「STAP細胞報道に対する申立て」勧告

本ページはSTAP細胞論文捏造事件の一部である。

放送倫理・番組向上機構とは? 

放送倫理・番組向上機構は、公的機関ではなく、NHKと民放連によって設立された任意団体である。

放送の公共性と社会的影響力の重大さを考え、言論と表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を擁護するため、 放送への苦情や放送倫理上の問題に対し、自主的に、独立した第三者の立場から迅速・的確に対応し、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与することを目的に、 放送界が自主・自律の精神で設立した組織です。

放送倫理・番組向上機構パンフレット

そえゆえ、放送局に対して何の権限も持たない。

question

BPOは放送局に対してどのような権限を持っているのですか?

answer

委員会が放送局に対して行うのは、勧告、見解、意見の通知です。 放送局に命令、指示など強制力をもって義務を課す権限はありません。

BPOについて03

各委員の選任方法は、間接的に各放送局が選任している。

第5条 本機構の構成員は、次のとおりとする。

(1)日本放送協会

(2)一般社団法人 日本民間放送連盟

(3)一般社団法人 日本民間放送連盟会員各社

(4)その他理事会が承認した基幹放送事業者


第9条 理事長は、構成員が推薦する放送事業者の役員、役職員およびその経験者以外の者から、理事会で選任する。

2 理事のうち3名は、放送事業者の役職員以外の者から、理事長が選任する。

3 第2項によって選任される以外の理事は、日本放送協会および日本民間放送連盟が、それぞれ3名を選任する。


第13条 理事会は、理事長および理事をもって構成する。


第19条 評議員会は、理事会が有識者(放送事業者の役職員を除く)の中から選任し委嘱する評議員7名以内で構成する。


第24条 放送倫理検証委員会は、評議員会が有識者(放送事業者の役職員を除く)の中から選任する8名以上10名以内の委員で構成する。


第29条 放送人権委員会は、評議員会が有識者(放送事業者の役職員を除く)の中から選任する7名以上9名以内の委員で構成する。


第34条 青少年委員会は、評議員会が有識者(放送事業者の役職員を除く)の中から選任する6名以上8名以内の委員で構成する。

BPO規約・運営規則

  • 本機構の構成員は次のとおり
    • 日本放送協会
    • 一般社団法人 日本民間放送連盟
    • 一般社団法人 日本民間放送連盟会員各社
    • その他理事会が承認した基幹放送事業者
  • 理事会は理事長で理事で構成する
    • 理事長は、構成員が推薦する者から、理事会で選任する
    • 理事のうち3名は、理事長が選任する
    • それ以外の理事は、日本放送協会および日本民間放送連盟が、各3名を選任する
  • 評議員会は、理事会が有識者の中から選任する評議員で構成する
  • 各委員会は、評議員会が有識者の中から選任する委員で構成する

それゆえ、経営的都合や政治的都合が反映される余地がある。

以上を踏まえれば、放送倫理・番組向上機構の決定に対しては、権威主義的に無批判に受け入れるのではなく、その内容を吟味して検証する必要があろう。

放送人権委員会勧告 

筆頭著者を擁護するトンデモな人たちは、あたかも、放送人権委員会が、STAP細胞研究への疑惑に対して事実無根の名誉毀損認定をしたかのように語る。 しかし、筆頭著者=申立人の主張のうち、主要な内容は全て却下されている。 認められた事項は、疑惑の主要部分に影響しない事実関係1点(STAP細胞が元留学生が作製したES細胞に由来する可能性の有無)と、筆頭著者への取材方法の執拗さだけである。 つまり、放送人権委員会は、STAP細胞研究への疑惑の否定まではしていない。

  • 本件放送は公共性と公益性が認められる
  • 以下の摘示事実には真実性又は相当性が認められる
    • STAP細胞の正体はES細胞である可能性が高い
    • STAP細胞はアクロシンGFPマウスから作製されたES細胞である可能性がある
  • 以下の摘示事実には真実性も相当性も認められないので名誉毀損が認められる
    • STAP細胞は元留学生が作製したES細胞に由来する可能性がある
    • 元留学生が作製したES細胞を筆頭著者が不正入手してSTAP細胞を作成した疑惑がある
  • 電子メールの公開はプライバシー侵害ではない
    • 報道目的にとって必要不可欠ではないが秘匿性が高い内容ではない
    • 一般視聴者が両者の間に実際に男女関係があったという印象を受けるとまでは言えない
  • 筆頭著者に対する執拗な取材方法は放送倫理上の問題があった
  • 疑惑の原因がもっぱら筆頭著者にあるかのような放送内容は、放送倫理上の問題があるほどに公平性を欠いているとまでは言えない
  • 理研の調査報告書でSTAP論文において筆頭著者に捏造と改ざんが認定されており、筆頭著者に対する否定的な印象を与えても、名誉毀損は成立しないし、放送倫理上の問題も認められない
  • 実験ノートの公表は、公共性と公益性のある報道目的のための相当な範囲を逸脱しているとまでは言えない
    • 著作者人格権と表現の自由との調整については専門家の間で議論されている段階であり委員会では結論を出せない
  • 笹井氏の自死と本件放送の関係については、筆頭著者自身の人権侵害とは直接関わらないため、本決定では取り上げない
委員会判断 奥武則委員長代行 市川正司委員長代行 二関辰郎委員、坂井眞委員 NHK広報局
社会的評価の主要因窃盗疑惑不正疑惑STAP細胞の由来以外の主要な部分言及せず言及せず
視聴者の関心窃盗疑惑言及せず言及せず窃盗疑惑言及せず
窃盗疑惑の摘示ありなし(誤解を与える余地はある)あり(放送内容は不正確)言及せずなし
窃盗疑惑の相当性なしなしある言及せず言及せず
不正疑惑の相当性追認根拠は示しつつも明言せずありあり言及せず言及せず
疑惑追及の意義公共性・公益性は認めるありあり言及せず言及せず
放送内容の問題点名誉毀損誤解を与える余地窃盗疑惑の内容が不正確名誉毀損なし

