二重スリット量子消しゴム実験トンデモ解説
最初に
このページは二重スリット量子消しゴム実験に対して、科学的に明らかに誤ったトンデモ解説を紹介するものである。
誤った説明の例
「簡易版」とやらの間違い
確かに、偏光板というものが
・振動方向を少しずつ正すガイドラインのような性質を持っていて、
・いきなり90度だと光を通さないけれど、
・角度の変化を小刻みに連続的に変えてゆけば光を通す
のだとすれば、矛盾なく結果が説明できますね。
実は元の記事にも、こんな意味のことが書かれています。 「この実験は少々”ずるい”、古典的な波動像でも説明することができる。 完全に証明するには光子カウンタを設置しなければならないが、アマチュア実験の手に余る」
で、考え直してみたのですが、
・光の強さを調べれば、もう少し言えることがある。
・最終的には光子カウンタまで持ち出さないと、完全に量子のせいだとは言い切れない。
このような奇妙な仮定を置かずとも、この実験の「簡易版」は偏波・偏光だけで容易に説明が可能である。 どうやら、「斜めの偏光板に入れば、斜めの成分が取り出されて斜め同士で再び振動面はそろいます」の意味を全く理解していないようである。 尚、元のコメントにおける「角度の変化を小刻みに連続的に変え」は、偏光板を重ね合わせた時の透過率の話に対するものであって、この実験の「簡易版」に対するものではない。
そして、量子の波動性は古典力学の枠内で記述できる現象なので「古典的な波動像でも説明することができる」のは当たり前である。 だから、この実験の「簡易版」が偏光方向だけで説明できることは「光子カウンタを設置」するかどうかとは全く関係がない。 光子カウンタで検証できることは、この実験の「簡易版」が「量子のせい」であることではなく、一単位の量子であっても波としての性質を示すかどうかである。 一単位の量子であっても、光の偏光の性質が失われるわけではないので、この実験の「簡易版」は偏光方向だけで説明可能である。
ニコニコ動画の間違い
量子消しゴムは時間旅行の夢を見るか? - ニコニコビューア は間違いだらけなので注意が必要である。
ところで、観測するというのは、その対象物を攪乱して軌道を変えることが問題・・・ ・・・て言う人がいるけど、これは全然本質的じゃない指摘よね。 例えば、片方だけにいる観測者が光子を観測せず、後ろのスクリーンに光子が届いたなら・・・ 見てなかった方が、通過したスリットだと特定できる。これでも、干渉縞は消えるのね・・・ 要するに「見なかった」という情報でも、干渉縞は消えるわけね。
「見てなかった方が、通過したスリットだと特定できる」のならば、観測者がいる方のスリットは完全に塞がれているも同然である。 片方のスリットが塞がれているなら、スリットが1つしかないのだから、干渉縞が消えるのは当然である。 つまり、これは、観測によって干渉縞が消えたのではなく、単一スリットになったから干渉縞が消えたのである。
情報が干渉縞を消すと言うためには、二重スリット実験の条件を維持したまま、情報を取得しなければならない。 片方のスリットを塞いだ条件で干渉縞を消しても、それこそ「全然本質的じゃない指摘」である。
次に、二重スリットの前に+45度と-45度に偏光させる二枚の偏光板を置くのね。すると・・・
論文によれば、二重スリットの前に置く物は偏光板ではなくquarter-wave plateである。
で、この場合、二重スリットのどちらを光子が通ったかを特定できる・・・ 検出器pの偏光測定が垂直ならば、検出器sへは水平偏光の光子が行ったことになるから・・・ 後は、検出器sの測定を見れば、どちらのスリットを通ったかが分かる。
「偏光測定」は波の性質に対して行なう測定である。 干渉が発生するのであれば波は両経路を通るはずであるから、検出器sに到達する光は右通過と左通過の合成となる。 つまり、ちゃんと干渉が発生する実験セットになっていれば、このような測定は不可能である。
このような測定が可能となるためには、波がどちらか一方しか通らないことが前提でなければならない。 波がどちらか一方しか通らないのであれば、二重スリット実験としての条件を満足しない。
要するに、検出器sへ向かう光子を触っていないのに、干渉縞の有無を制御できるわけね。
量子もつれ状態にある光子には一定の相関性があるから、検出器pへ向かう光子を触れば、間接的に検出器sへ向かう光子を触ることになる。
よって、「検出器sへ向かう光子を触っていない」は真っ赤な嘘。
ニコニコ動画の説明は、量子消しゴム実験が示唆することと量子もつれの性質を完全に混同している。
干渉縞を復活させるには、検出器pに届いた光子に対応する、検出器sへ届いた光子を選別しなければならない・・・
論文によれば、検出器pの前に偏光フィルタを置くだけで干渉縞が発生している。
よって、「選別しなければならない」も真っ赤な嘘。
