STAP再現実験が示すこと
本ページはSTAP細胞論文捏造事件の一部である。
「検証実験は成功していた」論
STAP細胞擁護者は、「理研による検証は成功していたのに、何故か、報告書では『STAP現象の確認に至らなかった』ことにされている」と主張する。 その人物は、「検証結果として『STAP現象』の成功が明確に書かれているのに、最後の結論だけが捻じ曲げられている」と言う。 しかし、STAP現象の検証結果 - 理化学研究所にはそのようなことは書かれていない。
まず、用語は次のように定義されている。
- 上記研究論文
- 英国科学誌Natureに発表した2篇の研究論文(7月に撤回済み)
- 発現
- 遺伝子がもっている遺伝情報が、さまざまな生体機能をもつたんぱく質の合成を通じて具体的に現れること。
- GFP
- 緑色蛍光タンパク質
- Oct3/4
- 多能性幹細胞で特異的に発現するマーカー遺伝子。山中因子(Yamanaka factors)の一つで「未分化細胞にリプログラミング」ために必須の因子と考えられている。
- Oct-GFP
- Oct3/4の発現制御配列に連結したGFP遺伝子
- GFP陽性
- 蛍光顕微鏡による緑色蛍光を検出
- STAP様細胞塊
- 酸ストレス処理によって得られたGFP陽性細胞を含む細胞塊
- STAP現象
- マウス新生児の各組織の細胞(分化細胞)を一定の条件でストレス処理すると、多能性を持つ未分化細胞にリプログラミングされるという、上記研究論文に記載された現象
STAP現象の検証結果 - 理化学研究所 遺伝子発現 - goo辞書(デジタル大辞泉) 第4回初期化のしくみの謎 - iPS Trend
「STAP現象の検証結果」には、「STAP様細胞塊」が作成できたとされている。 これは用語定義によれば、「酸ストレス処理によって得られたGFP陽性細胞(蛍光顕微鏡による緑色蛍光を検出した細胞)を含む細胞塊」であって、STAP細胞ではない。 そして、これは「多能性を持つ未分化細胞にリプログラミングされる」性質が確認された細胞ではないから、この細胞塊の作成は「STAP(Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency=刺激惹起性多能性獲得)現象」には該当しない。 つまり、「STAP様細胞塊」とは、STAPの様な細胞塊という意味に過ぎない。 多能性を獲得して初めて「STAP」と言えるのである。
理研の「検証結果」には次のような記述も見られるが、これも「STAP現象」には該当しない。
(3)丹羽副チームリーダーによる検証結果
③多能性細胞特異的分子マーカーによる多能性誘導の検証
肝臓由来の細胞をATP処理して得られたSTAP様細胞塊においては、少数ではあるものの、Oct3/4を有意に発現する細胞が含まれていると結論した。
Oct3/4のようなマーカーは、多能性の必要条件の一つではあるが、十分条件ではないので多能性獲得の証拠とはならない。
細胞が万能性を持つかどうかについては、おもに以下が重要とされています。
前段階: Oct4遺伝子を発現しているか(Oct4陽性細胞になっているか)
①培養皿上でほかの種類の細胞に分化できるか
②マウスに移植するとテラトーマ(奇形腫)がつくれるか
③初期の胚(胚盤胞)に入れるとキメラマウスになるか
前段階のOct4陽性細胞になっているかどうかは、「万能性の証明」ではなく、ふるい分けの条件のようなものです。 実験ではOct4を発現すると緑色に光るようになったマウスの細胞が使われていました。 光った細胞と同じ操作で得られた細胞だけが、次の①(培養皿上での分化)、②(テラトーマ)や③(キメラマウス)の実験に進むわけです。 注1)注2)①から③に行くほど、万能性のチェックとしては厳しくなると考えていいです。
これは、例えるなら、未確認飛行物体を見たことが見間違いではないことを確認したようなものであって、それが異星人の乗った宇宙船であることを確認したわけではないのだ。 未確認飛行物体の可能性の一つとして異星人の乗った宇宙船も候補に挙げられるだけであって、異星人の乗った宇宙船でない可能性も多々あるのである。 それと同様、Oct3/4が発現する可能性の一つとして多能性も候補に挙げられるだけであって、多能性でない可能性も多々あるのである。 この結果をまとめると次の通りである。
- 筆頭著者とは別の人物が
- STAP論文とは違う別の方法を用いた場合に
- 200回成功などとは程遠い僅かな再現率で
- Oct3/4が発現したこともあったが多能性獲得の証拠は得られなかった
このように、多能性の獲得の証拠を全く得られなかったので、理研の「検証結果」では結論として「今回STAP現象の確認に至らなかった」とまとめられている。 「検証結果」に沿った結論がそのまま書かれているのであり、結論が捻じ曲げられてなどいない。
捏造の検証実験を行うことは科学的手段ではない
捏造された論文しかない研究結果に対して「再現実験」をすることは非科学的な「魔術」である。 また、捏造したとされる本人を参加させることは、新たな不正を行う機会を与えることであり、極めて不公正である。 STAP筆頭著者の科学的検証拒否のとおり、筆頭著者は自らの意志と判断で科学的検証を拒否しているのであり、非科学的な「魔術」の機会を与えてやる必要など全くない。 だから、STAP現象の検証結果 - 理化学研究所が取り上げる必要性の乏しい与太話なのである。 ましてや、その与太話の中身をすり替えて「検証実験は成功していた」論を捏造する妄言に耳を貸す必要はない。
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