う力学(論)分野全般の名称であると考えるのが妥当である。
そもそも、量子力学(量子論)が分野名ではなく、特定の理論を指し示す呼称であるなら、最初の行列力学のみが量子力学(量子論)であるはずである。 その場合、波動力学もノイマンが提唱したHilbert空間を用いる算法も量子力学(量子論)と呼ぶとはできない。 何故なら、量子力学という呼称は、Heisenbergが行列力学を提唱したときにつけた呼称だからである。 にも関わらず、ノイマンが提唱したHilbert空間を用いる算法を量子力学と呼ぶなら、量子力学という呼称が分野名を指すことは明らかだろう。
基本原則を言えば、ある呼称に対して、何らかの条件だけに限定することは、次のような場合にだけ許される。
- 呼称に前提を明示する
- その時点の知見において、明らかに間違っている等の除外すべき明確な理由がある
- 正当な手段により、条件限定の物事をそう呼ぶことが明確に定義されている
これは、量子力学(量子論)以前の科学の基本の問題である。 個人的思想や個人的哲学について論じるなら、科学の基本を無視しても差し支えない。 しかし、科学理論を論じるなら、当然、科学の基本には従わなければならない。
また、前提条件等を明確にすることは、意思疎通の基本の問題である。 趣旨が伝わる範囲で正確性を欠く言葉は許容できるが、趣旨が不明確になるほどの不正確さは到底許容できない。 意思疎通の基本も科学の基本も分からぬ者が科学理論を語るのは百年早い。
定義
- 量子力学(量子論)
- 量子世界の実験結果と整合するあらゆる理論を含む理論体系。標準理論のみを指して「量子力学(量子論)」と呼ぶ人がいるので注意が必要である。
- 量子力学(量子論)の標準理論
- ノイマンが提唱した数学的手法と射影仮説を採用する理論体系。
- 量子
- 最小単位を持つ存在。あるいは、その最小単位を意味するが、粒子状の性質(1点に存在すること)までは意味しない。
- 粒子
- 粒子状の性質(1点に存在すること)を持つ存在を意味する。
- 観測問題
- 波動性と粒子性の二重性の整合を取ろうとしたときに立ちはだかる問題。
- 解釈問題
- 量子力学のどの解釈が正しいのか、答えが出ない問題。
補足
趣旨が確実に伝わるなら、不正確な用語を使っても差し支えない。 しかし、その言葉が持つ本来の意味と違う意味のどちらでも文意が通じる場合は、本来の意味となる用語を使わないと混乱を産む。
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