ただし、“発掘”と言うと、最初から、あるべきものが埋まってる…て、イメージだけど… 今回の実験の場合、何が出て来るかは、検出器pの結果を見るまで決まっていないのね。 検出器sの観測結果が出ているのに、後日の検出器pの結果で、掘り出されるものが違うわけね。
論文では「coincidence counts」なので観測は同時である。
「検出器sの観測結果が出ている」なら、検出器sの結果の中の埋もれた干渉縞は既は決まっているはずである。 偏波・偏光で説明した通り、偏光フィルタは特定の向きの偏光を取り出すだけである。 また、二重スリット量子消しゴム実験で説明した通り、BBOではタイプⅡの自発的パラメトリック下方変換により、出力される2つの光の偏光は互いに垂直である。 よって、「検出器pの結果」と「Coincidence counts (一致する計数)」となるものだけを抽出する操作は、BBOから二重スリットに方に向かった光のうち、特定の偏光の向きに対応する結果を抽出する操作に過ぎない。 そして、二重スリットに方に向かった光の偏光と干渉縞の関係は最初に決まっている。
よって、検出器pの前の偏光フィルタの向きに対応する「検出器sの観測結果」、すなわち、「検出器pの結果」と「検出器pの結果で、掘り出されるもの」の関係は最初から決まっている。 決まっていないのは、検出器pの前の偏光フィルタの有無と向きだけである。 検出器pの前の偏光フィルタの有無と向きを決めていない段階では、それに伴う「検出器pの結果が決まっていないから、「検出器pの結果で、掘り出されるもの」が決まっていないだけに過ぎない。 以上の通り、「最初から、あるべきものが埋まってる」のであって、そのうちのどれを取り出すかが決まっていないだけにすぎない。
例えば、干渉縞を検出しようと途中にフィルタを挟んだのに… 逆回転のフィルタをさらに挟んで妨害する人が出てきて… それを正したら… またまた妨害工作がっ…と、過去の情報決定のために、未来人が暗躍するとか面白そうね。
既に説明されている通り「検出器sの観測結果が出ている」いる。 「途中にフィルタを挟んだ」ことで変わるのは「検出器pの結果」である。 「検出器pの結果」は「途中にフィルタを挟んだ」後の出来事であるから、「過去の情報決定」にはなっていない。
河合塾が疑似科学はまずいでしょ!
学習塾が何の注釈もなしに疑似科学を堂々と紹介するのはいかがなものかと。 あたかも科学的事実であるかのように紹介している以上、「実際に高校生が発表したレポートを紹介しただけだ」という言い訳は通用しない。 不特定多数の人に紹介するなら、ちゃんと検証して間違いは間違いと指摘すべきだろう。
ここでスリットの両側に互いに90°の角度の偏光板を設置すると、スリットの両側からの光は振動方向が全く異なるものとなります。 つまりその振動方向によって、スリットのどちらを通過したか確定できるようになります。 経路が確定できるようになることで、光の波動性が失われます。 したがって、粒子としてふるまう光はまっすぐに進み、干渉縞は消えます。
この実験のおもしろいところは、観測していなくても、観測すれば光の経路が確定できる状態にするだけで光の波動性が失われることが巨視的に観察できるところです。
「経路が確定できるようになることで、光の波動性が失われます」「光の波動性が失われることが巨視的に観察できる」は明らかな嘘である。 まず、この実験では光の波動性が失われた証拠を何一つ提示していない。 既に説明した通り、縦偏光と横偏光の間では干渉縞は生じないのだから、「干渉縞は消えます」は波動性が失われた証拠にはならない。 それどころか、実験の写真は「光の波動性」が明確に表れている証拠をバッチリと捉えている。
次に互いに直角である偏光板をスリットの両側に挿入しました。 すると干渉縞は消えました。
この写真にはレーザー光が横に広がっている様子がハッキリと映っている。 これは「0.2㎜のシャープペンシルの芯」の影響であろう。 回折という波特有の現象により、このような結果が生じているのだ。 つまり、これは、光の波動性が維持されたままで干渉縞が消えたことを示しているのである。
確かに、「経路が確定できるようになる」ことが干渉縞に影響する可能性は示唆されている。 しかし、「経路が確定できるようになる」ことが波動性に影響するとした研究結果はない。 むしろ、何を観測しようとするかが波動性に影響しないことはJ.Wheelerの遅延選択実験や遅延選択量子消しゴム実験で確認されている。
高校生に科学の楽しさを教えることは大事である。 しかし、だからこそ、疑似科学で惑わせてはいけないのである。
EMANの物理学
このサイト、標準理論に関する説明はともかく、こと解釈系に関しては根拠のない唐突な仮定を何の説明もなく置いて、あたかも、それが当然の暗黙の了解であるかのように偽装している。 この手の解釈系トンデモは珍しくなく、標準理論と独自解釈をゴッチャにして語る傾向があるが、このサイトはまだマシな方かもしれない。
「量子消しゴム」の意味は前回の記事で説明したので省略しよう.