申立人は、本件放送について、「申立人が理研内の若山研究室にあったES細胞を 『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたかのようなイメージを視聴者に想像させる内容」となっており、それが人権侵害に当たると主張する。 ここで いう人権侵害とは、名誉毀損のことであると思われるので、以下その前提で判断する。


摘示事実a)――STAP細胞の正体はES細胞である可能性が高い――について

STAP論文を掲載したネイチャー誌が2015年9月24日付電子版において、各国の研究チームの研究成果を掲載するとともに、STAP現象が真実ではないことが立証されたと指摘した。 このこと等により、STAP細胞が存在しないことは科学コミュニティの共通理解となっているものと思われる。 他方、STAP細胞の正体については、理研の第2次調査報告書ではES細胞説がとられ、この立場は上記のネイチャー電子版に掲載された理研の研究チームの論文でも維持されているとのことであり、そこからすれば、ES細胞説が少なくとも有力な仮説であると言いうるから、摘示事実a)には真実性又は相当性が認められると考えられる。


摘示事実b)――若山氏の解析及び遠藤氏の解析によれば、申立人の作製したSTAP細胞はアクロシンGFPマウスから作製されたES細胞である可能性がある――について


これらの事情と摘示事実a)の真実性・相当性について述べたことからすれば、摘示事実b)には真実性又は相当性が認められる。

摘示事実c)――STAP細胞は、若山研究室の元留学生が作製し、申立人の研究室で使われる冷凍庫に保管されていたES細胞に由来する可能性がある――について

元留学生が作製したES細胞が問題発覚後の申立人の研究室の冷凍庫で保管されていたこと自体は真実だと認められるが、次に述べる通り、このES細胞がSTAP細胞の正体である可能性があるという点には、以下の通り真実性・相当性が認められない。


摘示事実d)――申立人は元留学生作製の細胞を何らかの不正行為により入手し、混入してSTAP細胞を作製した疑惑がある――について

次に述べる通り、真実性・相当性は認められない。

まず、摘示事実c)の真実性・相当性の検討の際に示した通り、元留学生のES細胞がSTAP細胞であった可能性に真実性・相当性が認められない以上、元留学生のES細胞を混入してSTAP細胞を作製したとの疑惑は、真実性・相当性のいずれも認められない。 次に、申立人が元留学生作製の細胞を何らかの不正行為により入手したとの点についても、その真実性・相当性を基礎づける資料は示されていない。

もっとも、ここで問題としているのは、何らかの不正行為による入手や混入そのものの真実性・相当性ではなく、これらの点について疑惑をかけるだけの相当の理由があったかどうかということである。 この点を考えてみると、まず、元留学生のES細胞を何らかの不正行為によって入手したという疑惑については、確かに、この細胞が申立人の研究室の冷凍庫に保管されるに至った経緯については申立人とNHKとの間で主張に食い違いがあり、不透明なところがある。 しかし、疑惑を提示するについての相当の理由があることがNHKによって証明される必要があるところ、何らかの不正行為による入手疑惑については具体的な根拠が示されていないし、そもそもSTAP細胞が元留学生のES細胞であるとの可能性についても真実性・相当性が認められないから、結局、この点を前提とする摘示事実d)についても疑惑をかけるだけの相当な根拠はないと言わざるをえない。


これまでの検討をまとめると、本件放送におけるES細胞混入疑惑に関する部分は申立人の社会的評価を低下させるものであり、摘示事実a)、b)については真実性又は相当性が認められるが、摘示事実c)及びd)については真実性と相当性のいずれもが認められないから、これらの点については名誉毀損の人権侵害が認められる。

放送人権委員会決定第62号「STAP細胞報道に対する申立て」―勧告― - 放送倫理・番組向上機構

放送人権委員会の判断では、「摘示事実d)」について、「元留学生のES細胞がSTAP細胞であった可能性」「何らかの不正行為によって入手したという疑惑」についてのみを取り上げて、真実性や相当性の判断根拠としている。 しかし、「STAP細胞」に混入した疑いの強いES細胞が「元留学生のES細胞」であるかどうかは、「元留学生」の社会的評価には関係するかもしれないが、「申立人の社会的評価」とは全く関係がない。 また、「摘示事実d)」の主要部分、および、「申立人の社会的評価」と結びつくことは、ES細胞を「何らかの不正行為により入手」したかどうかでもなく、意図的なSTAP細胞の捏造があったかどうかである。 放送人権委員会が、次のように指摘していることからも明らかである。

名誉毀損があったかどうか、すなわち本件放送が申立人の社会的評価を低下させるものかどうかについては、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきである。 また、社会的評価の低下の有無を判断する前提として、本件放送によって摘示された事実がどのようなものであったかが問題となるが、これについても、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断する(最高裁2003年10月16日判決[テレビ朝日ダイオキシン報道事件])。

放送人権委員会決定第62号「STAP細胞報道に対する申立て」―勧告― - 放送倫理・番組向上機構

本件放送によって摘示された事実がどのようなものであったか」を「一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断」するならば、それは、ES細胞の不正入手の有無でも、その正当な持ち主でもなく、意図的なSTAP細胞の捏造があったかどうかであろう。 また、「一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断」するならば、「申立人の社会的評価」に影響することは意図的なSTAP細胞の捏造があったかどうかであり、それ以外の部分の影響は捏造に比べれば些細なものであろう。

