マクロにおける量子的性質

最初に 

マクロの規模で古典力学が成立しない量子的性質が現れたと主張する者がいる。 それらを詳細に検証してみると、マクロ世界で古典力学が近似的に成立していることが全く否定されない。

マクロとミクロの境界 

超伝導磁束量子ビットを用いた巨視的実在性問題の実験的検証に成功 - NTT では、あたかも巨視的な重ね合わせが実現できたかのように記載されている。 その他にも「シュレーディンガーの猫状態を実現した」とされる実験は多数ある。 この問題を論じる前に、まずは、次の3つの違いを区別してもらいたい。

  1. 一般論的なマクロとミクロの境界
  2. 射影仮説においてHeisenberg cutが適用できる境界
  3. 人間が視認できる限界

2番目の境界が3番目の限界よりも小さければシュレーディンガーの猫のような問題は起きない。 言い換えると、我々の直感に反する非常識な現象が実現するかどうかは、2番目の境界と3番目の限界を比較して判断しなければならない。 では、「超伝導磁束量子ビット」は、その意味で巨視的と言えるのか。 「170nA(毎秒10¹²個もの電子の流れに相当)」と記載されるが、「10¹²個もの電子」は大きさに換算してどの程度か。

  • 炭素の密度は約2g/cm³=2×10⁶g/m³=2×10⁻³g/mm³=2×10⁻¹²g/μm³
  • 炭素の原子番号は6(1原子あたりの電子の数は6)
  • 炭素1mol=12gの電子数は約6*6×10²³
  • 炭素2gの電子数は約2×10²³
  • 炭素の電子含有量≈6×10²³/cm³=6×10²⁰/mm³=6×10¹¹/μm³

以上から、「10¹²個もの電子」は1辺約1.2μmの立方体の炭素の持つ電子の数に相当する。 「10¹²個もの電子」そのものの質量は約9×10⁻¹⁶gで、これは1辺約0.08μmの立方体の炭素と同等である。 この程度の大きさでは明らかに目視は不可能であろう。 また、一般論的にもメゾスコピック領域(の巨視的端)であり、「巨視的」ではない。 この実験が示すことは精々次のことが関の山である。

  • 生きたvirusと死んだvirusの重ね合わせは可能かも?
  • 生きた乳酸菌や酵母菌と死んだ乳酸菌や酵母菌の重ね合わせの実現は示せない
  • 生きたミジンコと死んだミジンコの重ね合わせは到底無理

よって、この実験結果は、我々の直感に反する非常識な現象が起きることを示さない。

マクロにおける量子揺らぎ 

Quantum correlations between light and the kilogram-mass mirrors of LIGO - nature にてマクロにおける量子揺らぎが観測されたとしている。 日本語では 人間サイズの物体に「量子的ゆらぎ」が確認される! ゆらぎ幅のコントロールも可能に - ナゾロジー で解説されている。 ここで説明される「10⁻²⁰メートルの幅で量子的ゆらぎ状態」は以下のとおりである。

  • 最重安定同位体の電子雲直径の350億分の1
    • 鉛の原子直径350pm=3.5×10⁻¹⁰m
  • 「水素原子の大きさは10⁻¹⁰メートル程度」と比べて100億分の1
  • 水素原子の原子核の直径1.75×10⁻¹⁵ m の17万5千分の1

これは、巨視的な世界ではほぼ無視できる大きさにすぎないので、巨視的な測定結果に影響を与えるものではない。 この程度の「量子的ゆらぎ状態」しかないなら量子力学のマクロ極限が古典力学に一致するということ。 シュレーディンガーの猫で言えば、髪の毛1本の差異にも満たない。 もちろん、生きている猫と死んだ猫の重ね合わせなど到底不可能だし、無傷の猫とかすり傷の猫の重ね合わせすら無理がある。 分子1個分の欠落すら実現できない。 つまり、「10⁻²⁰メートルの幅で量子的ゆらぎ状態」が生じても、そのゆらぎは現実的にはほぼ無いにも等しい。

まとめ 

  • 無視できない大きさの量子揺らぎは、人間が視認できる限界より小さい世界でのみ起きている
  • 人間が視認できる限界より大きい世界では、現実的にはほぼ無いに等しい大きさの量子揺らぎしかない

以上により、マクロ世界(人間が視認できる限界より大きい世界)では、古典力学が近似的に成立している。


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