「前回の記事」の説明は以下のとおりである。
観測を行った後でその結果が分からないように消してしまうような仕組みを導入すると、なんと、干渉縞が復活させられることがあるというのである。 一度記録したはずの観測結果を、あたかも消しゴムで消すように、「分からないようにする」「なかったことにする」というような意味である。
「Double-Slit Quantum Eraser」でも、「観測を行った後でその結果が分からないように消してしまうような仕組みを導入」していない。 そして、「干渉縞が復活させられる」のはwitch path markerがついていない結果を抽出しただけに過ぎない。 つまり、「干渉縞が復活させられる」場合は、「一度記録」などしていないのだから、存在しない「観測結果」を「あたかも消しゴムで消す」ことは不可能である。
しかしこの実験では検出器Bには光子の円偏光が右回りか左回りかを判別する機能はないので,どっちにしてもこのままでは光子がどちらを通ってきたかを知るすべはない. もし知ろうとしてそのような装置を追加すれば出来なくもないのだが,この実験ではそれを行うことはしない.
もし円偏光がどちら回りであるかを確かめたければ再び1/4波長板に通せばいい. 光は直線偏光に戻る. このとき,右回りか左回りかによって,縦偏光に戻るか横偏光に戻るかが決まる. これを偏光スプリッターという「偏光方向によって透過するか反射するかが決まる結晶板」に当てて方向を変えてやり,別々の検出器で待ち構えることで選り分けてやればいい.
これは可観測量が片方のスリットを通った光によって決定される前提でのみ成り立つ話である。 しかし、二重スリット実験の条件を満足するなら、可観測量は両方のスリットを通った光の合成で決定されるはずである。 よって、この方法では「円偏光が右回りか左回りかを判別する」ことができても、それは「光子がどちらを通ってきたかを知るすべ」となることが保証されない。
さて,ここまでは検出器Aの側の観測によってBの側の状態が決まるかのように説明をしたのだが,なんと,この実験ではAの側の測定が後になるようにしても同じ結果になることが確かめられているのである.
この実験では「検出器Aの側の観測によってBの側の状態が決まる」わけではない。 単に、「検出器Aの側の観測」結果に対応する「Bの側の」結果を抽出するだけである。 すなわち、「検出器Aの側の観測」結果がない場合の「Bの側の」結果を捨てるだけに過ぎない。 だから、「検出器Aの側の観測によってBの側の状態が決まる」わけではない。 よって、「Aの側の測定が後になるようにしても同じ結果になる」のは当然のことである。
たまには不思議なまま話を終わってもいいだろう.
以上の通り、この実験では不思議なことは何も起きていない。
例えば,縦偏光の光に対してこの結晶の軸を 45°傾けて入射させてやると,この光の電場成分は結晶のどちらの軸にも同じ大きさで均等に入っていくことになるだろう. ところがそれぞれの成分は進む速度が異なるので,結晶中を進むに従ってずれが出てくる.結晶の厚みを調整することで,光がこの結晶内を走り抜けるまでにちょうど1/4波長分のズレが生まれるようにしてあるのである. つまり光の電場の縦成分と横成分が1/4波長だけずれるので,まるで電場の方向がくるくると回るように進むようになる.これが「円偏光」というものである.
結晶を傾ける角度を先ほどとは逆に -45°にしてやると,電場の回転方向が先ほどとは逆周りするようにすることも出来る.結晶の傾きを変えて設置することで,右回りの円偏光や左回りの円偏光を作ることが出来るのである.
この説明は間違いではないが、説明が全く足りていない。 わかっている人を相手にするなら、このような説明は必要なく、結論だけ述べれば良い。 わかっていない人を相手にするなら、理解のために次の説明は必須であろう。
- 直線偏光を2つのお互いに垂直な直線偏光に分解
- お互いに垂直な直線偏光の位相関係と合成結果
これらの説明がないので、予備知識のない人が聞いたらサッパリ意味がわからないと思われる。
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