以上を踏まえれば、「元留学生のES細胞がSTAP細胞であった可能性に真実性・相当性が認められない」ことは、「摘示事実d)」の主要部分の真実性や相当性を否定する根拠足りえない。 また、放送人権委員会自身が意図的なSTAP細胞の捏造を伺わせる事実を指摘しているのだから、何らかの不正行為による入手疑惑については具体的な根拠が示されていない」ことも「摘示事実d)」の主要部分の相当性を否定する根拠足りえない。

放送人権委員会が、「摘示事実d)」の主要部分について判断を避けたことについて、善意に解釈すれば、次の理由が考えられる。

本来、STAP研究に関する事実関係をめぐる見解の対立について、調査権限を有さず、また、生物学に関する専門的な知見をもち合わせていない委員会が立ち入った判断を行うことはできない。 こうした判断は委員会ではなく、科学コミュニティによってなされるべきものである。 委員会の判断対象は本件放送による人権侵害及びこれに係る放送倫理上の問題の有無であり、検討対象となる事実関係もこれらの判断に必要な範囲のものに限定される。 したがって、本件放送で触れられていない事情が考慮されるのも、こうした範囲内でのことである。

放送人権委員会決定第62号「STAP細胞報道に対する申立て」―勧告― - 放送倫理・番組向上機構

しかし、放送人権委員会は、次の事実も判断根拠としているのだから、同じ事実を根拠として「摘示事実d)」の主要部分に関する判断をすることは十分に可能であったはずである。

しかし他方で、申立人は、STAP論文2本の筆頭著者であり、同論文の内容について主たる責任を負う者の1人である。 また、若山氏は自ら検証を行い、自らの疑惑に対して一定の説明を試みているのに対し、申立人は、当時の状況からして斟酌すべき点はあるが、納得のいく説明を行っていないとみられていたことも事実であろう。 以上のような事情を踏まえつつ、放送局の有する番組編集の自由をも考慮すれば、本件放送の全体的な構成が放送倫理上の問題があるほどに公平性を欠いているとまでは言えない。


本件放送に先立ち、2014年3月31日に公表された理研の「研究論文の疑義に関する調査委員会」の報告書では、STAP論文において申立人に捏造と改ざんの2つの研究不正があったと認定されている。 また、同じく本件放送に先立つ同年7月2日には、STAP論文が撤回されている。 これらの状況からすれば、こうした表現の使用が申立人に対する否定的な印象を与えることは確かであるが、論評として許されないとは言えない。

放送人権委員会決定第62号「STAP細胞報道に対する申立て」―勧告― - 放送倫理・番組向上機構

であれば、放送人権委員会が、「摘示事実d)」の主要部分に関する真実性や相当性の判断を一切せず、「元留学生のES細胞がSTAP細胞であった可能性」「何らかの不正行為によって入手したという疑惑」という些細な部分のみの真実性や相当性をもって、申立人に対する「名誉毀損の人権侵害」の認定をしたのは極めて不自然としか言いようがない。

さらに、「複数の少数意見があることに鑑み、摘示事実について委員会決定を若干補足しておきたい」としながら、「補足意見」は「複数の少数意見」のいずれもが指摘している内容、すなわち、「元留学生のES細胞」であるかは重要ではなく、主要部分は申立人による不正があったかどうかであるという指摘については一切「補足」されていない。

これに比べれば、「少数意見」の2件の方が遥かにマトモなことを言っている。 例えば、市川正司委員長代行は、「元留学生の作製したES細胞」が「STAP細胞の由来はないかとの疑惑」には真実と信じる相当性がないが、「この部分の摘示事実のみを捉えて申立人の社会的評価が相当程度低下したと評価することは考えにく」いことと、「その他の主要な部分が、真実であり、あるいは真実と信じたことについて相当性がある」ことをもって名誉毀損はないとしている。 さらに、市川正司委員長代行は、「元留学生の作製したES細胞」に踏み込んだ点は「不正確な放送で、勇み足」としつつも、申立人に対する疑惑追及に対しては不合理な点はない」「NHKが独自の調査・取材によって事実を探求したことの意義が認められる」と高く評価している。

以上によれば、私は、本件放送は、ES細胞がSTAP細胞の由来となった疑いがあるとの疑惑を示したこと以上に、特に元留学生の作製したES細胞に焦点をあてて、 これがSTAP細胞の由来はないかとの疑惑を示した点においては真実と信じたことが相当とはいえないと考える。

しかし、この点についてのみ真実との証明ができず、真実と信じたことについて相当性がなかったとしても、この部分の摘示事実のみを捉えて申立人の社会的評価が相当程度低下したと評価することは考えにくく、その他の主要な部分が、真実であり、あるいは真実と信じたことについて相当性がある本件放送について、私は、委員会があえて名誉毀損とするべきものではないと考える。


3で述べたとおり、NHKの取材が、小保方研究室の冷凍庫に残されていた複数のES細胞にまで迫り、それらの中のいずれかのES細胞がSTAP細胞の由来となった疑いがあると推論したことに不合理な点はないと私は考える。 この点、NHKが独自の調査・取材によって事実を探求したことの意義が認められる。

しかし、さらにすすんで、特に元留学生の作製したES細胞に焦点をあてて、これがSTAP細胞の由来ではないかとの疑惑があるように表現したことは、その部分のみとらえて名誉毀損とは評価しないとしても、不正確な放送で、勇み足である。

放送人権委員会決定第62号「STAP細胞報道に対する申立て」―勧告― - 放送倫理・番組向上機構

奥武則委員長代行は、放送では「元留学生のES細胞」である可能性には触れておらず、放送内容の主要部分は「何らかの不正行為があったのではないか」という疑惑であり、その疑惑については「相当性が認められる」としている。

以上の検討から、本件放送の関係部分の摘示事実――視聴者がどのように受け取ったかを考える。ごく分かりやすく記すと、次のようにまとめられるだろう。

A.STAP細胞は結局、従来からある別の万能細胞のES細胞だったらしい。

B.しかし、作製に係った若山氏、小保方氏(申立人)はともにES細胞混入の可能性を否定している。

C.ところが、小保方氏が使う冷凍庫にES細胞が保存されていることが分かった。 これを作製した人物は「なぜ、そこにあるのか分からない。驚いた」と言っている。

D.やはり、ES細胞の混入あるいは何らかの不正行為があったのではないか。

Dの疑惑を投げかけられたのは申立人である。 A~Dによって申立人の社会的評価は低下したことは明らかである。 だが、A~Cには名誉毀損の免責事由に当たる真実性が認められる。 では、Dはどうか。 すでに述べたように、本件放送の関係部分はCで言及されるES細胞(前記のZ)がSTAP細胞=ES細胞(前記のX=Y)と同一である可能性にはふれていない。 しかし、Cは、ES細胞の混入可能性を否定していた申立人のもとに、あるはずのないES細胞があったという真実性が認められる事実を摘示しており、同様に真実性が認められるA、Bとあいまって、Dの疑惑を投げかける相当な根拠になっていると言うべきである。 したがって疑惑を投げかけた報道という点では、Dにも相当性が認められる。

放送人権委員会決定第62号「STAP細胞報道に対する申立て」―勧告― - 放送倫理・番組向上機構

尚、これらは「少数意見」ではあるが、2人しか居ない委員長代行の共通した見解である。

  • 委員長 坂井眞(弁護士)
  • 委員長代行 奥武則(法政大学社会学部教授)
  • 委員長代行 市川正司(弁護士)
  • 委員 紙谷雅子(学習院大学法学部教授)
  • 委員 城戸真亜子(洋画家)
  • 委員 白波瀬佐和子(東京大学大学院人文社会系研究科教授)
  • 委員 曽我部真裕(京都大学大学院法学研究科教授)
  • 委員 中島徹(早稲田大学大学院法務研究科教授)
  • 委員 二関辰郎(弁護士)
委員会判断 奥武則委員長代行 市川正司委員長代行 二関辰郎委員、坂井眞委員 NHK広報局
社会的評価の主要因窃盗疑惑不正疑惑STAP細胞の由来以外の主要な部分言及せず言及せず
視聴者の関心窃盗疑惑言及せず言及せず窃盗疑惑言及せず
窃盗疑惑の摘示ありなし(誤解を与える余地はある)あり(放送内容は不正確)言及せずなし
窃盗疑惑の相当性なしなしある言及せず言及せず
不正疑惑の相当性追認根拠は示しつつも明言せずありあり言及せず言及せず
疑惑追及の意義公共性・公益性は認めるありあり言及せず言及せず
放送内容の問題点名誉毀損誤解を与える余地窃盗疑惑の内容が不正確名誉毀損なし

結局、委員会決定としては、「摘示事実d)」に関する「何らかの不正行為」に対する真実性や相当性についての見解は述べられていない。 個人意見としては、委員9名中の2名が「摘示事実d)」に関する「何らかの不正行為」に対する真実性や相当性を肯定したが、残りの7名は「摘示事実d)」に関する「何らかの不正行為」に対する真実性や相当性については触れていない。 また、理研の報告書の捏造認定を根拠として、「不正の深層」という番組タイトルが「論評として許されないとは言えない」としている。 以上の通り、この放送人権委員会の勧告は、STAP細胞論文の捏造疑惑を否定する根拠にはならない。 次のような真っ当な論評も紹介しておく。

認められたのは「盗んだ印象」と「取材方法」

まず当然のことながら、BPOがこの番組における人権侵害を認めたからといって、この論文には少なくとも4点の研究不正があることが認められているという事実や、論文の方法ではSTAP細胞なるものを再現できないという事実を、覆すことができるわけではない。

BPOは小保方氏の申し立てを7つの論点として整理しているが、そのすべてに人権侵害を認めたわけではない。 また、9人の委員のうち2人による「少数意見」が掲載されている。勧告は本文49ページで、そのうち約10ページを少数意見が占めている。

STAP検証のNHK番組はナレーションが不十分(粥川準二) - WEBRONZA(朝日新聞DIGITAL)


STAP細胞論文の研究不正問題を検証した「NHKスペシャル」について、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会(坂井眞委員長)が「小保方晴子・元理化学研究所研究員の名誉を毀損(きそん)する人権侵害があった」と認定した。 ただし、決定文の中には「人権侵害はなかった」と主張する少数意見が2つ併記された。 いずれの少数意見も「放送倫理上の問題はあった」と主張しており、NHKに問題がなかったと言っているわけではない。 しかし、報道内容は名誉毀損に当たらないとしている。 私はこの少数意見に理があると思う。

NHKのSTAP検証番組、人権侵害があったのか(高橋真理子) - WEBRONZA(朝日新聞DIGITAL)

これに対するNHKの言い分は次のようなものであるが、これは勧告の内容を読めば当然の反応であろう。

小保方晴子氏が平成26年1月に発表した「STAP細胞」については、同年4月に理化学研究所が研究不正を認定しました。 その後、理化学研究所が、本格的な調査を進める中、「STAP細胞はあるのか」「小保方氏の研究はどうなっていたのか」という疑問に世界的な関心が集まっていました。 この番組は、その最中の同年7月、社会の関心に応えようと100人を超える研究者・関係者に取材を尽くし、2000ページを超える資料を分析して客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作・放送しました。 番組の中の事実関係に誤りはありません。

STAP細胞については、理化学研究所による小保方氏の検証実験でも一度も作製に成功せず、世界的な話題となったネイチャー誌の論文も取り下げられました。 番組の中では、遺伝子解析の結果として、STAP細胞は実際にはES細胞だった可能性を指摘しました。 また、小保方氏の研究室の冷凍庫から元留学生が作製したES細胞が見つかった事実を放送しました。 番組放送後の同年12月、理化学研究所が公表した調査報告書は、小保方氏が「STAP細胞」だとした細胞は、調べた限りすべてES細胞だったことも明らかにしています。

放送人権委員会の判断の中で指摘された元留学生の作製したES細胞をめぐるシーンは、①小保方研究室の冷凍庫から元留学生のES細胞が見つかったという事実、②小保方氏側は、保存していたES細胞について、「若山研究室から譲与された」と説明しているという事実、③一方、ES細胞を作製した元留学生本人にインタビューしたところ、小保方研究室の冷凍庫から見つかったことに驚き、自分が渡したことはないと証言しているという事実を踏まえて、なぜこのES細胞が小保方研究室から見つかったのか、疑問に答えて欲しいとコメントしたものです。 放送人権委員会の放送人権委員会が指摘しているような「小保方氏が、元留学生作製のES細胞を不正行為により入手し、STAP細胞を作製した疑惑がある」という内容にはなっていません。

他の細胞の混入を防ぐことが極めて重要な細胞研究の現場で、本当に由来がわからない細胞が混入するのを防ぐ研究環境が確保されていたのか、そこにあるはずのないES細胞がなぜあったのか、国民の高い関心が集まる中、報道機関として当事者に説明を求めたものです。 放送人権委員会のこのシーンの前では、小保方氏がES細胞の混入を否定し、混入が起こりえない状況を確保していたと記者会見で述べたという事実についても伝えています。

今回の決定では、この番組の中で、「小保方氏が、元留学生作製のES細胞を不正行為により入手し、STAP細胞を作製した疑惑がある」と放送したとして人権侵害を認めています。

しかし、今回の番組では、STAP細胞は、ES細胞の可能性があることと、小保方氏の冷凍庫から元留学生のES細胞が見つかった事実を放送したもので、決定が指摘するような内容は、放送しておらず、人権侵害にあたるという今回の判断とNHKの見解は異なります。

また今回の決定では、委員会のメンバーのうち、2人の委員長代行がいずれも、少数意見として、名誉毀損による人権侵害にはあたらないという見解を述べています。

今回の番組は、STAP細胞への関心が高まる中、関係者への取材を尽くし、客観的事実を積み上げ、表現にも配慮しながら、制作したもので、人権を侵害したものではないと考えます。

BPOは、独立した第三者の立場から放送への苦情や放送倫理上の問題に対応し、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与することを目的に、NHKと民放連が設立した組織であり、NHKとしてその勧告を真摯に受け止めるのは当然のことと考えます。

今後、決定内容を精査した上で、BPOにNHKの見解を伝え、意見交換をしていきます。

また、放送人権委員会が指摘した取材上の問題については、平成26年に番組が放送される前に、安全面での配慮に欠ける点があったとして小保方氏側に謝罪しましたが、今回の決定の中で改めて指摘されたことを重く受け止め、再発防止を徹底していきます。

本日のBPO放送人権委員会決定についてのコメントは以下のとおりです。 - NHK広報局

「放送人権委員会が指摘した取材上の問題」については、NHK側の落ち度を否定しようがないので、「再発防止を徹底していきます」と答えるしかない。 (かと言って、「放送人権委員会が指摘した取材上の問題」が適切であった場合は、申立人本人が取材に応じないにも関わらず、NHKが十分な反論の機会を与えなかったと無理解な人から批判されるだろうから、同情の余地はあろう。) しかし、放送人権委員会は「摘示事実d)」の主要部分の相当性を否定する十分な根拠を示しておらず、かつ、その他の申立人の主張は悉く却下されたのだから、それらについてNHKが非を認めないのは当然と言える。

委員会判断 奥武則委員長代行 市川正司委員長代行 二関辰郎委員、坂井眞委員 NHK広報局
社会的評価の主要因窃盗疑惑不正疑惑STAP細胞の由来以外の主要な部分言及せず言及せず
視聴者の関心窃盗疑惑言及せず言及せず窃盗疑惑言及せず
窃盗疑惑の摘示ありなし(誤解を与える余地はある)あり(放送内容は不正確)言及せずなし
窃盗疑惑の相当性なしなしある言及せず言及せず
不正疑惑の相当性追認根拠は示しつつも明言せずありあり言及せず言及せず
疑惑追及の意義公共性・公益性は認めるありあり言及せず言及せず
放送内容の問題点名誉毀損誤解を与える余地窃盗疑惑の内容が不正確名誉毀損なし

STAP擁護者の荒唐無稽な主張 

総論 

放送人権委員会勧告を真面目に批判している人たちが指摘していることは、名誉毀損の認定基準が妥当かどうかと、それとSTAP細胞論文が真実であるかどうかとの関連性である。 当時から、次のような一連の疑惑が存在していた。

  • 筆頭著者によるStimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency(刺激惹起性多能性獲得)論文の捏造
  • STAP細胞あるいはSTAP幹細胞とされたものはES細胞由来であった
  • 筆頭著者が正当に入手できないはずのES細胞が、何故か、筆頭著者の手元に存在していた
  • 筆頭著者は、存在すると自認する科学的証拠(サンプル、写真、コツ等)を隠し、科学的検証を徹底的に拒んでいる

筆頭著者の社会的評価は、一連の疑惑全体によって低下している。 だから、疑惑全体の大枠が変わらない限り、一部の些細な部分の違いは、筆頭著者の社会的評価に大きな影響を与えない。 それに対して、放送人権委員会は、疑惑全体のうちの些細な部分(筆頭著者がES細胞を盗んだ疑惑)の真実性・相当性がないことをもって、筆頭著者の社会的評価を低下させた名誉毀損だと認定した。 放送人権委員会勧告を真面目に批判している人たちは、社会的評価に大きな影響を与えないことの真実性・相当性で名誉毀損を認定することがおかしいと指摘している。

そして、繰り返すが、筆頭著者がES細胞を盗んだ疑惑についての真実性・相当性の有無は、全体としては些細なことであるから、一連の疑惑そのものを否定する根拠にはならない。 窃盗疑惑に対してどのような認定がなされようとも、それは筆頭著者によるSTAP細胞論文捏造を正当化する根拠にはならないし、STAP細胞が実在する根拠にもならない。 STAP擁護者は筆頭著者を擁護する根拠として放送人権委員会勧告を用いようとするが、これが筆頭著者を擁護する根拠にならないことは言うまでもない。

STAP擁護者は、このような勧告批判を「NHKは何も悪くない」という主張にすり替え、「少数意見もNHKの落ち度を認めている」と言いだす。 一体、誰が、「NHKは何も悪くない」と言っているのか。 放送内容には不正確な部分もあるし、取材方法にも問題はあった。 これは揺るぎない事実であり、そこを否定する人などいないだろう。 しかし、それは、事実無根の濡れ衣を着せたということではなく、疑惑の一部の内容が不正確だったということに過ぎない。 当然、一部の内容であっても不正確なことは問題ではあるが、疑惑全体が濡れ衣である場合とは、全く問題の大きさが違う。 STAP擁護者は、問題の大きさが全く違う両者を同列に扱うことで、筆頭著者の擁護を試みる。 しかし、繰り返すが、疑惑の一部の内容が不正確であることは、何の根拠にもならない。

「アンチSTAP憎し」のための詭弁? 

「結論ありき」ブログ(http://blog.livedoor.jp/peter_cetera/)については、前の記事のコメント欄でかなり書いたがもう一度その問題点を指摘しておきたい。 彼らは、小保方氏の7つの主張の内の2つが認められた事について、「小保方氏の主張は大半が退けられている」と述べ、「ゼロイチの判断で言ったら、ゼロではなかったので『勧告』ということでしょう」と結論している。 これはあたかも「ほとんど問題がなかった」ということを指摘していることになるが、このような捉え方はおかしい。

例を出せばわかるだろう。 石井委員会では、小保方論文の6つの疑惑(研究不正)が検討された(www3.riken.jp/stap/j/f1document1.pdf)。

1.Obokata et al., Nature 505:641-647(2014) 論文

(1)Figure 1f のd2 及びd3 の矢印で示された色付きの細胞部分が不自然に見える点。

(2)Figure 1i の電気泳動像においてレーン3が挿入されているように見える点。

(3)Methods の核型解析に関する記載部分が他の論文からの盗用であるとの疑い。

(4)Methods の核型解析の記述の一部に実際の実験手順とは異なる記述があった点。

(5)Figure 2d, 2e において画像の取り違えがあった点。 また、これらの画像が小保方氏の学位論文に掲載された画像と酷似する点。

(6)2.Obokata et al., Nature 505:676-680(2014) のFigure 1b(右端パネル)の胎盤の蛍光画像とFig. 2g(下パネル)の胎盤の蛍光画像が極めて類似している点。

これら6つの点に関して、(1)「不正行為はなかったと判断される」、(2)「改ざんに当たる研究不正と判断した」、(3)と(4)は、「過失によって引き起こされたものであって、研究不正とは認められない」、(5)「捏造に当たる研究不正と判断した」、(6)「研究不正であるとは認められない」という結論であった。 もし「結論ありき」氏らの論理を使えば、「疑惑の大半(2/7と2/6の違いはあるが)が退けられており、ゼロイチの判断で言ったら、ゼロではなかったので『研究不正』ということでしょう」となるが、このような結論がおかしいことは誰にでもわかるだろう。 要は「ダブルスタンダード」なんである。BPOの勧告に対する見解を「大半が退けられている」というならば、小保方氏の不正についても「大半が退けられている」と述べるべきであり、そうでないと論理が一貫しない。

BPO勧告に対する批判を批判する - 一研究者・教育者の意見

この方は、いろいろと混同してしまって、同列に語れないものを同列に語っている。 しかし、その指摘の前に、事実関係の明らかな間違いや不足等を指摘しておく。

  • (3)は「過失であるとするには疑問が残る」が「研究不正であったと判断することはできない」(「過失によって引き起こされた」と認定されたのは「記載内容の不正確さ等」であり「盗用であるとの疑い」までが過失だと認定できるとは書いていない)
  • (6)は「規程に定める改ざんの範疇にはある」が「悪意があったことを直接示す資料等も存在していない」ので「研究不正であるとは認められない」

「『結論ありき』ブログ」で説明されていることは、放送内容の妥当性の判断と全体としての信ぴょう性である。 放送内容の妥当性は「全文に目を通すと、申立人の主張の大半は退けられている」という表現通りである。 また、放送人権委員会は、悪質性や故意性についての認定はしていない。 さらに、疑惑追及の主要部分の妥当性は全く否定されておらず、放送内容全体としての真実性や相当性は損なわれていない。 以上を踏まえると、放送人権委員会の勧告を「申立人の主張の大半は退けられている」と評するのは妥当である。

一方で、「これら6つの点」のうち内容の妥当性が認められたものは(1)しかない。 また、悪質な改ざんや捏造と認められたものは2件、グレーゾーン2件である。 そして、STAP論文は重要部分で真実性を欠いており、全体として信ぴょう性が乏しくなっている。 よって、「BPOの勧告に対する見解を『大半が退けられている』というならば、小保方氏の不正についても『大半が退けられている』と述べるべき」という「結論がおかしいことは誰にでもわかる」。 同列に語れないものを同列視して混同論法を用いることこそが「論理が一貫しない」「ダブルスタンダード」である。

例えば「タイトルでの「不正」という表現の与える印象」については、同氏は「問題なし」と分類しているが、勧告では「こうした表現の使用が申立人に対する否定的な印象を与えることは確かであるが、論評として許されないとは言えない」である。 「論評として許される」とは書かれていないのだ。 この「勧告」を読めばわかるが、ほとんどの表現が「----とまでは言えない」となっており、「問題はない」などとは書かかれていない。

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論文の評価における「研究不正とは認められない」は、(筆頭著者本人が身の潔白の証明をしていないことにより)証拠が不十分であるために、不正があったかどうか不明であるという意味である。 一方で、報道の評価として「論評として許されないとは言えない」は、公共・公益と私権とのバランスが適性を欠いていないという意味である。 一定程度の私権侵害は認められるが、それでも報道すべき公共・公益としての必要性が認められることを「論評として許されないとは言えない」と表現しているのである。 前者は真偽不明で「疑わしきは罰せず」を適用したものであるが、後者は真偽を明らかにした上で「問題なし」と判断しているものである。 私権侵害が全くないか、あるいは、公共・公益としての必要性の方が圧倒的に大きい場合でもなければ、「論評として許される」という表現にはなりえない。 そして、「論評として許される」のでなければ「問題あり」となるのであれば、疑惑の報道は事実上不可能となる。

そして「勧告」の「結論」では、「人権侵害や放送倫理上の問題があったとまでは言えないが、科学報道番組にふさわしくない演出や、申立人に対する印象を殊更に悪化させるような箇所も見られる」と、指摘された2つの問題以外にも多々不適切な箇所があったことを指摘している。 「問題あり」と「問題なし」に単純化して、「問題なし」という項目を多く見せているのは「小保方憎し」のためであろうが、「問題なし」と「問題があるとまでは言えない」では意味が大きく異なるのだ。

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この文章を解釈する上で非常に重要な「Ⅱ.3.及び5.で指摘したように、」を削ったのは何故か。

Ⅱ.3.では。「感情をこめたような読み上げ方」について、「一般視聴者がこの場面から、両者の間に実際にそのような関係があったという印象を受けるとまでは言えない」としながらも、「本件放送に先立って一部の週刊誌が笹井氏と申立人との男女関係をうかがわせる記事を掲載」していることの影響を考慮して、「配慮が十分でなかった」としている。 5.では、次のように指摘している。

  • 「若山氏と申立人との間での取扱いの違いと公平性」については、「申立人に対し不公平感を与える面があるかもしれない」が、以下の点を考慮して「放送倫理上の問題があるほどに公平性を欠いているとまでは言えない」と結論づけている。
    • 申立人は、STAP論文2本の筆頭著者であり、同論文の内容について主たる責任を負う者の1人
    • 若山氏は自ら検証を行い、自らの疑惑に対して一定の説明を試みている
    • 申立人は、当時の状況からして斟酌すべき点はあるが、納得のいく説明を行っていないとみられていたことも事実
  • 「不正の深層」という番組タイトルについては、「申立人に対する否定的な印象を与えることは確かであるが、論評として許されないとは言えない」としている。
    • 本件放送に先立ち、理研の『研究論文の疑義に関する調査委員会』の報告書では、STAP論文において申立人に捏造と改ざん の2つの研究不正があったと認定されている
    • 本件放送に先立つ同年7月2日には、STAP論文が撤回されている
  • 「専門家による画像やグラフに関するナレーションや演出」については「放送倫理上の問題も認められない」としつつも、「不適当であるという委員の意見もあった」としている。
  • 「若山研究室の配置を再現したCGの放送」については、「本決定ではこの点について独立して評価する必要はないと判断する」としている。
  • 「実験ノートの放送」については「放送倫理上の問題があるとは言えない」としている。
  • 「笹井氏の自死」については「申立人自身の人権侵害とは直接関わらないため、本決定ではこの点は取り上げない」としている

内容を見えば、いずれも些細な部分の注意であり、これらの内容を紹介せずに「多々不適切な箇所があった」と表現する方が誇大表現だろう。

そして、「テレビ朝日ダイオキシン報道事件」においては「報道された地域を産地とする野菜の価格暴落といった「視聴者がどう受け止めたか」を裏づける客観的なデータがあった」と述べている。

一読すると「なるほど」と思えなくもないが、「客観的データがあった」から報道側が敗訴したという詫摩氏の認識は誤っているのではないかと思われる。 少なくとも、ネット上で検索する限りでは、最高裁が東京高裁の判決を覆して差し戻した理由は 「摘示(=具体的に人の社会的評価を低下させるに足りる事実を告げること)された事実とは、当該報道番組の全体的な構成、これに登場した者の発言の内容や、画面に表示されたフリップやテロップ等の文字情報の内容を重視すべきことはもとより、 映像の内容、効果音、ナレーション等の映像及び音声に係る情報の内容並びに放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して、判断すべきである」との見解の下、 「(報道が)真実であることの証明があったか否かについては、環境総合研究所の調査結果からも、所沢産の白菜わずか一検体からも「真実であるとの証明があるとはいえない」」と結論したからである(http://www.maroon.dti.ne.jp/mamos/tv/dioxin.html)。 つまり上にも述べたが、「結論ありき」氏らや「ため息」氏のような、小保方氏の個々の主張が認められたか、認められなかったのかを議論することは的外れで、「放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮」すべきなのである。

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ここでの論点は、「摘示された事実」の判断材料が「放送内容全体から受ける印象等」であるかどうかではなく、「放送内容全体から受ける印象等」の判断を「主観による推測」によるのか「客観的なデータ」によるのかである。 それに対して、「『放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮』すべきなのである」との共通認識を改めて主張したところで、何も言っていないに等しい。 論点を誤って迷走しているからこそ、「『客観的データがあった』から報道側が敗訴したという詫摩氏の認識は誤っている」ことを全く示せないのである。

詫摩雅子氏は「放送内容全体から受ける印象等」は「主観による推測」ではなく「客観的なデータ」で判断すべきだと主張している。 そして、「テレビ朝日ダイオキシン報道事件」では「放送内容全体から受ける印象等」を判断する「客観的なデータがあった」としているのである。 事実、最高裁判決文では 本件放送の翌日以降,ほうれん草を中心とする所沢産の野菜について,取引停止が相次ぎ,その取引量や価格が下落した 平成14(受)846謝罪広告等請求事件(平成15年10月16日)最高裁判所第一小法廷 ことを含む4つの事実を挙げて「摘示された事実」は ほうれん草を中心とする所沢産の葉物野菜が全般的にダイオキシン類による高濃度の汚染状態にあり,その測定値が1g当たり「0.64~3.80pgTEQ」もの高い水準にあるとの事実 平成14(受)846謝罪広告等請求事件(平成15年10月16日)最高裁判所第一小法廷 だと認定している。 つまり、この最高裁判決文は、この事件において、「報道された地域を産地とする野菜の価格暴落といった『視聴者がどう受け止めたか』を裏づける客観的なデータがあった」ことを示している。 そのことは、この方が挙げたリンク先の情報からも伺える。

この方は、「放送内容全体から受ける印象等」が「主観による推測」によったのか「客観的なデータ」によったのかを示す根拠を何も示さないまま、唐突に、「真実であることの証明」云々と言い出している。 もしかすると、この方は、「放送内容全体から受ける印象等」を示す「客観的なデータ」と放送内容の真実性・相当性の有無を示す「客観的なデータ」を混同しているのではないか。 いやいや、直前に「報道された地域を産地とする野菜の価格暴落といった『視聴者がどう受け止めたか』を裏づける客観的なデータがあった」と述べている」と書いておいて、そんなことがあるのかと疑問に思うかもしれない。 確かに、文章を頭から順番に完成させていけば、このような混同はありえない。 しかし、書いてある順番と考案・校正の順番が一致していないなら、このような混同はあり得る。 最初の原文では詫摩雅子氏の論点を把握していたのだろう。 だから、「摘示された事実」に関する言及が為されていると考えられる。 ところが、そのあたりの文章をまとめきらないうちに、他の部分の文章に手をつけ始めたのだろう。 そして、この部分に戻ってきてしまったときは「摘示された事実」が論点だということをすっかり忘れてしまい、文章をよく読まずに、放送内容の真実性・相当性の有無を示す「客観的なデータ」だと思い込んだのではないか。 結果、このような意味不明な文章になったのではないか。

だとして、どのような論理展開で「個々の主張が認められたか、認められなかったのかを議論することは的外れ」という結論に導いたかは謎のままである。 何度も言うが、「放送内容全体から受ける印象等」は筆頭著者の不正疑惑であり、それは「個々の主張が認められたか、認められなかったのか」とも密接に関係する。 もちろんのこと、詫摩雅子氏も「結論ありき」氏も「ため息」氏も、放送内容の真実性・相当性を否定する「客観的なデータ」が必要だなどとは一言も主張されていない。 名誉毀損の免責を受けようとする側が真実性・相当性の証拠を示さなければならないのは当然のことであり、誰も、そのことを否定していない。

そして、「勧告書は「STAP研究から2年以上経過した時点の保管状況に疑問を呈する部分が放送されたのか、その主旨を理解するのが困難である」としているが、「STAP研究が行われている真っ最中」の保管状況を問題にしていたわけだ」と批判しているが、これも的外れである。 Li氏の細胞についてあのように報道するならば、NHK側がLi氏の細胞を利用してSTAP細胞が作製されたという根拠(「真実性」)を示す必要があったのである。

BPO勧告に対する批判を批判する - 一研究者・教育者の意見

確かに、「Li氏の細胞を利用してSTAP細胞が作製された」ことが疑惑の主要な内容であれば、「NHK側がLi氏の細胞を利用してSTAP細胞が作製されたという根拠(「真実性」)を示す必要」があるとすることも間違いではない。 しかし、それは主要な内容を裏付ける状況証拠の一つに過ぎないのだから、積み重ねられた証拠全体で評価されるべきものであり、「Li氏の細胞を利用してSTAP細胞が作製されたという根拠(「真実性」)を示す必要」があるとまでは言えない。

詫摩氏は「科学者に意見を求めたのか?」という最後のパラグラフで「論文が投稿された後も、受理されるまでは追加の実験をするのはよくあることだ。このことは、現役の生命科学の研究者であればおそらく誰もが普通に知っているだろう。」と述べているが、これは議論のすり替えであろう。 STAP細胞の実験が終了していようがいまいが、そのようなことは関係なく、「報道側がポジティブなエビデンスを示していないことが問題」とBPOは結論しているのだ。 それが示されていなければ、番組の演出から、多くの視聴者は「アクロシン入りのES細胞」と「Li氏の細胞」は同じ思い、それが放送倫理に違反して名誉毀損をしているということになるのだ。

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詫摩雅子氏は、「報道側がポジティブなエビデンスを示していないことが問題」に否定的見解を示しているわけではない。 報道側が示すべき「ポジティブなエビデンス」の範囲を決定付ける根拠、すなわち、「放送内容全体から受ける印象等」を示す「客観的なデータ」がないと指摘した上で、「科学者に意見を求めたのか?」と疑問を示されているのである。 それなのに、その事実を踏まえずに、あたかも、報道が「ポジティブなエビデンス」を示さなくて良いと詫摩雅子氏が主張しているかのように偽装するなら、それこそ「議論のすり替え」であろう。


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